東方鉄道録‐幻想の地に汽笛は鳴り響く‐   作:日本武尊

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この間東武鉄道が栃木県小山市にある公園に保存されているC50 123号機を動態復元を行うという発表のネットニュースを見ている夢を見た。

まさに夢の中でしかない内容やなぁ……


第109駅 既視感

 

 

 

 

 その日の夜。

 

 

 

「……」

 

 病室のベッドで上半身だけ起こし、どてらを羽織っている北斗は鈴仙が人里にある貸し本屋から借りてきた本を読んでいた。

 

(しかし、まさか外の世界の本を取り扱っている店が人里にあったなんて思わなかったな。退院したら機会があれば行ってみようかな)

 

 内心呟きながらページを捲る。

 

 ちなみに本の内容は、とあるSL列車を舞台に、そこで起きた殺人事件を解決するミステリー小説である。

 

 

「……あっ、もうこんな時間か」

 

 ふと北斗は壁に掛けられた時計を見て、時刻が11時を回ろうとしていた。9時から本を読み始めていたが、いつの間にか2時間が経過していた。

 

 北斗は読んだページにしおりを挟んで本を閉じ、ベッドの傍にある台に置くと、両腕を上に上げて身体を伸ばしながら欠伸をする。

 

 

 コンコン……

 

 

 すると病室の扉がノックされる。

 

 北斗は首を傾げるも、ゆっくりとベッドから足を下ろして床に着け、台に立て掛けている杖を持ってそれを支えにして立ち上がり、ゆっくりと扉の前に歩いて行く。

 

「……どちらさまですか?」

 

『あー、輝夜だけど、入って良いかしら?』

 

 北斗が声を掛けると、扉の向こうから輝夜の声がする。

 

「は、はい。良いですけど……」

 

 意外な人物の来訪に北斗は戸惑いながらも扉を開けると、両手を後ろに組んで立っている輝夜の姿があった。

 

「どうかしましたか?」

 

「いやまぁ、ちょっと暇だからさ。寝る前に話し相手になってくれるかしら?」

 

「話し相手ですか?」

 

「えぇ」

 

「それは構いませんが、他の方々では駄目なのですか?」

 

「駄目ってわけじゃないけど、今はそういう気分じゃないのよ」

 

「は、はぁ……」

 

 北斗は彼女の独特な感性に戸惑う。

 

「しかし、ちゃんと相手が務まるかどうかは……」

 

「まぁそれは、話してみれば分かるわ」

 

 と、二人は病室の奥へと向かい、北斗はベッドに腰掛けて下半身に布団を掛け、輝夜は椅子に座る。

 

「でも、どうしてこんな時間に?」

 

「そりゃ、昼間は永琳の目があるわけだしね。一応私さ、立場があるわけだし」

 

「そうですか」

 

 北斗は輝夜がこの永遠亭の主であるのを思い出して、頷く。

 

 

「北斗。一つ聞きたいんだけど」

 

「なんでしょうか?」

 

「あなたのその傷、守矢の風祝を妖怪から庇って出来たのよね」

 

 輝夜は北斗の包帯に巻かれた左腕を見ながら、彼に問い掛ける。

 

「……はい」

 

 北斗はその時の事が脳裏に過ぎり、傷口から鈍い痛みが走り、一瞬身体を震わせるも答える。

 

「怖くなかったの? 自分が死ぬかもしれなかったのに」

 

「……そうですね。怖くなかったと言えば、それは嘘になります」

 

「……」

 

「でも、あそこで動かなかったら、自分はきっと一生後悔していたと思います」

 

「後先のことを考えれば、少し無謀な気がするけど」

 

「後からなら何とでも言えます。でも、後先のことよりも、今を後悔したくなかったんです」

 

「……今を後悔したくない、か」

 

 何かを思い出したのか、輝夜は少し口角が上がる。

 

「ホント、人間は面白いわね」

 

「?」

 

「いいえ。何でも無いわ」

 

 輝夜はボソッと呟き、その呟きに北斗は首を傾げると、彼女は首を振るう。

 

「ところで、あなたが幻想郷に来てからの事を聞かせてもらえるかしら? 少し気になるのよね」

 

「分かりました」

 

