「今日は本当にありがとうございました。まだ忙しいのに見学させてもらって」
「構いません。観るだけなら別にどうということはありませんので」
全ての試験項目を終えた後、全ての機関車を機関庫に戻して北斗は宿舎に戻っていた。そこの区長室で早苗が今回の見学を許可してくれたことを北斗に感謝していた。
「あ、あの、もし宜しければ、次もここに来て宜しいでしょうか?」
「えぇ。いつでも歓迎しますよ。まぁ、作業の邪魔をしなければ、ですがね」
「本当ですか! ありがとうございます!」
早苗は勢いよく頭を下げる。
「本当にSLが好きなんですね」
「は、はい。まぁ、ロボットより二番目に好きなんですけどね」
(ロボットの時だとどうなるんだ?)
蒸気機関車の時点での興奮のしようなのだから、よっぽどだろうと彼は予想する。
ちなみに北斗は早苗がかつて外の世界の人間であるのを本人の口から聞いている。そして彼女が仕えている二柱の神の為にこの幻想郷にやってきたのを。
「やっぱり、変でしょうか?」
「変、とは?」
すると早苗はまるで反応を窺うように問い掛け、北斗は怪訝な表情を浮かべて首を傾げる。
「だって、私が好きなのは……女の子の好きになるような物じゃありませんし」
少し迷ったような言い方で彼女はそう言う。
まぁ確かにロボットにしろ、蒸気機関車にしろ、一般的な女の子が好きになる物と言うより、男の子が好きになるような物である。
「好きになる物は各々の自由ですよ。そもそも他人に自分の趣味にケチを付けられる権利なんてありません」
「……各々の自由、ですか」
「えぇ。まぁ、個人的な見解ですけどね」
人間は誰しも同じじゃない。好きな物も、嫌いな物も、それぞれ違うのだ。人間全てが同じなら、戦争なんて馬鹿げた事をするはずがないのだ。
「と言っても、そんな自由なんて、無かったんですけどね」
(そんな自由、ですか)
どこか悲しげな雰囲気の彼の姿に、早苗はかつての自分の姿と重ねる。
本当の自分を隠して生活しなければならなかった、あの時の自分と。
自由なんて無かった、あの時の自分と。
「……」
「……」
すると二人の会話が途切れて、気まずい雰囲気が流れる。
「……そういえば、どうして蒸気機関車を好きになったのですか?」
「え?」
すると気まずい雰囲気を見かねてか、北斗が早苗に問い掛けた。
「さっきも言いましたが、好きになる物は個人それぞれです。でも、役職的にSLとは無縁と思いまして。それでどう関わったのか気になって」
「ま、まぁ、そうですよね」
巫女と言う役職の関係上、普通に生活しているとまずSLと関わる事は無いだろう。まぁ昔ならあっただろうが。尤もな事を言うと、女の子である以上興味を持つこと事態無いだろう。
「……小さい時に、一度だけ息抜きとしてSLを専門とした鉄道博物館に連れて貰った事があるんです」
早苗は少し間を置いて口を開く。
(京都の所か)
彼女の言った場所に北斗は瞬時にどこであるかに気付く。
「当時はSLに全く興味が無くて、ただ見ているだけで、正直言って面白くなんてありませんでした」
「……」
「でも、そこで動く状態で保存されている蒸気機関車による列車が運行されていて、そこで初めて動いている蒸気機関車を見たんです」
「……」
「よく分からないんですが、その時私の中に言葉で表せない高揚感があったんです。初めてロボットの事を知って、好きになった時と違う。そんな感覚が」
胸元に両手を組んで、静かに彼女は語る。
「……」
「それ以来、SLに興味を持ちまして、こっそりと調べていたんです。と言っても、暮らしている環境から調べられる範囲なんてほんの少しでしたが」
「こっそり?」
「それは、やっぱり恥ずかしいじゃ無いですか。当時は、学生だったんですし」
「あー」
北斗は彼女の気持ちが分かって、声を漏らす。
