東方鉄道録‐幻想の地に汽笛は鳴り響く‐   作:日本武尊

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本作を投稿して三周年となりました。時が経つのは早いですねぇ。

この作品も中盤を迎え、これから様々な謎が解明されていきます。

これからも、本作をよろしくお願いします!


第128駅 外の世界での出来事

 

 

 

 

 暗い闇の中、私は一人静かに歩いている。

 

 

 なぜこんな中を私は歩いているのだろうか。疑問は浮かぶが、違和感は無い。

 

 

 私は慌てることなく、ゆっくりと暗闇の中を歩く。

 

 

 

 ふと、周囲から視線を感じて、私は辺りを見渡す。

 

 周りには白い目が私を見ている。

 

 

 その目を、私は知っている。今でも思い出す……忌々しく、思い出したくない目だ……

 

 

 

『あれが東風谷っていってな、神様が見えるって言っている頭がおかしいやつだぜ!!』

 

『神様が見えるとか、可笑しいんじゃないの? キモッ』

 

『近寄んな! お前の馬鹿が移るだろうが!!』

 

 

 私の事を笑い、罵倒し、白い目で見る同級生の姿。

 

 何が可笑しい。見える私が可笑しいなんて、誰が決めた……

 

 

『あ、あの、東風谷さん。私東風谷さんの事、嫌いじゃないの。でも、一緒に居ると私まで可笑しく見られてしまうから……もう、話しかけてこないで』

 

 

 泣きそうな顔で私を拒絶する同級生。

 

 嫌いなら、そんな事を言うわけがない。自分が大切だから、他人の事はどうでも良いんだ。所詮その程度しか思っていなかったのだろう。

 

 

『東風谷さん。君の家の事情は知っているけど、公の場で神様が見えるなんてことはなるべく言わないで欲しいかな。正直に言うと、馬鹿馬鹿し過ぎて、もう庇えないよ』

 

『いいですか、東風谷さん。もう中学生なんですから、神様が見えるなんて逃避はやめて、現実を見てください。そんなんじゃ、ロクな大人になりませんよ』

 

『東風谷さんは頭が良いからね。でもね、努力を知らない子は将来苦労するよ』

 

 

 私に対して心無い言葉をかける先生。

 

 馬鹿馬鹿しい? 現実を見ろ? 私が見えているものが、現実なんだ。赤の他人に拒否する権利なんてあるわけがない。

 

 

『なぁ、聞いたか? あの六人のこと』

 

『聞いたよ。東風谷を苛めていたやつらだろ? 一緒に帰っていたところをトラックに撥ねられたんだってな』

 

『その内二人が死んで、残りは首から下が動かなくなったり、手足が無くなって介護が必要なんだってよ』

 

『うわぁ、悲惨。全員将来スポーツ選手として有望だったんでしょ?』

 

『東風谷に関わったばかりに……』

 

『きっとあいつが苛めたやつらを祟ったんだろう。あいつ神様が見えるらしいからな』

 

 

 私を苛めていた方々が事故に遭うと、誰もが私のせいだと決め付ける。

 

 ふざけるな。偶然が重なっただけで、私のせいにするな。神様のせいにするな

 

 

 

 あぁ、思い出すだけでも、忌々しい……。いや、もう忌々しいなんて生易しい……私の抱くのは憎しみだ。

 

 

 神奈子様や諏訪子様を否定する世界……

 

 

 私を否定する世界……

 

 

 

 あぁ、憎い……憎い……

 

 

 

 世界が……憎い……ニクイ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――さん。早苗さん!」

 

「っ!」

 

 自分を呼ぶ声と共に揺さぶられて、早苗は目を覚ます。

 

 最初に視界に移ったのは、自分の部屋とは違う、見知らぬ天井。いや、厳密には見慣れない天井であろう。

 

 早苗は当初どこかの部屋に寝る予定だったものも、空いている所が無かったので、結果的に北斗の部屋で布団を敷いて寝ることになった。

 

 そこで北斗が自身のベッドを早苗に譲ろうとしたが、彼女は辞退したりのやり取りを繰り返したが、結局早苗が布団で寝ることになった。

 

