東方鉄道録‐幻想の地に汽笛は鳴り響く‐   作:日本武尊

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第114駅 衝撃的事実と旅立ちと夢

 

 

 

 

 北斗が退院したその後の永遠亭

 

 

 

「……」

 

 診察室で、机に両肘を付けて両手を組み、その上に顎を乗せて何かを考えている永琳の姿があった。

 

 その雰囲気から、深く真剣に考え込んでいるのは容易に察せる。

 

「……」

 

 その近くでは、診察室にある棚に置いている薬や資料の整理をしている鈴仙が、チラチラと永琳の様子を伺っている。

 

 こうやって真剣に考える師匠の姿は別に珍しいわけではないが、今日はいつもと違う雰囲気があって、鈴仙は気になっていた。

 

「優曇華。そんなにチラチラ見られると気が散るわ」

 

「も、申し訳ありません……」

 

 と、考え込んでいた永琳であったが、弟子の視線に気づいてそう言うと、鈴仙はすぐに謝罪する。

 

「で、何か聞きたいことがあるんじゃないのかしら?」

 

「それは……」

 

 鈴仙はどこか聞きづらそうな様子で、口ごもる。

 

「気にする事は無いわ。聞きたい事を言いなさい」

 

「……」

 

 師匠である永琳に半ば命令されて、鈴仙は戸惑いながらも問い掛ける。

 

「……師匠。師匠が北斗さんに渡した薬は、どんな薬なんですか?」

 

「……」

 

「その、北斗さんの体調はもう殆ど完治していたはずです。なのに、どうしてわざわざ必要の無い薬を処方したんですか」

 

 彼女の質問に、永琳はしばらく沈黙する。

 

 

 長年師匠である永琳の下で様々な事を学んでいるとあって、鈴仙は永琳の判断に違和感を覚えていた。

 

 間近で見ていたとあって、北斗の体調は少なくとも薬が必要になるような状態ではなく、非常に良好であった。体内に入った妖怪の毒も、最初の治療時に解毒できたので、体内に毒は残っておらず、薬の必要も無い。

 

 なのに、なぜわざわざ診断結果を偽って、薬を処方したのか……

 

 

 永琳はしばらく沈黙するも、口を開く。

 

「……あれは妖怪の毒に対しての薬じゃないわ。それに彼の体内にはもう毒は無いし、後遺症もないわ」

 

「では、あの薬はいったい?」

 

「あれは――――」

 

 

 

 

「―――細胞の劣化を遅らせる為の薬よ」

 

 

「……えっ?」

 

 永琳の口から発せられた事実に、鈴仙は声を漏らす。

 

「細胞の劣化を? ど、どういうことなんですか?」

 

「そのままの意味よ。彼の身体の細胞は通常と比べて劣化する速度が早いわ。それを遅らせる為の薬よ。本来なら注射で体内に入れるのが好ましいけど、彼に怪しまれないように、飲み薬にしたわ」

 

「……」

 

 衝撃的な事実を知り、鈴仙は呆然と立ち尽くす。

 

「ど、どうしてそんなことが? まさか、妖怪の毒が原因で、北斗さんの細胞が変化したんですか?」

 

「いいえ。確かにそれも要因の一つだけど、根本的原因は違うわ」

 

「……?」

 

「彼の細胞には、複製された細胞の特徴が見られたのよ」

 

「複製された細胞って、それじゃまるで……」

 

「えぇ。そんなもの、クローンそのものよ」

 

「……」

 

 次々に明らかとなる衝撃的事実に、鈴仙の頭は追いつかなかった。

 

「その上、かなり粗悪な細胞よ。そのせいで細胞の劣化が早いわ」

 

「……」

 

「しかも、妖怪の毒でその細胞に変化が現れているわ。だから余計に劣化が早くなってしまっているの」

 

「だから、その劣化を遅らせる薬を」

 

 鈴仙は動揺していたものも、永琳の判断を理解する。

 

「そういう事よ。でも、あくまでも遅らせる程度でしかない。どの道、結果は変わらないわ」

 

「……」

 

『結果が変わらない』……その言葉の意味を理解して、鈴仙は明らかに不安の色を見せる。

 

「……」

 

「どうにか出来ないか、って言いたそうね」

 

「……っ」

 

 永琳に考えを見抜かれ、鈴仙は少し目を見開く。

 

常識(・・)的な方法では、どうする事も出来ないわ。細胞関連となると、尚更ね」

 

「……常識(・・)的には?」

 

「そう。常識(・・)的には、ね」

 

 永琳の意味深な言葉に、鈴仙は息を呑む。

 

「安心なさい。少なくとも、私は道を踏み外す気は無いわ」

 

「……」

 

「でも、姫様が望むのなら、私はあえて道を踏み外すつもりでいるわ」

 

「? どうして姫様が関わってくるのですか?」

 

「……」

 

 鈴仙は急に関係の無いはずの輝夜が出てきて怪訝な表情を浮かべ、永琳は目を細める。

 

「……これから伝えることは、他言無用よ」

 

 と、彼女はとある事実を鈴仙に伝える。

 

 

 

「……じょ、冗談ですよね?」

 

 永琳より伝えられた事実に、鈴仙は明らかに動揺していた。

 

