東方鉄道録‐幻想の地に汽笛は鳴り響く‐   作:日本武尊

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更新が遅れて申し訳ありません。仕事の勤務時間が大きく変わって、どうも調子が良くありません。
とりあえず、無理のない範囲でやっていこうと思いますので、よろしくお願いします。


第119駅 魅魔の目的

 

 

「……」

 

「……」

 

『……』

 

 

 宿舎にある応接室。そこの空気は張り詰めており、一触即発な雰囲気が漂っている。

 

 北斗は緊張した面持ちでソファーに座り、その後ろには幻月と夢月が腕を組んで殺気を隠さずに立つ。その視線の先にはソファーに座り、夢幻姉妹の殺気を気にしていない様子で、お茶を飲んでいる魅魔の姿がある。

 

「すまないね。いきなりやって来て」

 

「い、いえ。それは構いませんが……」

 

 北斗は後ろの姉妹の殺気に息を呑みながらも、そう答える。

 

「あぁ、自己紹介が遅れたね。私の名前は魅魔っていうんだ。ただのしがない悪霊さね。君の噂はかねがね聞いているよ、霧島北斗」

 

「悪霊、ですか?」

 

 魅魔の自己紹介を聞いて、北斗は首を傾げる。

 

 青を基調とした服装を身に纏い、黄色い太陽が描かれた三角帽を被り、全体的に青く装飾が施された服装に青いマントを羽織っている。三日月を模した飾りを先端に持つ杖が傍に立て掛けられている。

 彼女の格好を見ても、悪霊というよりかは、魔法使いの方がまだしっくりくる格好だ。

 

「なーにがしがない悪霊よ。全く」

 

 と、呆れたように夢月が魅魔を見ながらぼやく。

 

「あんた達が私達の世界で暴れたのは、忘れていないわよ」

 

「それはそっちが悪霊をちゃんと管理しなかったのが原因さね。それで幻想郷は大変だったんだ。私や魔理沙、靈夢はその異変解決の為にあんた達の世界に向かっただけさ」

 

「悪霊の管理はあいつらの仕事よ。私達には関係ない話よ」

 

「問題なのは、あんた達が暴れすぎた事よ。あの後どれだけ直すのに時間が掛かった事か」

 

「それは悪かったね。だけど、こっちはこっちで必死だったんだよ」

 

 魅魔は悪びれた様子も無く、お茶を呑んで湯呑をテーブルに置く。

 

「そういや、あんた脚なんかあったっけ?」

 

 と、夢月は魅魔の脚を見て、首をかしげながら問い掛ける。

 

「あぁ、これかい? 所謂世間体を気にしたってやつさ」

 

 魅魔は片足を持ち上げながらそう言うと、直後に彼女の両足は一瞬煙で覆われ、そこには幽霊を髣髴とさせる白い下半身が現れる。

 

 北斗はギョッと驚き、魅魔はすぐにその脚をさっきの人間の脚に戻す。

 

「こうでもしないと、ろくに人里を出歩けないからねぇ」

 

「ふーん」

 

 幻月は興味無さげに声を漏らす。

 

「……それで、魅魔さん」

 

「はいよ」

 

 一瞬呆けていた北斗だったが、気持ちを切り替えて魅魔に問い掛ける。

 

「本日機関区に来られた用件は?」

 

「あぁ、そうだったね。昔話ですっかり忘れるところだったよ」

 

 と、魅魔は姉妹二人を一瞥し、咳払いをして用件を切り出す。

 

「まぁ急に言われても困るのは承知しているけど、今少しだけの間泊まる所を探していてね」

 

「泊まる所、ですか……」

 

「あぁ。靈夢とはちょっとあってね、頼みづらいのさ」

 

「だったらあんたの愛弟子の所に行けば良いじゃないの。一言で了承してくれるわよ」

 

「魔理沙の所にはちょっと、ね」

 

 と、魅魔は視線を逸らしながら答える。

 

「魔理沙さんの事を知っているんですか?」

 

「まぁそうさね。私はあの子の師匠だからね」

 

「えっ? 魔理沙さんの師匠なんですか? それって魔法使いとしての?」

 

「うーん。まぁ魔法使いとしての師匠でもあるけど、全体的な師匠でもあるさね」

 

 その時の事を思い出して魅魔は遠い目をして、「そうなんですか」と北斗は頷く。

 

「それなら、魔理沙さんの所に泊めてもらえば……」

 

「……それは出来ないもんさ」

 

「なぜですか?」

 

「師匠として愛弟子の成長を願うなら、あえて離れるのも一つの愛なのさ。私が近くに居たら、気を使うかもしれないしね」

 

「……」

 

 魅魔の事情を北斗はただ黙って聞く。

 

「それで、自分の所に?」

 

「まぁそうさね。もちろん泊めて貰うからには、自分に出来る事でやらせてもらうよ」

 

