電話で守矢神社とのやり取りを終えた後、早苗は食堂の調理場にある冷蔵庫の中に入っている食材を使って夕食を作り、北斗と共に食事を取った。
しかし冷蔵庫にはタマネギとネギが大半を占めているという異様なものであって、早苗が北斗に好きでも食べ過ぎであると怒った場面があったとか何とか。
いくら身体に良くても、食べ過ぎは逆に身体に毒なのだ。
そんなかんやで、早苗は北斗に人里で一緒に食材を買う約束を取り付けることになったという……
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それからしばらくして……
「ふぅ……」
早苗は肩まで湯に浸かり、ゆっくりと深く息を吐く。
(それにしても、広いですねぇ……)
彼女は周囲を見渡しながら、内心呟く。
現在早苗は宿舎にある風呂場にて入浴しており、銭湯のような広い風呂場には蒸気機関車の神霊達や居候組が入浴している。
今の時間は女湯の時間であり、この後妖精達が入浴し、北斗はその後に入浴するそうである。
ちなみに男湯の時間で入浴するのは、何も北斗だけではなく、妖精達の中には性別が男の個体も居るわけだし、研修で来ている河童達の中に居る男も入ることがある。
「……」
ふと、早苗は周囲を見渡し、蒸気機関車の神霊の少女達を見る。
(こうして見ると、皆さん美人揃いですよね)
彼女は内心呟きながら、神霊の少女達を見比べていく。
幻想郷ではなぜか顔面偏差値が高いようであり、美女美少女が多い。当然早苗もその内に含まれる。
その事象は蒸気機関車の神霊の少女達にも言えた。
その上スタイルも全体的に良いようで、
しかし
テンダー型の神霊となれば、全員が容姿が整い、スタイルも良い者がほとんどだ。中には
しかし中には例外も居るようで、同じD51形でも、
と、まぁ早苗は神霊の少女達のスタイルの良さを見ているが、当の本人もスタイル抜群である。
「早苗さん」
「よっ、早苗」
と、早苗の元に
「
「どうですか? 幻想機関区のお風呂は?」
「そうですね。とても広くて、全体的に綺麗にされていますね」
「そりゃ大人数が入れるようになっているし、毎日妖精達と一緒に掃除を欠かさずにやっているからな」
「そうですか」
早苗は綺麗な浴室を見て、それを実感する。
「……」
ふと、早苗は二人の体を見て、ハッとする。
彼女は近くに居る
三人の身体にも、広範囲に火傷の痕があり、とても痛々しい見た目をしている。特に
そして髪の色は、他の蒸気機関車の神霊の少女の髪の色が黒に対して、彼女達は色が抜けたような灰色をしている。
ちなみに
「……? あぁ、気になりますか?」
と、
「す、すみません。気に障りましたか?」
「いえ。そんなことはありません」
「私達のこの火傷の痕は……決して忘れられないものですからね」
「……」
二人はそれぞれ火傷の痕に手を当て、早苗は北斗から聞いた話を思い出す。
D51 241号機とD51 465号機、D51 603号機、D51 1086号機、79602号機の五輌は、追分機関区の機関庫で起きた火災によって被災した蒸気機関車であり、保存予定だった五輌は火災によってボロボロになって、その後一部の部品を残して解体されてしまった。
241号機に関しては、国鉄時代で最後の営業列車を牽引した蒸気機関車であり、79602号機に関しては、国鉄の蒸気機関車としては有火状態で最後まで残った蒸気機関車であった。
歴史の生き証人とあって、焼失したのは非常に残念な結果であった。
しかし
(他の皆様と違って、壮絶な最期だったんですよね)
早苗は他の神霊の少女達を見渡しながら、五人の悲惨な最期を想像する。
蒸気機関車の大半が解体される中、この五輌は保存が決まって余生を過ごすはずが、火災によって焼失するという最期を迎える。こんな無残な最期を迎えた蒸気機関車は早々無い。
