東方鉄道録‐幻想の地に汽笛は鳴り響く‐   作:日本武尊

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SL銀河が客車の老朽化を理由に、来年の春頃に運行が終了するようですね。
比較的に新しいSL列車なのに、とても残念です。C58 239号機はまだまだ大丈夫でしょうが、今後どうなってしまうのか。一応新しい観光列車は検討しているようですが、果たしてどうなるか。
今後の情報待ちですね……


第132駅 復活の(パシフィック)

 

 

 

 今回は時系列を下って、少し先の未来を覗いて見よう……

 

 

 

 幻想機関区の敷地内にある車輛整備工場。

 

 

 

 工場内では、ある蒸気機関車の火入れ式が行われている。

 

 

 

 この幻想郷に現れて、燃料である重油が無く、今日まで温もりの無い状態で過ごしていたC59 127号機。そのC59 127号機に、火が入れられようとしている。

 

 C59 127号機の炭水車(テンダー)に取り付けられている燃料タンクには、岡崎夢見によって未来から持ち込まれた装置によって、石炭から生成された人造石油を製油して作られた重油が満載されており、水タンクにも水を一杯にしている。

 

 機関車の横では、多くの出席者が椅子に座り、早苗がC59 127号機に今後事故が起こらないようにと、機関車に安全を祈願している。

 

 ピカピカに磨かれたC59 127号機の安全が祈願され、次に運転室(キャブ)にお清めの酒が蒔かれる。

 

 ちなみに今回の整備に合わせて、C59 127号機はナンバープレートの色を黒地から赤地に変更しており、それによる影響かどうかは分からないが、長月(C59 127)の瞳の色に赤みが増して変化しているという。

 

 重油専焼式に改装されたC59 127号機だが、火を灯す作業はそこまで大きな変化がないので、火入れ式が行われる。

 

 北斗は早苗より紅白のリボンで巻かれた松明を受け取り、彼女に一礼してから清められた火を松明に灯すと、松明を手に運転室(キャブ)に入る。専門的な教育を受けた機関助手の妖精が重油を火室に送り込むバルブを操作して、火室に重油が送り込まれる。

 

 北斗は松明を火室に入れて重油に火を付けると、火は一瞬で重油に付いて燃え上がり、彼はそれを確認した後に焚口戸を閉める。

 

 火室が熱せられることで、ボイラーの水が少しずつ温度を上げていく。

 

 

 参加者が全員見守る中、時間が過ぎていく。C59 127号機の煙突からは、少しずつ重油が燃えた黒い煙が出てきて、工場の天井から吊り下げられている排煙装置を通って外に吐き出される。

 

 そして二時間以上が経過し、ボイラーの圧力計はどんどん上がっていき、ボイラーから熱気が発する。それと共にボイラー内で発生した蒸気が複式コンプレッサーを動かし、生き物の心臓の鼓動のように間隔を空けて作動する。

 

「……」

 

「……」

 

 運転室(キャブ)では、長月(C59 127)と機関助士の妖精が息を呑み、北斗と早苗も静かに見守る。

 

 

 やがてボイラーの圧力計は最低ラインを越え、C59 127号機は、自走可能な状態になる。

 

 そして復活を高らかに宣言するかのように、長月(C59 127)は汽笛を鳴らすペダルを踏み、C59 127号機の汽笛が高らかに発せられた。他の機関車から譲り受けた蒸気ではなく、自らが生み出した蒸気で、初めて彼女は汽笛を鳴らした。

 

「復活しましたね」

 

「えぇ」

 

 早苗と北斗は短く言葉を交わすと、後ろを向いて夢見とカメラを手にしているちゆりの二人を見る。

 

「夢見さん。本当に、ありがとうございます。おかげでこの127号機は甦りました」

 

「良いのよ。私もこの貴重な瞬間に立ち会えて、手伝った甲斐があるってものよ」

 

 北斗はお礼を言いながら頭を下げ、夢見は笑みを浮かべつつそう言う。

 

「それで、この後どうするの?」

 

「この後は127号機の構内試運転を行います。何せ他の罐と色々と違いますから、足回りの癖も確認したいので」

 

「なるほどね。なら、最後まで見て行ってもいい?」

 

「もちろん」

 

 夢見がそう言うと、北斗は頷く。

 

 

 

 その後整備工場のシャッターが上へと上げられ、外で待機していたD51 465号機が短く汽笛を鳴らしてゆっくりと前進し、C59 127号機の炭水車(テンダー)と連結し、再度短く汽笛を鳴らしてC59 127号機を後ろに引っ張って工場の外へと運び出す。

 

 機関車を外へと運び終えた後、連結を外したD51 465号機は後進して切り替えられた分岐点を通って別の線路へと移動する。

 

 C59 127号機は自走に向けて最後の点検が行われ、異常が無いのを確認して機関車の足回りから離れる。

 