「こんな真剣な時に、そんな質の悪い冗談は言わないわ」

 

「で、でも、ありえないですよ。だって……」

 

 鈴仙は言おうとした口を閉じて、俯く。

 

「そう。あなたの言う通りよ、優曇華。普通に考えれば、ありえないわ」

 

「……」

 

「でも、結果がある以上、事実は変えられないわ」

 

「……」

 

 彼女が言った後、緊張した空気が診察室に漂う。

 

「……師匠は、どう考えているんですか?」

 

「結果がある以上、私はそれを認めるしかないわ」

 

「……」

 

「そして姫様が命じるのなら、それに従うまでよ。彼がどうするかはその時次第だけど」

 

「……」

 

(本当、飽きさせないわね……)

 

 内心呟き、永琳はため息をつく。

 

 

 

 彼女の脳裏に浮かぶのは、北斗と輝夜の遺伝子に、いくつかの共通する部分がある検査結果であった。

 

 

 永琳は北斗を見た時から、とある疑惑を考えて、怪我の治療中に血液検査を行った。その後輝夜から血液を提供してもらい、検査を行った。

 

 

 その結果が、前途の通りである。

 

 

 遺伝子に共通している部分がある。果たしてそれが……一体何の意味を持つのか……

 

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 所変わり、地底。

 

 

 

「……」

 

 荷物を纏めた風呂敷を手にして、彼女は今まで住んでいた廃屋を出て、地底の道を静かに歩いていた。

 

「……」

 

 ふと、彼女こと、河城みとりは何かに気づき、その足を止める。

 

「せめて別れの言葉ぐらい言っても良いんじゃないか?」

 

 と、曲がり角の陰から声がすると、どこか呆れた様子の星熊勇儀が出てくる。

 

「……言えば面倒なことになりそうだったからな」

 

「そりゃ無いだろう」

 

 視線を逸らしてそう言うみとりに、勇儀は苦笑いを浮かべる。

 

「まぁいいや」と、勇儀は自身の中で自己解決し、みとりを見る。

 

「……行くんだな」

 

「……あぁ」

 

「それだけ、あの人間の事が気になるのか」

 

「……」

 

 勇儀の質問に、みとりは答えなかった。

 

「まぁ、私は止めやしないさ。みとりが決めたことならな」

 

「……」

 

「もし地上が嫌になったら、いつでも帰って来ても良いんだぞ。私達はいつでもお前を迎えるさ」

 

「……」

 

「そうでなくても、たまには顔を見せに来てくれよ。寂しいからな」

 

「お前の場合寂しいとは無縁じゃないか?」

 

「そういう意味じゃないんだがな」

 

 勇儀は苦笑いを浮かべて、ため息をつく。

 

「……世話になったな、勇儀」

 

「あぁ。元気でな、みとり」

 

 みとりはそう言うと、勇儀の脇を通って歩いていく。

 

(やれやれ。こいしといい、みとりといい、不思議なもんだな、あの人間は)

 

 みとりの背中を見送りながら、彼女は北斗の姿を思い浮かべる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……やはり、行くのか?

 

 あぁ。一応報告しに行かないといけないからな。それで向こうを納得させて、何とか理由を付けて戻ってくる

 

 ……

 

 

 満月が昇る夜。生まれたばかりの赤ん坊を抱える女性が一人の男性に問い掛ける。

 

 

 大丈夫さ。この報告があれば、幻想郷を陥れる事にはならない。それだけは確かだ

 

 ……

 

 だが、飛鳥。もしかすれば、君達に迷惑を掛けるかもしれない。その時は……北斗を頼む

 

 ……

 

 

 悲しげな雰囲気を出す飛鳥に、男性は彼女に近づき、飛鳥が抱えている赤ん坊を見つめる。

 

 

 大丈夫だ、飛鳥。俺は必ず戻ってくる。飛鳥と、北斗の為に。そして俺個人の目的の為にな

 

 ――――――

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 ふと、途中で飛鳥は目が覚めた。

 

 最初に視界に入ったのは、家屋の天井だ。

 

(また、あの夢か)

 

 彼女は内心呟きながら半身を起こして、顔に手を付ける。

 

「……?」

 

 すると手に湿った感覚がして手を顔から離して見ると、掌の一部が濡れてる。

 

 その後目元に触れると、そこも濡れている。

 

(泣いていたのか……) 

 

 飛鳥はその濡れてる原因が、自身が泣いていたと自覚して、手の甲で涙を拭い、隣にある窓から外を見る。

 

 空には夢の中同様に、満月が昇っている。

 

(満月の日は、どうしてもあの日を思い出すな……)

 

 飛鳥は夢の内容が脳裏に過ぎり、布団を握り締める。

 

「……」

 

 彼女はベッドの柱に掛けているコートの懐にあるポケットに手を入れて、中に入っている物を取り出すと、折り畳んでいるそれを広げる。

 

「……」

 

 悲しげな表情を浮かべる彼女は、広げた写真を見つめる。

 

 写真には赤ん坊を抱えている自身と、若い男性が写っている。赤ん坊は後の北斗である。

 

「……『輝月』」

 

 彼女は自身の隣に写る男性を見つめながら、その名前を呟き、顔を上げて窓から満月を見つめる。

 

 

 




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