話は変わりますが、東武鉄道へ渡ったC11 325号機が早くも不具合を出しましたね。環境の変化に加え、扱う人間が変わったことによるものなんでしょうけど、このように環境の変化によって機関車の状態が変わってくるのも、蒸気機関車が生き物に例えられる所以なんでしょうかねぇ……
何事も無いのを祈るばかりです。
それから二日が経った朝……
その日は朝から雪が降り、ほんの少しだけ雪が積もりつつあった。
そんな寒い中、幻想郷に張り巡られた線路に、二つの列車が走っていた。
線路の状態の確認に加え、再開するであろう列車運行に向けて、幻想機関区は営業列車と同様の編成による列車の試運転が行われていた。
機関区長の北斗が居ない中であったが、蒸気機関車の神霊達は自らの判断で常に列車を最高の状態にする為に、列車の試運転を行うことにした。
もちろん、試運転に関しては事前に人里や博麗神社、守矢神社、そして守矢神社を通して妖怪の山側に周知している。
まぁ彼女達が試運転を行うようにしたのは、天狗達によって封鎖されていた妖怪の山の路線が守矢神社の二柱達の尽力によって守矢神社行きの路線の通行禁止がようやく解除されたからであるのも関わっている。
だが何より試運転を行うのに至らせたのは、人里の住人達からの列車の運行再開を願う声があったからである。この事を受けて彼女達は北斗がこの時どう考えるかを話し合い、列車再開に向けて試運転を行うことにしたのだ。
博麗神社行きの路線にはC58 1号機が12系客車五輌を牽いて田園風景が広がる路線を走り、守矢神社行きの路線にはD51 603号機が石炭の受け取りを行うついでに石炭車十輌を牽いて試運転を行っている。
久々の列車とあり、人里では人々が列車を見学する為に沿線に集まり、妖怪の山でも線路の脇で列車の見学をしていた。
その後C58 1号機が牽く列車が博麗神社の前で停車し、博麗神社行きの路線にもう一つの列車が迷いの竹林前の路線を目指して幻想機関区から出発した。
一週間以上ぶりとはいえど、幻想の地に再び汽笛の音色が鳴り響く。
―――――――――――――――――――――――――――――
所変わり、永遠亭
「……」
一昨日よりかは手が動いたので、北斗は自分で朝食のお粥を食べて、その後は窓から外の景色を眺めていた。
(雪か。幻想郷だと結構降るんだな。いつ振りかな、こんなに雪が降ったのを見たのは……)
北斗は降って来る雪が地面に積もっていくのを眺めながら内心呟く。
「……汽笛」
すると遠くから汽笛の音が竹林に響き渡り、北斗は顔を上げる。
「今日は五音室の汽笛か」
昨日と違う汽笛の音色を聞き、北斗は呟く。
迷いの竹林の近くの路線には試運転がてら
「……やっぱり、暇だなぁ」
彼はボソッと呟き、浅くため息を付く。
ようやく今日からベッドから動くことが出来るようになったが、一週間と言う期間は身体を鈍らせるのに十分であり、今朝試しに歩いてみたところ足が震えてとても支え無しには歩けない状態であった。
なので彼はベッドに戻って時間を潰している。
かといって外の世界の病院みたいに暇を潰す物をすぐに用意出来やしない。あっても永遠亭には北斗には理解できない書物しかないだろう。
なので鈴仙が人里にある貸し本屋で、北斗が暇を潰せるようにと彼でも読めそうな本を借りて来るそうである。
(やっぱり、寝ているしかないか)
時間を潰す物が無い以上、一日を過ごすのは寝ているしかない。
だが、リハビリを一日中しているのは現時点での体力的には無理がある。
「……」
北斗は横になり、布団を被ろうとした。
ドンッ!! と、大きな音と共に病室の扉が開かれる。
「っ!?」
大きな音に北斗は驚き思わず身体が起きる。
「お兄様!!」
と、大きな声と共に彼に誰かが抱きつく。
北斗は倒れそうになるも何とか耐えると、彼の視界に色取り取りの宝石がぶら下がった木の枝のような翼が見える。
このような特徴的な翼を持つ者はこの幻想郷に、一人しか居ない。
「フラン?」
「うん! お兄様!」
彼が名前を呼ぶと、フランはニカッと笑みを浮かべると、宝石が光り輝く。
「全く。もう少しは落ち着きを持ってだな」
と、呆れた様子で扉が開かれた病室にレミリアが入ってくる。彼女に続いてパチュリーと咲夜が入ってくる。
「レミリアさんに、パチュリーさん、それに咲夜さん。お見舞いに来てくれたのですか?」
「あぁ。お前が目を覚ましたと文屋の新聞で知ったからな。少し来るのに時間が掛かったが」
「いえ。来て貰っただけも、こちらとしては嬉しいです」
北斗はフランの頭を優しく撫でながらそう言うと、「そうか」とレミリアが声を漏らす。
「見た感じ、思っていたより元気そうね」
と、パチュリーは北斗を観察して感想を述べる。
「えぇ。と言っても、身体は随分鈍っていて、まともに歩けないんですがね」
