東方鉄道録‐幻想の地に汽笛は鳴り響く‐   作:日本武尊

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初めて二次創作を書きますが、よろしくお願いします。


プロローグ
始発駅 幻想の地に汽笛は鳴り響く


 日本のどこかに存在すると言われる、忘れ去られた者達が集う自然豊かで美しい光景が広がる外界から隔たれた理想郷。

 

 

 その名を『幻想郷』と呼ぶ。

 

 

 博麗大結界と呼ばれる結界によって外界と隔たれたこの地には人間の他に、妖怪や神々といった外の世界では存在が忘れられようとしている者達が暮らしている。

 

 

 幻想郷では人間が妖怪を恐れ、妖怪が人間を襲う。そんな関係を保つことで幻想郷は幻想で居られる、と言われている。

 といっても、極端な関係と言うわけではなく、中には友好的な関係を築いている人間や妖怪達が居る。まぁ、当然反対の考えを持つ者も居るが。

 そんな絶妙な関係性があるからこそ、種族間での争いは殆ど起きていない。

 

 

 そして外の世界で忘れ去られた存在も、ここに流れ着く。たまに幻想郷を覆う結界が緩んでそこから幻想郷に迷い込む時もあるが。

 まぁこれらに該当せずに幻想郷に入ってくる場合もある。

 

 それらを一括して『幻想入り』と言う。

 

 

 そしてとある者達も、この幻想郷に幻想入りしてきた。

 

 

 これは、そんな彼らが幻想郷で活躍する、物語である。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 そんな幻想郷を覆う博麗大結界と外の世界の境目付近に位置する場所に、『博麗神社』と呼ばれる神社はある。

 

 

「はぁ……」

 

 博麗神社の境内にある自宅の縁側に座っている少女はため息を付くと、手にしている湯呑を口元に動かして入っているお茶を飲む。

 

 紅白の脇の部分が大きく開いた特徴的な巫女服を身に纏い、後頭部に大きな赤いリボンをしている。

 

 彼女の名前は『博麗霊夢』。この博麗神社に住む、幻想郷を管理する博麗の巫女である。

 

「暇ねぇ」 

 

 彼女はそう呟くと、湯呑を傍に置いて空を見上げる。

 

 博麗の巫女である彼女は先祖代々から幻想郷で起こる異変解決を仕事にしている。他にも人間が暮らす人里で妖怪退治や厄払いの依頼を受けたりと仕事はあるのだが、それ以外やる事が無い。

 要はほぼ毎日が暇なのである。

 

「まぁ暇なのは平和だという事ですよ、ご主人様」

 

 と、彼女の後ろにある障子が開けられると、一人の少女が出て来て床に膝を付けてしゃがみ、霊夢が置いた湯呑を手にしてもう片方の手に持っているやかんの注ぎ口を近づけて中に入っている緑茶を注ぐ。

 

 肩に掛かりそうなぐらいの長さの明るい緑色の髪をして、青い色をメインに白や赤が施されたメイド服を身に纏っている。

 

 彼女の名前は『る~こと』という、博麗神社に住むメイドである。

 

 変わった名前をしているが、それには結構大きな理由がある。

 

 とある異変解決時に異変の首謀者から願いを一つ叶えると言われたので、霊夢は神社を掃除するものが欲しいと言って、このる~ことを貰った。

 まぁ、つまり彼女は見た目こそ少女の姿をしているが、その正体はアンドロイド、つまりはロボットである。

 

 その上彼女が動く燃料は少々厄介で、彼女が着ているメイド服の背中に描かれている最も物騒なマークがそれを物語っていた。

 まぁその燃料のお陰で、彼女は半永久的に動くことが出来るのだ。

 

 最近では新鮮なその燃料を手に入れられるので、彼女としてはかなり助かっているようである。

 

「まぁ、それもそうだろうけど、暇なもんは暇なのよ」

 

 霊夢は愚痴りながらる~ことから湯呑を受け取って一口飲む。 

 

 まぁやる事があるとすればる~ことと一緒に神社や境内、自宅の掃除や、賽銭箱の確認ぐらいだ。

 

 しかし賽銭箱には基本お金は入っていないのがほとんどだ。

 

 幻想郷にある人間の里から博麗神社までの距離はそこそこある上、神社の周りは森が多く、そこには多くの妖怪が棲んでいる。妖怪以外にも熊や狼といった獰猛な獣が多く生息している。道中だけでも大変なのだが、その上神社には顔見知りの妖怪や妖精達が度々やって来るので、一般人からすれば余計近付きづらいのだ。

