東方鉄道録‐幻想の地に汽笛は鳴り響く‐   作:日本武尊

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第127駅 彼女達の過去

 

 

 

 

 電話で守矢神社とのやり取りを終えた後、早苗は食堂の調理場にある冷蔵庫の中に入っている食材を使って夕食を作り、北斗と共に食事を取った。

 

 しかし冷蔵庫にはタマネギとネギが大半を占めているという異様なものであって、早苗が北斗に好きでも食べ過ぎであると怒った場面があったとか何とか。

 いくら身体に良くても、食べ過ぎは逆に身体に毒なのだ。

 

 そんなかんやで、早苗は北斗に人里で一緒に食材を買う約束を取り付けることになったという……

  

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 それからしばらくして……

 

 

 

「ふぅ……」

 

 早苗は肩まで湯に浸かり、ゆっくりと深く息を吐く。

 

(それにしても、広いですねぇ……)

 

 彼女は周囲を見渡しながら、内心呟く。

 

 

 現在早苗は宿舎にある風呂場にて入浴しており、銭湯のような広い風呂場には蒸気機関車の神霊達や居候組が入浴している。

 

 今の時間は女湯の時間であり、この後妖精達が入浴し、北斗はその後に入浴するそうである。

 

 ちなみに男湯の時間で入浴するのは、何も北斗だけではなく、妖精達の中には性別が男の個体も居るわけだし、研修で来ている河童達の中に居る男も入ることがある。

 

 

「……」

 

 ふと、早苗は周囲を見渡し、蒸気機関車の神霊の少女達を見る。

 

(こうして見ると、皆さん美人揃いですよね)

 

 彼女は内心呟きながら、神霊の少女達を見比べていく。

 

 幻想郷ではなぜか顔面偏差値が高いようであり、美女美少女が多い。当然早苗もその内に含まれる。

 その事象は蒸気機関車の神霊の少女達にも言えた。

 

 その上スタイルも全体的に良いようで、葉月(C10 17)睦月(C11 312)熊野(C12 208)行橋(C11 260)島原(C12 06)のタンク型の神霊でも、中学生ぐらいの年頃の女の子ぐらいな見た目でありながら、発育の良いスタイルをしている。

 しかし弥生(B20 15)のように幼い見た目相応な身体つきをしているものもいれば、高校生ぐらいの見た目であるが、発育はそこまで良くないという夕張(E10 5)の例もある。

 

 テンダー型の神霊となれば、全員が容姿が整い、スタイルも良い者がほとんどだ。中には長月(C59 127)のように、スタイルが良い上に腹筋が割れ、アスリートのような適度に筋肉が付いている者も居る。

 

 しかし中には例外も居るようで、同じD51形でも、神流(D51 1086)だけ他の三人と違って、少し起伏が浅いのだ。これは彼女が資材を節約し工程を省略して作られた戦時型のD51形だからだと思われる。

 

 

 と、まぁ早苗は神霊の少女達のスタイルの良さを見ているが、当の本人もスタイル抜群である。

 

 

「早苗さん」

 

「よっ、早苗」

 

 と、早苗の元に明日香(D51 241)皐月(D51 465)がやってくる。

 

明日香(D51 241)さん。皐月(D51 465)さん」

 

「どうですか? 幻想機関区のお風呂は?」

 

「そうですね。とても広くて、全体的に綺麗にされていますね」

 

「そりゃ大人数が入れるようになっているし、毎日妖精達と一緒に掃除を欠かさずにやっているからな」

 

「そうですか」

 

 早苗は綺麗な浴室を見て、それを実感する。

 

「……」

 

 ふと、早苗は二人の体を見て、ハッとする。

 

 明日香(D51 241)皐月(D51 465)の身体には、広範囲に渡って火傷の痕が残っている。

 

 彼女は近くに居る水無月(D51 603)神流(D51 1086)七瀬(79602)を見る。

 

 三人の身体にも、広範囲に火傷の痕があり、とても痛々しい見た目をしている。特に七瀬(79602)にいたっては全身に亘って火傷の痕が広がっており、人間であれば生きているのが奇跡なレベルである。

