東方鉄道録‐幻想の地に汽笛は鳴り響く‐   作:日本武尊

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東武鉄道でC11 207号機と真岡鉄道から譲渡されたC11 325号機との重連イベントがありましたね。325号機の営業運転初日の12月26日が楽しみですね。
復元中の私鉄発注のC11 1号機改めC11 123号機も運転室を新製して順調に復元が進んでいますね。搬出されたボイラーはどこまで修復が進んでいるのやら
全検中のC58 363号機も来年2月に運転再開し、人気を博したSL鬼滅の刃がまさかの12月の追加運行と来ましたね。
来年こそは蒸気機関車界隈に良い一年であって欲しいですなぁ


第101駅 身体と魂の関係

 

 

 

 冥界に存在する白玉桜。

 

 

 そこに住む白玉桜の主『西行寺 幽々子』と従者の『魂魄 妖夢』

 

 その二人の視線の先に居るのは、重傷を負い意識を失って永遠亭で眠っているはずの北斗の姿であった。

 

 

「幽々子様。本当に彼は大丈夫なんでしょうか?」

 

 不安な表情を浮かべる妖夢は幽々子に問い掛ける。

 

「心配は無いわ。もし彼が本当に死んでいるのなら、人の姿はしていないでしょ」

 

「それはそうですけど……」

 

 妖夢は北斗を見ながら幽々子の言葉を聞くも、顔から不安の色は消えない。

 

 冥界は死後の人間の魂が閻魔の裁判により、向かう場所が分けられる場所の一つであり、ここに来た魂は転生するまで過ごすことになる。

 

 なのでここに来るのは魂だけで、今の北斗の様に人の姿で来る事は無い。

 

「幽々子様。そもそもなぜ北斗さんの魂がここに来たのでしょうか?」

 

 正座して真っ直ぐ前を見つめている北斗を見ながら、彼女は主である幽々子に問い掛ける。

 

「そうね……こんな現象を見るのはあまり無いから何とも言えないけど、私の予想が正しければ……」

 

 湯呑を持ったまま、幽々子は北斗を見ながら持論を口にする。

 

「恐らく、幽体離脱の一種か、もしくは魂が身体に定着していないでここに流れ着いたか」

 

「???」

 

 妖夢は頭の上に?をいっぱい浮かべて首を傾げる。

 

「幽体離脱は何らかの事故で魂が身体から一時的に離れる現象だけど、それなら身体の近くを漂うだけで、冥界に来る事は無いわ」

 

「はい。でも後者はどういうことですか?」

 

「そうね……」

 

 幽々子はお茶を飲み、一間置いて口を開く。

 

「話は変わるけど、魂は生まれた時から身体と強い結び付きがあるわ」

 

「はい」

 

「でも、何らかの事故でその結び付きが一時的に切れるのが幽体離脱で、完全に途切れるのが死よ」

 

「……」

 

「で、彼の場合は、その魂と身体の結び付きが弱く定着していないことで、魂が外れやすくなっていると思うわ」

 

「……それってつまり?」

 

「もしかしたら、彼の身体……本来のものじゃない可能性があるわね」

 

 幽々子の仮説を聞き、妖夢は目を見開く。

 

「そ、そんな事って、可能なんですか?」

 

「あくまでも仮定の話よ。別の身体云々はともかく、魂だけを引き抜いて別の身体に移し変えるなんて、普通は無理よ」

 

「普通は、ですか」

 

「えぇ、普通わね。でも紫の能力なら、もしかしたら可能でしょうけど」

 

「紫様の、境界線を弄る程度の能力ですか?」

 

「そう。彼女の能力なら魂と身体の結び付きの境界線を弄って、切り離すのは可能よ。そして魂を別の身体に宿らせるのも、その境界線を弄れば可能になるのよ」

 

「……改めて聞くと、紫様って何でもありですね」

 

「そうね。まぁ伊達に妖怪の賢者と呼ばれているわけじゃないしね」

 

