所戻り、永遠亭
しばらくして北斗の左腕にある傷跡を縫ってあった糸の抜糸が終わり、その後再びレミリア達が病室へと入る。
「まぁともかく、お前が無事で何よりだな」
未だに頭に大きなタンコブを残すレミリアがそう言うと、北斗を見る。
抜糸を終えたといっても、まだ包帯が取れるわけではないので、北斗の左腕には新しい包帯が巻かれている。
「ねぇ、お兄様。本当に大丈夫なの?」
と、ベッドの傍に置いている椅子に座っているフランが不安そうに北斗に声を掛ける。彼女の頭にも大きなタンコブがまだ残っている。
「大丈夫だよ、フラン。退院する頃には日常生活が送れる位には回復するって永琳さんが言っていたから」
北斗は包帯に巻かれた左腕を見えながら彼女に説明する。
「そういえば、レミリアさん達はどうやってここまで来たのですか? 人里からでも永遠亭まで結構遠いと聞いていますが」
「どうやってって、普通に竹林前までは飛んできただけだ。その後はここの兎に永遠亭まで案内してもらった」
「あぁ、そっか。幻想郷じゃ飛べる者は飛べたんでしたね」
思い出したように北斗は呟き、レミリアとフランの背中にある翼を見る。
ちなみにレミリア達を案内したのは、先日北斗に対して悪戯をして、永琳にばれて仕置きされたてゐであり、その後北斗の見舞い客の案内を任されている。
「あれ? でもなんでわざわざ竹林の前で降りたのですか? そのまま飛んで行けば楽なのでは?」
「迷いの竹林には何らかの結界が施されているわ。飛んでいこうとすれば歩いて行くよりも方向感覚が狂って迷いやすくなるの。それに竹やぶが多いから、飛ぼうにも飛べないのよ」
「あぁ、なるほど」
パチュリーの説明を聞いて北斗は納得して頷く。
「……」
するとレミリアは浅く息を吐くと、ゆっくりと北斗の元へと向かう。
「北斗」
「はい。何でしょうか?」
「手を出してくれるか」
「……それは、なぜ?」
「お姉様?」
突然のレミリアの要請に北斗とフランは怪訝な表情を浮かべる。
「なに。お前の未来を見てやろうと思ってな」
「未来? それってお姉様の能力でお兄様のを?」
「そうだ、フラン」
レミリアは頷いて肯定する。
彼女は『運命を操る程度の能力』がある。まぁ運命を操ると大そうな名前をしているが、実質的には未来予知に近い能力である。その未来を見て、別の未来になるように誘導させる。彼女の能力とはそういうものである。
「でも、どうして急に?」
「まぁ、何だ。ただの気まぐれだ」
「は、はぁ」
北斗は戸惑いながらも、レミリアに右手を出す。
彼女は両手で差し出された北斗の右手を包み込むように添える。
「……」
レミリアは目を瞑り、集中する。
どんな結果が来るのか、フランは息を呑む。
それから少しして、レミリアは瞑っていた目を開ける。
「何か、分かりましたか?」
「……そ、そう、だな。まぁ、今後お前の身に何かが起こることは、無いな」
「そうですか」
と、どこか歯切れの悪いレミリアであったが、結果を聞き北斗は少しだけ安堵する。
「ただ、運命は決まっているわけではない。どこかで運命の歯車が狂うことがあるかもしれない。その事を頭に留めて置くといい」
「……」
「特に、身辺については気をつけておけ」
レミリアはそう言うと、北斗の元を離れる。
「……」
そんな親友の様子を、パチュリーは見逃さず、目を細める。
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その後レミリア達は、北斗に別れを告げて、永遠亭を後にする。
「フラン」
「何、お姉様?」
と、迷いの竹林を出たところで、レミリアがフランに声を掛ける。
「お前は咲夜と共に先に館に戻っていろ」
「えっ? どうしてなの?」
フランは怪訝な表情を浮かべて首を傾げる。
「少しパチェと話をするからだ。まぁ話しながらゆっくり帰るだけだ。遅くはならない」
「そう。分かったわ」
「咲夜」
「畏まりました、お嬢様」
レミリアに声を掛けられて咲夜は頭を下げてフランの傍に来ると、一瞬にしてその姿をフランごと消す。
「……」
「それで、わざわざ二人っきりにしたのには、それだけ重要な話があるってことでいいのかしら、レミィ?」
二人だけになり、パチュリーがレミリアに問い掛ける。