 そのせいで参拝客はほとんど来ないので、当然賽銭なんてあるわけがない。あっても微々たる事が多い。

 

 彼女の収入源は妖怪退治時の報酬以外はそれに依存しているので、常に貧しい生活をしている。まぁ人里から異変や依頼解決、厄払い時のお礼の品々を送られてくることがあるので、生活に困るほどではないが、かといって贅沢ができるほどはない。

 

 

 しかし、彼の者達が幻想入りしてきたことで、彼女の生活スタイルは大きく変わる事になった。

 

 

 

 ―ッ!!

 

 

 

「……来たわね」

 

「そうですね」

 

 すると低くも猛々しい音が二人の耳に届き、音がした方に視線を向けると、森の方から白煙が上がっていた。

 

 しかし別に火事になったわけではないと分かっているので、驚きはしなかった。まぁ知らなかった最初の時は驚いていたのだが。

 その白煙は徐々に神社の方に近づいて来ている。

 

「さて、参拝客の出迎えの準備をするわよ」

 

「了解です」

 

 霊夢とる~ことの二人は縁側から立ち上がり、参拝客を迎える準備をする。

 

 

 数ヶ月前に幻想入りしてきた者達のお陰で、人里から博霊神社への参拝客が増えており、彼女の生活も大分マシなレベルになりつつあった。

 まぁ、そのお陰で幻想郷の景色は大きく変化してしまったが、それでもこの幻想郷に齎された変化は大きなものになった。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 時は少し遡る。

 

 

 幻想郷は自然豊かな場所と言ったが、現在の幻想郷には自然じゃ無い物が地面に張り巡らされている。

 

 一定の間隔で木材が設置されてその間に石が敷き詰められ、その上に二本の鉄の棒が設置されている。

 つまりこれは鉄道を走らせるための『線路』である。

 

 そんな線路が幻想郷中に張り巡らされているのだ。まぁ幻想郷の全てにと言うわけではないが。

 

 

 その線路が多く集中的に張り巡らされている場所がある。

 

 幻想郷において、そこは長い間何も無い平地があったのだが、数ヶ月前にそこに大きな施設が幻想入りしてきたのだ。

 

 

 その名は『幻想機関区』と呼ぶ。

 

 かつては別の名前だったのだが、この幻想郷に幻想入りしてから機関区の管理者がその名前に変えた。

 

 尤も、機関区の存在自体が幻想的なものだったので、ある意味相応しい名前になったみたいなものだが。

 

 

 機関区内にある操車場には多くの客車や貨車、特殊車輌が置かれ、機関区内の中央に広げた扇の様な形状をした扇形機関庫と呼ばれる建造物に『彼女』達は眠っている。

 

 それぞれ特徴ある黒く大きなボディーに足回りに大きな円形のパーツを持ち、各々の特徴を持った存在。

 

 かつて線路の上を走り、人々の足となって人や荷物を運んだ産業革命の立役者。

 

 しかし時代の流れと共に彼女達は姿を消していき、今でも保存活動はあるが、それでも忘れ去られようとしている存在。

 

 

 その名を『蒸気機関車』と呼ぶ。

 

 

 その機関庫に眠っている蒸気機関車は外の世界の日本でかつて多くが走っていた物である。

 

 日本で最も多く作られ、知名度の高い貨物用蒸気機関車『D51形蒸気機関車』。

 

 日本最強と謳われた貨物用蒸気機関車である『D52形蒸気機関車』の軸重軽減を主に改良が施された『D62形蒸気機関車』。

 

 今は作業の為に機関庫に居ないが、大正生まれながらも日本の蒸気機関車の終焉を見届けた『9600形蒸気機関車』と日本の機関車の中で小さい部類に入る『B20形蒸気機関車』が居る。

 

 そんな蒸気機関車が様々な形式の車輌と共に機関庫にて眠っている。中には火を入れられて出発準備を整えている車輌もいる。

 

 

 こんな光景、外の世界ではまず一箇所でしか見る事が出来ないだろう。尤も、全てが動くとなると、存在しないが。

 

 そんな扇形機関庫にて彼女達は出番を待っていた。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 場所は変わり、機関区の敷地内にあるとある建物の一室。

 

 飾りっ気の無い質素な雰囲気の部屋に、一人の青年が居た。

 

