東方鉄道録‐幻想の地に汽笛は鳴り響く‐   作:日本武尊

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第116駅 遅れた初詣

 

 

 

 

 深夜から早朝に掛けての試運転が行われてから、数日が経過した。

 

 

 

 この日は幻想郷において特別な日とあって、駅には多くの住人が列車の到着を待っていた。

 

 というもの、北斗が入院していた間に年を越しており、人里の住人達は一部を除き、元旦に博麗神社や守矢神社へ初詣に行くことが出来なかった者が多かった。

 鉄道でその初詣に行く事が出来るはずだったが、北斗が不在とあって列車の運行が出来なかったので、元旦に行くことが出来なかった。

 

 なので、数日遅れの初詣となったので、今日は今までに無い博麗神社行きと守矢神社行きの列車が同時に運行されることになったのだ。

 

 

 人里の駅の脇にある操車場では、列車運行前に機関車の補給や点検が行われている。

 

 そこでは除煙板(デフレクター)が外されたC10 17号機とC11 312号機、C12 208号機のタンク型が同じ線路に並んで停車しており、それぞれのコンプレッサーが動き、煙突横の排気管より蒸気を一定の間隔で噴射している。

 ちなみにC10 17号機の除煙板(デフレクター)が外されたのに、特に理由は無いとのこと。

 

 それぞれの罐には、葉月(C10 17)睦月(C11 312)熊野(C12 208)が足回りの打音検査を行い、運転室(キャブ)では機関助士の妖精が火室へ石炭の投炭を行っている。

 

 別の場所ではD51 603号機とD51 1086号機のD51形二輌の姿があり、炭水車(テンダー)にの上で、作業員の妖精達がスコップで補給された石炭をならしている。

 それぞれの罐の足回りでは、水無月(D51 603)神流(D51 1086)の二人が同じく打音検査を行っている。

 

 駅構内では、上り線と下り線にそれぞれ『スハフ42』が二輌、『スハ43』が四輌、『マニ32形』が一輌の計七輌編成がC58 283号機と18633号機によって移動させられている。

 

 

 しばらくして博麗神社行きの路線に、C12 208号機がゆっくりと後進して操車場から本線へと入ってきて、スハフ42の前で停止し、作業員の妖精が連結器を確認し、合図を送って熊野(C12 208)が汽笛を二回鳴らして後退し、客車と連結する。

 

 続いてC11 312号機も操車場より本線へと後進して入ってきて、同じようにゆっくりとC12 208号機と連結して停車する。

 

 最後にC10 17号機が後進して本線へと入り、C11 312号機と連結して停車する。

 

 蒸気機関車三輌が連なって連結する三重連。外の世界では殆ど見られなくなってしまったこの言葉ほどSLファンの心を揺さぶるシチュエーションは無いだろう。

 

 タンク型の蒸気機関車が三輌連なって連結しているという今までに無い光景に、住人達は興味津々に見ており、沿線では物好きな変装した鴉天狗や人里にある写真屋の店主、外の世界から幻想郷に移り住んだ外来人も、持っているカメラを手に三重連の蒸気機関車を撮影していた。

 

 その間に、守矢神社行きの路線では、連結した状態でD51 603号機とD51 1086号機がゆっくりと後進して操車場から本線へと入り、スハフ42と連結して停車する。

 

 普段は見られない二つの列車が駅に居り、その上重連でいるという珍しい光景。誰もがその珍しい光景を見つめており、変装した天狗達や一部の人里の住人達もカメラに収めている。

 

 

 機関車がそれぞれの客車と連結し、駅員の妖精達が客車の扉を開けて乗客達を客車に乗せる。その間に他の駅員の妖精達がマニ32形に乗客の一部が持って来た神社への奉納する品々を載せている。

 

 しばらくして両方の列車の客車に乗客がいっぱい乗り込み、駅員の妖精達は安全を確認して客車の扉を閉める。

 

 

 そして発車時刻が近くなり、時刻を確認した駅員の妖精が発車ベルのボタンを押してベルを鳴らす。

 

 車掌の妖精が客車の扉が全て閉まって、連結器に異常が無いかの安全を確認し、最後尾の客車からホイッスルを吹きながら緑旗を振るい、各機関車の機関士が確認する。

 