「あぁ。そうだな」
「……彼に言っていたのは、嘘なのね」
パチュリーがそう問い掛けるも、レミリアは何も言わない。
「……歩きながら話そうか」
と、レミリアはゆっくりと歩き出し、パチュリーはその後に付いて行く。
「それで、本当は彼の何が見えたの?」
歩きながらパチュリーはレミリアに問い掛ける。
「……どれも断片的で、分かりづらいものばかりだ」
彼女は雪が降る空を見上げながら答える。
「最初に見たのは……黒いオーラのようなものを纏った蒸気機関車が走っている光景だ」
「黒いオーラを纏った蒸気機関車……」
パチュリーはオウム返しのように呟く。
「これに関しては、全く分からないな。そもそもなぜ彼の未来に、こんな光景が映るのか」
「……」
「まぁ、これに関しては以前にも似たような光景を見たから、別に気にするものではない」
「そう……」
「次に見えたのは、月だ」
「月……月の都へ攻め入ったのが懐かしいわね」
「言うな。思い出したくも無い」
と、嫌な事を思い出したのか、苦虫を噛んだようにレミリアは顔を顰める。
「……兎に角、前者も気がかりだが、何よりなぜ月だけが見えたのか、それが分からない」
「……そうね」
レミリアは咳払いをして気持ちを切り替え、パチュリーは厚い雲の先にあるであろう月を思い浮かべる。
「もしかしたら、そう遠くない内に月が関わる異変が起こるのかもしれないわね」
「異変か。それも月が関わるとなると……」
「まぁ、永遠亭の者達がまた異変を起こすのは考えづらいわね。というより、異変を起こす理由が無いわ」
以前に永遠亭に住む面々は月の都からの追跡者から逃れる為、この幻想郷で月を奪う異変を起こした。まぁ結果的には無駄に終わるのだが。
「そうだな。だからこそ分からない。ましても、なぜ北斗の未来に月が関わるんだ」
レミリアは口元に手を当てて、静かに唸る。
彼女が悩むのは、なぜ月と何ら関係の無い北斗の未来に、月が映ったのか。
「彼自身月と何か関係があるのかしら……」
「ありえんだろ。やつは外の世界から来たんだぞ。どう月と関わりがある」
「それもそうね」とパチュリーは呟く。
「となると、月の民が幻想郷に対して何かをしでかすのか。それとも月自体に何らかの異変が起こるのか。でもやっぱり北斗の未来に関わるとは思えないわ」
「……」
「……それだけじゃないんでしょ」
と、パチュリーがレミリアに意味深なことを聞く。
「分かっていたか」
「まぁ、付き合いは長いからね。何となくだけど、まだ何かあるような気がして」
「……」
レミリアはため息を付き、立ち止まる。
「正直、これは場合によっては幻想郷の未来に関わるかもしれない」
「……」
幻想郷の未来に関わる。そう聞いてパチュリーは息を呑む。
「……何が見えたの?」
「……見えなかった」
「え?」
「見えなかったんだ。真っ黒なビジョンしか、見えなかったんだ」
「……」
レミリアの言葉に、パチュリーは何も言えなかった。
「パチェ。これについて、お前はどう考える?」
「……そうね」
彼女は間を置いて一考し、口を開く。
「考えられるとすれば、レミィの能力を以ってしても未来が見えなかった。もしくは……」
と、パチュリーは息を呑み、一間置いて口を開く。
「……見る未来が存在しないから、未来を見ることが出来なかったと、考えられるわね」
「……」
彼女の言葉を聴き、レミリアは何も言わなかった。
見る未来が存在しない。
つまりそれは……北斗の死を意味している。
「フッフッフッ……考えられるだけでも最も最悪なやつね」
「……」
身体を震わせるレミリアの言葉に、パチュリーは何も言えなかった。
「普通ならただの未来予知だと流せるけど、あの光景を見ていたら、必ず起こってしまうかもしれないわ」
「あの光景?」
と、パチュリーは首を傾げる。
「あぁ、パチェにはまだ言っていなかったな」
レミリアはそう言うと、自身が見た不可解な未来を彼女に告げる。
傷ついて倒れた北斗を庇う形で、早苗が本気の霊夢の前に立ちはだかる、不可解な光景を……
「……」
レミリアからその光景の外洋を聞き、パチュリーは顎に手を当てる。
「お前はどう思う、パチェ?」
「どうもこうも、ありえないわ」
「そうだな。ありえない光景だ」
二人はそう言うと、空を見上げる。