最もな事を言うと、この五輌よりも悲惨で、無残な最期を迎えた蒸気機関車はまだ多く居るのだが。
「時折、思い出すんですよね。あの夜の事が……」
「……」
「つらいですか? 当時の事を思い出した時って?」
「そうですね。思い出す度に、傷が痛みます。ここ最近の夢にも、あの時の事が出てきます」
「……」
「でも……」
と、
「皆さんと一緒に過ごしていると、少しずつ改善してきています」
「
「……」
「区長には、感謝しかないです。あの人のお陰で、今の私達があるんですから」
「そうですか」
彼女の言葉を聴き、早苗は微笑みを浮かべる。
「何を話しているんだ?」
と、三人の元に
「
「昔の話か。なるほどね」
「……」
早苗は
彼女の身体には、
普段ナッパ服に身を包んでいるとあって分からなかったが、よく見ると、手足腕脚にどこか違和感のある形状をしている。
「凄いですね」
「ん? あぁ、これか」
早苗は思わず声を漏らし、それを聞いた
「この傷は戦場で受けたものばかりだな。ここは疲労による傷で、ここは機銃掃射を受けた痕だな」
彼女は自身の体にある傷跡を一つ一つ説明する。その傷が彼女の過去が壮絶なものであるのは容易に想像できる。
「あの、
「なんだ?」
早苗は少し遠慮がちに、
「さっきから気になっているんですが、
「あぁ、それか。これは……私の手足じゃないからな」
「えっ?」
自分の手を動かす
「早苗。私がかつて姉妹達と共に海外の戦地へ運ばれたという話は知っているか?」
「えっ? は、はい。北斗さんから話は聞いています。太平洋戦争で何輌もの蒸気機関車が軍に供出されて、戦地に運ばれたって。C56形蒸気機関車もその一つだというのも」
「そうだ。私達C56形は現地の鉄道規格に合わせて改造を施された後、分解されて船に積み込まれ、南方のビルマへと運ばれて現地で敷設された鉄道にて走ることになった」
「まぁ、インフラが整っていない場所に蒸気機関車を運び込むのは大変なことでな。とにかく部品を下ろして、一輌でも多くの罐を組み立てる必要があったから、部品は目に入ったやつから下ろされた。故に組み立てられた罐は、その罐の部品ではなく、様々な罐の部品で組み上げられたんだ。現地で最初に組み上がった私も、特に部品はバラバラだったさ」
「……」
「だから私の手足は、別の姉妹の手足をものなんだ。もちろん、中身も私本来のものは殆ど残っていない」
彼女の告げた事実に、早苗や
「当時の事は……まぁ色々と思うところはある。異国の地で走り、私達が走っていた鉄道にも戦火が及び、姉妹達が次々と破壊され、多くの人が死んでいった」
「……」
「戦争が終わり、私を含めた無事な罐は現地で走り続けたが、戦争中の酷使が祟って不具合を興す罐が続出し、運用から離れていった。そして現地でも電化が行われ、蒸気機関車である私達は、その役目を終えた」
「……」
「でも、私はそこで終わる運命には無かった」
と、
「私はとある私鉄に引き取られることになり、多くの姉妹達を残すことに後ろ髪を引かれる思いだったが、静態保存用の31号機と共に、祖国へ帰ることになった」
「……」
「そして私は動態保存機として、そこの私鉄の鉄路でお客を乗せて、走り続けた。といっても、私の体はボロボロで不具合を起こすことが多かった。ボイラーに不具合が見つかって、しばらく走れなくなった。それからして大規模な修繕が決まり、他の機関車から部品を貰って、再び走れるようになった」
「……」
早苗は間を置いてから、
「
「なんだ?」
「
「……」
早苗の問いに、
「まぁ、外の世界で走っている頃も楽しかったが、どちらかといえば、今が楽しいな」
「そうですか」
その後も、早苗は他の蒸気機関車の神霊達と話をして、入浴時間を楽しんだ。
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