東方鉄道録‐幻想の地に汽笛は鳴り響く‐   作:日本武尊

116 / 159
今回は短めです


第11区 復活のP編
第115駅 闇夜を駆ける貴婦人


 

 

 

 まだ日が昇っていない、闇夜に包まれた幻想郷。

 

 

 そんな時間帯とあって、幻想郷にある各地では光が無く、静まり返っている。そんな中で活動しているのは、夜行性の動物や妖怪程度である。

 

 

 そんな中で、唯一明かりが灯っている場所があった。

 

 

 

 明かりが灯っている幻想機関区では、雪が振る中、今から行おうとしている試験運転に向けて、作業が行われている。

 

 本線と繋がった線路では、C57 135号機が待機しており、その後方にはスハ43四輌と『マイテ49形展望車』と呼ばれる車輌を一輌の計五輌を連結して、出発準備を整えている。

 

 

 本格的な列車運行再開に向けて、その最終調整を兼ねて深夜から早朝に掛けて試運転が行われることになった。

 

 試運転だけなら別に昼間でも出来るが、今回は夜間での運行を想定した試運転で行うのも兼ねている。それに昼間では守矢神社方面の路線での試運転が行われており、この時石炭の輸送を兼ねて18633号機と48633号機の重連による『セラ1形』石炭車20輌が牽引されている。

 

 もちろん深夜から早朝に掛けて試運転が行われるのは既に周知済みであるので、多少の騒音が起こるのは理解してもらっている。

 

 

 ちなみに今回旧型客車ではなく、12系客車や14系客車を牽く予定だったが、ある問題の解決が出来ないとあって、結局旧型客車で試運転を運行することになった。

 

 というのも、両形式の客車には、発電用のディーゼルエンジンが搭載されており、この発電機によって電力を生み出し、冷暖房の空調装置や照明、放送機器、自動ドアの開閉が行える。

 一応12系客車には、旧型客車同様に車軸発電装置が搭載されており、これだけでも照明や放送機器を使用するだけの電力を生み出せる。

 

 この発電用のディーゼルエンジンであるが、当然ながら動かすのに燃料である軽油が必要になる。その軽油の補給だが、以前からの悩みの種である重油同様に、補給の当てが無い。

 

 しかしC59 127号機と違い、両形式の客車に搭載されているディーゼルエンジンには軽油が満杯に入っていたので、試運転自体は問題なかった。

 

 だが、補給の目処が無い以上、日常的に運用するのは難しい。車軸発電装置は12系客車のみで、14系客車には搭載されていないので、今後軽油の補給の目処が無い以上、運用できるのは12系客車のみとなる。

 尤も、車軸発電装置のみでは、電力消費の激しい空調装置は当然使えないし、自動ドアの開閉も出来なくも無いが、発電状態次第では難しい。

 

 

 C57 135号機は炭水車(テンダー)に石炭と水の補給がされ、足回りでは(C57 135)が金槌で軽く動輪や各所部品を叩いて、音で部品の異常が無いかの打音検査を行っている。

 

 運転室(キャブ)では機関助士の妖精が焚口戸を開けて、スコップで炭水車(テンダー)から石炭を掬い、燃え盛る火室へと投炭を行い、火室内の火力を上げてボイラーの水を沸騰させて蒸気を発生させ、内部の圧力を上げている。

 

「……」

 

 打音検査を終えた(C57 135)は金槌を道具箱に戻して蓋を閉じ、道具箱を持って運転室(キャブ)に乗り込み、扉を閉める。

 

「調子はどう?」

 

「いつでも行けますよ」

 

「結構」

 

 機関助士の妖精よりいつでも出発できるのを聞いた彼女は頷き、道具箱を置き場に置いて機関士席に座り、ブレーキハンドルを回し、空気が抜けるような音が運転室(キャブ)内に響き、ブレーキ動作を確認する。

 確認後、(C57 135)は逆転機のハンドルを回してギアを後進に入れてから、窓を開ける。

 

 窓から頭を出して前後を確認し、作業員の妖精が炭水車(テンダー)と客車の連結器が開いているのを確認した後、ホイッスルを吹きながら緑旗を振るう。

 

 緑旗を確認し、(C57 135)はブレーキハンドルを回してブレーキを解き、汽笛を鳴らすペダルを短く二回踏んで、汽笛を短く二回鳴らし、加減弁ハンドルを引く。

 

 シリンダーへ蒸気が送られ、C57 135号機はゆっくりと後退して、炭水車(テンダー)と客車の連結器が組み合わさって連結する。

 連結寸前に彼女はブレーキを掛けて、加減弁を閉じ、連結と同時に機関車を止める。

 

 うまく連結したことで殆ど揺れることなく、(C57 135)は安堵の息を吐く。

 

 

 

 その後(C57 135)は北斗と試運転に関する打ち合わせをして、運転室(キャブ)に戻って出発の時を待つ。

 

「……」

 

 (C57 135)は窓から頭を出して、前方の腕木式信号機を確認する。

 

 赤く灯された信号機は、少しして腕木が降りて青く灯された。

 

 赤信号から青信号へ変わったのを確認して、(C57 135)はブレーキハンドルを回してブレーキを解き、ペダルを踏んで汽笛を鳴らすと、加減弁ハンドルを引く。

 

 シリンダーへ蒸気が送り込まれ、C57 135号機は客車五輌を牽いてゆっくりと動き出し、ドレンを吐き出しながら進む。

 

 旅客用蒸気機関車としての加速の良さを生かし、C57 135号機はドラフト音を奏でて一気に加速する。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 未だに日が昇らない闇夜に包まれた幻想郷。

