東方鉄道録‐幻想の地に汽笛は鳴り響く‐   作:日本武尊

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東武鉄道が私鉄発注のC11形1号機を動態復元するみたいですね。新しく蒸気機関車が動態復元するのは嬉しいですが、動態復元されているタンク型機関車の大半がC11形って……。何でC12形が少ないんや。まぁ本格的な動態復活しそうな
C12形はあるけど。


第2区 幻想郷の機関区編
第09駅 構内試運転


 

 

 北斗達が幻想郷に幻想入りして早くも三日が経った。

 

 

 

 

 その日の幻想郷に、SLの汽笛が響き渡った。

 

 

 

 

 霧島機関区改め幻想機関区の敷地内にいくつもの線路が敷かれている場所で、カマボコの様な角型ドームを持つ戦時型のD51形であるD51 1086号機が煙突から白煙を吐いて猛スピードで走っていた。

 

「……」

 

 D51 1086号機の運転室の窓から頭と身体の一部を出して前を見ている『D51 1086』のバッジを付けた少女は右手に持っている加減弁のハンドルを引いたり戻したり、メーターを見ながら逆転ハンドルを回して、機関車の走る速度を調整する。

 

 その隣では機関助士の妖精が床のペダルを踏んで焚口戸を開け、スコップに載せた石炭を燃え盛る火室へと投炭して火力を上げる。

 それを数回繰り返した後、注水機のバルブを回してボイラーに水を送り込む。

 

 貨物用蒸気機関車のD51形であるが、本気を出せば旅客用蒸気機関車に匹敵する速度を出す事が出来る。まぁ当然想定している速度を超えた速度になるので機関車の足回りには大きな負担を強いる事になる。なので、普段この速度を出すことはまず無い。

 

 線路の上を猛スピードで走っている途中で彼女は加減弁を閉じて機関車本体のブレーキハンドルを回し、急ブレーキが掛けられてD51 1086号機は急速に速度を落としてやがて停止する。

 

『D51 1086』のバッジを付けた少女はすぐさま逆転ハンドルを回してバックに入れ、ブレーキを解いて汽笛のロッドを引いて汽笛を短く鳴らし、加減弁ハンドルを引いてD51 1086号機はドレンを出しながら後退する。

 

 

 

「1086号機も問題はなさそうだな」

 

「そうですね。とても調子が良さそうです」

 

 1086号機の走っている姿を観ていた北斗と『D51 241』のバッジを付けた少女はそれぞれ呟く。

 

 その近くでは妖精達によって足回りの調査と整備を受けているD51 603号機の姿があった。

 

 現在彼らは入れ替え作業をしているB20 15号機と79602号機以外のD51形四輌とD62形一輌の状態を調べる為、機関区内にある線路を使って構内試運転を行っていた。

 

 しかし全車輌に火を入れるのに時間が掛かって予定より開始時間が遅れてしまったが、まぁ蒸気機関車は性質上立ち上がりが遅いので仕方ない。

 

 既にD51形の241号機と465号機の走行試験を終え、先ほど603号機も終わり、現在は1086号機の試験を行っている。

 

 試験内容は前進から後退、急発進から急停車、徐行運転から高速運転など様々だ。そして停車後に足回り関連と各部の異常が無いかの確認を行っている。

 

(これまでの試験結果はどの機関車も良好。特に問題なしか)

 

 ここまで行われた試験では特に異常は見られず、良好な結果を見せていた。少なくとも、走行に問題は無い。

 

 ふと、B20 15号機と79602号機に牽かれて機関庫へと運ばれるD51 241号機とD51 465号機の内、241号機の姿を見る。 

 

(241号機の方が他のデゴイチより動きが少しだけ良かったな。やはりギースル・エジェクタを付けているだけでこうも違ってくるか)

 

 彼は遠くからD51 241号機の縦長い逆台形の特徴的な煙突を見る。

 

 

 ギースル・エジェクタ。別名『ギースル式誘導通風装置』とも呼ばれる煙突の一種である。

 

 オーストリアのアドルフ・ギースル・ギースリンゲンが開発した煙突で、先述の通り縦長く逆台形な形状をしているのが特徴的である。

 