 気持ちを切り替えて輝夜がそう問い掛けると、北斗は記憶の糸を手繰り寄せて、これまでの事を彼女に話した。

 

 

 

 少年語り中……

 

 

 

 少年語り中……

 

 

 

「―――と、こんな所ですね」

 

「なるほどねぇ」

 

 北斗から話を聞いて、輝夜は頷く。

 

「あなたって、色々と恵まれているのね」

 

「それは……そうかもしれませんね」

 

 輝夜の指摘を聞き、北斗は色々と心当たりがあってか間を置いて肯定する。

 

(今思えば、俺ってかなり恵まれているよな……)

 

 内心呟き、彼はこれまでのことを思い出す。

 

 

 大抵の外来人はその時の状態で幻想郷に迷い込む場合が殆どだ。北斗のように、場所や物に恵まれて幻想入りすることは滅多に無い。

 

 そう考えれば、幻想郷に幻想入りした北斗は、とても恵まれているだろう。

 

 それも、彼の大好きな蒸気機関車と、それを運用するのに必要な設備と共にであるなら、尚更である。

 

 

「あら、もうこんな時間なのね」

 

 と、輝夜は壁に掛けられた時計を見て、声を漏らす。時計の針は0時半を指している。

 

「ありがとう、北斗。いい暇つぶしになったわ」

 

「ちゃんと会話の相手が出来てよかったです」

 

 北斗はちゃんと話し相手が出来たことに安堵する。

 

「そうね。気が向いたら、また来ても良いかしら?」

 

「えぇ。自分でよければ」

 

「そう」と声を漏らすと、彼女は席を立って病室の出入り口に向かう。

 

「……おやすみ、北斗」

 

「はい。おやすみなさい」

 

 輝夜は病室の扉を開ける前に北斗の方を振り向き、声を掛けて彼の返事を聞き、扉を開けて病室を出る。

 

 

「……」

 

 彼女が病室を出た後、北斗はどてらを脱いで布団の上に広げて置き、横になって布団を被り、静かに唸る。

 

(……なんだろうな、一体)

 

 北斗は内心呟き、輝夜の顔を思い出す。

 

(輝夜さんと前に会ったことあったのかな? いや、そんな事は無いはずなんだけど)

 

 北斗は輝夜に対して、どこか懐かしさを感じていた。それも、親近感のあるような、そんな感じである。

 

 しかし外の世界で知り合った早苗と違い、輝夜はこの幻想郷にて初めて会ったのだ。そんな人物に懐かしさを覚えるのは、普通ならただの気のせいだと思えるだろう。

 

 だが、彼には輝夜が赤の他人だとは思えなかった。

 

 そんな疑問が頭の中に残り続けるも、考えても分からないので、彼は考えるのをやめて眠りにつく。

 

 

 

 

「……」

 

 病室の扉の横では、輝夜が壁にもたれかかって、腕を組んでいた。

 

(……性格は似ていないわね)

 

 内心呟くと、彼女は北斗の姿を思い浮かべる。

 

 ふと、彼女は頭の中で、少しだけ容姿が違う北斗のような男性の姿を思い浮かべる。

 

(ただの空似、なのよね)

 

 と、輝夜はどこか悲しげな雰囲気を醸し出しながら、ゆっくりとその場を離れていく。

 

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 翌日。

 

 

 昨日から雪が降っていたので、幻想郷は雪化粧によって真っ白に染まっていた。

 

 そんな環境とあって、氷精や冬に現れる妖怪の活動が活発になっていた。

 

 

 雪に覆われた幻想郷の中で、線路の上を特殊な編成の列車が走っていた。

 

 

 12系客車を一輌連結したD51 1086号機の先頭には『ラッセル車』と呼ばれる除雪車が連結されて、線路上に溜まった雪を両側に押し退けながら走っていた。

 

 その後を距離を持って79602号機を先頭に『マクレーン車』、『ロータリー車』、D51 465号機の編成をした、通称『キマロキ編成』の特殊編成列車が走っていた。

 本来ならこの程度の雪で用いる編成では無いのだが、今回試験を兼ねて運用している。

 

 キマロキ編成の除雪列車はゆっくりと線路上を走り、ラッセル車によって両側に溜まった雪をマクレーン車が回収して線路の方へと集め、その雪をロータリー車が吸い込んで遠方へと飛ばす。

