朝日が昇り、明るくなり出した幻想郷。
常に深夜でも静かに活動している幻想機関区でも、朝になれば本格的に活動し始めている。
『ラジオ体操第一!』
幻想機関区の宿舎の前で、北斗を含む蒸気機関車の神霊と妖精達が、古めかしいラジカセから発せられるラジオ体操の曲に合わせて身体を動かしている。
幻想機関区では、基本的に毎朝身体を解す目的でラジオ体操を行っている。
ちなみに居候している夢月に幻月、エリスの悪魔娘達は、その光景を珍獣を見るかのような様子で眺め、幽玄魔眼は周囲を警戒している。
それからしばらくして、ラジオ体操が終わり、各々はそれぞれの仕事場へと向かう。
「……」
北斗は両腕を上に上げて背伸びをしながら深呼吸をして、気持ちを整える。
(さてと、今日も頑張りますか)
内心そう呟くと、彼は宿舎にある執務室に向かおうとする。
「北斗さーん!!」
と、後ろから呼ぶ声がして北斗は後ろを振り返ると、こちらに向かって飛んでくる早苗の姿があった。
「おはようございます!」
北斗の近くに着地した早苗は、彼に挨拶をしながら傍まで来る。
「おはようございます、早苗さん。朝早くからどうしましたか?」
北斗も挨拶をして、早苗にここに来た理由を聞く。
「はい。今朝お弁当を作ったので、良かったらお昼にどうぞ」
と、早苗は手にしている風呂敷に包まれた物を北斗に差し出す。
「弁当ですか。ありがとうございます。でもこんなに朝早くから作るのは大変だったのでは?」
北斗は風呂敷に包まれた弁当を受け取りながら、早苗に問い掛ける。
「いいえ。朝食を作るついででしたので、大変じゃなかったです」
「そうですか」
(それに、北斗さんの為なら、このくらい苦でも何でもありませんし)
風呂敷を見る北斗を、早苗は内心呟きながら、微笑みを浮かべる。
その微笑みを浮かべる彼女に、北斗はどこか恥ずかしそうに頬を赤く染める。
(((((甘酸っぺぇ……!)))))
その様子を見ていた妖精達は、内心同じことを愚痴る。
「北斗さん。お仕事、頑張ってくださいね」
「はい。早苗さんも、信仰活動を頑張ってください」
お互いにそう言うと、早苗は頭を下げて地面を蹴って空を飛ぶ。
北斗はしばらく手を振ってから、風呂敷に包まれた弁当を持って宿舎へと入る。
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扇形機関庫では、多くが火を落としている中、一部の蒸気機関車が火を入れた状態で検修を受けている。
D51 241号機とD51 1086号機に火が入れられ、作業員の妖精が足回りやボイラー周りの配管をチェックしたり、煙室扉を開けて内部を確認したりと、様々な箇所の検査を行っている。
同じように隣ではC58 1号機とE10 5号機、C55 57号機も検修を受けている。
扇形機関庫の横にある小さな機関庫でも、比羅夫号こと7100形蒸気機関車が試運転に向けて準備を進めている。マレー式のタンク型蒸気機関車こと4500形蒸気機関車の試運転は後日行われる予定である。
「……」
宿舎にある執務室にて、早苗より貰った弁当をおかずを食べながら、北斗は幻想郷の地図を見つめる。
(線路の調査は妖怪の山の一部以外は終わったが……この幻想郷の隅々まで広がっているな)
キュウリの漬物を口にして音を立てて食べながら内心呟く。
(でも、こんなに広く線路が広がっても、使う機会があるんだか)
幻想郷の隅々に広がっている線路を見て、北斗は懐疑的な視線を向ける。
幻想機関区を中心に運行している鉄道だが、現時点では博麗神社や守矢神社へ向かう列車や、たまに石材や木材の輸送を行う程度だ。
ぶっちゃけいうと、それ以外に鉄道を生かしている場面が無いのだ。
(そういや、幻想郷って自然豊かな場所だよな)
卵焼きを食べながら、北斗はこれまで見てきた幻想郷の自然を思い出す。
幻想郷は発達した外の世界と違い、自然豊かな場所だ。外の世界には無いような、綺麗な景色が残っている。
(……観光列車を運行するのもありか?)
