東方鉄道録‐幻想の地に汽笛は鳴り響く‐   作:日本武尊

101 / 159
第100駅 どうすることもできない現実

 

 

 

 北斗が意識を失って早くも三日が経過した。

 

 

 

 幻想機関区

 

 

 線路異変の影響に加え、機関区長である北斗が不在の為、列車の運行は全くの未定である。

 

 

 列車の運行再開の目処が無い機関区だが、全く仕事が無いわけではない。

 

 

 先日修復を終えた4500形蒸気機関車と比羅夫号こと7100形蒸気機関車だが、機関区長である北斗が居なければ試運転が出来ないので、新たに建てられた機関庫に格納されている。

 

 空いた工場にはC50 58号機とC54 17号機が入場し、全般検査を兼ねた修復が開始されている。

 

 

 扇形機関庫では一部を除いて蒸気機関車達の一斉整備点検が行われている。

 

 火を落とされている機関車の傍では整備士の妖精達と神霊の少女達が足回りやボイラー、煙室内などの各所の点検を行い、整備を行っている。

 

 その中には無縁塚にて発見されたD61 4号機と9677号機の二輌の姿があり、それぞれの神霊の少女達は自身の機関車の点検を行っている。

 

 

 操車場では作業員の妖精達によって動かされているC11 382号機とC12 294号機に加え、B20 15号機により客車や貨車の整理が行われており、運行再開に備えて客車を前に出している。

 

 ちなみにC11 382号機とC12 294号機の二輌のフロント部には黄色と黒のゼブラ模様が描かれている。

 

 

「……」

 

 そんな中、宿舎の前で箒を使い落ち葉を掃いている夢月はある程度掃いた後、箒の柄頭に両手を置き、その上に顎を乗せてため息を付く。

 

「やれやれ。区長も随分と不運な体質ね」

 

 夢月の近くに幻月が下り立つと、彼女に声を掛ける。

 

「不運というより呪われているんじゃないの? 地底の妖怪に攫われたかと思ったら、今度は妖怪に襲われて重傷を負い、意識不明」

 

「まぁ普通なら呪われているとしか思えないわね」

 

 二人はそう言葉を交わすと、空を見つめる。

 

「んで、色々と引き込んでいるわよね」

 

「意図的じゃないんでしょうね、あれも」

 

 と、二人は宿舎の方を振り向き、屋根の上を見る。

 

 屋根には周囲を見渡して警戒している幽玄魔眼の姿があった。

 

 幻想機関区へ機関車を送り届けた後、彼女は主である北斗の帰りを待つと同時に、命令通り機関区を守っている。

 

「それでどうする、姉さん?」

 

「そうねぇ」

 

 幻月は顎に手を当てて、静かに唸る。

 

「屋敷はまだ直ってないだろうけど、もしもの時はここを離れることになりそうね」

 

「……」

 

「まぁ、もう少しだけ待ってみましょう」

 

「……えぇ」

 

 そして幻月はその場を離れ、夢月は再び箒で落ち葉を掃き始めた。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 所変わって迷いの竹林……永遠亭

 

 

 

「ふわぁぁぁ」

 

 永遠亭の門の前に立つ少女は大きな欠伸をする。

 

 癖毛の黒髪に赤い瞳を持ち、頭からウサギの耳が生え、桃色のワンピースを身に纏った少女であり、にんじんのペンダントを首から提げている。

 

 彼女の名前は『因幡 てゐ』 この永遠亭、ひいては迷いの竹林に長い年月の間暮らしている因幡である。幼い見た目に反して相当長い年月を生きている。

 

「さてはて、時間通りならそろそろかな」

 

 大きな欠伸をして目を擦りながら呟く。

 

「……」

 

 と、彼女は目を細めて前を見ると、こちらに二人の人影がやってくる。

 

 

 少しして彼女の前にやってきたのは、妹紅と花束を持っている早苗の二人である。

 

 妹紅は北斗の見舞いにやってきた早苗を永遠亭へ案内する為にやってきた。

 

「時間通りに来たね」

 

「あぁ。入って大丈夫か?」

 

