今回の件から俺が得るべき教訓は、千反田えるは危険だということだ。   作:江波界司

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思い付きで書きました。
物語シリーズは原作未読の為貝木さんの話し方に違和感があるかもしれませんが、ご了承ください。


詐欺師とちーちゃん 001

 高校生活と言えばバラ色、と多くの者が言うかもしれない。

 しかしそういう者がいれば、必ずそうでない者もいる。所謂マイノリティというやつだ。

 まぁ実際、俺がその少数派なのだからこの話は真実に近い。もっとも真実などというものがあれば、だが。

 俺はバラ色の高校生活を送りたいとは思わない。憧れもなければ後悔もない。そもそも後悔は先に立つものではないが、俺の場合は後の祭りだ。

 何故、俺がバラ色ではない、言ってしまえば灰色の高校生活を望むのかと言えば、それはもちろん金の為だ。と、言えば俺らしく聞こえるだろうか。

 まぁ厳密な理由はない、と言っておこう。その方が何かと都合がいい。

 ともかく、俺は高校生になった。

 これから俺の第二の人生が始まる。それは卒業とか結婚とか、そういう人生の節目みたいな意味ではない。もっと理性的に、現実的に、物理的に始まるのだ。

 俺は詐欺師だ。

 誰も、俺は詐欺師だと聞いて話を信じる者はいないだろう。

 だが、これから俺は一つだけ真実を語る。紛れもない、偽りも欺きもない純粋な事実だ。

 俺は折木奉太郎。前世は詐欺師、貝木泥舟だ。

 

 

 ✕✕✕

 

 

 神山高校。俺の通うごく普通のありふれた高等学校だ。

 まぁ俺の一般の高校生よりは長い人生経験から言わせてもらえば、ごく普通と語られてごく普通な物はそう多くはない。むしろ少ないだろう。

 理由があるとすれば、特徴がないことはないからだ。特徴はないと誰もが語れば、特徴がないことが既に特徴になっている。

 つまり、この神山高校にも部活動という特徴があるのだ。

「古典部?へぇ〜あのホータローがねぇ」

「姉貴からの指示で逆らえんだけだ」

 その意味不明な名の部活動は、名前すら謎なのだから当然内容も謎だ。

 それでもまぁ、俺は渋々その部活動に籍を置かねばならん。

「あぁ、お姉さんの。確か特技は……」

「合気道と逮捕術。痛いのは勘弁だ」

「それは断れないね」

 俺の目の前にいる男。名は福部里志(ふくべさとし)。俺との関係は、腐れ縁と言ったところだ。

「そういうことだ」

 俺は自分の席を立ち、身支度を整える。放課後なのだから帰りたいのだが、そうも言ってられないのが面倒だ。

 というか、古典部。何やら嫌な予感がする。こういうマイナスな予想や予測は当たりやすい。マイナスな事しか予想しないからだが。

 どうでもいい事だが、ブルーな天気なんて言うのに曇りなのは如何なものか。

 

 

