東方鉄道録‐幻想の地に汽笛は鳴り響く‐   作:日本武尊

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あけましておめでとうございます。今年初の投稿になります。
今年も本作をよろしくお願いします。

そういえば、ハリーポッターシリーズに登場するホグワーツ特急の牽引蒸気機関車のモデルになっているイギリスの蒸気機関車の同型機が今度日本で開設される予定のハリーポッター関連のテーマパークに展示する為にやってくるみたいですね。
所有者?権利者?が有名どころなので手厚い管理がされると思いますが、少なくとも52形や人民型、前進型みたいな末路を辿らないことを祈るばかりです。


第135駅 人里への出来事

 

 

 

 翌日……

 

 

 

 人里の近くにある駅構内では、9677号機牽引の守矢神社行きの上り列車が回送列車の通過を待っている。

 

 

 駅の脇にある操車場では、C12 208号機が牽いて来た有蓋車のワム70000形を四輌、ワフ25000形一輌の計四輌を連結し、待機している。

 そのワム70000形に作業員の妖精達や人里の人たちが食材や酒樽を積み込んでいる。

 

 この貨物列車は博麗神社にて行われる宴会の為に、人里から贈り物として食材や酒樽が送られることになったので、その荷物の輸送の為に霊夢より要請されたのだ。

 

 以前までなら時間を掛けて人里から博麗神社へ荷物を運ぶのだが、鉄道が現れたことで、大量輸送を可能とし、尚且つ輸送時間の大幅な短縮が可能となった。

 

 C12 208号機は水と石炭の補給を終えた後、貨車と連結して回送列車が通過するまでその場で待機する。

 

 

 すると遠くから汽笛がして、機関士席に座っている熊野(C12 208)が顔を上げる。

 

 機関区方面より本線試運転中のE10 5号機がスハ43一輌と、補機としてC12 06号機を連結した状態の回送列車がやって来る。

 

 やがて回送列車が速度を落としていき、駅の下り線へとゆっくりと入ってきて停車する。

 

 その隣の上り線で待機している守矢神社行きの列車の客車から、乗客が物珍しい光景に誰もが見ている。

 

 やがて上り線の信号機が赤から青に変わり、9677号機が三音室の汽笛より甲高い音を立てて、守矢神社行きの列車が出発する。

 

 その後C12 208号機が汽笛を鳴らし、貨物列車を牽いて操車場から出発して博麗神社を目指す。

 

 回送列車は貨物列車が出た後入れ替わるように操車場へと入り、E10 5号機は同行した整備員によって足回りの検査が行われる。

 その間にC12 06号機は、水と石炭の補給を行う。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「今日は本当に手伝いに同行していただいて、ありがとうございます」

 

「別に良いのよ。一応居候の身なんだから、このくらいはするわ」

 

 人里で北斗は隣を歩く夢月にお礼を言うと、大きい紙袋にいっぱい詰まった食材を抱える彼女はどこかぎこちない様子でそう告げる。

 

 回送列車に同行した二人は、駅に到着後降車し、人里で食材の買い出しをしていた。

 

「それで、買う物はこれで全部?」

 

「はい。後は試運転組が来るまで時間を過ごすことになります。まぁ博麗神社からここまで時間は掛からないので、そんなに待たないと思います」

 

「そう」

 

 夢月は短く答えると、駅の方で汽笛が鳴らされて里に響く。

 

「……」

 

 彼女はちらりと、横目で北斗を見る。

 

 彼の姿を見ると、夢月は胸の鼓動が高鳴る。

 

(……本当に、どうしちゃったんだろう)

 

 緊張する中で、彼女は内心呟く。

 

 彼女からすれば、今までこんな事は無かった。故に、夢月は自身が抱える感情を理解出来ないでいた。

 

 

「ん?」

 

 と、北斗は立ち止まってとある建物の前に停まる。

 

「どうしたの?」

 

「あっ、いえ。ここなんですが……」

 

 北斗は目の前にある建物こと、『鈴奈庵』と書かれた看板を掛けているお店を見る。

 

「前から、なんか気になるんですよね。なんていうか、妙な雰囲気というか、気配というか」

 

「……まぁ、区長の言いたいことは分からないでもないけど」

 

 夢月は鈴奈庵より発せられている雰囲気というか、気配に、北斗の言いたいことを理解する。

 

「まだ時間はありますので、寄っても大丈夫でしょうか?」

 

「区長が言うなら、別に私は良いけど」

 

 夢月の了承を得て、二人は鈴奈庵に入る。

 

 

「本屋だったのか」

 

 店に入ると、店内に本棚が並べられ、多くの本が詰められている。

 

 一見すればただの本屋のように見えるが、所々から妙な気配が発せられている。

 

「……」

 

 夢月も周囲から妙な気配を感じつつ。周りを見渡す。

 

 

「いらっしゃいませ!」

 

 と、店の奥から一人の少女が出てくる。

 

 橙色の髪を鈴付きの髪留めでツインテールにして、紅白の市松模様に緑の袴の上にエプロンを着け、茶色のブーツを履いている。

 