 

 

 雪が降る中、C57 135号機が牽引する回送列車が線路の上を駆け抜ける。

 

 前照灯と副灯を点けて前方を照らし、煙突から白煙を吐き出して闇夜の中を駆け抜ける貴婦人のその姿は、他の鉄道では出せない神秘さがある。

 

 久々の本線での走行とあって(C57 135)は張り切っており、機関車の速度と、動輪の回転する速さからそれが伝わる。

 

 C57 135号機は、魔法の森方面と人里方面の分岐点に差し掛かり、回送列車は人里方面の路線へと入る。

 

 運転室(キャブ)では機関助士の妖精がスコップに石炭を掬い、床にあるペダルを踏んで焚口戸を空気圧で開け、燃え盛る火室へと石炭を放り込む。

 焚口戸が開かれる度に火の光が薄暗い運転室(キャブ)内を照らして明るくする。

 

 それを数回繰り返し、石炭を所定の位置へと投炭し終えて、機関助士の妖精はスコップを道具置きに差し込み、各所へと蒸気を送り込むバルブを回して蒸気の量を調節し、次にボイラーの水位を確認した後、注水機のバルブを回して炭水車(テンダー)からボイラーへ水を送り込む。

 

 (C57 135)は速度計を確認し、逆転機のハンドルのロックを外してハンドルを回し、ギアを調整した後再びハンドルをロックして、加減弁ハンドルを引いてシリンダーへ送り込む蒸気の量を増やす。これにより、C57 135号機は更に速度を上げる。

 

 速度を上げたC57 135号機は、自身の存在を示す為に、汽笛を鳴らしながら魔法の森に沿って敷かれた線路を駆け抜ける。 

 

 その雄姿を森の中から獣や妖怪がその様子を窺い、中にはその姿に見惚れる者も居る。

 

 客車内では、作業員の妖精が逐一走行時の様子を記録し、客車から異音が無いかの確認をしている。最後尾のマイテ49でも異音が無いかの確認をしている。

 

 

 

 しばらくして回送列車は人里付近の路線へと入り、この時点では駅に停車予定は無いので、C57 135号機は高速で駅を通過した。

 

 ちなみに試運転の予定は伝えてあったので、回送列車を見る為に徹夜して待っていた住人の姿がちらほらとあった。

 

 その他にも別の場所では、カメラを構えた物好きな鴉天狗の姿があり、雪塗れになりながらもジッと構え、決定的瞬間を見逃さずカメラのシャッターを切る。

 

 人里の住人に配慮して汽笛を鳴らさずに、C57 135号機は駅を通過する。当然鴉天狗はその瞬間にカメラのシャッターを切り、貴重な姿を捉えられて思わず笑みを浮かべる。

 

 

 

 その後C57 135号機は雪景色に覆われた幻想郷の線路を走り、博麗神社方面の路線へと入る。

 

 少しだけ傾斜のついた勾配を上っていることで、多少C57 135号機は速度が落ちるも、(C57 135)は逆転機を回してギアを調整し、加減弁ハンドルを引く。

 

 一瞬速度が落ちたものも、すぐに落ちた分の速度を戻して、C57 135号機は走る。

 

 博麗神社付近の森の路線へ入り、その俊足を生かして突き進む。

 

 その後列車は博麗神社前の駅を通過し、森の中を突き進む。

 

 

 しばらくして列車は森の中から出ると、朝日が昇り出して空が少しずつ明るくなり出している。

 

 C57 135号機は速度を維持しつつ幻想郷の雪がまだ残る平原を駆け抜け、遠くから獣や妖怪がその光景を静かに眺める。

 

 

 それからして回送列車は、人里の駅の上り線側へと入り、ゆっくりと速度を落として駅に停車する。下り線では機関区よりやって来たC56 44号機とヨ2000形が停車している。

 

 停車後、列車はヨ2000形より降りてきた作業員の妖精達により、客車の点検が行われた。

 

 その間にC57 135号機は客車と連結を外して駅の脇にある待避線に移動し、そこで水と石炭の補給を行った。その間に機関車の点検が行われる。

 

 しばらくして機関車と客車の点検を終えて、異常無しと判断された。点検が終わった時には、空は少し薄暗いだけで、すっかり明るくなっていた。

 

 その頃になると、人里の多くの住人が起きているので、蒸気機関車を見にやって来た者達が多かった。

 

 水と石炭の補給を終え、(C57 135)はC57 135号機をゆっくりと後退させ、上り線にある客車の前へと移動させて、その前で停車させる。

 

 作業員の妖精が客車とC57 135号機の炭水車(テンダー)の連結器に異常が無く、ちゃんと開いているのを確認し、ホイッスルを吹きながら緑旗を振るう。

 緑旗を確認し、(C57 135)は汽笛を二回短く鳴らし、加減弁ハンドルを引いて機関車を後退させて、客車と連結させる。

 

 その後幻想機関区への路線に異常が無いのを確認し、腕木式信号機が下ろされて青信号になる。

 

 信号機が青になったのを確認し、(C57 135)は汽笛を鳴らし、加減弁ハンドルを引いてシリンダーへ蒸気を送り、C57 135号機はゆっくりと前進する。

 

 ドレンを出しながら徐々に速度を上げつつ、煙突よりドラフト音と共に白煙を上げ、列車は機関区を目指す。

 

 

 その後C56 44号機もヨ2000形と前後を逆に入れ替えてから、バック運転で幻想機関区を目指して走り出す。

 

 

 

 




感想、質問、評価、要望等をお待ちしています。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。