「良いよ。入っても」

 

 妹紅がてゐに聞くと、彼女は門を開けて永遠亭の中へと二人を案内する。

 

「……」

 

 てゐは二人を永遠亭内に案内する合間に、チラッと早苗を見る。

 

(ありゃ相当重症だねぇ……)

 

 見ただけで早苗の状態を理解した彼女は内心呟き、再度前を見る。

 

 

 死んだ魚の目のように、早苗の瞳には光が灯っておらず、まともに寝ていないのか目の下には隈が出来ており、過度のストレスのせいかやつれているようにも見える。

 

 

 兎に角、今の早苗の姿は非常に危ういものなのは誰が見ても明らかである。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 てゐの案内で二人は永遠亭内にある病室へと入る。

 

「じゃぁ、気が済んだら声を掛けてくれ。一応居間に居るからな」

 

「……はい」

 

 早苗が力無く返事をして、妹紅とてゐは病室を後にした。

 

 

「……」

 

 一人残った早苗はゆっくりと病室内を歩き、北斗が眠っているベッドへと歩み寄る。

 

「……北斗さん」

 

 ベッドの傍までやってきた早苗はベッドで静かに眠っている北斗を見つめる。

 

 あれから三日経過したが、彼には全く変化は無い。

 

「……今日、お花を持ってきました。ここに飾っておきますね」

 

 早苗は手には花が活けられた花瓶があり、ベッドの傍にある棚に花瓶置く。

 

「この花、意外にも幽香さんがくれたんですよ。北斗さんが良くなるようにって。あの方が心配してくれるなんて、本当に意外でした」

 

 彼女は北斗に語りかけるように喋りながら花瓶に活けられた花の位置を調整する。

 

 早苗が永遠亭に赴く前、人里にて妹紅を探している最中に彼女の元に風見幽香がやってきた。

 

 意外な人物に早苗は警戒心を露にするも、幽香は気にも留めずに早苗に花束を渡して『彼が目を覚ますといいわね』と言って彼女の元を去ろうとした。

 

 早苗がなぜ知っているのかと幽香に問い掛けると、彼女は天狗の新聞で知ったと告げて、彼女の元を去った、という経緯があった。

 

 

 花の位置を調整し終えた後、早苗は椅子に座って眠っている北斗を見つめると、今日あったことを眠っている彼に語り出す。

 

 早苗は今日に至るまで毎日北斗の見舞いに来ては、こうしてその日にあった事を話をしている。

 

 

「……」

 

 早苗は生気が無い目で北斗を見つめつつ、無意識のうちに両手でスカートを握り締める。

 

(奇跡が起きれば、北斗さんを助けられるのに……)

 

 眠っている北斗を見ながら、彼女は内心呟く。

 

「……フフフ……滑稽ですよね、本当に」

 

 すると早苗は静かに笑うと、北斗に声を掛ける。

 

「奇跡を起こす程度の能力がありながら、奇跡を起こせないなんて……本当に、本当に……」

 

 自傷する様に小さく呟くと、彼女の目から涙が落ちる。

 

「私は、貴方の為に、何も……何もでき、ないっ……なん、て……」

 

 早苗は悔しさがにじみ出て、涙を流しながら強く握り締める。

 

 

 早苗の持つ『奇跡を起こす程度の能力』。

 

 確かにその能力を使えば、北斗を助けられるかもしれない。実際彼女は北斗を助けるために、その力を使おうとした。

 

 しかしそれに待ったを掛けたのは、諏訪子であった。

 

 早苗は彼女に感情の赴くままに、問い掛けた。助けられる力があるのに、なぜ使ってはいけないのか、と。

 

 諏訪子は早苗を宥めつつ、理由を話した。

 

『確かに早苗の力を使えば北斗君は目を覚ますかもしれない。でもそれで仮に北斗君が目を覚ましても、余計な苦しみを与えるだけだよ』と……

 

 早苗は納得がいかなかった。そんな彼女に諏訪子が説明を続ける。

 