幻想郷において、人間を守るべき立場にある霊夢が北斗を襲うなんて、とてもじゃないが考えられない。
「だが、今回見えた光景を考えると、現実で起こりえるかもしれない」
「……」
「パチェ。お前はこれが起きたら、どうなると考える?」
「……そうね」
彼女は目を細めて、一間置いて口を開く。
「幻想郷で、大きな争いが起きかねないわね。守矢を筆頭にした北斗の擁護派と、八雲紫を筆頭にした北斗の排除派に分かれた争いが」
「争いか。だろうな」
レミリアは静かに笑い声を漏らす。
「たった一人の人間の為に、争いが起こるか」
「……」
「だが、それよりも懸念されるのは―――」
「フランの暴走ね」
パチュリーが遮ってそう言うと、レミリアは「あぁ」と答える。
「北斗の身に何かあれば、フランは確実に再び狂気を活性化させて、暴走する」
「その上、以前よりも強くなってね」
「……考えるだけでも、恐ろしいな」
げんなりした様子でレミリアは呟く。
以前までならただ暴れるフランを全力で止めるだけだったが、ただでさえフランはパチュリーより魔法を学んだり、自身の魔力のコントロールを手伝ってもらってるのだ。
その力は前と比べて強くなっている。
「だからこそ、この運命だけは避けなければならない」
しかしすぐにレミリアは気を引き締め、目を細める。
「彼のお陰で、私達はようやく幸せを手にしようとしているんだ。それを失うわけにはいかない」
「そうね。必ず変えないといけないわね」
パチュリーは頷いて、肯定する。
二人はフランの狂気に長らく悩まされた。どうやってもフランから狂気を取り払えなかったが、フランは北斗と接してからその狂気がどういうわけか薄まりつつあった。
だからこそ、二人はどうにかして運命を変えようと、決意を固めたのだ。
「だが、どうやって北斗の様子を見張るべきか」
レミリアは顎に手を当てて、「うーん」と静かに唸る。
北斗の未来に関わる以上、彼の動向は常に把握していないといけない。
「彼を館に連れて行けば、常に彼の状態を見ていられるのだがなぁ……」
「そんな事をすれば、早苗の怒りを買うのは目に見えているわよ。しかも彼女が仕えている二柱も続いてね」
「……あぁ、そうだな」
パチュリーの指摘にレミリアの目から一瞬光が消える。
わざわざ神の怒りを買おうとは思わないからだ。
「……」
レミリアは静かに唸り、頭を抱える。
「あっ……」
すると頭を抱えて唸っていたレミリアが突然声を漏らして顔を上げる。
「どうしたの?」
「……そうか。こうすれば誰からも怪しまれずに済むな」
と、ブツブツと呟き、にやりと口角を上げる。
「クックックッ。これも運命の導きか」
「さっきから何独り言を言っているのよ」
と、独り言を呟くレミリアにパチュリーが呆れた様子で声を掛ける。
「いやなに。我ながら良い方法を思いついたんだ。北斗の動向を見ていられる、良い方法がな」
「自分で言うとありがたみが無いわね。で、その良い方法って?」
「その前に聞きたいが、パチェは新しい小悪魔を召喚する予定はあるか?」
「えっ? まぁ図書室の整理をする為に、新しく召喚する予定はあるけど……」
「そうか。次に聞きたいが、新しく出した小悪魔の教育はここあとここの二人でも出来るか?」
「まぁ、あの二人はこあに次いで長いから経験はあるから、教えようと思えば教えられるわ。でも何でそんな事を?」
「ふふーん。それはだな―――」
と、レミリアはパチュリーの傍に来て、耳打ちをする。
「……よくまぁ思いつくわね」
レミリアからその方法を聞き、パチュリーは少し呆れた様子でため息を付く。
「だが、これ以外に怪しまれずに北斗の動向を見張っていられる方法は無い。まぁ居候している悪魔達には怪しまれるだろうがな」
「まぁ、それはそうでしょうね」
「はぁ」とパチュリーはため息を付く。
「分かったわよ。こあには私から言っておくわ。レミィは北斗さんに用件を伝えて、調整しておくのよ」
「あぁ。分かっている。任せろ」
パチュリーの言葉にレミリアは頷き、それから二人は歩きながら話を進めて、話を終えると飛んで紅魔館へ向かって飛んで帰っていった。
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