そりゃ同世代の女の子にはあまり知られたくない物だろう。
「……それに、こんな趣味が知られたら、絶対に―――」
「え?」
「あっ、いえ。何でもありません」
早苗は一瞬悲しげな表情を浮かべて呟き、北斗はよく聞き取れなかった為首を傾げる。
「そ、それより、これからどうするんですか?」
「どう、ですか」
すると彼女はとっさに話題を変えてきて、北斗は特に気にした様子を見せず顎に手を当てる。
「まぁ、予定としては幻想郷を周って見たいと思っています。一応幻想郷の一員ですから、地名や場所は知っておかないと」
「そうですか。でも、どうやって周るおつもりですか?」
「機関車で」
「き、機関車で周るんですか?」
何でも無いように言う北斗に、早苗は驚いた様子で聞き返す。
「正直機関車で周るのは考えましたが、いつまでも使うの躊躇っていたら幻想郷に馴染めませんからね」
「それは、そうですけど」
「それに、幻想郷に現れている線路の分布を調べておく必要がありますので、幻想郷を周るついでに調査をします」
まぁ、彼らからすればそれが本来の目的だ。
線路の管理を任された以上、線路がどこにどう敷かれているのかを調べて把握しておかなければならない。将来的に幻想郷を走るとなると、とても重要になる。
まぁ、現時点では調べられない箇所はあるかもしれないが。
「で、でしたら!」
と、早苗はテーブルに両手を付いてズイッと顔を北斗に近づける。
「私もその調査に同行してもいいでしょうか?」
「……え?」
突然顔を近付かれて北斗は顔を赤くしていたが、早苗の申し出に目を見開く。
「いきなりですね。どうして急に?」
「私結構顔が広いので、もしも事があっても説明すれば事を収められますよ」
「……」
北斗は彼女の言葉に一考する。
確かに新参者の自分達だけで動くより、幻想郷で名の知れた者と同行すれば問題が起き難くなるだろう。しかし早苗自身が問題を引き寄せそうな気がするが。
「で、でも、出発は朝早くですよ」
「私早起きですから問題ありません」
まぁ役職上やる事が多い彼女は必然的に早起きをしていたので、さしたる問題は無かった。
「それに、早苗さんにはやる事だって」
「もちろん神奈子様と諏訪子様の為にも、途中抜けて人里で信仰活動をしますよ。それを終えたらすぐに合流しますので」
「えぇ……」
強引な彼女に北斗は呆れるしかなかった。
結局早苗に押し切られる形で、彼は彼女の同行を許可するのだった。
「と言うわけで、明日は早苗さんも同行する事になった」
その後早苗は再び人里へと戻っていき、北斗は少女達を集めてその事を伝える。
「きゅ、急ですね」
「ついさっき決まったからな」
「えぇ……」
『D51 241』のバッジを付けた少女は苦笑いを浮かべる。
「でも、あの女、信用できるんですか?」
『D51 1086』のバッジを付けた少女は疑った様子で北斗に疑問をぶつける。
「まぁ少なくとも、彼女なら信用できる」
「なぜそう言い切れるんですか? 彼女が蒸気機関車が好きだからとか、そんな理由があるからですか?」
「それも無くもないな」
「……」
そういう北斗に『D51 1086』のバッジを付けた少女は怪訝な表情を浮かべて首を傾げ、『79602』のバッジを付けた少女はため息を付く。
「まぁ何より、俺達だけで動くより彼女が同行してくれるだけでも動きやすい」
「それは、まぁそうですけど」
「それに、せっかく早起きしてでも調査に同行すると申し出てくれたんだ。無碍にするのも悪い」
「……」
「ともかく、明日の早朝に出発だ。それまでゆっくりしていてくれ」
『はい!』
彼がそう言うと少女達は声を揃えて返事を返す。
そして束の間の休息を彼らは過ごすのだった。
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