「確か一週間近く眠っていたのよね?」
「そうみたいです。自分は眠っていたので、よく分からないのですが」
北斗がそう言うと、「ふーん……」とパチュリーは声を漏らす。
「あっ! そうそう聞いてよ、お兄様!!」
と、北斗の胸板に顔をスリスリと擦り付けていたフランが、思い出したように顔を上げて北斗に声を掛ける。
「お姉様ったら、酷いのよ! 私にお兄様が大怪我を負ったのを昨日まで教えなかったのよ!!」
「そ、それはフランに余計な不安を抱かせない為に黙っていただけだ!! 頃合を見て教えるつもりだったんだ!」
急に矛先を向けられたレミリアは戸惑いながらも、黙っていた訳を話す。
「だからってこんな大事なことを黙っているなんて酷いよ!!」
「北斗が重傷を負ったと知れば、お前は平静を保てていたと思うか!」
「出来るよ! 以前までの私とは違うんだから!」
「いいや、出来ないな! そう簡単に変われるわけないのだからな!」
「何をぉ!」
レミリアとフランの二人の言い争いは徐々にヒートアップしていく。
「そこまでだよ、フラン」
と、北斗が静かに声を掛けると、フランはビクッと身体を震わせる。
「で、でも、お兄様……」
フランは不安な表情を浮かべながら北斗を見る。
「レミリアさんはフランのことを思って、あえて黙っていたんだよ。だからあまり彼女を責めないであげて」
「……お兄様」
フランはしゅんとした様子で俯く。
「うん。お兄様がそう言うなら」
「偉いよ、フラン」
渋々といった様子でフランがそう言うと、北斗は微笑みを浮かべて彼女の頭を優しく撫でる。
頭を撫でられたフランは頬を赤く染めて微笑みを浮かべ、色取り取りの宝石がぶら下がった翼が揺れる。
「ちょっと待ていっ!!」
と、納得いかない様子のレミリアが大声を上げる。
まぁさっきまで自分に反抗していた妹が、赤の他人の言う事を素直に聞いたのが、納得いかなかったのだろう。
「さっきまでと態度が違いすぎるわよ! どういうことよ、フラン!!」
「な、何よ! お姉様には関係ないわよ!!」
フランは頬を赤くしながら、北斗が座っているベッドから降りてレミリアに少し狼狽した様子を見せる。
「大体最近のフランは生意気よ! 事あるごとに私に反抗して!」
「そんなの今は関係ない話でしょ!! お兄様の前で恥ずかしくないの!」
「お前こそ! いちいち北斗を挙げてどういうつもりだ!」
「ぐぬぬ!」と二人は犬歯を覗かせながら睨み合う。
(こうして見ると500や495の年齢には見えないな)
その様子に北斗は姉妹の見た目相応な姿に微笑みを浮かべる。
背中の翼を除けば、二人の姿は見た目相応の姉妹の姿に見えるだろう。
それと同時にパチュリーは呆れた様子でため息を付き、咲夜は微笑みを浮かべて見守っている。
と、開かれた病室の入り口から誰かが静かに入ってきて、その人物にレミリアとフラン以外はギョッとする。
「貴方達」
「「何よ!!」」
「ここは病室よ。怪我人が居るんだから静かにしてもらえないかしら?」
「「はい……」」
と、その人物こと握り拳を作った永琳が
「今から彼の腕の傷を縫っている糸の抜糸を行うから、部屋から出てもらうわよ」
永琳がそう言うと、レミリアとフランは頭を押さえながら静かに立ち上がり、パチュリーと咲夜と共に病室を出る。
「……」
しかし病室を出る際、レミリアは一瞬北斗を見て、その目を細めた。
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その頃守矢神社では……
「うぅ……お願いします、神奈子様。もうすっかり治ったんですから、北斗さんのお見舞いに行かせてください」
「駄目だ。病み上がり直後に行かせられるものか」
「そうそう。北斗君の事を考えて、行かせられないね」
と、なぜか御柱に縛り付けられた早苗が神奈子に懇願するも、彼女は腕を組み早苗の懇願を拒否し、諏訪子も同意する。
事の始まりは一昨日。
あの後早苗は安心したことによって張り詰めていた気が緩んだことで、疲労が一気に出て、体調を崩してしまった。
早苗はその日から寝込み、二柱から看病を受け、永琳より受け取った薬を服用したことで、今日完治したのだ。
今朝方早苗は早速北斗の見舞いに行こうとしたので、神奈子と諏訪子は彼女を捕まえて無理矢理御柱に縛り付けたのである。
「兎に角、今日までは安静にしていろ。無理してまた寝込んだら我々が困ることになるんだ」
「……」
神奈子からそう言われて早苗は何も言えなかった。
さすがにこれ以上早苗に寝込まれると、二柱としては信仰に関わってくる。
なので、きつくしてでも彼女に言い聞かせている。
(……北斗さん)
御柱に縛り付けられたまま、早苗は空を見上げる。
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