東方鉄道録‐幻想の地に汽笛は鳴り響く‐   作:日本武尊

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コロナの影響で運休が続いていたSL北びわこ号が運転終了しましたね……
終了の要因はコロナも絡んでいますが、大きくは客車側に問題があるようですね。C56 160号機が牽いていたイメージが強かったです。

本当に残念です。


第118駅 違和感

 

 

 

 

 

 月日は流れ、冬も終盤を迎えた幻想郷。

 

 

 雪も殆どが解けて、所々に春の訪れを感じさせる物が出始めている。

 

 

 

 人里近くにある畑では、農家達が冬を迎える前に畑に施していた冬支度を片付け、次の作物を育てる為の準備を行っている。

 

 すると、甲高い汽笛の音がして農家達が畑の近くにある線路を見る。

 

 人里方面より18633号機が旧型客車『スハ43』四輌を牽引する博麗神社行きの列車が走ってきた。

 

 8620形蒸気機関車の古典機の特徴を色濃いく残し、化粧煙突に除煙板(デフレクター)の無い、スタンダードな8620形の特徴を持つ18633号機は、化粧煙突より白煙を吐き出しながら線路を走る。

 

 農家達が手を振るうと、機関車を操る霜月(18633)は汽笛を鳴らす紐を引き、三音室特有の甲高い汽笛を鳴らして応え、機関助士の妖精が手を振るう。

 

 農家達に見送られながら、列車は博麗神社を目指して走っていく。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 所変わり、人里。

 

 

「ありがとうございます」

 

 家の家主にお礼を言いながら、鈴仙は家を出て引き戸を閉める。

 

「えぇと、里での薬の配達はこれで終わりね」

 

 鈴仙は懐より配達先をメモした紙片を取り出し、配達先の確認をする。さっき薬の配達をした家が最後である。

 

「となると、次は……」

 

 彼女は紙片を懐に戻し、人里の端にある駅舎を見る。

 

 

 

 人里の駅舎では、博麗神社行きの列車が出発した後なので、駅はガランとしている。居るとしても駅員の妖精達が箒を片手に塵取でゴミを掃いている。

 

 しかしその駅舎の傍にある操車場では、一組の列車が出発準備を進めている。

 

 列車の先頭には、門デフに丸型の蒸気ドームと角型の砂箱を持ち、緑地のナンバープレートを持つ、特徴の多いC11 260号機の姿があった。

 そんな特徴の多いC11 260号機が煙突横にある排気管より一定の間隔で蒸気を噴射しながら、出発を待っている。

 

 その後ろには有蓋車『ワム90000』が二輌、車掌車『ヨ8000形』が一輌の計三輌が繋がれており、ワム90000に妖精達が人里にある各々の店で購入した品々や食料を積み込んでいる。

 

「……」

 

 C11 260号機の運転室(キャブ)では、行橋(C11 260)が肘掛けに肘を置き、窓から頭を出して周囲を見渡している。

 

「あっ、鈴仙さん!」

 

 運転室(キャブ)から鈴仙の姿を確認した行橋(C11 260)が大きな声を上げながら手を振るう。

 

「こんにちは」と、鈴仙は機関車の傍まで来て頭を下げる。

 

「もう出発できますか?」

 

「あと少し荷物の積み込みがありますので。それと、区長も待っていないと」

 

「えっ? 北斗さんも来ているの?」

 

 鈴仙は少し驚いた様子で聞き返す。

 

「はい。何でも人里で買いたい物があって、この列車に同行しまして」

 

「そうなんですか」

 

 鈴仙はどこか落ち着かない様子になり、周囲を見渡す。

 

「北斗さんはいつ頃戻りそうですか?」

 

「あぁ、それなら―――」

 

 

「こんにちは、鈴仙さん」

 

「ひゃいっ!?」

 

 と、後ろから声を掛けられて鈴仙は思わず変な声が出て飛び跳ねる。

 

 彼女はとっさに後ろを振り向くと、そこには紙袋を抱える北斗の姿があった。

 

「ここ、こんにちは……北斗さん」

 

 鈴仙は恥ずかしい所を見られて、赤くなっている顔を隠すように被っている笠を深々と被りながら挨拶を返す。

 

「待たせてしまいましたか?」

 

「い、いえ。今来たばかりですので」

 

「そうですか」と彼は呟いて頷く。

 

「あ、あの、北斗さん」

 

「何でしょうか?」

 

「その、人里で何を買ったんですか?」

 

 と、鈴仙は北斗が抱えている紙袋を見る。

 

「あぁ、これですか? 人里の本屋で買った写真集です」

 

 と、北斗は紙袋より一冊の写真集を取り出す。

 

「写真集……天狗が販売している蒸気機関車のですか?」

 

「はい」

 

