翌朝
朝日が昇り、守矢神社の傍にある湖が朝日に照らされて輝きを放ち、反射した光が神社の四方にある柱を照らしている。
「……」
鉄のように重く感じる瞼を開けて、早苗は目を覚ます。
眠気がある中で彼女はゆっくりと布団を退かしながら上半身を起こすが、その身体は錘を着けているかのように重く、少し顔が赤く見える。
早苗は北斗の回復を願い、毎日夜遅くまで祈りを捧げており、就寝時間がかなり短くなっているせいで、寝不足気味となっている。
その為、目の下に出来た隈は濃く、目は相変わらず死んだように光が無い。あまり食べていないせいか、髪はボサボサな上に艶が無く、げっそりとやせ細っている。
見るからに不味い状態の早苗の姿が、そこにあった。
「……」
早苗はゆっくりと立ち上がり、寝不足による身体の不調から、ふらつきながらも身支度を整える。
寝巻きから普段着の巫女服に着替えた早苗は神社の境内に出ると、真冬の朝の寒さに身体を震わせる。
「……北斗さん」
白い息を吐きながら彼女は暗い目で空を見上げ、北斗の名前を口にする。
「……」
そのまま目を瞑り、両手を組んで祈りを捧げる。
(北斗さん……)
彼女は強く、強く願う。
北斗が無事に目を覚ますのを、ただひたすら願った。
しばらく祈りを捧げた早苗は組んでいた両手を解き、目を開ける。
「……」
しばらく空を見上げた後、彼女は踵を返して社の方へ向かおうとする。
「おはようございます、早苗さん!」
と、空から声がして早苗は後ろに振り返ると、そこには脇に新聞の束を抱えた文が境内に下りてきた。
「文さん……」
早苗は心底どうでもいい様な表情を浮かべて、文を見る。
「こんな朝早く、何の用ですか?」
「あやや。朝からきついですねぇ。なんだか風邪気味な気がしますが、どうかしましたか?」
「……」
「冗談ですよ、冗談。朝刊を持ってきましたので、ぜひ見てください!」
一瞬早苗から殺意が混じった視線を向けられて文は苦笑いを浮かべ、本題へと移り早苗に近づいて脇に抱えている朝刊の新聞一束を差し出す。
「文さんの新聞は取ってないはずですけど」
「今日は特別ですよ。昨夜に特ダネを仕入れられましたので、ぜひとも皆さんに見てもらいたく、特別に号外として配布しているんですよ。お陰で一徹です」
「はぁ……」
早苗はどうでもいい様な様子で声を漏らして、文から朝刊を受け取る。まぁ彼女の新聞の性質から全く期待できるものは無いのだから。
「では、良い一日を!」
文はそう言うと、踵を返して地面を蹴り、空へと飛び立つ。
「……」
早苗は飛び立った文の姿を一瞥して、深くため息を付く。
(良い一日なんて……北斗さんが目を覚まさない日々に、良いものなんて)
文の言葉を恨めしく思いながら、朝刊の新聞を開く。
「……」
その内容を見た瞬間、早苗は目を見開く。
―――――――――――――――――――――――――――――
(さーて、早苗さんは驚きましたかな?)
してやったり、とニヤリと口角を上げている文は空を飛びながら気を良くしている。
(さてと、次は北斗さんの幻想機関区に配って、次は霊夢さんや魔理沙さんの所に配り、最後はパァッと人里に撒きましょうかね)
文は朝刊の新聞をどこへ配ろうか一考しながら飛ぶ。
「っ!? わわわっ!?」
すると突然飛んでいた彼女が空中で止まり、急停止したことで彼女はバランスを崩しそうになるも、何とか耐えつつ脇に抱えている新聞を落とさないようにする。
(何奴!?)
文はとっさに右足首に掴まれている感覚から右脚を振るって拘束を振り払い、振り返る。
「……ヴェっ?」
しかしそこに居た予想外の人物に、文はすっとんきょんな声を漏らす。
「……」
そこにはさっき会ったばかりの早苗の姿があった。
「さ、早苗さん。どうしましたか?」
文は戸惑いながらも彼女に問い掛ける。しかしその額には冷や汗が浮かんでいる。
なぜなら、今の早苗はとても強い神力が溢れ出ている。文が感じたことが無いぐらいに、威圧感が強い。瞳にハイライトが無い分、余計に強い。
「文さん」
「は、はい?」
「この記事は、本当なんですか?」
「えっ? えぇと……」
「ホントウナンデスカ?」
すると早苗は一瞬にして文の目の前に接近して、声を掛ける。
「ピィッ!?」
いきなり目の前まで接近されて文は思わず悲鳴を上げる。
(さ、早苗さんってこんなに速く動けましたっけ!?)
文は早苗の異常さに内心戦慄しながらも、早苗の質問に答える。
「ほ、本当ですよ! 新聞の一面に写真を掲載しているでしょ!?」
「……写真?」
「み、見てないんですか? ほ、ほら、この通りです」
怪訝な声を漏らす早苗に文はすぐに脇に抱えている新聞を手にして一面を広げる。
「……!」
すると早苗はその一面に掲載されている写真を見て、とっさに新聞を手にして食い入るように見つめる。
(……あー、これは記事の題名が衝撃的過ぎて、写真は見てなかったって感じですかねぇ?)