 八雲紫の凄さを改めて認識した二人は短く会話を交わす。

 

「でも、さすがの紫でも、魂を抜き取ることは出来るでしょうけど、別の身体に定着させるのは無理よ」

 

「えっ? でもさっき……」

 

「あくまでも、一時的に宿らせる程度よ。魂を定着させるのは不可能よ」

 

「???」

 

 いまいち理解出来ていないのか、妖夢は首を傾げる。

 

「つまり、刀と鞘みたいなものよ。鞘は刀にぴったり合うように作られているから、別の刀を入れても反りが合わない。それに近いわね」

 

「あぁ、なるほど!」

 

 分かりやすい例えとあって、妖夢はポンと右手を左手に打つ。

 

「だから別の身体に魂を入れても、定着しないからものの数時間で魂は身体から外れて、元の身体に戻るわ」

 

「……」

 

「でも、彼の場合はそれに当てはまらないけど、かといって違うとも言い切れない」

 

 正座をしている北斗を見ながら幽々子は目を細める。

 

「まぁ、要は何も分からないってことよ」

 

 彼女はそう言うと、湯呑に入っている残り少ないお茶を飲み干す。

 

「少なくとも、彼はまだ死んでいないわ。でも、生きているとは言い難い状態でもあるわ」

 

「とても曖昧ですね」

 

「えぇ。そうね」

 

 湯呑を置きながら幽々子は北斗を見る。

 

「魂はあっても、意識はどこか違うところに向いているもの」

 

「……」

 

「ホント、飽きさせないわね、彼は……」

 

「北斗さん……」

 

 心配そうに彼を見つめる妖夢。

 

 そんな彼女の姿に、幽々子は微笑みを浮かべる。

 

「気になるのかしら。彼のことが」

 

「ふぇっ?」

 

 幽々子の突然の発言に妖夢はすっとんきょんな声を漏らす。

 

「な、何を言っているんですか、幽々子様!? わ、私は別に彼とはそんな、えぇと!」

 

「私は何も言っていないわよ?」

 

 慌てる妖夢に幽々子はニヤニヤと笑みを浮かべる。

 

「ただ、どうして彼のことが気になっているのかなぁ、って思っただけよ」

 

「……」

 

 妖夢は少し間を置いてから、口を開く。

 

「私が、というより、早苗が気にしていると思います」

 

「早苗……確か守矢神社の」

 

「はい。たぶん彼女が今回の件に悩んでいると思います……」

 

「……」

 

 妖夢の悲しげな表情に幽々子は目を細める。

 

 

 妖夢の脳裏に過ぎるのはこの間の地底の覚妖怪による北斗の誘拐事件のことである。

 

 博麗神社に慌てた様子でやって来た早苗。その表情は切羽詰って、必死になって霊夢に協力を申し入れていた光景。

 

 地底の地霊殿で北斗を見つけた早苗は彼に飛びついて、彼の身体を抱きしめていた。その表情は安堵と共に感情が溢れて涙を流していた。

 

 それらを見れば、早苗が北斗に対してどれだけ強い想いを抱いているか、想像は容易い。

 

 

「幽々子様。北斗さんのことを、どうにか出来ないでしょうか?」

 

「……妖夢」

 

 従者のお願いに彼女は少し驚きつつ、内心喜びを感じていた。

 

 かつての彼女は自身を優先にして、他人との関わりは殆ど無く、自分以外は拒絶していた。

 

 しかし春雪異変の時に異変解決の為にやって来た霊夢と魔理沙との出会いをきっかけに、彼女の交友関係が変わり始めた。

 

 だからこそ、幽々子は他人に対する思いやりの心を持った従者の変化に喜びを感じていた。

 

「……私の能力は知っているでしょ。むしろ状況を悪化しかけないわ」

 

「っ……そうですよね」

 

 妖夢はガッカリしてか、肩を落とす

 