「……」

 

 北斗は腕を組み、静かに唸る。

 

 彼自身、別に機関区に居候が増えること事態に困ることは無い。ちゃんと住み込む間は働くという条件をやってくれれば、文句は無い。

 ただ、今回ばかりはなぜか早く判断が付かなかった。

 

「区長。私達は居候の身だからとやかく言うつもりは無いけど、この悪霊を居候に加えるのは、考えた方が良いわよ」

 

「私も姉さんと同意見ね。ろくな事が無いわよ」

 

「揃いも揃って好き放題言ってくれるねぇ」

 

 姉妹二人の遠慮の無い言葉に、魅魔は苦笑いを浮かべる。

 

「せめて理由を言いなさいよ。なんでここじゃなきゃいけない理由をさ」

 

「理由、ねぇ」

 

 夢月がそう問い掛けると、魅魔は顎に手を当てて、北斗を見る。

 

「彼を守る為もある、と言えば信じるかい?」

 

「うわぁ、胡散臭い」

 

 夢月はドン引きな様子で声を漏らす。

 

「まぁ、割と真面目な話さね。この幻想郷には色んな存在が居る。むろん命を脅かすような危険の存在もね。それは身を以って体験しただろうから、分かるだろう?」

 

「……」

 

 魅魔の言葉に、北斗は脳裏に無縁塚で起きた出来事が過ぎり、そのせいか左腕にある傷跡から鈍い痛みが走る。

 

「この幻想郷には妖怪もそうだが、中にはその姉妹のように悪魔だっているし、なんなら神様だっているんだ。当然その全てが善良な存在とは限らない。そんな中で、君のようなただの人間はただ獲物に捉えられる。外の世界の人間なら、尚更さね」

 

「……」

 

 北斗は以前聞いた外の世界の人間が幻想郷で辿る道を思い出し、息を呑む。

 

「幻想郷は……君が思う以上に奇妙で、歪なバランスで保たれているんだ。普通なら外来人で、その上外の世界の設備ごと幻想入りしたのなら多くの勢力から目を付けられ、自分の影響下に置こうと画策する。だが、その前にスキマ妖怪によって密かに処理される場合もあるんだがな」

 

「……」

 

 魅魔の話を聞き、北斗は息を呑む。

 

「スキマ妖怪がなぜそんな事をするのか、理由は分かるかい?」

 

「……いいえ」

 

 北斗は間を置いて答える。

 

「スキマ妖怪は誰よりもこの幻想郷を愛している。故に、その幻想郷に悪影響を及ぼすような存在なら、密かに処理する」

 

「……」

 

「だが、君と蒸気機関車達は処理されず、この幻想郷に存在している。それはつまり、スキマ妖怪からすれば少なくとも君達は無害な存在か、もしくは利用価値がある存在と見られているからだろう。尤も、その真意は本人のみぞ知るだがな」

 

「……」

 

「だからこそ、覚えておくといい。あのスキマ妖怪はこの幻想郷を守る為なら、簡単に処するのも厭わない。例え君が多くの者から慕われていようともね」

 

「……」

 

「それとこれとで、あんたがここに泊まるのとどんな関係があるのよ」

 

 と、しばらく黙っていた夢月が魅魔に問い掛ける。

 

「大有りさね。腕の立つ者が多く居れば、君の身の安全は保障される。それに、この機関区を守る戦力は多い方が君にとって悪い話ではないだろ?」

 

「……」

 

「守りなら別に守矢の風祝や魔法使い、難しいけど博麗の巫女に頼めば問題無いじゃない」

 

「毎回頼めば引き受けてくれるとは限らないだろ? 守矢の風祝は頼めばいつでも何でもするかもしれんが」

 

「……」

 

「兎に角、何事にも万が一というものがあるだろ? この幻想郷なら尚更だ。違うかい?」

 

「万が一、ですか」

 

「……」

 

「……」

 

 北斗は黙り込み、夢幻姉妹は魅魔を睨むように目を細める。

 

 

 

「……」

 

 しばらくして、北斗は浅く息を吐く。

 

「タダでは、泊まらせるわけには行きませんよ」

 

「もちろん。そのつもりさね。あぁ、長く泊り込むつもりはないよ。あくまでも少しだけ寝る場所を貸して欲しいだけさね。食事は必要な時に自分で確保するから、その点の心配しなくても良いよ」

 

「……分かりました」

 

 北斗は頷き、魅魔の泊り込みを許可したのだった。

 

 夢幻姉妹は北斗の決定とあって、それ以上文句は言わなかった。

 

 

 

 

「それで、あいつを泊めても良かったの?」

 

 その後、魅魔が応接室を後にし、少しして夢月が北斗に問い掛ける。

 

「本当なら日を改めて決めようと思っていましたが、何だか長引かせると良くない気がして」

 