 構造はシリンダから送られる蒸気をブラスト管から排出する際、通気量等によって吐き出し面積を可変、調整して効率よく排出することと、小煙管よりも大煙管に石炭の燃焼ガスを多く通すことにより、従来の煙突に比べて燃焼効率を高めることが出来るのだ。

 それによって蒸気温度を上げ、消費する石炭の量を減らしつつ機関車の牽引力を上げ、火の粉を減らす効果がある。試験では9~15%ほどの石炭の節約、シンダや火の粉の減少等の効果が確認された。

 

 日本ではオーストリアから輸入したギースル・エジェクタをD51形の349号機と357号機に取り付け、試験を行ったところ良好な結果を出したのでその後ギースル・エジェクタの製造販売権を取得して三十四輌のD51形に取り付けられた。

 しかしそれだけで数が留まったのは、当時は無煙化の最中とあって、それだけに留まったのだ。

 

 

 

「やっぱり生で見ると凄いですねぇ。迫力が違います!」

 

 と、二人の隣D51 1086号機の走っている姿を見て興奮している者が居た。

 

 特徴的な巫女服を身に纏った守矢神社の風祝、東風谷早苗である。

 

 なぜ彼女がここに居るかと言うと、彼女曰く『人里で信仰活動をしていたら遠くから汽笛が聞こえたので飛んできました!』との事である。

 

 確かに蒸気機関車の汽笛は遠くまで聞こえるが、それにしては耳が良過ぎるのでは?

 

 まぁそんなこんなで彼女はD51 603号機の試験が終わる頃に幻想機関区にやってきたのだ。

 

「どうでしょうか、早苗さん」

 

「はい! まさかこの幻想郷で蒸気機関車の走る姿を生で見られるなんて思っていませんでした!」

 

 北斗が彼女に声を掛けると、早苗は笑顔のまま彼の方を見る。

 

「嬉しそうで何よりです。この後ももう一輌試験を行いますので、楽しめますよ」

 

「本当ですか!」

 

 この後に控えるD62形の走行試験の事を告げると彼女は更にテンションを上げる。 

 

(本当にSLが好きなんだな)

 

 彼女の姿を見て北斗はつい嬉しく思った。

 

 まぁ、こういう理解者が居るとのは趣味人にとって嬉しいものである。大抵趣味人の趣味を理解してくれる人は少ないからだ。

 そして中にはその趣味を否定する心無い者も居る。

 

「……」

 

 北斗は再びD51 1086号機の走る姿を観る早苗をチラリと見る。

 

(やっぱり、どこかで会ったような気がするな……)

 

 彼女と初めて出会った時からどうもどこかで会ったような気がする。そんな引っ掛かった感覚があった。

 

 しかしいくら記憶の糸を辿っても、彼女と出会った時の記憶は無い。むしろ特徴ある彼女を忘れる方が無理な気がする。

 

(でも、早苗さんは別に何も話してこないし、気のせいか?)

 

「うーん」と内心唸る。

 

 じゃぁ本人に聞けばいいのでは? と思われるが、殆ど人と接していない彼が女の子に声を掛けられる勇気が果たしてあるのだろうか?

 

 まぁ、同じ疑問を思っているのは彼だけではなく、彼女もまた同じ疑問を抱いているとは、二人して知る良しも無かった。

 

 

 しばらくして全ての試験項目を終えたD51 1086号機が北斗達の元まで来て停車する。

 

「どうだ?」

 

「すこぶる調子が良いですよ」

 

 運転室から『D51 1086』のバッジを付けた少女が降りてきて北斗に自身の感じた機関車の状態を報告する。その際早苗の姿を見ると少し警戒心を出していたが。

 

「良し。機関車はすぐに脇に退かして妖精達に検査させてくれ。後で正確な報告を頼む」

 

「了解!」

 

 敬礼した後、少女は運転室に戻って機関士席に座ると逆転機ハンドルを回してブレーキを解き、加減弁ハンドルを引いてD51 1086号機を後退させる。

 

 

 

 D51 1086号機が別の線路へと移動すると、その後に79602号機が機関庫からD62 20号機を押して運んできた。

 

「では、俺は今から行ってきます」

 

「はい。楽しみにしています!」

 

「241号機はここで待っていてくれ」

 

「了解!」

 

 彼は早苗と『D51 241』のバッジを付けた少女に一言声を掛けてから二人の元を離れ、D62 20号機の元へと歩く。

 