 

「っ……っ……」

 

 少し息を荒げている彼女は左の方を向くと、心配そうに見ている北斗の姿がある。

 

「ほ、北斗さん……」

 

「大丈夫ですか? だいぶ魘されていましたが……」

 

「は、はい。大丈夫です」

 

 早苗は頷いて見せるも、身体中汗でびっしょりとなっており、額にも汗が浮かんでいる。正直大丈夫とは言えない。

 

「その、ごめんなさい。寝ていたところを起こしてしまって」

 

「いえ。トイレに行って戻って来た時に、早苗さんが魘されていたので」

 

「そ、そうですか……」

 

 北斗がそう言うと、早苗は申し訳ない様子で俯くと、すぐに顔を上げて壁に掛けられた時計を見る。

 

 薄暗く見づらかったが、時刻は午前2時を回ろうとしていた。

 

「では、自分はこれで……」

 

 北斗は立ち上がって自分のベッドに戻ろうとする。

 

「?」

 

 するとズボンの裾が引っ張られて立ち止まり、北斗は後ろを見ると、早苗が彼のズボンの裾を掴んでいた。

 

「ど、どうしましたか?」

 

「あ、あの……その……」

 

 早苗は震える声で、言葉を紡いで行く。よく見ると、ズボンの裾を掴んでいる手も震えている。

 

「……」

 

 すると早苗は気持ちを落ち着かせるように深呼吸をして、口を開く。

 

「その、ご迷惑をお掛けすると思いますが……」

 

「……」

 

「……ほ、北斗さん。私と……い、一緒に、寝て……良いでしょうか?」

 

 頬を赤く染めて、恥ずかしそうな様子で彼女は、そう告げた。

 

「……んんぇ?」

 

 さらっと、とんでもない事を言われたような気がして、北斗は変な声を漏らして首を傾げる。

 

「え、えぇと、今なんて?」

 

「~っ! で、ですから! 北斗さんと一緒に、寝ても良いですか!?」

 

 彼女は恥ずかしながらも、北斗に少し強めに伝える。

 

「……うぇっ?」

 

 そして理解した北斗は変な声を漏らし、顔が赤くなる。

 

「っ?! い、いえ! 別に、いやらしい理由とかそんな事は無いですよ!? た、ただ添い寝して欲しいだけで、変な事を考えているわけですよ!?」

 

 早苗もまた妙な誤解を与えてしまったのに気付いてか、顔を赤くして慌てて弁明する。

 

「えっ、あ、いえ、別に、そういうのを期待していたわけじゃなくて、ただ、唐突過ぎて何と言っていいか」

 

「あーう……」

 

 北斗はしゃがみ込みながら戸惑った様子でそう言うと、早苗は顔を更に赤くして、両手で頭を抱えるように俯き、変な声を漏らす。

 

「……出来れば、理由を聞かせてもいいですか?」

 

「……」

 

 彼がそう声を掛けると、頭を抱えている早苗は、ゆっくりと頬を赤くして上目遣いで北斗を見る。

 

「……その、おかしな話になるんですが……外の世界の事を夢に見てしまって、気持ちが落ち着かないんです」

 

 早苗は搾り出すようにそう言うと、北斗は彼女の身体が震えているのに気付く。

 

「それで、眠れそうになくて……一緒に寝て欲しいというより、お話をして欲しいという感じで」

 

「……」

 

「ダメ、でしょうか?」

 

 早苗は上目遣いで、北斗に聞く。

 

「……」

 

 

 

 

(どうしてこうなった……)

 

 ベッドで布団を被り、横になっている北斗は内心呟く。

 

 その背中には、背中合わせに同じベッドで寝ている早苗の姿がある。

 

 結果的に北斗は早苗の要望を受け入れ、ベッドに一緒に寝ることになった。

 

 だが、いざ一緒に寝るとなると、二人して緊張してむしろ眠気が覚めていた。

 

 まぁお互い意識している思春期の男女が同じ床で寝ているのだから、当然といえば当然だ。むしろ何も無かったら異常である。

 

(うぅ……勢いで言ってしまいましたが、これは恥ずかしい)