 

「……」

 

 青年は鏡の前で身だしなみを整えていた。

 

 彼の名前は『霧島(きりしま)北斗(ほくと)』。この幻想機関区の管理責任者である区長とD62形蒸気機関車の機関士をしている。

 

 元々は外の世界の人間だったが、この機関区と共に幻想入りしてきた。まぁ幻想入り自体は彼自身の意思は無く、どちらかと言えば巻き込まれた形であるが。

 

「よし」

 

 北斗は身だしなみを整えると、着ている作業服と同じ紺色の略帽をかぶり、部屋を出る。

 

 

 

 建物から出て機関庫に向かって敷地内を歩く。

 

 既に機関区内では各々の作業を行う者達が居た。

 

「おはようございます、区長!」

 

「おう、おはよう」

 

 線路の分岐点の整備をしていた背丈の小さい女の子が北斗に気付き、立ち上がって挨拶をして彼も返事を返す。

 

 紺色の作業服に黄色いヘルメットを被っており、作業服の上に黄色いベストを着ているが、背中にはトンボの羽の様な二枚二組の透明の羽が下に向かって生えている。

 

 そんな羽が生えた女の子はこの機関区にいっぱいおり、各々の作業をしていた。

 

 彼女達は幻想郷に幻想入りした時からこの機関区に居るのだが、それまで彼女達の存在は居なかった。

 

 幻想郷の住人曰く、彼女らは妖精と呼ばれる種族らしい。

 しかし真面目に働く彼女達は幻想郷の住人からすれば妖精らしくないらしいが、まぁ彼らからすればありがたい存在だった。

 

 

 北斗はいくつもある線路を通る前に左右を指差しながら見て安全を確認してから通り、機関車達が居る機関庫に着く。

 

「何度観ても、すげぇ光景だよな」

 

 彼はそう呟きながら機関庫に眠っている機関車達と、その傍で妖精達と一緒に整備や検査をしている少女達を観る。

 

 SLが好きである彼からすれば、多くのSLが見れるこの光景は正に絶景である。それも全てが動く状態で、現存していない機関車が殆どなら、尚更だ。

 

「おはようございます、区長!」

 

 すると彼の元に同じ紺色の作業服と、同色の略帽をかぶった灰色のショートヘアーの少女が近付き、挨拶をする。少女が着ている作業服の左胸には『D51 241』と描かれたバッジが付けられている。

 ちなみに北斗の着ている作業服にも『D62 20』と描かれたバッジが付けられている。

 

「おはよう、明日香」

 

 北斗は明日香と呼ばれる少女に向き直り、挨拶を返す。

 

「今日は人里から博麗神社行きの列車を明日香と皐月が走るんだったな」

 

「はい!」

 

「そうか」

 

「頑張れよ」と彼は彼女に言いながら二人は機関庫に向かう。

 

 

 

 機関庫に眠っている機関車達の前を歩いていく道中で機関車の整備をしている少女と妖精達は二人の姿を見ると作業を中断して挨拶する。

 

 そして機関庫中央左辺りで準備が進められている機関車の前で二人は立ち止まる。

 

「じゃぁ、いつも通り安全で頼むぞ」

 

「了解!」

 

 明日香は敬礼をしてから、四輌あるD51形蒸気機関車の内『D51 241』のナンバープレートを持つD51形に向かう。

 

 

 D51形蒸気機関車の中で縦長な『ギースル・エジェクタ』と呼ばれる特徴的な煙突を持つ241号機は外の世界では蒸気機関車で最後に貨物列車を引き、そして国鉄時代で最後に本線を走った有名な機関車である。

 

 その後は追分機関区にて同型の465号機、603号機、1086号機と共に静態保存の為に保管されていたのだが、その追分機関区が火事に遭い、同じ機関区に居た9600形の79602号機と配備されたばかりの新鋭のDD51形ディーゼル機関車八輌と共に焼失してしまった。

 

 そんな241号機が他の機関車達と共にこの幻想の地に新たな体を持って蘇ったのだ。

 

 

 北斗は線路の脇へと退きながら、彼女が妖精と共に機関車の足回りの打音検査に入るのを見て自分(・・)のD62形の前まで歩く。

 

 

 しばらくして打音検査を終えた彼女は足回りの各部品に注油作業を終えたのを妖精に確認した後、運転室に入ると一足先に運転室に入っていた機関助士の妖精がスコップに乗せた石炭を焚口戸を開けた火室へと放り込んでいた。