 

「……」

 

 北斗はD62 20号機の近くで立ち止まり、機関車を眺める。

 

 D51形より大きなボイラーを持ち、蒸気ドームに斜めに取り付けられた汽笛が特徴的で、元となったD52形の2-8-2(1D1。つまり先輪1軸+動輪4輪+従輪1軸の意味)のミカド形から改良されて二軸化された従台車に変更された2-8-4(1D2。つまり先輪1軸+動輪4輪+従輪2軸の意味)のパークシャー形となったD62形蒸気機関車。なおD62形は日本初のパークシャー形でもある。

 軸重が変化したことで牽引力は低下したが、D52形と比べると入線できる区間が多くなったのは大きいだろう。

 

 目の前にあるD62形は前照灯の横にシールドビームの副灯を持ち、煙突には集煙装置が取り付けられている。地味に重装備な見た目である。

 

「俺の機関車、か」

 

 北斗は自分が着ている作業服の上着の左胸に付けられている『D62 20』のバッジを見る。

 

 少女達は彼がこの機関車の機関士だと言っていたが、果たしてそれは何を示しているのか。

 

 

 彼は機関車を眺めた後運転室へと登って乗り込むと、既に乗り込んでいる機関助士の妖精がスコップを炭水車から石炭を掬い上げて床にあるペダルを踏んで焚口戸を開け、火室へと石炭を投炭していた。

 

 D62形には自動給炭装置(メカニカルストーカー)と呼ばれる炭水車に積まれた石炭を火室へと飛ばす装置があるが、構造上どうしても石炭が偏って飛んでしまうので人力投炭が必要になる。特に最初の時や全力走行時には。

 

「どうだ?」

 

「いつでもいけますよ」

 

「そうか」

 

 投炭を終えてスコップを炭水車の道具置き場に置くと、注水機のバルブを回して炭水車の水槽から水をボイラーへと送り込んでいる機関助士の妖精の言葉を聞き、彼は頷きながら水位計を確認して機関士席に座る。

 

(……不思議だな)

 

 北斗は機関士席に座った瞬間、自身の感覚が研ぎ澄まされるのを感じ取る。

 

 まるで自分と機関車が一体化したような感覚であった。

 

(分かる。何もかもが)

 

 目で見なくても、何処に何があって、何がどう動くかが手に取るように分かる。

 

 当然だが、彼は今日初めて蒸気機関車を操縦する。操縦経験なんて一切無い。知識ぐらいで多少知っているぐらいだ。

 

 にも関わらず、身に覚えが無いはずなのに全てが分かるのだ。

 

 そして同時に彼はこう思うのだ。

 

 

 まるで他人の記憶を見て、感覚を感じているようだと。

 

 

 そんな違和感を覚えるも、彼は頭を切り替える。

 

 すぐに窓から頭を出して前後を確認し、機関車のブレーキを解くと空気が抜ける音が運転室に響き、汽笛を鳴らすロッドを引いてD51形より大きく野太い汽笛を鳴らし、加減弁のハンドルを引く。

 

 そしてD62形の巨体を支える各四つずつ計八つの動輪がゆっくりと動き出す。

 

 北斗はドレンを出すハンドルを回してピストン付近の排出管からドレンを出し、集煙装置付きの煙突から灰色の煙を吐き出しながらD62 20号機は前進し、徐々に速度を上げていく。

 

 その加速は見た目からは想像できないほど滑らかで、あっという間に速度を上げていく。

 

「……」

 

 北斗は右手に握る加減弁ハンドルから伝わる振動を感じながら微妙に動かして速度を調整する。

 

 隣では機関助士の妖精がスコップに石炭を載せて床のペダルを踏んで焚口戸を開けて火室に石炭を放り込む。それを数回繰り返すと、スコップを置いていくつもあるバルブを回して各所に蒸気を送り込む。

 

(これが、走っている蒸気機関車の運転室で見る光景か)

 

 彼は運転室の窓から覗く光景を見ながら、内心呟く。

 

 D62 20号機は徐々に速度を上げて構内の線路を駆け抜ける。

 

 

 

 その後停車し、そこから後退して急停車、急発進してからの高速走行と試験項目をこなしていく。

 

 

 

 

 




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