『彼の身体がどんな状態なのか分からないのに、奇跡の力で無理矢理目覚めさせたって、彼に苦痛を与えるだけ。それでも良いのかい?』

 

 諏訪子の説明に、早苗は何も言い返せなかった。

 

 北斗は多くの血を失い、その上妖怪の毒を受けたのだ。解毒が出来たとしても、全く影響が無いはずが無いのだ。

 

 今は眠っているから何も感じていないかもしれない。しかし目を覚まして感覚が身体中を巡れば、彼は苦しみを味わうことになる。

 

『奇跡って言うのはね、時には残酷な運命を見せることもあるんだよ』

 

 最後に諏訪子は早苗に告げた。

 

 

「北斗さん……」

 

 早苗は北斗に掛けられている布団に顔を埋め、そのまましばらく彼女は泣き続けた……

 

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 所変わり、幻想郷の空。厳密に言えば空の向こう側というべきか。

 

 

 

 

 そこは決して生ある者が訪れる場所ではない。

 

 

 その場所は『冥界』という、死者の魂が訪れる場所である。

 

 

 その冥界に、その場所はある。

 

 

 古き日本の雰囲気のある屋敷に庭園を持つそこの名は『白玉桜』と呼ぶ。

 

 

 

「……」

 

 白玉桜の日本庭園が見える縁側に、空を見つめる一人の女性の姿があった。

 

 ピンクのミディアムヘアーを持ち、水色と白を基調としたロリィタ風の着物を身に纏い、赤い模様が描かれた三角巾をつけた帽子を被っている。

 

 彼女の名前は『西行寺 幽々子』 この白玉桜の主であり、冥界の管理者の亡霊である。

 

「幽々子様。お茶を持ってきました」

 

 と、後ろの障子が開かれ、お茶を淹れた湯呑を載せたお盆を持って妖夢が幽々子の傍に膝を床に付けてしゃがみ込み、湯呑を彼女にお盆ごと差し出す。

 

「ありがとう、妖夢」

 

 差し出されたお盆に載せられた湯呑を受け取り、幽々子が妖夢にお礼を言って湯呑を両手で持ち、一口飲む。

 

「今年も残すところ僅かになったわね」

 

「はい」

 

「下の方では色々と大変だったわね」

 

「はい。色々とありましたね」

 

 二人は空を眺めつつ、今年一年を振り返った。

 

「それで、鉄道とやらは良かったのかしら、妖夢?」

 

「そうですね。空を飛ぶとは違った感覚がありまして、何より飛ぶことに集中しなくて良いので、景色を楽しめますね」

 

「あら、そうなの? それなら季節によっては食事をしながら景色を楽しめそうね」

 

「幽々子様の場合は花より団子では?」

 

「それは心外だわ、妖夢。私だって景色を楽しむことだってあるのよ」

 

「去年の花見では桜そっちのけで料理に向き合っていたじゃないですか」

 

「……」

 

 妖夢がジト目で指摘すると、幽々子は視線を逸らす。

 

「ま、まぁでも、機会があれば鉄道とやらで景色を楽しみたいわね」

 

「……そうですね」

 

 すると妖夢の表情が暗くなる。

 

「でも、今の状況では、それは出来ません」

 

「……」

 

「あの、幽々子様。本当に大丈夫なんでしょうか?」

 

 妖夢は不安な表情を浮かべて幽々子に問い掛ける。

 

「そうね……私もあまり見たことの無い現象だからハッキリとは言えないけど、少なくとも今は大丈夫よ」

 

「今は、ですか……」

 

「えぇ。死んでいないけど、生きているとは言い難いわ」

 

 と、幽々子は障子が開けられた部屋の中を見ると、妖夢もその部屋を見る。

 

「後は、彼次第ね」

 

「……」

 

 二人の視線の先には、部屋の隅で姿勢を正して正座して座っている一人の少年が居た。

 

 どこを見るわけでもなく、真っ直ぐと前を見つめている少年。

 

 

 

 それは永遠亭で意識を失って眠っているはずの霧島北斗であった。

 

 

 

 

 

 




感想、質問、評価、要望等をお待ちしています。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。