東方鉄道録‐幻想の地に汽笛は鳴り響く‐   作:日本武尊

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第120駅 落とし物の届けと発見

 

 

 

 それからあっという間に二日が経過した。

 

 

 

「……」

 

 人里にて、風呂敷を持つ北斗は目的地を探して歩いていた。

 

(人里に来たは良いけど、どこに預けたら良いんだろうか?)

 

 北斗は内心呟きながら、手にしている風呂敷に包まれている代物を見る。それは妖精達がここで拾った例の代物である。

 

 

 その代物を持ち主に返そうと人里に来たは良いが、そもそもその持ち主が分からないので、探しようが無い。

 

 一応最初は持ち主が探していないか人里を歩いていたが、今のところ何かを探している様子を見せている者は見当たらない。

 

 そのついでにこれを預ける場所を探している。

 

 

(慧音さんに預けようかな。落し物なら自警団に預けた方が落とし主も探しやすいだろうし……)

 

「うーん」と静かに唸りながら内心で呟き、どうするか考える。

 

 

「あれ? 北斗さん?」

 

 と、後ろから声を掛けられて北斗は立ち止まって後ろを振り向くと、そこには早苗が立っている。

 

「早苗さん。信仰活動をしていたんですか?」

 

「はい。先ほどまで守矢の信者に教えを説いていました。北斗さん達のお陰でどんどん信者が増えています」

 

「そうでしたか」

 

 嬉しそうな様子の早苗に、北斗は微笑みを浮かべる。

 

「そういう北斗さんは人里にどんな用で?」

 

「あぁ。それなんですが」

 

 北斗は手にしている風呂敷の結びを解いて中の代物を早苗に見せる。

 

「一昨日妖精達がこれを拾って、そのまま機関区に持って帰ってきてしまったんで、慧音さんか小兎姫さんの自警団の皆様に届けようと思って」

 

「これって、宝塔じゃないですか」

 

「これを知っているんですか?」

 

「はい」

 

 早苗は返事をしながら、北斗が持っている代物こと宝塔と呼ばれる物を見る。

 

「人里から少し離れた場所に『命蓮寺』っていうお寺があるんですが、そこに『寅丸星』っていう、毘沙門天の代理の虎の妖怪が居るんですよ」

 

「毘沙門天?」

 

 ふと、北斗の脳裏に奈良辺りにありそうな厳つい顔の像が思い浮かぶ。

 

「その妖怪の持ち物が、この宝塔なんですよ」

 

「そうなんですか。でも、そうなるとこれってとても大切なものですよね?」

 

「えぇ、まぁ……そうなんですけどね……」

 

 と、早苗は視線を逸らしながら声を漏らす。

 

「星さん……その宝塔をよく落とすみたいなんですよね」

 

「……」

 

 彼女の言葉に北斗は唖然となる。

 

「その、大事な物なんですよね?」

 

「そのはずなんですが……なぜかよく落としていて、その度にお目付け役として『ナズーリン』っていう鼠の妖怪に探してもらっているんですよ」

 

「は、はぁ……」

 

 そんな落とし癖のある者が神様の代理で本当に大丈夫なのか、と北斗は疑いたくなった。

 

「だったら、尚更すぐに落し物で届けないと。えぇと自警団の事務所ってどこでしたっけ?」

 

「それでしたら、私知ってますよ。そこまで案内します」

 

「ありがとうございます」

 

 北斗はお礼を言い、早苗と共に目的地へと向かう。

 

 

 

 二人は人里を少し歩き、自警団の事務所前へとやって来た。

 

「ごめんくださーい!」

 

 早苗は声を上げながら戸を開けて中に入る。

 

「おや? 早苗に北斗じゃないか」

 

 事務所の中には、花果子念報の新聞を広げて読んでいる小兎姫の姿があった。

 

「お久しぶりです、小兎姫さん」

 

「久しぶりだな。慧音から話は聞いているが、大変だったようだな」

 

 彼女はそう言いながら、新聞を折り畳んで机に置く。

 

「そうですね。本当に色々と大変でした」

 

「その様子だと、すっかり良くなっているようだな」

 

「はい。永遠亭の皆様のお陰で」

 

「そうか。それは何よりだな」

 

 北斗の様子から問題なく過ごせているのを察して、小兎姫は微笑みを浮かべる。

 

「それで、今日はどんな用事でここに来たんだ?」

 

「それなんですが……」

 