 俺は部活動の申請書を持って職員室へと足を運ぶ。

 職員室で古典部部室の鍵を借りて、部室へと向かった。少し遠い。

 しばらく歩いて目的地に着き、一度扉に手を掛けるが、開かない。俺が鍵を持っているのだから当然だ。ロックを解除し、今度こそ扉を開けた。

 中に入ると、誰がいた。誰なのかは分からない。見えるのは後ろ姿だけで、分かるのは黒い長髪の女子生徒ということくらいだ。

 俺が入ってきた音が聞こえたのだろう。窓の外を向いていた女子生徒は振り返った。

 驚いた表情をしている。瞳が大きく、顔自体は整っているな。身なりを見る限り俺と同じ一年生だろう。

「こんにちは」

「あぁ。ここの部員か?」

「はい。私は古典部に入ったので挨拶に伺いました。ですが誰もいないようでしたので、ここで待っていました」

 無闇矢鱈に礼儀正しいな。大人や年上になら兎も角、同級生に対してまでこうも礼儀正しい高校生を、俺は一人しか知らん。そいつのことも詳しく知っているわけではないが。

「そうか」

「折木さんも古典部だったんですか?」

「俺は……」

 待て、俺はいつ彼女に名乗った。いや、そもそも初対面だ。名乗っている記憶も筈もない。

「どうして俺の名を知っている」

「折木 奉太郎さんですよね、一年B組の。授業で一度お会いしている筈ですが、覚えていませんか?」

 こんな奴が同じクラスにいたら忘れないと思うが、俺の思い違いか。あるいはシンプルに忘れているか。

「覚えがないな。すまないが名前を聞いていいか?」

「千反田です。一年A組の、千反田えるです」

 違うクラスだった。分かるはずがない。というか授業で会うものなのか、別のクラスの相手と。

「あぁ、そうだったな。すまん、忘れていた」

「そうですか。ところで、折木さんはどうしてここに来たのですか?」

「ん?」

 俺は部活動、と言うのをギリギリで止めた。何せ俺には古典部に入る理由がない。

 俺の姉からの命令は古典部存続の為に籍を置くことだ。俺以外に古典部に入る人間がいるなら俺がいる必要はない。

「いや、用はない。ただ立ち寄っただけだ」

「そうでしたか」

「俺は帰る。戸締りは任せて問題ないな?」

 捨て台詞の様に言い残すつもりだったが、振り向くより先に千反田から腕を掴まれた。

「無理です。私戸締りできません」

「何故だ」

「鍵を持っていないからです」

「ああ」

 俺はポケットに入れていた鍵を取り出し、彼女に渡す。

 この一連の動作の中に何か不振な点があったのか、千反田えるは驚きの表情のまま少しだけ黙った。あるいは考えていた。

「どうして折木さんが鍵を持っているんですか?」

「職員室に寄ったら教師に、ここが開いていたら施錠して来てくれと頼まれてな」

「誰からですか?」

「西川教諭だ」

「西川先生はサッカー部の顧問でした。それにこの教室の管理係でもなかった筈です」

「その管理の教師に頼まれたのを俺に押し付けたんだろう。詳しくは聞いてない」

「そうですか」

 面倒な奴だな。俺の彼女に対する第二印象はそれだった。ちなみに第一印象は誰だこいつだ。

 こういうタイプと話すのは避けたい。騙しやすいという意味では楽だが、くだらん事で深く追求してくる奴と話すとろくな事がない。これは俺が大学生活で得た教訓だ。

 今度こそ帰ろうと姿勢を出口に向けようとするが、鍵を持っていることもお構いなしに千反田は再び俺を掴み止めた。

「折木さんが入ってくるとき、鍵はどうなっていましたか?」

「何故そんな事を聞く」

「気になるからです」

「開いていた。お前が入ってるんだから当たり前だろう」

「それはおかしいです」

「何がだ」

「折木さんは西川先生に施錠を頼まれていたはずです。なのに扉が空いていることが分かっても鍵を閉めませんでした」

「鍵を掛ける前に中を確認するだろう。そしたらお前がいただけだ」

 それ以上追求はしてこないが、どうやら千反田は納得していないらしい。複雑な表情を浮かべている。そんな顔をされても言うことはないぞ。

 

「いや、それはおかしいね」

 

 突然後ろから掛った声に、俺と千反田は同じ方向を向く。その先には、俺の知っている知り合いがいた。

「里志か。なんでここにいる」

「いやぁ〜、あのホータローが女の子と教室で二人きりとなれば、見に行かないわけにはいかないよ。夕暮れの染まるオレンジの空に差し込む光、照らされる男女と二人だけの教室と来れば当然!」

 俺の後ろで千反田が小さく声を漏らしたのが聞こえた気がするが、まさか本気にしたわけでもあるまい。と思いたいが、千反田えるという人間なら今の語りも容易く信じるだろう。会って間もないがそれくらいは分かる。