 

 そして髪の色は、他の蒸気機関車の神霊の少女の髪の色が黒に対して、彼女達は色が抜けたような灰色をしている。

 ちなみに弥生(B20 15)の髪の色も灰色だが、彼女の場合は事情が違うと思われる。

 

「……? あぁ、気になりますか?」

 

 と、明日香(D51 241)が早苗の視線に気付いて声を掛ける。

 

「す、すみません。気に障りましたか?」

 

「いえ。そんなことはありません」

 

 明日香(D51 241)はそう言うと、腕にある火傷の痕を見る。

 

「私達のこの火傷の痕は……決して忘れられないものですからね」

 

「……」

 

 二人はそれぞれ火傷の痕に手を当て、早苗は北斗から聞いた話を思い出す。

 

 

 D51 241号機とD51 465号機、D51 603号機、D51 1086号機、79602号機の五輌は、追分機関区の機関庫で起きた火災によって被災した蒸気機関車であり、保存予定だった五輌は火災によってボロボロになって、その後一部の部品を残して解体されてしまった。

 

 241号機に関しては、国鉄時代で最後の営業列車を牽引した蒸気機関車であり、79602号機に関しては、国鉄の蒸気機関車としては有火状態で最後まで残った蒸気機関車であった。

 歴史の生き証人とあって、焼失したのは非常に残念な結果であった。

 

 明日香(D51 241)達の火傷の痕は、その時の傷であるのは容易に想像できる。

 

 しかし水無月(D51 603)に関しては、特殊な事情があるだろう。彼女の髪は根元から途中まで黒だが、その先からは灰色になっているという独特な色合いをしている。恐らくこれは焼失した五輌の中で、彼女だけが前部分のみ現存しているからだと思われる。

 

 

(他の皆様と違って、壮絶な最期だったんですよね)

 

 早苗は他の神霊の少女達を見渡しながら、五人の悲惨な最期を想像する。

 

 蒸気機関車の大半が解体される中、この五輌は保存が決まって余生を過ごすはずが、火災によって焼失するという最期を迎える。こんな無残な最期を迎えた蒸気機関車は早々無い。

 

 最もな事を言うと、この五輌よりも悲惨で、無残な最期を迎えた蒸気機関車はまだ多く居るのだが。

 

 

「時折、思い出すんですよね。あの夜の事が……」

 

「……」

 

 明日香(D51 241)がそう言うと、皐月(D51 465)は腕を組んで息を吐く。

 

「つらいですか? 当時の事を思い出した時って?」

 

「そうですね。思い出す度に、傷が痛みます。ここ最近の夢にも、あの時の事が出てきます」

 

「……」

 

「でも……」

 

 と、明日香(D51 241)は早苗を見る。

 

「皆さんと一緒に過ごしていると、少しずつ改善してきています」

 

水無月(D51 603)神流(D51 1086)七瀬(79602)も前より症状は改善されているよ。最初の頃は痛みや夢に悩まされていたからな」

 

「……」

 

「区長には、感謝しかないです。あの人のお陰で、今の私達があるんですから」

 

「そうですか」

 

 彼女の言葉を聴き、早苗は微笑みを浮かべる。

 

 

「何を話しているんだ?」

 

 と、三人の元に大井(C56 44)がやってくる。

 

大井(C56 44)さん。いえ、早苗さんに少し昔の話を」

 

「昔の話か。なるほどね」

 

 大井(C56 44)は三人の近くに座って肩まで湯に浸かる。

 

「……」

 

 早苗は大井(C56 44)を見て、息を呑む。

 

 彼女の身体には、明日香(D51 241)皐月(D51 465)達のような火傷の痕もあれば、切られたような傷跡が身体中にあり、左目があった場所には普段から着けている眼帯からはみ出すぐらい大きな傷跡がある。

 普段ナッパ服に身を包んでいるとあって分からなかったが、よく見ると、手足腕脚にどこか違和感のある形状をしている。

 

