東方鉄道録‐幻想の地に汽笛は鳴り響く‐   作:日本武尊

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第103駅 目覚めと疑惑

 

 

 

 

 

「……優曇華がとんでもない叫び声を上げたから何事かと思ったら」

 

 永琳は額に手を当ててため息を付く視線の先には、未だに状況が飲み込めないでポカーンとしている北斗の姿があり、その傍では目を点にして震える鈴仙の姿がある。

 

「ししし、師匠!? なななな、何が起きているんでですか!?!? なな、なんで彼がおお、起きているんですかぁぁぁっ!?」

 

「少しは落ち着きなさい。全く」

 

 彼女は混乱している弟子に再度ため息を付くと、気を取り直して北斗を見る。

 

「あ、あの、これは?」

 

「あぁ、気にしなくて良いわ。優曇華は少し驚いているだけだから」

 

(少し?)

 

 鈴仙の混乱っぷりを見て北斗は内心呟き首を傾げる。

 

「それはともかくとして、改めまして、霧島北斗さん」

 

「あっ、はい。えぇと、ここは?」

 

「永遠亭。まぁちょっとした病院だといえば、外来人のあなたでも通じるかしら?」

 

「病院、ですか」

 

 と、北斗は左腕を見る。

 

 包帯がグルグル巻きにされた左腕を動かそうとするも、痺れたような感覚があって動かしづらかった。

 

「思い出したかしら?」

 

「えぇ、まぁ」

 

 北斗はおぼろけながら無縁塚での出来事を思い出す。その為か、左腕から痛みが走って彼は顔を歪ませる。

 

「左腕はまだ感覚が鈍いでしょうけど、もう少しすれば動かせるようになるわ」

 

「そう、ですか」

 

 永琳の説明を受けて北斗は安堵の息を吐くと、周囲を見渡す。その様子から察してか、彼女は口を開く。

 

「あなたは一週間の間眠っていたのよ」

 

「い、一週間も、意識が戻らなかったんですか?」

 

「えぇ。まぁこちらとしては予想より早くあなたは目覚めたけど」

 

「……」

 

 北斗は一週間の間眠っていた事実に驚き、呆然となる。

 

 

 

「ちょっと、優曇華! さっきの叫びは何なのよ!」

 

 と、病室の扉が勢いよく開かれ、誰もが扉の方を見ると、見るからに怒った様子の輝夜が立っていた。

 

「ひ、姫様。さっきのは、その……」

 

 鈴仙はどう説明しようか悩んでいる間にも、輝夜はズカズカと近づく。

 

「さっきまで寝てたのに、あんたの叫びで目が覚めてしまったわよ! どうしてくれる……の、よ」

 

 輝夜は鈴仙に文句を言いながら近づくと、突然その勢いが削がれる。

 

 彼女の視線の先には、呆然としている北斗の姿があり、輝夜は彼の姿を見て、なぜか目を見開いている。

 

「う、嘘。何で、どうして……?」

 

 口を両手で押さえて震えている彼女の姿に、鈴仙は呆然とし、永琳はどこか申し訳ない雰囲気で輝夜から視線を逸らす。そしてこれまた状況が読めずで首を傾げる北斗。

 

「……あっ、い、いや……そ、そう、よね。そんなわけ、無いわよね……」

 

 すると、輝夜は目を細めて北斗を見ると、何かを確認してホッと胸を撫で下ろす。

 

「……?」

 

 その様子に北斗は益々分からず、首を傾げたままであった。

 

「あっ、ごめんなさいね。変なところを見せて」

 

「は、はぁ……」

 

 輝夜は咳払いすると、北斗に向けて苦笑いを向け、北斗はどう答えれば良いか分からず声を漏らす。

 

「挨拶が遅れたわね。私は蓬莱山 輝夜。ここ永遠亭の主よ」

 

「あっ、どうも。なんだかお世話になっています、蓬莱山さん」

 

「輝夜でいいわ。呼びづらいでしょうし、それに、あんまり名字で呼んで欲しくないのよ」

 

「あっ、すみません」

 

「いいのよ。別に」

 

 輝夜は再度咳払いをして気持ちを切り替える。

 

「まぁ、怪我が治るまで、ゆっくりして身体を休めなさい。永琳」

 

「はい」

 

「ちゃんと彼の怪我は治すのよ。うちの評判に関わるからね」

 

「もちろんでございます、姫様」

 

 永琳は頭を下げる。

 

「じゃぁ、後は頼むわね」

 

 輝夜は手を振りながら踵を返して病室を出る。

 

 

『……』

 

 彼女が病室を出た後、少し気まずい雰囲気が部屋の中に漂う。

 

「まぁ、とにかく、あなたの健康状態を調べるから、横になってくれるかしら?」

 

 永琳は咳払いをして、彼にそう願う。

 

「は、はい」

 

 北斗は永琳に言われたとおりに横になり、永琳と落ち着きを取り戻した鈴仙の二人は彼の健康状態を調べに入る。

 

 

 

(体温と血圧が低い以外は至って健康体?)

 

 しばらくして北斗の健康状態を調べ、永琳は表情こそ平然を装っているが、内心驚いていた。

 

(かなりの量の出血をしていながら、何の後遺症も無いなんて、どうなっているのかしら?)