キュウリの漬物と一緒にご飯を頬張りながら、幻想郷の各地を巡る観光列車の運行を考える。
線路の広さからして、幻想郷の各地を巡るのに適している。故に幻想郷の美しい光景を蒸気機関車で巡るのは、とても幻想的な光景だろう。
外の世界の撮り鉄であれば、こぞって集まって取りに来るだろう。
(いや、考えてみれば、幻想郷に住んでいる住人に対して観光を勧めても、見慣れた景色を見て何が楽しいって思うよな)
北斗はご飯を飲み込み、静かに唸る。
幻想郷は狭く無いが、広大とはいえない規模である。その為、空を飛べる者からすれば幻想郷の端から端まで行くのに苦労はしない。
その為、彼らからすれば見慣れた光景であろう。
それでおいて観光列車を運行したところで、需要があるとは思えない。
しかし別の視点から見る幻想郷というのも考えれば、全く需要が無いとも限らないが。
(さてと、どうしたものか)
内心呟きつつ、卵焼きを食べる。
「ご馳走様でした」
少しして弁当のご飯を食べ終えて、蓋を閉じた後彼は両手を合わせてそう言う。
「早苗さんの作る料理はやっぱり美味しいな……」と呟きながら、両腕を上に上げて背伸びをする。
(そういや、そろそろレミリアさん達が来る頃だな)
北斗は執務机に置いている懐中時計を見て、時間を確認する。
今日はレミリア達が復元を終えて試運転を行う7100形蒸気機関車の視察の為にやって来る。
試運転の視察が終わった後、今後について話し合う予定である。
北斗は懐中時計を手にしてポケットに仕舞い、弁当箱を持って食堂に向かう。
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北斗は宿舎を後にして、B20 15号機が牽くヨ2000形に乗り込み、機関区の端まで移動する。
機関区の入り口まで来ると、そこで待っている人影が二人ほど居た。
「永遠亭以来ね、北斗」
その人物ことパチュリーは、北斗の姿を見ると短くそう言う。
「あの時はありがとうございます、パチュリーさん」
北斗はどこか顔を引き攣らせながら、頭を下げる。
「お久しぶりです、北斗さん」
と、パチュリーの隣に立つ小悪魔のこあがお辞儀をする。
「お久しぶりです、こあさん。紅魔館の図書館で会った以来ですかね」
「そうですね」とこあは短く返す。
「……あの、パチュリーさん?」
「何かしら?」
「その、さっきから気になっているんですが……」
北斗は聞きづらそうな様子であったが、間を置いて彼女に問い掛ける。
「物凄く声が枯れているんですが……大丈夫なんですか?」
北斗がさっきから気にしている事。それはさっきからパチュリーの声が物凄く掠れ気味でガラガラなのだ。
「心配無いわ。ぜん息で咳をして喉が掠れただけよ」
「それは、大変ですね」
ガラガラ声で喋るパチュリーに北斗はどことなく不安を覚えながらも納得する。
「でも、それならここに来るのは不味いのでは?」
北斗は彼女の身を案じて、そう伝える。
喘息持ちにとって、埃や塵等の粉塵は苦痛でしかない。当然蒸気機関車が居る機関区では、煤が舞うので、喘息持ちにはつらいはずだ。
「魔法で塵を防ぐ障壁を張っているから、問題無いわ」
「そうなのですか?」
パチュリーが防御策を伝えると、北斗はパチュリーを見るも、彼女の周りには特に変化らしいものは無い。
「不可視の障壁を張っていますので、普通の人間には見えませんよ」
「そうですか……」
こあが説明して、北斗は納得する。
「ここまで来ると、魔法で喘息を治せたり出来ないんでしょうか?」
「出来たらとっくの昔にしているわよ」
「そりゃ、そうですよね」
パチュリーの即ツッコミに北斗は苦笑いを浮かべるしかない。
「そういえば、レミリアさんが来るはずでは?」
と、北斗は周囲を見渡すも、来ているはずのレミリアの姿が無い。
「あぁレミィなら、今日来れなくなったわ」
「それは、なぜですか? 体調不良とかですか?」
「吸血鬼が体調を崩すのは相当だけど、違うわ。ちょっとフランといざこざがあって来れなくなったのよ」
「あぁ。フランとですか……」
北斗はパチュリーから事情を聞き、永遠亭での一幕を思い出して納得する。