 その後切り替えられた分岐点が、作業員の妖精によって転轍機を操作してポイントをC59 127号機が直進できるように切り替える。

 

 

 そして線路上に異常が無いのを確認し、作業員の妖精がホイッスルを吹きながら緑の旗を揚げる。

 

 緑旗を確認し、長月(C59 127)はブレーキハンドルを回して動輪のブレーキを解くと、ペダルをゆっくりと奥まで踏み込み、C59 127号機の汽笛が高らかに鳴り響く。

 

 C59 127号機はシリンダー付近の排気管からドレンを勢いよく吐き出しながらゆっくりと後進する。初めて彼女が自らのボイラーで生み出した蒸気で自走した瞬間である。

 

 機関車は煙突から黒い煙を吐き出しながら、ゆっくりと線路の上を後進していく。

 

 北斗と早苗は工場の前で、その様子を静かに見守る。その傍で夢見がワクワクした様子で見守り、ちゆりが手にしているカメラで試運転の様子を撮影する。

 

 ある程度後退したC59 127号機は停止し、少しして彼女は胸いっぱいに息を吸い込んで、一気に吐き出すかのように勢いよくシリンダー付近の排気管から大量の蒸気を吐き出す。その大量の蒸気によって、機関車は一瞬で包み込まれて姿が見えなくなる。

 これは吹き込みと呼ばれるもので、シリンダー内にあるゴミとかの異物を吐き出すための作業だ。

 

 その後大量の蒸気の中から高らかに汽笛が鳴り響き、蒸気の中からC59 127号機がゆっくりと前進して姿を現す。

 

 ゆっくりと前へと進みながら、C59 127号機は再びドレンを吐き出して、辺り一面白い蒸気で覆われる。

 

 軽く自力走行を行った後、C59 127号機は広い線路区間へ移動し、そこで前進や後進、急発進と急停車を繰り返して、様々な走行条件を付けて走った。

 

 走行試験を終えた後、C59 127号機は妖精達によって足回りの検査が行われ、軸に熱が籠っておらず、軸が発熱する軸焼けを起こしていないのを確認する。

 

 その他にも検査を行い、どこにも異常が見当たらないのを確認し、C59 127号機は問題なく本線走行が可能である太鼓判を押されたのだった。

 

 その後C59 127号機は扇形機関庫へ移動し、明日の早朝に行われる試運転に向けてその身体を休める。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 C59 127号機の構内試運転を終え、翌日の早朝

 

 

 本線上では火を入れた状態で停車しているC59 127号機の姿があり、主灯と増設された副灯が点灯して薄暗い幻想郷の夜を照らす。

 

 その後ろには発電用ディーゼルエンジンを動かし完全な状態の14系客車こと『オハ14』二輌と『スハフ14』と『オハフ15』を一輌ずつの計四輌を連結し、最後尾には補機としてDD51 1169号機が連結されている。

 

 そのDD51 1169号機には、驚くことに小傘が運転席に座って居る。どうやらディーゼル機関車の運転技術も習得しており、たまにDD51形とDE10形の運転を行っているそうである。

 

 先に燃料補給を行えるように重油と軽油を満載したタンク車二輌をD61 4号機が人里の駅へと運び込んでおり、先ほど駅の中央線に入線し、ポイントを切り替えたと連絡が入った。

 

 補給列車の到着の連絡を受けて、腕木式の信号機の腕木が下りて青に変わる。

 

 信号が青に変わったのを確認し、長月(C59 127)は自動ブレーキのハンドルを回して、次に機関車の単独ブレーキのハンドルを回してブレーキを解く。

 

 そしてペダルを踏んで汽笛を大きく鳴らすと、DD51 1169号機が続いて警笛を鳴らす。長月(C59 127)は加減弁ハンドルを手にして後ろに引き、蒸気をシリンダーへ送り込む。

 

 C59 127号機はゆっくりと進み出し、シリンダー付近の排気管からドレンを吐き出して前進する。

 

 主灯と副灯が前方を照らし、まだ薄暗い幻想郷を新たな蒸気機関車が走り出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時系列は現代へと戻る。

 

 場所は迷いの竹林永遠亭。

 

 

「……」

 

 診察室で永琳は患者の診察書を見て、患者の容体を確認している。

 

(この患者には、この薬で良いわね。後は―――)

 

 患者に処方する薬を考えていると、診察室の扉が開く。

 

「師匠」

 

「優曇華。どうしたの?」

 

 入ってきたのは鈴仙であり、永琳は声を掛ける。

 

「先ほど来客が来られたのですが……」

 

「来客なら通してちょうだい」

 

「いえそれが……」

 

 と、鈴仙はどこか戸惑った様子で間を開けると、口を開く。

 

「その来客が……八雲紫なんです」

 

「……」

 

 鈴仙の口から出た名前に、永琳は目を細める。

 