 と、鈴仙は最近人里にて耳にする天狗が出している蒸気機関車の写真集を思い出してそう言うと、北斗は頷く。どことなくその表情は嬉しそうである。

 

 

 一部の物好きな鴉天狗が蒸気機関車を撮影しているのは知られているが、その中には写真集を作り、それを変装した鴉天狗が本屋に卸して販売している。

 本としては割高であるが、鴉天狗ならばではの上空からのアングルや迫力ある構図等、撮影技術のある鴉天狗によって撮影された写真はどれも構図が良い。

 

 割高ではあるが、天狗が出している蒸気機関車の写真集は普段見れない場所や構図での写真が多いとあって、人里では結構人気のようである。

 

 

「……その、蒸気機関車はいつも間近から見ているのに、わざわざ写真集を買う必要って……」

 

「例え見慣れたものでも、普段見れない角度からや、別視点からの写真は新鮮なものですよ。それに、撮影者が上手いですから、とても写りがいいんですよ」

 

「は、はぁ」

 

 熱心に語る北斗に姿に、鈴仙は苦笑いを浮かべる。

 

(それだけ、蒸気機関車が好きなんだ)

 

 苦笑いを浮かべた彼女であったが、内心はその一つの事に熱心になる北斗の姿に、少しだけ羨ましく思えた。

 

 

 

「ねぇ、それなに?」

 

「これ? 綺麗で変わった形しているから拾ったの」

 

 と、そんな二人をよそに、作業員の妖精は何やら短く会話を交わし、拾った物を貨車に載せる。

 

 

 その後荷物の積み込みが完了し、北斗と鈴仙はヨ8000形に乗り込み、C11 260号機は汽笛を鳴らして幻想機関区を目指して出発する。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 しばらくC11 260号機が牽く臨時列車は、幻想郷の平原に敷かれた線路を走っていき、幻想機関区へ到着する。

 

 

 列車は待避線へと入って停止後、すぐに作業員の妖精達がワム90000より荷物を下ろしていき、その間に北斗と鈴仙がヨ8000形より降りる。

 

 鈴仙が幻想機関区へ訪れたのは、彼の元に薬を渡すと共に、彼の体調を確認する為だ。

 

 退院してから時間は経っているが、まだ予断を許さないということで、鈴仙が来て北斗の診察を行い、薬を渡している。

 尤も、それらは建前であって、実際の目的は異なるのだが。

 

 

「……」

 

 鈴仙は笠の顎紐を解いて頭から取ると、笠に隠されていた彼女の兎の耳が立ち上がる中、周囲を見渡す。

 

(やっぱり、幻想郷の中だとここは異質ね)

 

 彼女は内心呟きつつ、幻想機関区の異質さを改めて確認する。

 

 幻想郷から見れば先に進んだ光景だが、鈴仙から見れば大きく遅れた光景という、異質さがこの幻想機関区にあるのだ。

 

(それに、時代遅れの蒸気機関を用いているのに、この辺りの空気は淀んでいないわね。物質を燃焼させている以上、空気が汚れるはずなのに)

 

 鈴仙は石炭や油の臭いを嗅ぎつつ、空を見上げる。

 

 蒸気機関車は石炭を燃焼させる以上、煙突からは燃焼ガスと煤を吐き出しているので、空気汚染を引き起こしてしまう。その上その煙による煙害も問題になっていたので、無煙化が進められた。

 

 しかし、石炭や油の臭いはするが、空気はなぜか汚れていない。

 

「……」

 

 鈴仙は疑問を抱きながらも、北斗に連れられて宿舎へと向かう。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「……」

 

 鈴仙は北斗の左腕を診て、あの時の傷の状態を確認している。

 

 妖怪によってつけられた傷は、大きな痕として痛々しく残っている。

 

 

 

「どうでしたか?」

 

 北斗はシャツを着ながら鈴仙に問い掛ける。

 

「そうですね。診た感じ特に問題は無さそうですが、師匠の判断待ちですね」

 

 鈴仙は鞄に北斗より採取した血液を入れた試験管を仕舞い込みながら、答える。

 

「採取した血液を調べて師匠の判断次第で、薬も届ける必要がなくなりますね」

 

「そうですか」

 

 北斗は頷くと、執務机に置かれている薬が入った紙袋を見る。

 

「……」

 

 鈴仙は鞄を硯に仕舞うと、薬が入った紙袋を見る北斗を一瞥する。

 

(そっか。師匠の判断次第で、もうここには来なくなるのね……)

 

 彼女はそう思うと、悲しげな表情を浮かべる。

 

 鈴仙がここに来るのは、北斗に薬を渡すためであり、永琳の判断次第では、ここに薬を届けに行く必要は無い。

 

(でも、時間があれば会いに行けるから、別に会えなくなるわけじゃ……)

 

 と、ポジティブに考えるも、ふと違和感を覚える。

 

(あれ? 何で私、北斗さんに会えなくなるのが残念だと思っているの?)