 と、北斗は手にしている風呂敷を広げて中にある宝塔を見せて差し出す。

 

「これを落し物として預かっていて欲しいんです」

 

「これは、寅丸の宝塔じゃないか。どこでこれを?」

 

 彼女は宝塔を受け取りながら、北斗に経緯を聞く。

 

「それが、一昨日うちの妖精達がこれを拾って、そのまま機関区に持って帰ってしまったんです」

 

「そうなのか。妖精らしからぬ真面目さがあったが、本質は同じようだな」

 

「そうなるんですかね」と呟きながら、北斗は首を傾げる。

 

「というより、持ち主のことを知っているんですか?」

 

「あぁ。よくここの落し物の届けで世話になっているからな。今回もそうなるな」

 

「そ、そうなんですか……」

 

(分かっていましたけど、そんなに落としているんですか、あの代理は)

 

 小兎姫の言葉に北斗は苦笑いを浮かべ、早苗は内心呆れる。

 

「とりあえず、これは預かっておく。近いうちに持ち主が来るだろう」

 

「お願いします」

 

 小兎姫はそう言いながら宝塔を机に置き、北斗は頭を下げる。

 

「それでは、自分達はこれで」

 

「あぁ。近いうちに話し合いがあるだろうから、覚えておいてくれ」

 

「分かりました」

 

 彼女から話し合いの件を聞いてから、北斗と早苗の二人は頭を下げて事務所を後にする。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「北斗さん。この後はどうするんですか?」

 

 自警団の事務所を後にした後、駅舎脇の操車場の入り口をくぐった所で、早苗が北斗に問い掛ける。

 

「この後博麗神社に向かおうと思っています」

 

「博麗神社に、ですか……」

 

 すると早苗の目がスゥ、と細くなる。どことなく威圧感が溢れているようにも見える。

 

「霊夢さんに頼みたい事がありまして。もし魔理沙さんも居れば、彼女にも頼もうと思っています」

 

「……私が居るのに、霊夢さんや魔理沙さんに頼むんですか」

 

 どことなく不機嫌な雰囲気を出しながら、北斗に問い掛ける。

 

「もちろん早苗さんにも頼むつもりです。それに加えて夢月さんや幻月さん、可能なら他に声を掛けられるほどは。今回は人手が多くなければ困るので」

 

「一体何をするつもりなんですか?」

 

「……無縁塚の再調査です」

 

「っ!」

 

 北斗の言葉を聞き、早苗は目を見開く。

 

「ま、まさか、また無縁塚に行く気なんですか?! あんな事があったのに!?」

 

 彼女は驚いた様子で声を上げる。幸い周りには人里の住人は誰も居なかったので注目されることは無かった。その代わり周りで作業をしている妖精達はギョッと驚く。

 

「もちろん、僕だってあそこへは出来るなら行きたいとは思いません」

 

「だったら!」

 

「でも、妖怪の襲撃が遭ったので、調査は途中までしか出来ていません。もし何かしらの見落としがあって、そこの路線を利用することになってその見落としが原因で事故が起きたらいけません」

 

「それは、そうですが……」

 

「それに、個人的に気になることがあります。あの時はそれについて調べられませんでしたし」

 

「北斗さん……」

 

「なので、前回の一件を踏まえて多くの人に護衛を頼みたいんです。もちろん、自分はもしもの時はすぐに客車の中に避難します」

 

「……」

 

 早苗は納得いかない様子だったが、諦めた様子でため息をつく。

 

「……もしもの時があったら、無理やりにでも北斗さんを連れて帰りますからね」

 

「えぇ。無理はしません」

 

 彼女に念を入れてそう言われ、北斗は頷く。

 

 

 

「あっ、区長殿! それに早苗殿!!」

 

 と、後ろから声を掛けられて二人は声がした方を見ると、一人の少女が手を振っている。

 

 ショートカットの黒髪に真っ白な肌をしているのが特徴的な9677号機の神霊の少女こと『習志野(9677)』である。

 ちなみに彼女の名前の由来は、習志野(9677)が所属していた陸上自衛隊唯一の鉄道部隊第101建設隊の所在地である習志野市から来ている。

 

 彼女の後ろには石炭車四輌とヨ8000形一輌編成の列車を前に連結されてバック運転状態の9677号機の姿があり、妖精達が石炭を給炭設備へベルトコンベアを使って運んでいく。

 

「来ていたか、習志野(9677)

