それから二日が経過した。
「……」
北斗は椅子に座り、カルテを確認している永琳の言葉を待っていた。
彼は永琳に診察を受けて、その結果次第で、退院するのが延びるのか、予定通りになるかが決まる。
「……どう、でしょうか?」
上着を着ながら北斗は永琳に問い掛ける。
「……」
永琳はカルテを見つめた後、口を開く。
「左腕の傷口は殆ど塞がっているから、余程の事がない限り傷口が開くことはないわ。妖怪の毒による身体の影響は見当たらないわね」
「……」
「体力も大分回復しているようだし、これなら予定通り三日後に退院しても問題ないわね」
「そうですか」
永琳の判断を聞き、北斗は安堵する。
「でも、もうしばらく薬の服用は続けてもらうわ。妖怪の毒の影響が全く消えているとは言い切れないし、念を入れてね」
「……」
「あぁ、薬はこちらから配達するから、わざわざここまで来る必要はないわ」
「分かりました。でも、永遠亭から機関区まではかなり遠いはずですが……」
北斗は頷きつつ、永遠亭から幻想機関区までの道のりが遠いのを思い出す。
「だから、人里に迎えを来させて貰えるかしら? 優曇華の負担を減らすためにも」
「それなら、構いませんが」
北斗は了承して頷く。
「まぁ、その辺はまた今度話しましょう。もう戻ってもいいわ」
「分かりました」
北斗は立ち上がって頭を下げると、杖を持って診察室を出る。
―――――――――――――――――――――――――――――
「それにしても、よく見舞い客が来るもんだな」
と、病室にて、妹紅が北斗にそう言うと、右膝に右肘を着いて頬杖を付く。
北斗が病室に戻る途中、彼の見舞いにやって来た妹紅と廊下で会い、二人は病室に戻り、こうして話をしていた。
「すみません。妹紅さんにもやる事があるのに、毎日永遠亭まで案内してくれて」
「気にするな。人里で永遠亭への案内が出来るのは私ぐらいだし。それに、別に永遠亭への案内自体嫌いじゃないしな」
「そうですか」
北斗は申し訳なく俯く。
「それで、さっきまで何をしていたんだ?」
「さっきまで永琳さんに診察してもらっていたんです」
「そうか。と言うことは、退院も間近なんだな」
妹紅は察してか、北斗にそう問い掛ける。
「そうですね。余程の事が無い限り三日後には退院できるそうです」
「そりゃ良かったな。あの時はどうなるかと不安だったが」
妹紅は頷き、怪我を負って意識を失った北斗の姿を思い出す。
そこからこうして彼が無事で居られるのは、永琳の腕があってこそだろう。
「……にしても、北斗はみんなから慕われているな」
「そうでしょうか?」
妹紅は話題を変えてそう言うと、北斗は首を傾げる。
「あぁ。でなければ、こんなに見舞いに来る事はしない。それが天狗や河童、更に慧音に連れられてとは言えど、引き篭もりの霖之助、その上あの風見 幽香までもが来たんだ。最後の奴はともかく、それだけでも慕われているのが分かる」
「……」
妹紅の言葉に、北斗は何も言えなかった。
この二日間だけでも、何人かが北斗の見舞いに来ていた。
早苗が毎日来ているのは当然として、天狗のはたてや河童のにとりに、意外なところとしては慧音に無理矢理連れて来られた霖之助、更にあの風見 幽香といった者達が見舞いに来ていた。
「お前は、どことなく不思議な魅力があるんだな」
「不思議な魅力、ですか。別にそんなものは無いと思いますけど……」
「どうかな。自覚が無いだけで、あると思うぞ。でなきゃ、お前の下に色んなやつが集まることはないだろう」
「……」
「あら、中々珍しい組み合わせね」
と、病室の入り口から声がして二人がその方向を見ると、輝夜が立って二人を見ていた。
「輝夜!」
「輝夜さん」
二人は彼女に気付くとそれぞれ声を上げ、輝夜は病室の奥へと歩いて向かう。
「何しに来た」
「何を、ねぇ。彼と話しをしに来たら駄目なのかしら?」
「お前が北斗と? いつの間に仲が良くなったんだ?」
「別に。ただ、暇を潰す程度には、彼と話すのはちょうどいいのよ」
「……」
何やら意味深な表情を浮かべる輝夜に、妹紅は怪訝な表情を浮かべる。
「そういう妹紅は一人で珍しいわね。ここ最近は彼の見舞い客の案内ばかりしていたのに」
「私も北斗の見舞いに来ただけだ。案内だけで、まだ来てなかったからな」
「ふーん」
輝夜は興味なさげに声を漏らすと、北斗が腰掛けているベッドの近くに椅子を置いて座る。
「そういえば、外で聞いていたけど、三日後には退院出来るようね」
「はい。左腕の怪我も良くなりましたし、妖怪の毒による影響も無いとのことです」
北斗はまだ包帯が巻かれているとは言えど、すっかり動くようになった左腕を見せる。
「良かったわね。まぁ永琳に掛かれば、当然ね」
「ふふーん」と彼女は自慢げに胸を張る。
「……」
ふと妹紅は頬杖を着き、静かに唸る。
「何よ、妹紅。獣みたいに唸って。もしかして嫉妬しているのかしら?」
「寝言は寝て言え、引き篭もり」
ニヤニヤと嫌味を言う輝夜に妹紅は苛立った様子で言葉を返す。
「じゃぁ、何なのよ」
「いや、ちょっとな……」
妹紅は間を置き、口を開く。