 

 彼女は北斗に会えなくなる残念さを覚える自分に疑問を抱く。

 

(私は……別に、そんな……)

 

 違うと思っても、正しいと思う自分が居て、彼女は内心混乱する。

 

 

「―――さん、鈴仙さん!」

 

「はぅっ!?」

 

 と、北斗から大声で呼ばれて、鈴仙はようやく気づき、変な声を漏らす。

 

「な、なんですか?」

 

「いえ、さっきから呼んでいたんですが、鈴仙さんがボーとしていたので」

 

「そ、そうですか。すみません」

 

 鈴仙は顔を赤くして戸惑いながらも、北斗に謝る。

 

「……」

 

 

 その後、鈴仙は検修明けのC56 44号機が牽くスハ43二輌の先頭車に乗り込み、試運転に便乗して迷いの竹林前まで送ってもらった。

 

 

「……」

 

 鈴仙が帰った後、北斗は宿舎を後にして機関車達が収納されている扇形機関庫へとやってきた。

 

 機関庫では、9677号機とD61 4号機が本線デビューに向けて調整が行われている。機関車の傍では整備員の妖精や『習志野(9677)』と『深川(D61 4)』の姿がある。

 ちなみに二人の名前はそれぞれの最期の地の名前が由来になっている。

 

 機関庫の隅では、D62 20号機とC59 127号機が整備員の妖精達の手で整備が行われている。特にC59 127号機は薄く埃が被ったボイラーを妖精達が布切れで綺麗に拭き取っている。

 

(さて、本当にどうしたものか)

 

 北斗はC59 127号機を見ながら内心呟く。

 

 未だに燃料である重油やその元になる石油の入手の目処が全く立たないままなのだ。

 

 石油が手に入らないということは、12系客車や14系客車、50系客車の発電用ディーゼルエンジンを動かす軽油も手に入らないのだ。

 

(やっぱり、重油専焼式から通常仕様に再改造する必要があるか。となると、河童の皆さんにボイラーや炭水車(テンダー)の製造を依頼する必要があるか)

 

 北斗は河童にC59形蒸気機関車の設計図を渡して、そこにあるボイラーと炭水車(テンダー)の製造依頼を考える。

 

(でも、今はまだC57形の製造に手がいっぱいだろうから、まだ先の話になるか)

 

 現在製造中のC57形蒸気機関車に加え、製造予定のC63形蒸気機関車もあるので、C59 127号機の通常仕様への改造は当分先の話になる。

 尤も、C57形はボイラーと台枠自体は既に完成しており、動輪や先輪、従輪の製造が行われているとか。

 

「……」

 

 

 

「区長ー!!」

 

 と、弥生(B20 15)が小さな身体を必死に走らせて北斗を呼ぶ。

 

弥生(B20 15)。どうした?」

 

「す、すぐに来て欲しいです! なんだか不穏な雰囲気になっているです!」

 

「なんだって?」

 

 弥生(B20 15)の言葉に北斗は首を傾げる。

 

「どういうことだ?」

 

「夢月さんと幻月さんが機関区にやって来たお客さんを見るなり、急に突っかかって、今の状況になっているです!」

 

「夢月さんに幻月さんが? それにお客さん?」

 

 北斗は次々と疑問が浮かぶも、考えるのをやめて弥生(B20 15)に案内してもらう。 

 

 

 

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

 その頃、機関区の端では、まさに一触即発の雰囲気が漂っている。

 

 幻月と夢月の夢幻姉妹。二人とも殺気を隠さずに仁王立ちしている。その二人に対するのは、一人の女性こと、魅魔であった。

 

 遠くでは、幽玄魔眼がいつでも戦えるように、腰に提げている目玉を展開して攻撃態勢を取っている。

 

 その様子を妖精達や、蒸気機関車の神霊の少女達が見守る。

 

 

「一体何事だ!!」

 

 と、北斗が大声を上げながら、そこへ到着する。

 

「見ての通りね」

 

 と、群集に混じっていたエリスが北斗にそう良いながら視線を三人に向ける。

 

「夢月さんと幻月さん。それに、あの人は……」

 

「まーた変わったやつが来たものね。ここって特殊な何かがあるのかしら」

 

「?」

 

 意味深な事を呟くエリスに北斗は首を傾げるも、夢幻姉妹に相対する魅魔が北斗の姿を見つける。

 

 二人は不機嫌な雰囲気を隠す事も無く、渋々と魅魔を北斗の元へと連れて行く。

 

「……」

 

 北斗は息を呑み、気を引き締める。

 

 

 

 

 




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