その後、北斗とパチュリー、こあの三人は、ヨ2000形に乗り込み、B20 15号機が後退して機関区を移動する。
操車場では、7100形蒸気機関車が試運転に向けて、作業員の妖精が最終調整を行っている。アメリカンなダイヤモンドスタックと呼ばれる煙突より薄く煙を出し、
その離れた場所で停車したB20 15号機に繋がれたヨ2000形から北斗とパチュリー、こあが見ている。
「あの埃塗れだった機関車が、あんなに綺麗になったのね」
パチュリーは紅魔館の地下にあった時の、埃塗れだった7100形蒸気機関車の姿と、今のピカピカな姿を比べて、その変化に感嘆の声を漏らす。
「えぇ。蒸気機関車は修理できる技術者と技術さえあれば、鉄くず状態からでも直せるものですからね」
北斗は中々無茶な状態で例えているが、あながち間違いでもないのだ。
イギリスで動態保存されている蒸気機関車の中には、ほぼスクラップ状態で放置されていたのを復元したものがある。それこそよく復元できたなってぐらい思うほどにボロボロだった機関車も居た。(極一部は新造という他に類を見ない方法だが)
蒸気機関車の状態が酷くても動態復元が可能なのは、金属を加工して組み上げられた機械であるのが大きいからだ。時間と金は掛かっても、部品自体は作れない事も無いし、拘らないのなら現代の技術でも応用が利くからだ。
逆に電気機関車の動態保存機が少ないのは、精密な電子部品が多く、尚且つ当時と現代とでは部品や電圧等の規格が違う等、簡単に復元出来ない部分が多いからだ。仮に復元出来たとしても、現代の規格に合わせる為に場合によっては丸々一輌を製造するレベルで作り変えなければならないが、そうなると動態保存の意味が薄れてくる。少なくとも新しく電気機関車を一輌製造するよりも費用が掛かると思われる。その上蒸気機関車と違い電気機関車は、架線が無い場所では走らせられないし、電圧の規格だって異なる以上、蒸気機関車以上に走られる場所は限られる。
そして何より身も蓋も無い話、煙を吐いたり動輪を繋いでいる連結棒が動いたり、様々な形があって視覚的に大きい蒸気機関車と違い、そこまで外観に大きな差が無い上に視覚的に大きな部分が無い電気機関車では、素人目には地味であり他の電気機関車どころか、電車と同じような物にしか見えないのだ。
その為、客寄せパンダ的な意味でも集客性に難があり、復活させても復元費用すら取り戻せないだろうというのがある。
なので、電気機関車が復活しても、鉄道ファン以外からは興味を持たれず、見向きもされないだろうというのが現実。恐らく今後電気機関車が動態復元される機会はほぼ皆無といってもいい。
そう考えると、今でも昔の電気機関車を運用し続けている鉄道会社は、中々の変態っぷりである。
しばらくして7100形蒸気機関車の独特の汽笛が鳴り、シリンダー付近の排気管からドレンを吐き出しながら前進する。
取り付けられている鐘を鳴らし、比羅夫号が前進する。
その様子を三人は静かに見守る。
(古い機関車だからちゃんと修復できるか不安だったけど、杞憂だったみたいだな)
特に異常も無く走っている比羅夫号を見て、北斗は安堵する。
他の機関車と違い、7100形蒸気機関車は古い形式で尚且つ長らく放置されていたので、修復できてもちゃんと動くかどうか不安要素はあった。
だが、幻想機関区にある整備工場の設備と、何より整備員の妖精達の技術によってちゃんと復元されたようだ。
「見た感じ、問題無く走っているようね」
比羅夫号の走りを見ながら、パチュリーが北斗に声を掛ける。
「えぇ。しかしまだ走り出したばかりですので、何とも言えません」
「そうね」
二人は会話を交わしながら、一定の距離を走った後、ゆっくりと後退する比羅夫号を見つめる。
「北斗」
「はい」
「今日来たのは機関車の視察もそうだけど、もう一つ伝えることがあるわ」
「伝える事ですか?」
北斗は首を傾げる。
「えぇ。といっても、お願いというのが正しいかしら」
「……聞きましょう」
「……」
パチュリーは後退していく比羅夫号を身ながら、口を開く。
「その前に一つ聞きたいのだけど、蒸気機関車を動かすのに必要な人員は足りているかしら?」