「今から馬鹿なことを言うが、気にするなよ」
「何よ、藪から棒に」
「……」
妹紅は輝夜と北斗を見比べると、口を開く。
「なんだか、お前達って似ているよな」
「はぁ?」
「?」
彼女がそう言うと、輝夜は呆れたように声を漏らし、北斗は首を傾げる。
「何言っているのよ。いよいよ馬鹿になったのかしら?」
輝夜は妹紅を馬鹿にするように言うものも、一瞬だけ動揺していた。
「だから言っただろ、馬鹿なことを言うとな。そんなのを理解できないほどに馬鹿になったのか」
と、毒を吐き合う二人は火花を散らし、やがて席を立つ。
「ねぇ、妹紅。少し肌寒くなってきたから、表で暖まらないかしら?」
「奇遇だな。ちょうど私も同じ事を考えていたところだ。表に行こうぜ」
と、互いにイイ笑顔を浮かべ、二人は病室を出て行った。
「……」
完全に蚊帳の外にあった北斗は、呆然としていた。
(似ている、か)
ふと、妹紅の言葉が脳裏に過ぎり、内心呟く。
(そういや、輝夜さんを見ていると、何だか見覚えがあるような気がするんだよな)
北斗は内心呟き、輝夜の顔を思い出す。
どことなく見覚えがあるような、そんな感覚があった。しかし当然ながら彼女とはこの幻想郷で初めて出会っている。以前に会ったことなんて無い。
(気のせい、だよな)
どこか引っかかる感覚が拭えないが、考えたところで分かるはずもなく、北斗は頭を切り替える。
「……気のせいか」
と、呟くと、北斗は台の上に置いている小説を手にすると、しおりを挟んでいるページを開いて続きから読み始める。
―――――――――――――――――――――――――――――
それからしばらくして……
コンコン……
「入るよぉ、っと」
と、病室の扉からノックがしてから扉が開かれると、一人の少女が入ってくる。
「てゐさん?」
北斗は読んでいる小説から目を離して顔を上げると、病室に入ってきた少女こと、因幡のてゐを見る。
「どうしましたか?」
「あんたの見舞いに来た人を案内してきたよ」
「見舞いですか?」
「あぁ。んじゃ、後は楽しんでね」
と、てゐは病室の外に向かってそう言うと、北斗に手を振りながら病室を出る、
「失礼します」
その直後に、病室に入ってきたのは……
「妖夢さん?」
北斗が名前を呼ぶその視線の先には、マフラーを首に巻いた妖夢と、見知らぬ女性がいた。
「お久しぶりです、北斗さん」
「そうですね、妖夢さん。地霊殿以来になりますね」
「はい」
妖夢は笑みを浮かべる。
「それで、隣に居るのは?」
北斗は妖夢の隣に立っている女性を見る。
彼は女性にどことなく普通じゃない何かを感じ取っていた。
「初めまして、霧島北斗君。私は西行寺 幽々子。妖夢が仕えている、白玉桜の主よ」
と、女性こと幽々子は自己紹介をして、扇子を広げる。
「妖夢さんが仕えている……」
北斗はそう呟くと、首を傾げる。
そんな彼の様子を察して、妖夢が説明する。
少女説明中……
「白玉桜。冥界にある屋敷ですか……」
妖夢より説明を聞き、そう呟くと、幽々子の周りに浮かんでいる白い光を見る。
「それに、幽々子さんが亡霊……」
北斗はそう呟くと、どこか納得した様子であった。
「ところで、身体の具合の方はどうかしら?」
幽々子は北斗を見ながら、問い掛ける。
「はい。もうすっかり良くなっています。三日後には退院出来るみたいです」
「そうなんですか。良かったですね」
妖夢は安堵した様子でそう言うと、「はい」と北斗は答える。
「どうやら、思っていたよりも良いみたいね」
幽々子はそう言うと、扇子を閉じる。
「ところで、一つ聞きたいことがあるわ」
「? 何でしょうか?」
北斗は首を傾げると、幽々子は白玉桜であったことを彼に伝える。
「……」
幽々子より白玉桜であったことを聞かされて、北斗は唖然となる。
「魂だけが、そんなところに……」
北斗は信じられないといった様子で、自分の身体を見る。
「やっぱり、何も覚えてないんですね」
「……はい」
妖夢がそう言って北斗が答えると、「やっぱりね」と幽々子は声を漏らす。
「まぁ、こうして無事に魂は元の身体に戻れているのだから、良しとしましょう」
彼女はそう言うと、微笑みを浮かべる。
「北斗君」
「はい。何でしょうか?」
「妖夢から話は聞いているけど、北斗君は幻想郷で鉄道を始めているようね」
「えぇ、そうですよ。今は自分がこんな状態なので、列車の運行は停止していますが」
「そう。でも、その鉄道に少し興味があるのよね」
「そうなんですか?」
北斗は意外そうに首を傾げる。
「えぇ。だからこそ、鉄道の再開を楽しみにしているわ」
「そうですか。でしたら、退院後なるべく早く再開できるように、頑張ります」
北斗は頷き、期待されていることに内心喜びを感じた。
「……」
そんな北斗を幽々子は微笑みを浮かべて見るも、何かに気付いてか、一瞬だけその視線が鋭くなる。
それからしばらく妖夢と幽々子は北斗の所に居て、世間話をした後、輝夜と命懸けの喧嘩をしてきた妹紅に案内されて永遠亭を後にした。
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