 

 雪を放置すれば解けて線路の表面で固まる可能性があるので、必ず毎日雪を除雪しないといけない。

 

 そんな除雪列車は、ゆっくりとしながらも線路を走り、線路の上に積もった雪を退かしていく。

 

 

 

 その頃、人里の近くにある駅舎では、上り線と下り線の間にある中央の待避線に除雪板(スノープラウ)を取り付けたC11 312号機がスハ43を二輌連結し、その後ろではC10 17号機が後ろ向きで連結した状態で待機しており、駅構内では作業員の妖精達がスコップを使い線路に溜まった雪を猫車に乗せて除去していく。

 

「しかしすまないな。こっちを手伝ってもらって」

 

「気にするな。里の方に雪掻きの人手をもらっているんだ。このくらいは容易いさ」

 

 スコップを手にして雪掻きをしている津和野(C58 1)が炎で貯めた雪を溶かしている妹紅に礼を言い、彼女はそう答える。

 

 手空きの蒸気機関車の神霊達は作業員の妖精達と共に除雪作業に加わっており、津和野(C58 1)の他に熊野(C12 208)大井(C56 44)行橋(C11 260)島原(C12 06)卯月(48633)霜月(18633)達の姿もある。

 

 人里でも住人達が雪掻きに追われており、その助力に何人かの作業員の妖精達が文月(C55 57)夕張(E10 5)の指揮の下向かっている。

 

 ちなみに残りの蒸気機関車の神霊の少女達は機関区にて除雪作業をしている。

 

 妹紅は自身の炎を出せる力を使い、除雪をして溜まった雪を溶かして川に流している。

 

「そういえば、そろそろ来る頃だな」

 

「来るって、何がだ?」

 

 津和野(C58 1)が上り線の方を見ながら呟くと、妹紅が首を傾げる。

 

「今日は区長の見舞いに行くんだ。代表として二名が臨時列車に乗ってここに来るんだ」

 

「あぁ、なるほど」と妹紅は呟く。

 

 臨時列車は整備を終えた14系客車の走行試験を兼ねており、一旦駅に停車するのも石炭と水の補給を兼ねて、客車の状態の確認を行うためである。

 

「なら私の案内が居るな」

 

「そうだな。代表二人の案内を頼めるか?」

 

「任せろ」と妹紅は一言で了承する。

 

 

 

「その話、聞かせてもらいましたよ!!」

 

 と、後ろから元気な声がして、二人が振り向くと、そこにはマフラーに手袋といった防寒具を身に付け、見た目には見えないが黒いタイツを履いた完全防寒装備をして、「フフーン」と言うような様子の早苗が立っていた。

 ちなみに完全防寒のわりには、なぜか脇は出したままである。

 

「早苗。もう大丈夫なのか?」

 

「はい! 永琳さんから貰った薬のお陰で、この通り! 完全復活です!」

 

 妹紅が聞くと、彼女は「キュピーン」という様な効果音が似合いそうな笑みを浮かべてサムズアップする。

 

 体調を崩していた早苗であったが、ちゃんと休養をして(神奈子より拘束されて)、永琳より貰った薬を服用したことで、見事完治したのであった。

 しかし妙に元気すぎな気がせんでもないが。

 

「まぁ永琳の薬を飲んだのなら、大丈夫だろうな」

 

 元気そうな様子の早苗に苦笑いを浮かべつつ、彼女は永琳の薬剤師としての腕前を考えて、納得する。

 

「それはそうと、津和野(C58 1)さん。私もその臨時列車に同行しても宜しいでしょうか?」

 

「そうだな。まぁその方が区長も喜ぶだろうし。私から話をしておくよ」

 

「ありがとうございます!」

 

 津和野(C58 1)から許可を貰い、早苗は頭を下げる。

 

 

 

 その後しばらくして、C57 135号機が14系客車四輌を牽引する臨時列車が人里の駅へとやってくる。

 

 津和野(C58 1)(C57 135)に説明して、早苗は妹紅と共に臨時列車に乗車して、C57 135号機は汽笛を鳴らして人里の駅を出発し、迷いの竹林前へ向かう。

 

 




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