「凄いですね」

 

「ん? あぁ、これか」

 

 早苗は思わず声を漏らし、それを聞いた大井(C56 44)は答える。

 

「この傷は戦場で受けたものばかりだな。ここは疲労による傷で、ここは機銃掃射を受けた痕だな」

 

 彼女は自身の体にある傷跡を一つ一つ説明する。その傷が彼女の過去が壮絶なものであるのは容易に想像できる。

 

「あの、大井(C56 44)さん」

 

「なんだ?」

 

 早苗は少し遠慮がちに、大井(C56 44)に問い掛ける。

 

「さっきから気になっているんですが、大井(C56 44)の手足ってなんだかおかしくないですか?」

 

「あぁ、それか。これは……私の手足じゃないからな」

 

「えっ?」

 

 自分の手を動かす大井(C56 44)から衝撃的なことを告げられて、早苗は唖然となる。 

 

「早苗。私がかつて姉妹達と共に海外の戦地へ運ばれたという話は知っているか?」

 

「えっ? は、はい。北斗さんから話は聞いています。太平洋戦争で何輌もの蒸気機関車が軍に供出されて、戦地に運ばれたって。C56形蒸気機関車もその一つだというのも」

 

「そうだ。私達C56形は現地の鉄道規格に合わせて改造を施された後、分解されて船に積み込まれ、南方のビルマへと運ばれて現地で敷設された鉄道にて走ることになった」

 

 大井(C56 44)は顔を上げて天井を遠い目で見つめながら、自分の過去を話す。

 

「まぁ、インフラが整っていない場所に蒸気機関車を運び込むのは大変なことでな。とにかく部品を下ろして、一輌でも多くの罐を組み立てる必要があったから、部品は目に入ったやつから下ろされた。故に組み立てられた罐は、その罐の部品ではなく、様々な罐の部品で組み上げられたんだ。現地で最初に組み上がった私も、特に部品はバラバラだったさ」

 

「……」

 

「だから私の手足は、別の姉妹の手足をものなんだ。もちろん、中身も私本来のものは殆ど残っていない」

 

 彼女の告げた事実に、早苗や明日香(D51 241)皐月(D51 465)は息を呑む。

 

「当時の事は……まぁ色々と思うところはある。異国の地で走り、私達が走っていた鉄道にも戦火が及び、姉妹達が次々と破壊され、多くの人が死んでいった」

 

「……」

 

「戦争が終わり、私を含めた無事な罐は現地で走り続けたが、戦争中の酷使が祟って不具合を興す罐が続出し、運用から離れていった。そして現地でも電化が行われ、蒸気機関車である私達は、その役目を終えた」

 

「……」

 

「でも、私はそこで終わる運命には無かった」

 

 と、大井(C56 44)は微笑みを浮かべる。

 

「私はとある私鉄に引き取られることになり、多くの姉妹達を残すことに後ろ髪を引かれる思いだったが、静態保存用の31号機と共に、祖国へ帰ることになった」

 

「……」

 

「そして私は動態保存機として、そこの私鉄の鉄路でお客を乗せて、走り続けた。といっても、私の体はボロボロで不具合を起こすことが多かった。ボイラーに不具合が見つかって、しばらく走れなくなった。それからして大規模な修繕が決まり、他の機関車から部品を貰って、再び走れるようになった」

 

「……」

 

 早苗は間を置いてから、大井(C56 44)に問い掛ける。

 

大井(C56 44)さん」

 

「なんだ?」

 

大井(C56 44)は……今は楽しいですか」

 

「……」

 

 早苗の問いに、大井(C56 44)は残った右目を瞑り、しばらくして目を開ける。

 

「まぁ、外の世界で走っている頃も楽しかったが、どちらかといえば、今が楽しいな」

 

「そうですか」

 

 大井(C56 44)は笑みを浮かべてそう答える。

 

 

 その後も、早苗は他の蒸気機関車の神霊達と話をして、入浴時間を楽しんだ。

 

 

 

 




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