 最初に博麗神社行きの列車が出発し、C10 17号機の汽笛から蒸気と共に、三音室と五音室の音を混ぜたような音色が響き、続いてC11 312号機の汽笛が鳴り、最後にC12 208号機の少し高い音程の音色が汽笛が鳴らされる。

 出発の合図となる汽笛を鳴らし、三輌のタンク型蒸気機関車はシリンダー付近にある排気管からドレンを出しながら、ゆっくりと前進する。

 

 少し遅れて守矢神社行きの列車が出発し、D51 603号機の汽笛が蒸気と共に鳴らされ、続いてD51 1086号機の汽笛が鳴らされる。

 出発の合図となる汽笛を鳴らし、二輌のテンダー型蒸気機関車はドレンを出しながら、煙突から灰色の煙を吐き出して前進する。

 

 

 二つの列車は駅を出発し、それぞれの目的地に向かって前進する。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 博麗神社行きの路線。薄っすらと雪が残る田畑が広がる中を、三重連の蒸気機関車が七輌の客車を牽いて駆け抜ける。

 

 先頭のC10 17号機が汽笛を三回最初だけ長く、残り二回を短く鳴らすと、後ろのC11 312号機も汽笛を同じように三回鳴らし、C12 208号機も汽笛を三回鳴らす。

 機関車の重連運転の際は、汽笛を鳴らして機関車の機関士に合図を送り、速度と力を合わせるのだ。

 

 その三輌の蒸気機関車の運転室(キャブ)では、機関助士の妖精が片手スコップで石炭を掬い、焚口戸に繋がれた鎖を持って開け、燃え盛る火室へ石炭を投炭し、火力を上げてボイラー内の水を沸騰させて蒸気圧を上げる。

 

 三重連の蒸気機関車は、力を合わせて軽快なドラフト音と共に煙突から灰色の煙を吐き出し、田畑付近の線路を駆け抜ける。

 

 線路の脇には、人里の駅から飛び立ち、先回りした鴉天狗が薄っすらと雪が積もる田畑の中を走る三重連のSLが牽く列車をカメラで撮影する。普段からカメラを使い慣れ、様々な景色を撮ってきたとあり、彼らはその一瞬を逃さなかった。

 

 葉月(C10 17)睦月(C11 312)熊野(C12 208)は線路脇に居る見学者に向けてそれぞれ汽笛を鳴らして応える。

 

 

 

 

 守矢神社行きの路線。魔法の森に敷かれた線路をD51形二輌が、迫力あるドラフト音と共に灰色の煙を煙突から吐き出して、七輌の客車を牽いて線路の上を走る。

 大型のテンダー型蒸気機関車とあって、タンク型と違う迫力ある走りである。

 

 普段人里の外に出ない住人達は、滅多に見ない魔法の森の景色を窓越しに見ている。もちろん魔法の森の危険性は知っているので、窓は開いていない。

 

 D51形二輌の重連が牽く列車は、魔法の森を通って河童の里付近にある川の傍の線路を通り、妖怪の山へと入る。

 

 勾配が多い妖怪の山の路線であるが、D51形の大きなボイラーから生み出す力と、四軸の動輪による牽引力が二つもあって、単機と違って勢いよく列車は登っていく。

 

 それぞれの機関車の運転室(キャブ)では、機関助士の妖精がスコップで炭水車(テンダー)から石炭を掬い、床にあるペダルを踏んで空気圧で火室の焚口戸を開けて、燃え盛る火室へ石炭の投炭を行い、火力を上げて、蒸気圧を上げる。

 

 水無月(D51 603)神流(D51 1086)は汽笛を鳴らして合図を送り、逆転機のハンドルを回してギアを調整し、加減弁ハンドルを引いてシリンダーへ送り込む蒸気の量を調整する。

 

 列車は踏切を通り、木々のトンネルを通り抜け、開けた路線へと出る。

 

 その上空では鴉天狗達が飛行しながら手にしているカメラで、迫力あるドラフト音と共に灰色の煙を吐き出し、力いっぱい登る迫力ある重連のD51形二輌の姿を撮影する。

 水無月(D51 603)神流(D51 1086)はそんな天狗達に向けて汽笛を鳴らす。

 