 

「はいであります」

 

 習志野(9677)は姿勢を正して敬礼をする。

 

「作業はどのくらいで終わる?」

 

「作業はそろそろ終わる頃であります」

 

 北斗が彼女に声を掛け、習志野(9677)は後ろを振り向いて補給作業を一瞥する。

 

 9677号機の近くの線路では、D62 20号機が炭水車(テンダー)に水と石炭の補給が行われている。

 

「すっかり人里も昔の外の世界になりつつありますね」

 

 早苗は蒸気機関車が居て、その設備がある操車場を見回して、どことなく複雑そうな表情を浮かべる。

 

 以前まで文明開化前の日本の光景であった人里が、昭和初期の田舎の日本の風景になりつつあったのだ。まぁ少なくともここから発展するかどうかと言われると、恐らく無い。

 

 

 

 その後習志野(9677)は自身の機関車に戻り、9677号機を石炭車四輌の後ろに炭水車(テンダー)側に連結して、三音室の汽笛特有の甲高い音を鳴らして幻想機関区を目指して出発する。

 

 北斗は石炭と水の補給を終えたD62 20号機の運転室(キャブ)に乗り込み、前後の安全を確認して汽笛を短く鳴らし、操車場から駅構内へと向かう。

 

 人里の駅の博麗神社側の上り線には、スハ43五輌が置かれている。北斗がD62 20号機で乗って来た際に、車輌牽引の試運転がてら客車を牽いて来たのだ。

 相変わらず蒸気機関車をマイカー感覚で乗っている北斗。世界広といえど、こんな使い方をするのは彼しか居ないだろう。

 

 その前側にD62 20号機が操車場から上り線へと入り、ゆっくりと客車前まで後退してその手前で一旦停止し、作業員の妖精が連結器に異常が無いのを確認して緑旗を振り上げながらホイッスルを吹く。

 それを確認した北斗は汽笛を短く二回鳴らし、D62 20号機を後退させて客車と連結させる。

 

 北斗はそのままスハ43五輌を押して後退し、D62 20号機を駅のホームまで後退させて停車させる。

 

 駅のホームには、早苗がウキウキとした様子で待っていた。

 

「お待たせしました、早苗さん」

 

 北斗はブレーキを掛けて機関士席を立ち、彼女の元へ向かう。

 

「でも、本当に運転室に乗るんですか?」

 

「はい! 貴重な機会ですので、ぜひ!」

 

「頼めばいつでも乗せるんですが……でも、中は暑いですよ?」

 

「承知の上ですし、むしろそれが良いんじゃないですか!」

 

「えぇ……」

 

 分からなくも無い、ズレた感覚に北斗は思わず声を漏らす。

 

「で、では、こちらに」

 

 北斗は戸惑いながらも、早苗を運転室(キャブ)へと案内する。

 

「っ……」

 

 彼女が運転室(キャブ)に入ると、一気にボイラーから発せられる熱が襲い掛かり、早苗は顔を顰める。

 

「前に乗った8620形より、少し狭いんですね」

 

 早苗は熱で顔を顰めながらも、運転室(キャブ)内を見渡す。

 

「ボイラーがでかいですからね。その上自動給炭機(メカニカルストーカー)もありますので」

 

「確か自動で石炭を火室に送り込む装置でしたよね?」

 

「そうですよ」

 

 運転室(キャブ)の床から火室へと伸びる自動給炭機(メカニカルストーカー)を見ながら早苗が問い掛けると、北斗が相槌を打つ。

 

「では、出発しますので、しっかり掴まっていて下さい」

 

「はい」

 

 北斗は早苗に忠告してから、機関士席に座り、窓から頭を出して前後を確認する。早苗は機関士席の後ろにある壁の端を掴む。

 

 作業員の妖精が安全を確認して緑旗を振り上げながらホイッスルを吹く。

 

 緑旗をホイッスルを確認した北斗はブレーキハンドルを回してブレーキを解くと、運転室(キャブ)内に空気が抜けるような音が響き、早苗は少し驚いて身体がビクッと動く。

 

 そして天井から下がっている汽笛を鳴らすロッドを引いて汽笛を鳴らし、加減弁ハンドルを引く。

 

 加減弁が開かれてボイラーから蒸気がシリンダーへと送り込まれ、シリンダー付近の排気管からドレンを吐き出しながらD62 20号機が客車五輌を牽いて前進する。

 

