東方鉄道録‐幻想の地に汽笛は鳴り響く‐   作:日本武尊

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今年最後の投稿になります。
来年も本作品をよろしくお願いします。


第134駅 変化する感情

 

 

 

 少しずつ温かい気温になり、本格的に春の訪れを感じ始めている幻想郷。

 

 

 幻想郷に変化が訪れているが、幻想機関区ではこれまで通りに機能している。

 

 

 明日の守矢神社行きの列車の運行に向けて、機関庫では牽引機の9677号機の整備が行われており、火を入れられた9677号機はコンプレッサーを動かして煙突横の排気管から一定の間隔で蒸気を吐き出している。

 その足回りでは整備員の妖精が可動部への注油を行っている。

 

 9677号機がいる場所から離れた場所では、E10 5号機が本線試運転に向けた準備が行われており、整備員の妖精が最終チェックを行っている。 

 

 操車場でも、奥にある小屋で客車の整備が行われており、12系客車と14系客車、50系客車の本格的な営業運転に向けた検査、整備が行われている。

 

 整備工場でも全般検査を受けているC50 58号機とC54 17号機の作業も大詰めであり、二輌共車入れを終えてロッドの取り付け作業を行っている。火入れ式も近日中に行う予定である。

 まぁ二輌の全般検査をさっさと終わらせて、C59 127号機の検修を行いたいという整備員側の思惑があるのだが。

 

 

 

 

 宿舎前で、夢月が竹箒を手に地面に落ちているゴミを集めている。

 

「……はぁ」

 

 彼女は手を止めてため息をつき、顔を上げる。

 

 その表情はどことなく悩んでいるような、そんな感じである。

 

「むーげつ」

 

 と、彼女の後ろから姉の幻月が抱きしめる。

 

「ね、姉さん」

 

「どうしたの? ボーっとしちゃって」

 

「……何でもないよ」

 

 幻月の問いに夢月はそう答える。

 

「そうかしら? ここ最近のあなたそんな感じよ」

 

「……」

 

「何か悩みでもあるの?」

 

「そんなの、無いよ」

 

「本当に?」

 

 幻月は夢月の頬に自身の頬を密着させて声を掛ける。

 

「本当に無いよ」

 

「ふーん」

 

 と、幻月は何やら意味深な笑みを浮かべる。

 

「区長のこと、考えていたんでしょ?」

 

「は、はぁ!? なんであいつが出てくるのよ!?」

 

 と、幻月の言葉に、夢月は分かりやすい反応を示す。

 

「ん~? だってここ最近の夢月、よく区長のこと見ているじゃない」

 

「いや、それは……」

 

「それに最近ため息だって多いし」

 

「別にため息は関係無い―――」

 

「あっ、区長!」

 

「えっ!」

 

 と、夢月は辺りを見渡すが、北斗の姿は無い。

 

「……」

 

 彼女は顔を赤くして自身にくっ付いている姉を見る。その姉はニヤニヤと笑みを浮かべている。

 

「あれれぇ? 関係無いんじゃなかったの~?」

 

「っ!」

 

 夢月は左肘を姉の腹目掛けて突き出すが、幻月は後ろに跳んで躱し、妹と距離を取る。

 

「いやぁ、中々見れない姿を見られて、私は満足だわぁ♪」

 

「……コロス」

 

 満足げの幻月に対して、夢月は殺意に満ちた目を向けて歯ぎしりを立て、ゴキゴキと指の骨を鳴らす。

 

「まぁまぁ、別に良いじゃない。別に気にするようなものじゃないわよ」

 

「……」

 

「で、どういう心境の変化なの?」

 

「……」

 

 さっきまでの飄々とした様子はどこへやら、幻月は真面目な表情を浮かべて夢月に問い掛ける。彼女は殺意を沈めてしばらく沈黙して、口を開く。

 

「分からないわ」

 

「……」

 

「こんなの、初めてだから……どう言ったら良いのか分からないのよ」

 

 夢月は顔を俯き、力なく答える。

 

「いつの間にか……彼ばかり見ている。多少違うといっても、ただの人間なのに……」

 

(夢月がここまで気にしているなんて……何だか嫉妬しちゃうなぁ)

 

 今まで見たことのない妹の姿に嬉しく思うと共に、その要因となった北斗に嫉妬心が生まれる。

 