 

「調子はどう?」

 

「ボチボチですよ」

 

「結構」

 

 妖精の言葉を聞いて明日香は頷きながら蒸気圧計と水位計の数値を確認してから機関士が座る席に座る。

 

 数回ほど火室へと投炭した妖精は焚口戸上にあるレバーを上げて焚口戸を閉じ、水の量を確認する。

 

 問題ない事を確認してから妖精は明日香に報告する。

 

「……」

 

 彼女は深呼吸をして二つあるブレーキハンドルの内機関車本体のブレーキハンドルを回してブレーキを解くと、エアーが抜けるような音が運転室に響く。

 

「出庫!」

 

 そう大きな声を出して垂れ下がっている汽笛を鳴らすロッドを短く引き、機関車の汽笛を短く鳴らして運転室の窓から頭を出し、前を見ながら加減弁のレバーを少し引く。

 

 するとD51 241はゆっくりと前進し始め、ピストン付近の排気口から蒸気を出しながら機関庫の前にある転車台まで前進してその中央に差し掛かる前に加減弁を戻してブレーキを掛けると、ちょうど転車台に収まる形で停車させる。

 

 その後は妖精が転車台を操作してD51 241を乗せた転車台をゆっくりと回転させて方向を変えさせる。

 

 

 そのまま五時方向へと機関車の前方を向けさせて停止させ、転車台を操作していた妖精は線路がずれていないか確認してから明日香に緑色の手旗で報告する。

 

 それを確認して明日香はブレーキを解いて汽笛を短く鳴らし、加減弁を引いて機関車を前進させる。

 

 敷かれた線路に機関車を走らせ、いくつも分かれた分岐点を通って人里まで繋がっている線路まで機関車を移動させると明日香は加減弁を戻してブレーキを掛けて機関車を止め、逆転機ハンドルのロックを外してメーターを確認しながらハンドルを回し、凸凹に合わせてロックを掛けると、窓から頭を出して後ろを確認する。

 

 線路のポイントが切り替えられ、その先では『B20 15』と『79602』が持ってきた茶色に塗装された『オハフ33形』の旧型客車二輌と『マニ32形』の郵便客車一輌の計三輌が連結されて待機していた。

 

「……」

 

 客車を確認した明日香は妖精の緑色の手旗の合図を確認してからブレーキを解いて汽笛を二回短く鳴らし、加減弁のレバーを引くと機関車はゆっくりと後退する。

 

 彼女は妖精の手旗信号の誘導を目を細めて確認し、加減弁のレバーを握る手に力が入る。

 

 

 そして炭水車と客車の連結器がぶつかる寸前で加減弁を引くと同時にブレーキを掛け、連結器と連結器が接続されると同時に停車する。それによって衝突を最小限に留めた。

 地味に凄腕の技術である。

 

 まぁ彼女なら出来て当然のことであろう。

 

 なぜならば、彼女はD51 241号機自身(・・)なのだからだ。機関車を手足の様に使うなど造作も無い事だ。

 

 

 その後しばらくして241号機の後に機関庫から出て来た『D51 465』が別の線路を使って241号機と連結している客車の後方へと移動すると、ゆっくりと後退して炭水車と連結させる。

 

 ちょうどそれぞれの機関車の前面が前後を向いているという、変わった編成である。まぁ、この編成にはちょっとした理由があるのだが、それは後々語られるだろう。

 

「……」

 

 明日香は機関士席から機関助士席側の窓からサムズアップしている北斗の姿を確認すると、微笑みを浮かべて前へと向き直り、略帽を被り直して表情を引き締める。

 

「出発進行!!」

 

「出発進行!」

 

 大きな声を上げると機関助士の妖精も復唱し、ブレーキを解いてから汽笛のロッドを引き、汽笛を長く鳴らすと、客車後方に連結している465号機も汽笛を鳴らして、彼女は加減弁のレバーを引くと、三輌の客車と465号機を牽いて機関車は煙突から白煙を、ピストンからドレンを吐き出しながら前進し始める。

 

 そしてD51 241号機が牽く列車は人里付近にある駅へと向かって走っていく。

 

 

 

 今日もまた、幻想の地に勇ましい汽笛の音色が鳴り響く。

 

 

 

 

 

 

 

 




初っ端からネタバレが多いような気がしますが、説明回的な回なので大丈夫、なはず……
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