早苗の様子から文は状況を予想する。
彼女の予想通り、早苗は記事の見出しが最初に視界に入り、その衝撃の強さから他の箇所が目に入らずに、その後急いで文を追いかけたので、掲載されている写真を見ていなかった。
「……」
「……」
少しの間身動きをしない早苗に文は息を呑む。
「文さん! ありがとうございます!!」
早苗は新聞を文に返して、急いで飛ぶ。
「……どうやら、効果覿面でしたね」
早苗が飛んでいくのを見届けながら、文は呟くと、安堵の息を吐く。
「文屋にしては珍しいな」
「全くだね」
守矢神社の四方にある柱の内二本の上で、神奈子と諏訪子の二人がそのやり取りを見つめていた。
「早苗が濃密な神力を出してたから何事かと思ったけど、ホント事態って言うのは急だね」
「あぁ。そうだな」
諏訪子が手にしている新聞の記事を見ながら呟くと、神奈子は相槌を打つ。
二柱が早苗の神力を感じ取ってとっさに外に出ると、早苗が物凄い勢いで飛び出した後であり、何事かと思っていたら、散らばった新聞を見てその原因を察した。
「まぁ、これで私達も一安心だね」
「……」
「神奈子……」
「あぁ。分かっている」
何も言わない神奈子に諏訪子が声を掛けると、彼女は険しい表情を浮かべている。
「早苗……強い神力が溢れ出ていたね」
「あぁ。今までのあいつには無いぐらいに、強い神力だ」
「……」
「恐らく怒りで引き出されたのだろうが……あれは……」
「異常、だね」
「……」
険しい表情を浮かべる二人は、早苗が飛んでいった方向を見る。
(早苗……お前は……)
(……早苗)
神奈子と諏訪子は、一瞬だけ豹変した早苗に、一抹の不安を抱く。
―――――――――――――――――――――――――――――
所変わって、永遠亭
「……」
重い瞼を開けるように、北斗はゆっくりを目を覚ました。
「……知らない天井だ」
と、お決まりの台詞を口にしながら彼は布団を押し退けながら上半身を起こす。
(あっ、そうか。ここは永遠亭の病室だった)
起きたばかりで頭がボーとしていたが、病院特有の薬品のような匂いが鼻腔に届き、次第に目覚めて自身の置かれている状況を思い出す。
(……いつ振りかな。病院に入院したのは)
北斗は欠伸をしながら過去に病院に入院した時の事を思い出すも、次第に表情が険しいものになる。
まぁ彼が病院で入院したのは、親戚の叔父に虐待されてその後保護された時であるからだ。
「……」
ふと、北斗は窓から外の景色を見て、目を細める。
「……早苗さん」
彼はボソッと彼女の名前を口にして、俯く。
ドンッ!!
「っ!?」
すると病室の入り口で大きな音がして北斗はとっさに入り口の方を向く。
「ハァ……ハァ……ハァ……」
そこには病室の扉を開け放って入り口に立つ早苗の姿があった。
しかし余程急いで来たのか、あちこちに竹の笹を付けて、何度もこけたのかあちこちが土汚れて、両手を膝に付けて息を切らしている。
「早苗……さん」
「っ!」
北斗が名前を呟くと、早苗は呼吸を整えて顔を上げる。
「……」
彼女は北斗の姿を見るなり、ふらつきながらもゆっくりと、彼の元へと歩み寄っていく。
徐々に北斗の元へと歩み寄っていくごとに、早苗の瞳に少しずつ光が戻っていく。
「……」
「……」
そして早苗は北斗が横になっているベッドの傍まで来ると、二人はお互いの目を見つめ合う。
「さ、早苗さん。俺は―――」
北斗が口を開くと、早苗は彼に飛びつく。
「うっ!」
飛び付かれた衝撃で北斗は左腕から激痛が走り、顔を歪ませる。
「さ、早苗さん……」
激痛によって涙目になりながら北斗は早苗を見る。
「……」
「早苗さん?」
北斗の胸元に顔を埋めている早苗は、ゆっくりと彼の背中に両手を回し、強く抱き締める。
「北斗さん……北斗さん……」
彼女は声を震わせながら彼の名前を口にすると、抱き締めながら顔を上げる。
「本当に、本当に、北斗さんなんですよね?」
「……はい。そうですよ」
目の涙を浮かべて問い掛ける彼女に、北斗は痛みによって引き攣りながらも笑みを浮かべる。
「北斗さん!」
早苗は再び顔を北斗の胸に埋め、大きな声で泣き始める。
「ほんどうに、ほんどうに、よがっだぁっ!! 生きて、生きて……!!」
「……早苗さん」
北斗は泣きじゃくる早苗の頭を優しく右手で撫でる。
(これ出て行かない方が良いかしら?)
(そうですね。ここは空気を読んで待っていましょう)
その頃病室の入り口では、柱の陰からこっそりと輝夜に永琳、鈴仙が中を覗いていた。
さすがに大きな音がして何事かと駆けつけた所、中で感動の場面に出くわしたというわけである。
(優曇華。頃合を見て彼の朝食を持っていくのよ)
(は、はい)
永琳と輝夜はこの場を鈴仙に任せて、病室前を離れる。
「……」
鈴仙は二人を見送った後、病室の中を見る。
胸の中で号泣する早苗を、微笑みを浮かべて彼女の頭を優しく撫でる北斗。
そんな姿を、鈴仙はなぜか目が離せなかった。
「……いいなぁ」
鈴仙は無意識のまま、ボソッと呟く。
(って、私……何を)
彼女は思わず口を手で押さえる。
別に何か思う所があったわけじゃ無いのに、なぜかその言葉が口に出てしまった。
「……」
鈴仙はもやもやした気持ちがあったものも、北斗の朝食を取りに厨房に向かう。
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