「あっ、区長!」

 

「姉さん。もうその手には―――」

 

 

「夢月さん」

 

「フォイ!?」

 

 と、幻月の引っ掛けにジト目で言おうとしたら、後ろから北斗より声を掛けられて夢月は変な声を上げて身体が跳ね上がる。

 

「……」

 

 夢月は顔を真っ赤にして後ろを振り向くと、北斗は申し訳なさそうに立っている。彼女の後ろでは中々見られない夢月の姿に「あ~ん♪ 夢月ったら可愛いんだからぁ♪」と幻月がにやけた表情を浮かべて背中の翼をパタパタと上下させて体をくねらせている。

 

「え、えぇと、驚かせてすみません」

 

 北斗は一先ず夢月に頭を下げて謝罪する。

 

「べ、別に良いのよ」

 

 夢月も顔を赤くしながらも、咳払いをして気持ちを整える。

 

「それで、何の用なの?」

 

「はい。明日人里に食材を買いに行くのですが、その買い出しの手伝いをして欲しいんです」

 

「手伝い?」

 

 夢月は首を傾げると、疑問を浮かべる。

 

「私じゃないとダメなの? 他にも居るはずよね」

 

「そうなんですが、小傘さんとみとりさんは罐の全般検査が大詰めになっているので、手が離せないんです。機関車の神霊達もそれぞれ機関車の整備がありますし」

 

「姉さんやエリス、幽玄魔眼、魅魔はどうなのよ?」

 

「幻月さんとエリスさん、幽玄魔眼は……人里に行くにはちょっと見た目が……」

 

「……」

 

 北斗の言葉に夢月は納得したようで、口をへの字に歪める。

 

 明らかに人外な見た目をしている幻月とエリス、幽玄魔眼は、人里ではその姿が目立つし、何より妖怪や悪魔などの人外を快く思わない連中もいるわけで、慧音や小兎姫、里町に迷惑を掛けるわけにはいかない。

 

「ちなみに魅魔さんに関しては、用事があるとのことで、無理でした」

 

「あっ、そう……」

 

 夢月は半ば諦めた様子で声を漏らす。

 

 

「あら、良いじゃないの。掃除は私がやっとくから、たまには気分転換で行ってみたら?」

 

 と、幻月が夢月の様子を見て、そう提案する。

 

「えっ、でも……」

 

「良いの、良いの」

 

 幻月は戸惑う夢月を他所に、北斗を見る。

 

「というわけだから、区長。夢月のこと頼むわね」

 

「あっ、はい」

 

 何だか勢いに任せて決まった様子に、北斗は返事を返すしかなかった。

 

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 某所

 

 

「……」

 

 女性は目を覚まし、少しずつ意識が戻っていく。

 

「っ!?」

 

 そして意識がはっきりすると、自信の置かれている状況を瞬時に理解する。

 

 というのも、女性は身体を簀巻きにされて身動きが取れない状態で床に寝かされ、口元も布で猿轡をされて声を出せないでいた。その上両目も鉢巻きで覆われて目隠しされ、何も見えない。

 

「あら、目を覚ましたようね」

 

 と、前から声がして女性は顔を上げるが、目隠しをされているのでその声の主の姿は確認できない。

 

 しかし女性は声からその人物は特定できた。

 

「っ! っ!」

 

 その声の主こと、風見幽香は抗議の様子を見せる女性を見下ろす。

 

「なぜこんなことをしたかって? それはあなたが一番分かっているんじゃないかしら?」

 

「っ!」

 

「悪く思わないことね。いつまでも渋るあなたが悪いのよ」

 

 幽香はその場にしゃがみ込んで、女性の顔の近くで声を掛ける。

 

「だから、少しばかり友人として手助けをしてあげるわ」

 

 彼女はにやりと笑みを浮かべ、女性はその様子を容易に想像してか、簀巻きにされた身体を暴れさせる。

 

「心配しないで。悪いようにはしないから、あなたはここで大人しく待っていなさい」

 

 と、幽香は女性を抱え上げると、扉を開けてその中に放り込み、女性の抗議の声を無視して扉を閉める。

 

「……」

 

 幽香は笑みを浮かべ、扉の前から離れていく。

 

 

 




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