「……」

 

 北斗はそう言うと、ため息をつく。夢月もどこか納得がいくのか、何も言わなかった。

 

 長い間いじめや虐待に遭ってきた北斗は、顔色を伺ったり雰囲気を感じ取ったりと、それなりに人を見る目が鋭くなった。魅魔が悪霊だから怪しいのではなく、夢幻姉妹のように過去の出来事から怪しむのではなく、彼女からどことなく怪しい雰囲気があった。

 と、同時にこの手の話は長引かせてもロクなことが無いと、北斗は考えて魅魔を受け入れたのだ。

 

「まぁ、少しの間だけと言っていましたし、その間ちゃんと仕事もするようですし、後は様子見ですね」

 

「……ホント、区長はお人好しね」

 

 半ば呆れたような、しかしどことなく納得したような様子で夢月はそう言ってため息をつく。

 

「あぁ、そうそう。そういやさっき妖精達がこんな物を持ってきたわよ」

 

「?」

 

 と、夢月は椅子の陰からある物を取り出し、北斗に差し出す。

 

「なんだこれ?」

 

 北斗は夢月からそれを受け取り、首を傾げる。

 

 台座に水晶が乗せられ、その上四角錐が乗せられているものであり、どことなく神秘的な雰囲気がある。

 

「さぁ? 妖精達は人里で拾ったって言っていたわよ」

 

「拾ったって……」

 

 北斗は妖精の気ままな性格に苦笑いを浮かべる。

 

 真面目に働く幻想機関区の妖精だが、根本は他の妖精達と同じようである。

 

 

「それにしても、立派な代物ですね」

 

 北斗は手にしたそれを色んな角度からまじまじと見つめる。

 

 作りといい、間にある水晶といい、作りはそうだが、かなりの年代物であるのは間違いない。

 

「そんな物を落とすなんて、持ち主はよほどマヌケね」

 

「は、はぁ……」

 

 歯に絹を着せない夢月の言葉に、北斗は苦笑いを浮かべる。

 

「じゃぁ、私は掃除に戻るわね」

 

 夢月はそう言って執務室を出ようと扉に向かって歩く。

 

「あっ、夢月さん」

 

「……なに?」

 

 すると北斗が夢月を呼び止め、彼女は立ち止まって振り向く。

 

「いつも掃除をしてくれて、ありがとうございます」

 

「……っ! 急に、どうしたのよ?」

 

 北斗からお礼を言われて、夢月は戸惑いながらも問い掛ける。

 

「いえ。今日まで文句も言わずに機関区のあちこちを掃除してくれているので、お礼を言おうと思って」

 

「そ、そう。一応住まわせて貰っているんだから、このくらいはね」

 

 どこか恥ずかしそうに頬を掻きながら、夢月は答える。

 

「そ、それで、用はそれだけ?」

 

「はい。引き止めてすみません」

 

「別に、良いわよ……」

 

 夢月は扉の方を向き、小さく呟くと、扉を開けて執務室を出る。

 

「……にしたって、これどうしよう」

 

 夢月が執務室を出た後、北斗は自身が手にしているそれを見ながら、ボソッと呟く。

 

 明らかに持ち主がいる代物なのに、全く違う所に持ってきてしまっている。持ち主は確実に困っているのは容易に想像できる。

 

(持ち主は困っているだろうし、明後日博麗神社に向かう途中で届けに行くか)

 

 本当ならすぐに持って行きたい所だが、今日は時間が無いし、明日は予定が入ってるので、人里に行く余裕が無い。誰かに代わりに持って行かせるというのもあるが、落し物を持って帰ってしまった責任があるので、責任者が謝りに行かないといけない。

 

 北斗はそう考えつつ、それを机の隅に置いて、今後について考えるのだった。

 

 

 

 

「……」

 

 執務室の扉の前で、夢月は俯いて呆然と立ち尽くしている。

 

「……何なのよ」

 

 彼女はそう呟くと、どことなく切ない様子で歩いていく。

 

 

 その頃、幻月によって空き部屋に案内された魅魔は、壁に杖を立て掛けてからベッドに腰掛けて腕を組む。

 

(さてと、霧島北斗との接触は出来たし、後はその時が来るまでここで過ごすかね)

 

 彼女は内心呟くと、浅く息を吐いて右手を開くと、掌に禍々しい光を放つ光玉が現れる。

 

「懐かしいだろう? この風景は」

 

 と、窓から見える景色を見せるように、光玉を窓に近づけると、点滅する。

 

「そうかい。なら、もう少しだけ待ってくれるかい?」

 

 すると光玉は点滅し、魅魔の掌に沈んでいく。

 

(分かっているさね。あれが出来上がれば。時間は掛けないさ)

 

 内心呟き、魅魔は窓から空を見つめる。

 

 

 

 




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