「えっ? 一応今のところは足りますが、今後の事を考えれば不足気味ですが」
北斗は今の機関士、機関助士の配置状況を思い出す。
蒸気機関車を動かすのに必要な人員は最低でも二名。最大でも機関士、機関助士の交代要員として二名を加えて四名ぐらいである。
機関士に関しては、蒸気機関車の神霊の少女達が居るので問題は無く、機関助士も妖精達が居るので実質的に問題は無い。
だが、それはあくまでも神霊の少女が居る罐に限っての事であり、それ以外の、つまり紅魔館の地下で発見されたマレー式タンク型蒸気機関車4500形蒸気機関車と比羅夫号こと7100形蒸気機関車、河童製造のC11 382号機とC12 294号機、そして製造中のC57形蒸気機関車や今後製造されるC63形蒸気機関車等の機関士、機関助士の育成の必要が出ている。
とは言っても、その全てを動かす必要は無いので、ある程度の人員が確保出来れば問題は無い。
実際、機関区内で車輌の入れ替え作業を行うC11 382号機とC12 294号機、保線作業に用いる機関車として運用を予定している4500形の機関士、機関助士の育成を行っており、その中には小傘も居る。
彼女はどうやら機関車の整備の他に、機関士としての講習と実習を受けているとの事。とても器用な妖怪である。
「あの機関車の所有権はこちらにあるから、こちらからその機関士としての要員を派遣しようと考えているのよ」
「なるほど」
「一応今のところこあを機関士見習いとして送るつもりよ」
「えぇっ!?」
するとパチュリーの言葉に隣に立つこあが驚きの声を上げる。
「き、聞いてないですよ、パチュリー様!?」
「そりゃ今初めて言ったんだから」
「そんなっ!?」
あまりにも理不尽な物言いの主にこあは驚くしかなかった。
「あの、本当に大丈夫なのですか?」
「最近新しく小悪魔を召喚したから、こっちの問題は無いわ」
「でも、新しく召喚した小悪魔の教育とかは経験の長い方がするべきでは?」
北斗がそう問い掛けると、こあは「もっと言ってやってください」と言わんばかりに彼に催促をジェスチャーで伝える。
「ここあとここでも教育は出来るから、こあがいなくても問題無いわ」
「そうですか」
パチュリーの言葉にこあがショックを受けた様子を見せて、北斗はなんとも言えない気持ちになる。
(全く。レミィも面倒な事を考えるわね)
当の本人は内心呟き、少し前のことを思い出す。
永遠亭に北斗が入院している時、彼の見舞いに行った後、レミリアとパチュリーが話をした後、レミリアが思いついた案。
それは彼の元へ機関士見習いとしてこあを送り込むことで、北斗の動向を監視する為である。
レミリアは自身が見た不穏な未来を示唆している光景から、その未来を避けるべく北斗の動向を見る必要があった。
しかし北斗の動向を常に見るのは出来ないし、出来るように彼を紅魔館へ連れて行こうとしようものなら、早苗を筆頭に、守矢の二柱の怒りを買うのは必須だ。
守矢勢の怒りを買わないように北斗の動向を見張るにはどうするか。そこでレミリアが考え付いたのは、紅魔館の者を幻想機関区に住まわせるというものだ。
しかしそうなると、向かわせる者を慎重に選ばないといけない。その上、不自然さも無く、不審に思われないようにちゃんとした理由がなければならない。
最初は紅魔館の門番である美鈴を幻想機関区の門番として出向させるという案が浮かんだが、その間の紅魔館の警備が疎かになってしまったら元も子もないので、却下された。
しかし幻想機関区の警備自体はかなり強い上、幽玄魔眼が加わった事で、出向させる必要性がそもそもなかった。
次に咲夜を北斗の手伝いとして送り込むのも一応考えたものも、彼女無しでは紅魔館の管理運営が成り立たないので、当然ながら却下された。
これに関しては、北斗の手伝いは夢月や幻月、エリス、そして早苗にも出来る事なので、これもわざわざ送る必要性がなかった。
パチュリーに関しては、紅魔館の地下にある図書室の管理する者が必要なので、却下された。そもそも送り込む理由が無い。
フランは仕事そっちのけで北斗の傍に居そうになるから、却下。
メイド妖精はちゃんと監視としての仕事がこなせるかどうかの不安があったので、却下。