「本気で言ってるのか」

「いや、冗談だよ」

「と、こんな奴だ。あまり信用しない方がいいぞ」

「そ、そうなんですか?えっと……」

「福部里志、似非粋人だ」

「うまい!いい紹介だね、ホータロー」

「私は千反田えると言います」

「よろしくね、千反田さん。……って、千反田!?千反田って、あの千反田さん!?」

 何がそんなに驚くことなのか。

 里志が言うには神山の旧家名家は桁上がりに並んでいるらしく、他には十文字家や万人橋家などがあると。偶然かは知らんが、知ってて得のある話ではないな。

 それで、千反田えるはその名家のご令嬢と言うことか。千反田は影で深窓の令嬢と呼ばれる様には見えんし、なんなら彼女を中心に立つ噂は濁りがなさそうだな。

 そして成績優秀で、おまけに容姿端麗らしい。里志が言うにはの話だが。

「まぁいい。俺は帰るぞ」

「待って下さい折木さん」

 また捕まった。頼むから物理的に行動を封殺するのは辞めてもらいたい。

「なんだ?」

「福部さん。さっきの話を聞いていいですか?」

「さっきのって?」

「ここに入って来た時、それはおかしいと言っていましたよね」

「あぁそれね。うん、奉太郎が言っていることはおかしいよ」

 里志が俺と千反田の会話をどこから聞いていたかは知らない。だが少なくとも今から里志が指摘することが俺に対して有意義でないことだけは確かだ。

「俺は帰るぞ」

「それはどこですかっ!?」

 無意識だろうが千反田よ、さっきよりも腕を握る力が強いぞ。というか、女にしてはかなり強い方ではないか、こいつ。

 意味もない注釈だが、あくまで一般人ならばだ。どこかの暴力陰陽師は一般人どころか人間すら辞めている節があるから、あれと比べるなよ。

「今日、この教室はそもそも使われていないんだよ」

 予想通り、俺の嘘を覆すような内容だった。

「何故そんな事が分かる」

「今日の時間割さ。この教室の外の壁に貼ってある使用割り振りの表には、今日は一年生が2クラスと三年生が1クラス割り振られてた。でも、今日はどのクラスもこの教室には来ていない。当然鍵も使われないから開くはずもない」

 何故こいつが三年の時間割まで把握しているのか気になるが、データベースを自称する彼なら調べていても不思議はない。

 問題があるとすれば、俺の嘘が露見したことくらいだ。

「ということは、折木さんは嘘をついた事になります」

「そうだな。実は俺が入って来た時には鍵が掛かっていた」

「どうしてそんな嘘を?」

「適当に話を合わせて帰ろうと思っただけだ。他意はない」

 俺の隣でしてやったりという顔をしている里志は無視だ。

 せっかくついた嘘は早々と訂正したが、それでも千反田の表情は晴れない。まだ疑問があるのか。

「だとすると、私は閉じ込められていた事になります」

「何故そうなる」

「簡単な事さ。神山高校の教室は両面とも鍵を使ってしかロックできない仕組みになってるんだよ」

 相変わらず無駄な知識が豊富な奴だ。

 しかし、そうなると確かに不思議なこともあるな。里志の情報が正しければそもそも千反田はここに入ることすらできん。

 だが、だからどうしたというのが俺の率直な感想だ。

「そうか。じゃあそろそろ帰ろう。千反田、離してくれないか?」

「折木さん」

 懇願ついでに振り向いたのだが、何故かそこには千反田の顔がある。

 何故かというのは、それがかなりの至近距離だったからだ。身長差もあるはずなのだが、何故こんなに近いのか。

「なんだ」

「私はどうして、誰に閉じ込められたのでしょう。もし閉じ込められたのでないとしたら、一体何故鍵は掛かっていたのでしょうか」

「知らん」

 

「私、気になります」

 

 だから知らん。そんなものは自分で考えて調べればいい。くだらん事に巻き込むな。

「折木さんも一緒に考えてください」

 断る。つもりだったが、こいつが手を離さないと俺は離れることすらできん。まぁこいつの性格は大体把握した。

 要は、千反田えるはただの好奇心の亡者だ。

 なら、適当な答えを差し出してやればいい。

 

 