「……」

 

 幽々子は何も言わず妖夢を見てから、真っ直ぐ前を向いて正座をしている北斗を見る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 霧島北斗という少年は、生まれながらにして強い霊感を有していた。故に彼はこの世のものでは無いものを見ることが出来て、更に意思疎通を可能とした。

 幽霊や悪霊はもちろん、中には神様とも意思疎通が行えた。

 

 

 しかしその為に、彼は周りから異端な存在として見られて、遠ざかれて常に孤独であった。

 

 

 その誰にも認められなかった異端な能力によって、彼は虐めを受けていた。

 

 

 だが、彼を虐めていた者は例外なくその身に不幸なことが起きた。一生寝たきりを余儀なくされた者や四肢のどれかを切断することになった者、中には命を落とす者も居た。

 

 

 彼の周りでそんな事が起きれば、多くの者はその理解の及ばない現象を恐れ、やがては彼を『疫病神』と罵り、彼との関わりを断っていく。

 

 

 彼は孤独であった。生まれた時から彼の周りには誰も居なかった。

 

 彼を引き取った義理の両親は事故で亡くなり、次に引き取られた伯父は老衰で亡くなり、その次に引き取った叔父は彼を虐待した容疑で逮捕され、その後は親戚の家で静かに暮らしたが、極度の人間不信に陥っていた彼は誰とも会話を交わそうとしなかった。

 やがて親戚も彼のことを諦めて、放置した。

 

 

 常に孤独であった彼は、愛されることも、愛することを知らない……

 

 

 故に彼は自分以外はどうでも良かった。自分以外どうなろうと知ったことではなかった。虐めていた同級生が不幸な目にあっても、彼が抱いたのは因果応報だという優越感でも、自分に関わったせいで不幸な目に合ったという悲壮感でもなく、ただただそんな事が起きたんだという虚無感であった。

 

 

 

 そんな人間不信にあった彼が心を許した相手は、生まれて初めて出来た友達である早苗と、蒸気機関車のことを教えてくれた飛鳥の二人、そして彼に蒸気機関車を知るきっかけを作った伯父であった。

 

 

 しかし幻想郷に来てから、彼の心は変化しつつあった。

 

 

 蒸気機関車の神霊の少女達と、幻想郷に暮らす少女達との出会い、そして早苗と飛鳥の再会によって、彼の自覚無き閉ざされた心が開かれ、空虚な心が満たされ始めた。

 

 

 だが、それでも彼の心は、満たされないままであった……

 

 

 

 

 

 

 

 真っ暗な空間に、霧島北斗は立っていた。

 

(……)

 

 彼の意識は殆ど無いに等しく、据わった目はただ前を見ている。

 

 自分が一体何をしているのか、今どうなっているのか、それすら分からない。

 

 

(……)

 

 すると北斗の視線の先に、暗闇を照らすかのような光が現れる。

 

 とても明るく、温かい光が彼を照らす。

 

 北斗はその光に誘われるかのように、ゆっくりと歩みを進める。

 

(あれ……俺、何をしているんだっけ……?)

 

 ふと、彼は内心呟く。

 

 彼は何か重大なことを忘れているような、そんな気がして考えようとするも、全く頭が回らず考えが纏まらない。

 

(何でだろう。この先に行かないといけない気がするのに、行っちゃいけないと思うのは……)

 

 矛盾した感覚に彼は歩みを止め、首を傾げる。

 

 

 この先に行けば、もう戻れないかもしれない……

 

 でもこの先に行かないといけない……

 

 

(……まぁ、良いか)

 

 しかし結局何も分からず、次第に眠りに近い気だるさが彼に圧し掛かって意識が遠のきだし、無意識の内に再び歩き始める。

 

 

 この先に行ってはいけない。そう本能が訴えかけているのに……

 

 

 しかし意識が遠のいている彼に、光の誘導に抗う術は無かった……

 

 

 

 

 




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