で、最終的に決まったのが、小悪魔のこあであったのだ。送り込む理由も7100形蒸気機関車の機関士見習いとして学ばせる為である。
しかしこういう大事な事は、事前に当の本人に話しておくべきではないだろうか……
「それで、どうかしら?」
「……」
北斗は腕を組み、静かに唸る。
「……まぁ、こちらとしては、断る理由はありません」
「……」
「しかし、すぐにとは言えません。この話は日を改めて返答させてもらいます」
「そう。まぁ、今日はあくまでもこの話を伝えるのが目的だから、今日答えを聞こうってわけじゃないわ」」
パチュリーはそう言うと、こあの方を向き、何やら小さい声で彼女と話している。
「……」
北斗は二人の様子を一瞥し、煙を吐き出して前進する比羅夫号を見る。
幻想郷とは違う、とある場所。
「アァァァァァァァァァ!!! もういやだぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
何やら女性の悲痛な、というより物凄く嫌そうな叫びが響く。しかも防音対策がされているはずの部屋からである。
「一体何の騒ぎですか、教授」
と、自動ドアが開かれて部屋に一人の少女が呆れた様子で入ってくる。
明るめの金髪を青い玉の髪留めでツインテールにして、髪と同じ色をした瞳をしている。水兵を髣髴とさせる錨マークの入った帽子にセーラー服、短パンといった服装をした少女である。
彼女の名前は『北白河ちゆり』。とある人物の助手を務めている少女である。
「だって、聞いてよ、ちゆり!!」
その少女の視線の先には、一人の女性が部屋の床に仰向けに倒れて、駄々をこねる子供のように暴れていたが、少女を見るなり、サッと立ち上がる。
赤い髪を三つ編みにして、白いシャツ以外は全身を赤い服装で包んだ女性である。
彼女の名前は『岡崎夢見』。大学教授をしている女性である。
「あのジジィ共!! 自分たちの管轄外だからって、私に仕事を押し付けやがって!! 私だって暇じゃないんだぞ!?」
「だからって、防音対策のされている部屋から声が漏れるほどの叫びを上げないでくださいよ。近所迷惑ですから」
「近所に住んでいる人居ないでしょ!」
「言葉の綾ってやつですよ」
そんな風なやり取りをしてから、夢見は宙に浮いている椅子に座り、ちゆりも近くに浮いている椅子を呼び寄せて座る。
「全く。最近こればかりで気が滅入るわ」
夢見は愚痴りながら宙に半透明のキーボードらしき物が現れ、そのキーボードを操作すると、突然暖かいココアが入ったマグカップが出現し、彼女はそれを受け取る。
「それだけ教授の実力が認められ始めているという事ですよ。少し前まで失笑ばかり買っていましたし」
「嬉しくない言い方ね」
不満げに彼女はそう言うと、マグカップを口につけてココアを飲む。
「それで、どうするんですか?」
「別に。押し付けられたといっても、別に難しいものじゃないし、ちゃんと期限内で終わらせられるわ」
「それは何よりですね」
「ふん」と彼女は鼻を鳴らし、ココアを飲み干す。
「あーあ。頭が冴えないわ。これじゃうまく作業を流せないわね。別のことをして頭をスッキリしないと」
苛々気味でぼやくと、マグカップを机に置く。
「で、何をするつもりなんですか?」
「何をって? そりゃ決まっているじゃない」
夢見はニヤリと笑みを浮かべる。
「イイ所に出かけるわよ」
「その笑顔が怪しいですね。そもそも仕事があるのに」
「期限内に終わらせれば問題無いわ。ジジィ共も急かしていた様子はないし」
「はぁ。全く。また期限ギリギリになって慌てないでくださいよ」
「今度は大丈夫よ」
と、彼女はニッと笑みを浮かべてサムズアップする。
「それで、どこに行くんですか?」
ちゆりはため息をついて呆れた様子を見せるも、どこか楽しみにしているようにも見える。
夢見を止めない辺り、それなりに信頼感を抱いているのだろう。
ちゆりが問い掛けると、夢見はニッと笑みを浮かべて、こう答えた。
「気晴らしに、幻想郷に出かけるわよ!」
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