 俺は首を捻って千反田から顔を背ける。気まずいとかではない。こいつに用がないからだ。

「里志」

「なんだい?」

「今日この教室は授業では使われてないと言ったな」

「うん。それは間違いないね、断言するよ」

 よし、問題ないな。

「千反田よ。分かったぞ」

「え、もう分かったんですかっ!?」

 だから近い。

 取り敢えず離れろと千反田からなし崩し的に開放される。出来ればこのまま帰りたいが、それより先にまた拘束されるのがオチだな。

「この教室は授業では使われていない。だから鍵を使って開けられる機会はなかった」

「はい、それは福部さんから聞いた通りですね」

「だが、教室を使うのは何も授業でだけじゃないだろう」

「え?」

「西川だ。あいつがこの教室を使ったんだ」

 西川はここの管理担当でもなければ教科担任でもない。しかしだから教室に用がないというわけも無かろう。無論、でっち上げだが。

「西川は今日、この教室を使った。だが鍵を掛け忘れたかもしれないと後になって気が付いた。だから俺に頼んで戸締りを確認しようとした、ということだ」

「待って下さい。だとしたら、何故折木さんが来た時には鍵が閉まっていたのでしょう。いえそもそも、何故西川先生はこの教室に来たのでしょうか」

 やはり細かいことにも目が行くな。好奇心というのは厄介この上はない。

 まぁ、そう言ったやつほど本人が納得すれば簡単に騙せるのだが。

「グランドの調子を見ていたんだろう。西川はサッカー部の顧問だ、今朝の天気を考えれば、目で見て放課後の部活動ができるかできないかを判断するのが普通だ」

「なるほど。では、誰が折木さんより先に鍵を閉めたんですか?」

「ここの管理担当だ」

 里志は後ろでニヤニヤとした笑みを浮かべているが、千反田の目には入らないらしい。瞳の大きさと視野の広さが合っていないな。

「どういう事ですか?」

「簡単なことだ。ここの担当は戸締りをしに一度ここへ来た。それで扉を確認したら開いていたので閉めた」

「でも、それではその時、先生が折木さんのように中を確認しなかったのは何故ですか?」

「マスターキーで閉めたからだ」

 分からないか。成績優秀というならこれで察してくれてもいいものだが、勉学とこういった考え方の頭の使い方は似て非なる、というか似てない。

「マスターキーを持っていれば、扉を開けたのは一般用の鍵を使ったと考えるだろう」

「確かにそうかもしれません」

「だから閉めても問題ないんだ。仮に中に誰がいても戸締りの不注意を無くせるし、誰かのかけ忘れだったならそれで解決だ。千反田がいつからここにいたのかは知らんが、一般用の鍵は俺が持っていたからな。むしろマスターキーしか使えん」

「なる、ほど……」

 解決か。別に問題を解いたわけでも正解を導いた訳でもない。ただのでっち上げだ。

 しかし問題ない。ここで重要なのは千反田えるが納得するか否かだからだ。これでようやく帰れる。

「いや〜なるほどね。さすがだよホータロー。うん、確かにそれならありそうだ」

 ぱちぱちとわざとらしい拍手をする俺の旧友。含みのある言い方だがら今はいいだろう。

「帰るぞ」

「待ってよ、ホータロー。古典部に用があるんだろう?」

 里志の笑みの正体はこれか。こいつ、状況が分かっていて最初から俺を古典部に入れる気だったな。

「ない」

「実はもう申請書は書いているはずだ」

「そうなんですか?」

「書いてはいるが出す気は無い。もともと、俺は部活動に興味はないからな」

「でもいいのかい?ホータロー」

「何がだ」

「目立つことはしない、というのがホータローのスタンスだけど、部活の殿堂神山高校で部活動に入らないのは、それこそ目立つ。ホータローの理念に従えば、ここは入っておくべきじゃないかな?」

 別に目立たないことにそこまで重きを置いているわけではない。単に動きずらくなるのを避けているだけだ。肩書きはそれだけで行動を制限される。

 まぁしかし、里志が言うことも一理ある。恐らくこの部活は俺と千反田だけだろうし、参加不参加の自由度も大きいだろう。なら、実質的な縛りはないと言える。

「まぁ、それもそうだな」

「では、私の方から顧問の先生に渡しておきますね。福部さんもどうですか、古典部」

「うん、面白そうだね、入らせてもらうよ。手芸部と総務委員の掛け持ちになっちゃうけど」

 千反田が差し出した手にポケットから出した申請書を置き、俺は早々に踵を返す。

 千反田と里志に短く声を掛けて、俺は帰路についた。

 

 

 ✕✕✕

 

 

「待ってよ、ホータロー」

 千反田と別れてしばらく歩いたところで里志が追いついて来た。千反田は職員室に向かったらしい。

「さっきの話、どこまでが本当だい?」

「さぁな」

「その分だと、八割が嘘、といったところかな」

 いや十割だ。嘘という定義も考え方によっては曖昧だが、俺が千反田えるを騙したという一点に嘘はなく、であるなら俺がした全ての言動は嘘だということになる。

「信用しない方がいいのは、ホータローの方じゃないか」

「俺は最初から信用しろとは言っていない。勝手に納得して信じたのは千反田だ。後の事は知らん」

 騙された方が悪い、なんて言うつもりはないが、実際そう言っているようなものだな。

 千反田えるが俺から騙されたことに対する責任を取れるのは、騙された彼女と騙した俺のどちらか。どちらでもあるしどちらでもない。

 仮に落ち度が俺にあって責任を取るべきだと責められても、俺が取るのは金くらいなものだ。

 だが、なし崩し的に俺は古典部に入ってしまった。千反田がいなければ普通に入っていただろうが、彼女が存在しているなら本来入る理由はない。

 なのに何故入ってしまったのかと自分に問う。

 里志に乗せられたか。いや、対面上はそうしたが真意は違う。

 では何故。あの千反田という存在が理由か。

 今となっては奴の印象は危うい娘、位にまでなっている。危うい、つまりは騙されやすいということだ。

 ついでに言うと、奴は名家の生まれらしい。騙されやすく金もある。コミニティを持っていて損は無いだろう。

 まぁしかし、そんな特典的な部分と引き換えて、俺は放課後の静けさを捨てた気もする。そういう意味では、失敗かもしれん。

 ああいうタイプに関わるとろくな事がない。

 今回の件から俺が得るべき教訓は、千反田えるとは危険な存在だと言うことだ。

 




見切り初発車の上に書きたくて書いたのでこの先続くかは取り敢えず未定です。
感想お待ちしております。
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