 北斗は再び汽笛を鳴らし、博麗神社を目指して機関車を走らせた。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 その頃、幻想機関区を目指す9677号機が牽く回送列車。

 

「……」

 

 運転室(キャブ)の窓から習志野(9677)が頭を出し、前方を確認しながら加減弁ハンドルを少し引いてシリンダーへ送り込む蒸気の量を増やし、逆転機ハンドルのロックを外して回し、ギアを一段上げる。

 

 隣では機関助士の妖精が左手に焚口戸の蓋に繋がれた鎖を持ち、右手に持つ片手スコップを炭水車に積まれた石炭の山に突き刺し、掬い上げた石炭を左手に持つ鎖を持ち上げて焚口戸を開け、火室へと石炭を放り込む。

 

 投炭を数回繰り返し、機関助士の妖精はボイラーの水位を確認して、片手スコップを道具置きに置く。

 

「……」

 

 機関助士の妖精が習志野(9677)が座っている機関士席の反対側の出入り口から頭を出して前を見る。

 

「っ! 習志野(9677)さん! 線路脇に人が居ます!」

 

「人!? 様子は!?」

 

 習志野(9677)運転室(キャブ)内に響く騒音に負けないぐらい大きな声を上げ、機関助士の妖精に更に情報を求める。

 

 彼女の居る位置では、反対側が死角になっているので、機関助士が基本反対側を確認する。もちろん習志野(9677)自身が確認するわけにはいかない。

 

「あっ! 手を振っています! 何か困っている様子です!」

 

「了解であります!!」

 

 習志野(9677)は大きな声で肯定すると、汽笛を二回鳴らしてからブレーキハンドルをゆっくりと回し、加減弁ハンドルも押し込んでボイラーからシリンダーへ送り込まれる蒸気を遮断する。

 機関助士の妖精はボイラーの安全弁を開いて蒸気を放出させる。

 

 彼女はゆっくりとブレーキを掛けて機関車は速度を落としていき、回送列車は線路脇に立っている者の近くで停車する。

 

 習志野(9677)はしっかりブレーキを掛けて、加減弁ハンドルがちゃんと奥まで押し込まれているのを確認してから席を立ち、運転室(キャブ)の反対側へと向かう。

 

 運転室(キャブ)の出入り口から外を見ると、そこには紫色の長髪をポニーテールにした誰かを背負っている一人の少女の姿があった。

 

「どうされましたか?」

 

 習志野(9677)は人を背負っている少女に問い掛ける。

 

「す、すまないが、お前達が住んでいる場所に連れて行ってくれないか? 背負っている人間をどうにかしないといけないからな」

 

 少女は背負っている者を見ながら習志野(9677)に説明する。

 

「一体何があったのでありますか?」

 

「さぁな。この人間が倒れているのを見つけて、一応生きているから運んでいたんだが」

 

 少女はそう言うと、習志野(9677)を見る。

 

「……」

 

 習志野(9677)は少女が背負っている者を見る。

 

 紫色の長髪をポニーテールにして、格好はどことなく昔の武士のような服装に近い。

 

 見るからにぐったりとした様子で、とてもつらそうにしている。

 

「……分かりました。すぐに運びましょう!」

 

 習志野(9677)は背負われている者の様子から、助ける決意を固める。かつて人を救う任務に就いていたとあって、困っている人を見ると助けずには居られないのだろう。

 

 すぐに彼女は運転室(キャブ)から降りて少女を列車の最後尾にあるヨ8000形へと案内して、背負われている者を二人掛かりで車掌車へと運び込む。

 

「一応、あなたのお名前をお聞かせ頂けませんか?」

 

「私の、名前か……」

 

 少女は一瞬名前を言うのを躊躇うも、口を開く。

 

「……みとりだ」

 

「みとり殿ですね。申し訳ありませんが、区長殿に状況を説明してもらう必要があるので、同行を願うであります」

 

「問題無い。私もお前達が住んでいる所に用がある」

 

「そうですか。了解であります」

 

 習志野(9677)は頷くと、車掌車を降りて9677号機の運転室(キャブ)に戻り、機関士席に座ってブレーキハンドルを回し、ブレーキを解く。

 

 その後汽笛を鳴らして加減弁ハンドルを引き、ゆっくりと機関車を前進させる。

 

「……」

 

 少女ことみとりは床に寝せられている者を一瞥して、走り出した列車の外の景色を見つめる。

 

 

 

 




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