東方鉄道録‐幻想の地に汽笛は鳴り響く‐   作:日本武尊

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第102駅 帰るべき場所

 

 

 

 

『待て!』

 

 すると北斗は後ろから声を掛けられて、歩みを止める。

 

(……?)

 

 彼はゆっくりと後ろへ振り返ると、そこに人の形をした光があった。

 

『北斗。そこへ行ってはならない。お前はまだ行くべきではない』

 

(あなたは……? それに、なぜ俺の名前を?)

 

『今は何も言えない。だが、それよりもお前のことだ』

 

(……)

 

『北斗。お前はまだ生きている。お前は戻るべき所へ戻れ』

 

(でも、俺はあそこへ行かないと……)

 

『なぜお前はそう思うのだ』

 

(それは……)

 

 人の形をした光に問われて、北斗は言葉を詰まらせる。

 

 北斗がそこへ行こうとする理由。そんなものは無い。ただそこへ行かないといけないと思っているだけだ。

 

(……でも、何でだろう)

 

 ふと、彼はある違和感を覚えていた。

 

(あの光を見ていると、なんだか懐かしい気持ちになるな……)

 

 北斗は人の形をした光を見て、懐かしい気持ちを感じていた。

 

 その気持ちはなんと言うべきか。例えるなら以前にも会った事があるような、そんな気持ちである。

 

『北斗。お前には帰るべき場所がある。そして帰りを待っている者がいるはずだ』

 

(帰りを、待っている……)

 

 光が放った言葉に、北斗は少しずつ意識が戻り、そして脳裏に過ぎるのは……

 

 

 

 外の世界で鉄道博物館で初めて出会った時、迷子になって泣きそうになっていた早苗

 

 

 館内を一緒に歩き、展示物の鉄道車両を見て周り、展示物に興味津々に見ていた早苗

 

 

 別れ際の時、また会う約束として指きりげんまんをして、笑顔を見せる早苗

 

 

 

 幻想郷で二度と会うことは無いと思っていた早苗との再会

 

 

 構内試運転で動く蒸気機関車を見てはしゃいでいる早苗

 

 

 幻想郷で鉄道開業を目指して活動をしている時、その手伝いをしてくれた早苗

 

 

 夜の守矢神社にて、指きりげんまんをして互いに記憶が蘇り、微笑みを浮かべた早苗

 

 

 

 紅魔館で酔っ払って絡んできた早苗

 

 

 無用心な北斗に大して、酔いが醒めるほど本気で心配していた早苗

 

 

 火入れ式で礼装姿となり、蒸気機関車に安全を祈願した早苗

 

 

 幻想郷鉄道の開通式で安全を祈願した早苗

 

 

 

 地底に連れ去られ、地霊殿にて北斗と再会し、涙を流した早苗

 

 

 守矢神社にて、お互いの気持ちを伝え合い、微笑みを浮かべる早苗

 

 

 無縁塚で傷ついた北斗に駆け寄り、動揺する早苗

 

 

 

 

 そして、北斗に笑顔を向ける早苗

 

 

 

 

 共に過ごした早苗の姿が、彼の脳裏に過ぎる。

 

 

 

(……早苗さん)

 

 北斗は小さく彼女の名前を口にすると、据わっていた目に光が灯る。

 

『帰りを待っている者が居るのに、お前はこのまま行ってしまうのか』

 

(……)

 

 人の形をした光の言葉に、北斗は両手を握り締める。

 

(ありがとうございます。お陰で、目が覚めました)

 

『……』

 

 北斗はお礼を言うと、人の形をした光はまるで満足したように頷いた動きを見せる。

 

(でも、あなたは一体?)

 

『さっきも言ったが、それはまだ教えられない』

 

(……)

 

 北斗は光に問い掛けるが、人の形をした光は教えることを拒む。

 

『だが、北斗。お前はいつか知ることになるだろう。その時になれば、私の正体も分かる』

 

(……)

 

『今は、戻るべき場所へ行くんだ。手遅れになる前にな』

 

(……はい)

 

 北斗は納得いかない様子だったが、時間が無いと言われてすぐに人の形をした光が居る方向へ歩き出す。

 

(ありがとうございます)

 

 彼は人の形をした光の傍を通り過ぎる際に再度お礼を言って、そのまま歩いていく。

 

 

 

『……』

 

 人の形をした光はゆっくりと後ろへ振り向き、北斗の後姿を見つめる。

 

『北斗。いつかお前は全てを知ることになるだろう。だが、お前ならその事実を受け入れられると、私は信じている』

 

 すると人の形をした光の足元が徐々に消えてなくなっていく。

 

『……飛鳥のことは、頼んだぞ。彼女は意外と背負う奴だからな』

 

 光は最後まで北斗の姿を見つめ、遂には光そのものが消えてなくなった。

 

 

 

 

 立派に、なったな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 所変わり、永遠亭

 

 

 

「……」

 

 廊下を歩く鈴仙は憂鬱な気分であった。

 

(彼が起きないまま、もう一週間か……)

 

 彼女は浅く息を吐く。

 

 北斗の意識が戻らないまま、一週間が過ぎた。

 

 まだ一週間というのは断定できるタイミングではないが、それでもこれ以上意識が戻らないままでは、確実に植物人間状態へ陥る可能性が高くなる。

 

(師匠は最後まで責任は持つって言っていたけど、最悪の場合も予想されるのよね)

 

 手にしている桶を見下ろし、彼女はため息を付く。

 

 幻想郷には外の世界の医療機関にあるような延命装置は無い。点滴による栄養補給も栄養剤の材料は調達できるが、毎回となると難しい。

 必要な物がなければ、八意永琳といえどどうしようもない。

 

 その為、八方塞のお手上げな状況となれば、最終的な判断として下されるのは……安楽死である。

 

 当然彼の安楽死を猛反対する者は多いだろうが、どうにかできる方法が無い以上この判断を覆すことは出来ない。

 

 そういった場面に彼女は何度か立ち会っている。

 

(何回かこういうことはあったけど、慣れたくないなぁ)

 

 鈴仙は内心呟いて再度ため息を付き、病室の前に着く。

 

「失礼します……」

 

 彼女はそう言いながら病室の扉を開けて中へ入る。

 

 

 

「うーん……なんだか身体が重い……」

 

「……」

 

 と、鈴仙が目にしたのは……上半身を起こして右腕を上げて背伸びをしている北斗の姿であった。

 

 あまりにも予想外な光景に、彼女はピシリと固まる。

 

 まぁ一週間も眠り続けていたはずの人間が、昨日まで何の前兆も無しに突然目を覚ましていれば、誰だって驚く。

 

「……あっ、どうも」

 

 若干寝ぼけた様子であったが、北斗は鈴仙を見ると頭を下げる。

 

「……」

 

「あ、あのー?」

 

 固まって何の反応を見せない鈴仙に、北斗は首を傾げる。

 

 

 

 

「え゙ぇ゙ぇ゙ぇ゙ぇ゙ぇ゙ぇ゙ぇ゙ェ゙ェ゙ェ゙ェ゙ェ゙!?!?!?」

 

 

 

 

 直後、迷いの竹林に彼女の叫び声が響き渡った。

 

 

 

 ちなみにこの時の事を北斗はこう語ったそうな。

 

 

『エ○ル顔って出来るものなんだなぁ』と……

 

 

 

 しばらく意識が無かったせいか、彼のズレっぷりが酷くなっていた。

 

 

 




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