 

 そして早苗もまた緊張のあまり強張っており、顔を赤くしてバクバクと心臓が鳴り止まなかった。

 

「……」

 

「……」

 

 それから二人はしばらく沈黙し、時間だけが過ぎていく。

 

「あ、あの、北斗さん」

 

「な、何でしょうか?」

 

「その、このままだと、話しづらいので……こっちを向いてくれませんか?」

 

「え、えぇと……このままじゃ、ダメでしょうか?」

 

「は、はい。出来れば、北斗さんの顔を見ながらが、良いです」

 

「そ、そうですか」

 

 北斗は振り向くのに抵抗感があったが、早苗が頼んでいるので、彼は意を決して振り向く。

 

「……」

 

 振り向いた先には、同じくこちらを向いている早苗の姿があり、向こうも恥ずかしいのか、頬を赤くしている。

 

 彼女の服装は蒸気機関車の神霊の少女達の中から借りたジャージであり、特に問題があるわけじゃないが、体勢的に彼女の立派な双丘が押し付けられて強調されている。

 

 早苗と目を合わせるのは気恥ずかしいし、かといって他のところに視線を向ければ、強調された双丘が目に入ってしまう。

 

 色んな意味でつらい現状である。

 

「え、えぇと……その……」

 

「……」

 

「……迷惑でなければ、夢の事をお聞きしますよ」

 

「は、はい……」

 

 早苗は躊躇いがあったものも、意を決して夢で見たことを話す。

 

 

 

 少女説明中……

 

 少女説明中……

 

 

 

「……」

 

「……今でも、外の世界の事は……憎んでいます」

 

 早苗は搾り出すように、そう告げる。

 

「……誰も、私を認めてくれなかった。誰も、神様を認めようとしなかった」

 

「……」

 

「両親だって、表向きは私の事を信じていたのに……実際は信じていなかった」

 

 俯く彼女は布団を握り締める。

 

「……だから、私は外の世界が嫌でした」

 

「……」

 

「正直な所、神奈子様と諏訪子様が幻想郷へ幻想入りすると聞いた時は、心のどこかでチャンスだと思っていたんだと思います」

 

 すると彼女は罪悪感を感じているように、少しずつ声のトーンが下がっていく。

 

「嫌な世界から、逃げたかった。誰も知らない、外の世界が忘れた存在が行き着く幻想郷に、逃げたかった……」

 

「……」

 

「もちろん、神奈子様と諏訪子様の為に仕えたいと、二柱の為に全てを捧げる気持ちに偽りはありません。全てを投げ打つ覚悟だって、ありました」

 

「……」

 

「……本当、私は……卑怯ですよね」

 

 彼女は俯くと、目元から一筋の涙が溢れる。

 

 見方からすれば、二柱の幻想入りに便乗して、嫌な世界から逃げたような、そんな風に思えるものだ。

 

 早苗からすれば、良心が傷つくようなものだ。

 

 北斗はしばらく沈黙した後、口を開く。

 

「……誰だって、嫌なことから逃げたいと思うのは、当然だと思います。僕は早苗さんじゃありませんから、早苗さんの気持ちをすべて理解することは出来ません」

 

「……」

 

「でも、逃げることはおかしなことじゃないと思います」

 

「……」

 

「重圧に押されて、壊れていくぐらいなら、逃げた方がマシだと、俺はそう思っています」

 

「北斗さん……」

 

 早苗は顔を上げて北斗を見る。

 

「まぁ、気休め程度のものだと思ってもらえれば、幸いです」

 

「はい……」

 

 早苗は頷くと、ある事が思い浮かぶ。

 

「あの、北斗さん。一つ良いですか」

 

「なんでしょうか?」

 

「……もし、もしも北斗さんは、本当のご両親と会うことが出来るとしたら、会ってみたいと思いますか?」

 

「……」

 

 早苗の言葉に、北斗は黙り込む。

 

「どうしてそれを?」

 

「いえ、ただ、何となく聞いてみたくなって。外の世界の事を思い出したからでしょうか」

 

「……」

 

「……やっぱり、捨てた両親を恨んでいますか?」

 