 

 彼は普通なら後遺症が残るレベルの量の出血をしていたはずだったが、それなのに北斗の身体には体温と血圧が低い以外特に異常が見られない。

 

 普通ならありえないレベルの奇跡だ。

 

(……まぁ、この点については今後調べていくとして)

 

 彼女は気持ちを切り替えると、北斗を見る。

 

「あの、自分の身体は大丈夫でしょうか?」

 

「えぇ。体温と血圧が低いことを除けば、いたって健康よ」

 

「……」

 

 永琳から一応の太鼓判を押されて、北斗は安堵の息を吐く。

 

「ただ、北斗さん。あなたにはあと一週間入院してもらうわ」

 

「い、一週間もですか?」

 

「あなたは知らないでしょうけど、妖怪の毒が体内に多く流れているのよ。体内に流れた毒は解毒出来たといっても、何が起こるか分からない。だから対処し易くする為にも、目の届く範囲に置いておきたいのよ」

 

「は、はぁ……」

 

「それに、左腕の怪我だってあるのだから。まだ抜糸が出来ていないのだから」

 

「……」

 

「もちろん、退院まで衣食住の確約はするし、困ったことがあったら優曇華に声を掛ければ良いわ」

 

 永琳がそう言い北斗は鈴仙を見ると、彼女は頭を下げる。

 

(今思えば、女子高生の格好だ)

 

 北斗は鈴仙の頭にあるウサギの耳に目もくれず、その格好を見て内心呟く。

 

 相変わらず着眼点がずれている……

 

 

 

 

「あやや、優曇華さんの叫び声が聞こえたから何事かと思いましたが、まさか北斗さんが目を覚ましていたとは。いやぁ張り込んだ甲斐がありましたねぇ!」

 

『……』

 

 と、いつの間にか病室にいた文が笑顔を浮かべていると、その場にいた誰もが彼女を見る。

 

「あ、文さん。いつの間に?」

 

「ついさっきです」

 

 鈴仙が戸惑いながら文に問い掛けると、彼女はサムズアップして答える。

 

「いやぁ我慢強く永遠亭に張り込んでいた甲斐がありましたよ。これで朝刊の一面は決まりですね」

 

 満面の笑みを浮かべる彼女の顔は若干汚れ、竹の笹が髪に絡まっている。それを見れば彼女がどれだけ張り込んでいたかが想像できる。

 

「……その気合を別の方向に生かせないのかしら」

 

 満面の笑みで口にする文に、永琳は呆れた様子でため息を付く。

 

 

「……」

 

「北斗さん。お久しぶりですね」

 

「は、はい」

 

 文は笑みを浮かべて戸惑う北斗に声を掛ける。

 

「見たところ思ったより元気そうですね。あなたの回復をお祈りしていますよ」

 

 笑みを浮かべる文だったが、彼女の笑みに何か裏があるんじゃないかと、北斗は思っていた。実際文は新たな新聞のネタを北斗に期待している。

 

「……」

 

「では、北斗さんが無事に目を覚ました記念に一枚っと」

 

 文は手にしているカメラを構えて北斗を含めた一面を撮影する。

 

「それでは、私はこれで!」

 

 文は手を振るうと、素早く病室を出て行った。

 

 

「……嵐みたいに過ぎ去りましたね」

 

「そうね」

 

 鈴仙が呟くように言うと、永琳が相槌を打つ。

 

「というより、彼女どうやって帰るつもりなんでしょうか?」

 

「さぁ?」

 

 鈴仙が疑問を抱いて首を傾げるが、永琳は興味無さげに答える。

 

 

 二人は知る良しも無いが、文はてゐと取引をしているので、彼女の案内で迷いの竹林を突破していたりしている。

 

 

「でも、これで彼が目覚めたのが幻想郷中に広がるわね」

 

「えっ? どういうことですか、師匠?」

 

 鈴仙は思わず首を傾げる。

 

「彼女は言ったわ。『朝刊の一面は決まりですね』って」

 

「……ってことは?」

 

「明日から彼へのお見舞いに来る人が多くなりそうね」

 

「あぁ、なるほど」

 

 彼女は納得したように頷く。

 

「だから、優曇華。案内は任せるわね」

 

「えぇ!?」

 

 永琳の言葉に鈴仙は思わず声を上げる。

 

「で、でも、私薬の配達があるんですよ!? 案内する暇なんて……」

 

「しばらく午前中で配達が終わる量しかないから、午後から案内は出来るわ。それと私の手伝いもしばらくは大丈夫だから」

 

「え、えぇ……」

 

 鈴仙はげんなりとした様子で声を漏らす。

 

 どちらかといえば薬の配達よりも、迷いの竹林を抜けて永遠亭まで案内するのがつらいのだ。その上道中てゐが悪戯で仕掛けたであろう罠があるからこそ、気が滅入っている。

 

 

 結局鈴仙は薬の配達に加え、見舞い客を永遠亭まで案内する役割を果たすことになった。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 その後北斗にもう二日は絶対に安静にするように伝え、鈴仙に北斗の身の回りの世話を任せて永琳は病室を出る。

 

「永琳」

 

「……」

 

 病室を出ると、壁にもたれかかっている輝夜が声を掛ける。

 

「あなた、黙っていたわね」

 

「……」

 

 彼女の問いに、永琳は答えない。

 

「別に黙っていたわけではありません。言う必要が無かっただけです」

 

「言う必要が無い? あれはどうみたって!」

 

「……」

 

「……確かに、ただの空似だって可能性は否めないわ。実際違ったわけだし」

 

「……」

 

 輝夜は声を荒げるも、すぐに冷静になり訂正する。

 

「でも、いくら空似でも、あれは……」

 

 彼女は何かを言いかけるも、喉元まで上ってきた言葉を辛うじて止める。

 

「分かっています。ですから、一応調べていますので、結果をお待ちください」

 

「……そう。なら、良い結果を待っているわよ」

 

 輝夜は短く答えると、その場を離れる。

 

「……」

 

 永琳はその後ろ姿を見送ってから、診察室へと向かう。

 

 

 




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