 八雲紫……言わずと知れたスキマ妖怪であり、幻想郷の管理者。

 

 相手が相手とあって、対応したくない気持ちがあるものも、会わなければ何をするか分からない。今の自身と主の事情を考えれば、面倒ごとは避けたい。

 

 仕方なく、彼女は紫の相手をする為に、鈴仙にここへ案内するように伝える。

 

 

 

 少しして診察室に、紫が入ってくる。

 

「お久しぶりですわね」

 

「そうね。もう冬眠から覚めたのかしら」

 

「えぇ。三日前ほどに」

 

 彼女はそう言うと、手にしている扇子を広げる。

 

 八雲紫は冬の間冬眠をする。

 

 

「それで、今日はどのようなご用件があって来たのかしら?」

 

「えぇ。あなたに協力して欲しくて、今日は伺いましたので」

 

「協力?」

 

 永琳は首を傾げる。

 

「そうですわ。話は変わりますが、大怪我を負った霧島北斗の治療を行ってくれたようですね」

 

「えぇ。傷の完治と後遺症の有無の判断まで、この永遠亭で治療したわ。でも意外ね」

 

「何がですか?」

 

「いえ、あなたにとって彼と蒸気機関車はこの幻想郷にとって邪魔な存在じゃないかと思っていたのだけど」

 

「……」

 

 紫はしばらく永琳を見ると、扇子で口元を隠しながら答える。 

 

「そうですわね。最初はそう思っていましたけれど、今となっては多少なりとも幻想郷に良い傾向を与えていますので」

 

「……」

 

「彼らのお陰で、博麗の巫女への信仰が増えていますので。この博麗大結界を維持するのに、博麗の巫女への信仰は必要不可欠ですので」

 

「そう。それで、用件は?」

 

「……霧島北斗に関する情報を、貰えないかしら?」

 

「情報? 何の為に必要かしら?」

 

「もちろん、彼の素性を知る為ですわ」

 

「既に彼のことについて調べていたんじゃないの」

 

「えぇ。外の世界で彼の事が残っている間に、事細かく調べましたわ」

 

 彼女はそう言うと、扇子を閉じる。

 

 幻想郷に住むことになった北斗だが、幻想入りする以上外の世界での彼に関する情報は忘れられることになる。

 

「だったら、彼の身体に関する情報は必要ないんじゃないかしら?」

 

「えぇ。彼について調べ尽くせたのなら、あなたにお手数は掛けませんわ」

 

「……」

 

「霧島北斗は赤ん坊の時に、孤児院の前で捨てられていましたわ。当然赤ん坊の遺棄として捜査されましたが、結局何も分からず仕舞いですわ」

 

「何が言いたいの?」

 

 永琳は目を細める。

 

「もしかしたら、霧島北斗はこの幻想郷で生まれたのではないかと、そう考えたのですわ」

 

「幻想郷で? だとしたら、色々とおかしな点が多いわね」

 

「そうですわね。どうやって博麗大結界に影響もなく外の世界に出られたのか」

 

「……」

 

「もし霧島北斗がこの幻想郷で生まれたのなら、何かしらの情報が残っているのではないかと、調べているのですわ」

 

「それで、彼の情報必要だと?」

 

「えぇ。彼の治療を行ったのならば、情報は揃っているはずですわ」

 

「……」

 

 永琳は何も言わず沈黙するも、少しして口を開く

 

「個人情報である以上、そう簡単には渡せないわ。少なくとも、本人の同意無しにはね」

 

「そうですか……」

 

 紫はそう言うと、一間置いて続ける。

 

「では、彼の同意があれば情報の提供をしてくれると?」

 

「……そうね。少なくとも最低限は本人の同意が必要だわ。それと、納得できる理由があればね」

 

「そう」と紫は声を漏らすと、息を吐く。

 

「では、後日改めて来ますわ」

 

 紫はそう言うと、スキマを開いて中に入り、スキマを閉じる。

 

「……」

 

 彼女がスキマに入ったのを確認し、しばらくして息を吐き、机に腕を付ける。

 

(やはり、彼女も勘づき始めたわね)

 

 彼女は内心呟くと、紫がスキマで去った所を見る。

 

(もし、もしもスキマ妖怪に彼の事を知られたら、恐らくただでは済まないかもしれない。そうなれば……)

 

 永琳は八雲紫が北斗の秘密を知ったら、恐らく何かしらの行動を彼にするかもしれない。

 

 

 それだけ、霧島北斗の抱えている秘密は大きいのだ。もしもその秘密を八雲紫が知れば、彼の身に危険が迫るかもしれない。そうなれば、大きな事に発展しかねない。

 それに、自身が仕えている輝夜にも、多少なりとも影響が出るかもしれない。

 

 

 永琳はどうすれば八雲紫に霧島北斗の情報提供を諦めさせられる理由が無いかどうかを、一考する。

 

 

 

 

 

 




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