「恨んでいないと言えば、それは嘘になりますね。なぜ捨てたのか、と……捨てなければ、あんな事にならなかったはずだと、そう思うことはあります」

 

「……」

 

「でも、両親に会ってみたいとは、思っていますね」

 

「それは、なぜ?」

 

 早苗は北斗に問い掛ける。

 

「会って、なぜ捨てたかの理由を聞いてみたいと思っています。許すわけではありませんが、理解出来るところがあると思いますので」

 

「そうですか」

 

 彼女がそう言うと、二人はしばらく黙り込み、時計の針が時を刻む音が静かに部屋に響く。

 

「……北斗さん」

 

「なんでしょうか?」

 

「……私、幻想郷へ来た事を後悔していませんし、今後することも無いと思います」

 

「……」

 

「もちろん、外の世界の事や、両親の事が気がかりじゃないかと言えば、嘘になります。恨んでいたと言っても、私にとって血の繋がった両親なのですから」

 

「……」

 

「それに……」

 

 と、早苗は両腕を前に出して、北斗の頬に添える。

 

「二度と、会えないと思っていたあなたに、こうして再会できた。それだけでも、私は幸せです」

 

「早苗さん」

 

 微笑みを浮かべる彼女の姿に、北斗は頬を赤くして、少しぎこちない笑みを浮かべる。

 

「俺も、幻想郷に来れて良かったと思っています。色んな出会いや、蒸気機関車に囲まれる生活もそうですが、何より早苗さんと再会出来たのが、自分にとって一番良かったことです」

 

「北斗さん……」

 

「……」

 

「……」

 

 二人はしばらく見つめ合い、そして互いに顔が赤くなる。

 

「あ、あの、話したらモヤモヤしたのがスッキリしましたので、自分の布団に戻りますね」

 

「そ、そうですか。それなら、良かったです」

 

 二人はぎこちない様子で短く会話を交わすと、早苗は北斗のベッドから降りて自分の布団に戻ろうとする。

 

「ほ、北斗さん」

 

「は、はい」

 

「おやすみなさい」

 

「……はい。おやすみなさい」

 

 二人はそう交わし、早苗は自分の布団に戻り、北斗も身体を倒して布団を被った。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 翌朝

 

 

 昨日まで土砂降りだった雨は晴れており、朝日が昇って濡れた地面を照らして輝かせている。

 

 

「昨日は泊めてくれて、本当にありがとうございました」

 

 早苗はそう言うと、深々と頭を下げる。

 

「いえ。困った時はお互い様です」

 

 北斗はそう言うと、笑みを浮かべる。

 

 

 しかし二人はどことなく眠そうな雰囲気であったが、結局あの後眠ることが出来ず、ものの見事に寝不足気味になった。

 

 

「北斗さん」

 

「はい」

 

「今度人里でちゃんと色んな食材を買いましょうね。もちろん、ネギ以外で」

 

「は、はい」

 

 どことなく圧のある笑みを浮かべる早苗に、北斗は苦笑いを浮かべる。

 

「北斗さん。また明日の早朝に、お弁当を持ってきますね」

 

「はい。楽しみに待っています」

 

 北斗は頷くと、早苗は風呂敷に包まれた空の弁当箱を持って空に浮かんで飛んで行く。彼は早苗が見えなくなるまで手を振って見送る。

 

「……」

 

 そして早苗の姿が見えなくなったのを確認し、北斗は今日の仕事をするために、宿舎にある執務室へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちなみにその後、守矢神社では、こんなやりとりがあったそうな。

 

 

 

「えぇぇぇぇっ!! 一緒に寝たのに何も無かったぁっ!? そりゃ無いよ、早苗!?」

 

「な、何でですか!! どこもおかしいところはないじゃないですか!!」

 

「若い男女が同じ床に入ったら、やることは一つでしょ!!」

 

「な、な、な、何てこと言っているんですか、諏訪子様ぁっ!!!」

 

 

 

 その後守矢神社の上空で色とりどりの激しい弾幕ごっこが繰り広げられ、その様子を呆れた様子で見守る神奈子の姿があったとか、なかったとか……

 

 

 

 




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