 最初こそ鉄道に懐疑的で、快く思わない者が多かったが、今ではこうして蒸気機関車が走る姿を見る天狗が多くなった。そんな中にはカメラを手にしてその雄姿を撮影する者も居る。

 そしてその写真を集めた写真集を人里で出して商売する者も居る。

 

 余談だが、こうして幻想郷では鉄道に興味を持つ者が多くなったが、その多くが意外にも天狗だったりする。まぁこれは比較的間近で見ているとあって、蒸気機関車の魅力に魅入られる者が多く出したのだろう。

 

 

 

 

 博麗神社行きの列車は線路を通り、神社周辺の森の中へと入る。

 

 終着点付近とあって、三重連はゆっくりと速度を落としていき、やがて駅が見えてきた。

 

 葉月(C10 17)睦月(C11 312)熊野(C12 208)は汽笛を鳴らして合図を送り、加減弁ハンドルを戻してシリンダーへ送る蒸気の量を減らして、機関車の速度を落としていく。

 

 そしてゆっくりと駅に入り、客車が駅のホームに止まるように調整して、列車が停止する。

 

 列車が完全に停止したのを確認し、車掌の妖精が降りて客車の扉を開けていくと、乗客が次々と降りて、階段を登って博麗神社を目指す。

 

 乗客が神社へ参拝中に、C10 17号機とC11 312号機、C12 208号機は連結したまま、スハフ42と連結を外し、三輌は前進して分岐点の前まで行き、その後転轍機によって線路の向きを変え、下り線に入って停車し、線路の隣にある給水塔と給炭設備で水と石炭の補給を行う。

 

 水と石炭の補給後、三輌の蒸気機関車は列車の最後尾へと移動し、再び上り線に入ってC10 17号機は最後尾のスハフ42と連結する。

 

 博麗神社周辺には、守矢神社と違って転車台が無いので、帰りはバック運転で帰るようになっている。この間の試運転では大きく迂回する形で人里へと帰るルートだったが、今回はわざわざ遠回りに帰る必要が無いので、バック運転で帰ることになったのだ。

 

 しかし、三重連によるバック運転という、世にも奇妙な編成となっている。外の世界ならSLファンが挙ってやってくるであろう珍光景である。

 

 そして神社での参拝を終えた参拝客達が階段を降りて駅にやって来て、客車に乗り込む。

 

 そして乗客が客車に乗り込み、安全を確認した車掌の妖精がホイッスルを吹きながら緑旗を振るい、旗を確認した葉月(C10 17)睦月(C11 312)熊野(C12 208)はブレーキを解き、汽笛を順番に鳴らして列車は人里へ向かって出発する。

 

 

 

 

 守矢神社では、列車でやって来た参拝客で溢れており、早苗が助っ人として幻想機関区よりやってきた文月(C55 57)長月(C59 127)と共に、参拝客を案内している。

 

 その間に、D51 603号機とD51 1086号機は、転車台で方向を転換し、その後炭水車(テンダー)に水と石炭を補給している。

 

 転車台で方向を転換した関係で、帰りはD51 1086号機が前になっている。

 

 そんな作業の様子を、神社の境内の隅から一部の参拝客が見学している。

 

 ちなみに操車場には、展示目的でD61 4号機とD62 20号機の車軸配置『パークシャー』の機関車が停車しており、時折汽笛を鳴らしている。

 

 

 その後D51 1086号機とD51 603号機が連結した状態で操車場を移動し、駅にある列車の客車の最後尾に連結する。

 

 守矢神社の参拝を終えた参拝客が客車に乗り込んで行き、その間に早苗と北斗が参拝客と水無月(D51 603)神流(D51 1086)の二人の見送りに来ている。

 

 その後発車時刻となり、車掌の妖精がホイッスルを吹くと共に緑旗を振るう。

 

 旗を確認した水無月(D51 603)神流(D51 1086)はそれぞれブレーキを解き、汽笛を鳴らして加減弁ハンドルを引き、機関車を前進させる。

 出発する列車を見送るように、D61 4号機とD62 20号機がそれぞれ汽笛を長く鳴らす。

 

 

 

 

 遅れた初詣を迎えた幻想の地に、いくつもの汽笛が鳴り響く。

 

 

 それは、幻想郷の新たな一年の幕開けを告げるかのように、響き渡るのだった……

 

 

 

 

 

 




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