 彼女の名前は『本居小鈴』 この鈴奈庵の店主をしている少女だ。

 

「すみません。ここは本屋ですか?」

 

「はい。本の販売もしていますが、基本は貸本屋として営んでいます」

 

「貸本屋ですか」

 

 小鈴より説明を受けて、北斗は本の数々を見渡す。

 

(そういえば、永遠亭で読んでいた本も、早苗さんが貸本屋で借りてきたって言ってたな)

 

 北斗は永遠亭で入院していた頃に読んでいた本のことを思い出す。

 

「私、この鈴奈庵を営んでいる本居小鈴といいます。あの、もしかして霧島北斗さんですか?」

 

「えっ? は、はい。そうですが、知っているですか?」

 

 彼女から名前を言われて北斗は少し驚く。

 

「そりゃ、この里では有名過ぎて、知らない方がいないぐらいですから」

 

「そりゃそうね」

 

 小鈴の言葉に、夢月が同意する。

 

 鉄道の導入は、人里の暮らしを大きく変えたとあって、北斗の知名度は里では知らない人間がいないレベルになっている。知らない人間がいるなら、恐らく外の世界より流れてきた外来人ぐらいだ。

 

「それに、レミリアさんからもあなたのことを聞いていますので」

 

「レミリアさんを知っているんですか?」

 

「はい。レミリアさんとは文通でやり取りしているんです。というより、レミリアさんを知っているんですか?」

 

 と、小鈴は逆に北斗がレミリアのことを知っていることに驚く。

 

「えぇ。幻想機関区の運営の手助けをしてもらって、よく紅魔館に招待されています」

 

「そうなんですか。そういえばこの間の手紙に蒸気機関車のことについて書かれていたような」

 

 小鈴はレミリアとのやりとりを思い出して呟く。

 

「レミリアさんの文通相手って、本居さんのことだったんだ」

 

「小鈴でいいですよ。皆様もそう呼んでいますし。レミリアさんとは……まぁ、色々とありましてね」

 

 と、彼女は何やら視線を逸らしながら呟く。

 

「そうですか」と北斗は何かを察して口にする。深く詮索しないのが、彼の性分だ。

 

「そういえば、そちらの方は?」

 

 ふと、小鈴は北斗の後ろに立つ夢月に気付く。 

 

「こちらは機関区で住み込みで働いています、夢月さんです」

 

「夢月よ。よろしく」

 

「夢月さんですか。よろしくお願いします」

 

 軽く自己紹介をして、小鈴が一礼する。

 

「夢月さんって、紅魔館の咲夜さんのようなメイドさんですか?」

 

「いいえ。姉さんの趣味よ」

 

「あっ、そうなんですか……」

 

 何かを察したのか、小鈴はそう呟くのだった。

 

 

 その後北斗は本を見渡して推理小説等を二冊ほど借りて、二人は鈴奈庵を後にする。

 

 

「貸本屋か。今後は暇な時間を潰せそうだな」

 

 北斗は脇に抱えている鈴奈庵で借りた本二冊の入った紙袋を一瞥して呟く。

 

「意外と本を読むのね」

 

「昔はそれしかやることがありませんでしたしね。今でも夜はよく本を読んでいます」

 

 夢月の問いに、北斗はそう答える。

 

 幼少期の頃、友達を遊ぶということを知らなかった彼は、本を読む以外で遊ぶことを知らなかった。一応ゲーム等は祖父と暮らしていた時代にはカセット型のゲーム機で遊んでいたが、それ以降で作られた最新のゲーム機で遊んだことが無かった。

 

 その為、彼にとって本は蒸気機関車の次に好きな趣味なのだ。

 

「分からないわね。本を読んで楽しいなんて」

 

「夢月さんは読まないんですか?」

 

「読まないわね。読むのが面倒くさいし。まぁ姉さんはそこそこ読んでいたけど」

 

「そうですか……」

 

 と、北斗はどこか残念そうに声を漏らす。

 

「……」

 

 すると夢月はどこか気まずい様子で頬を掻き、ちらちらと北斗を見る。

 

「……でも、まぁ……少し時間潰しのやつが必要だったし、今後は本を読むのも悪くないかもね」

 

 と、どこか気恥ずかしい様子で、そう言いながら北斗の脇に挟まっている本を見る。

 

「……機会があったら、あの貸本屋で本を借りるわ」

 

「それは良いですね。幻月さんも喜ぶんじゃないでしょうか」

 

「逆に姉さんから変な事言われそうだわ」

 

 北斗の言葉に、夢月は顔をしかめる。

 

 

 

「おや、北斗じゃないか」

 

 と、声を掛けられて二人は声がした方を見ると、そこには慧音の姿があった。

 

「慧音さん。今日はどうしたんですか?」

 

「いや何、今日は寺子屋が休みなんだ。たまには外に出ないと病気になると、妹紅から家を追い出されてな」

 

「それ、以前にも無かったですか?」

 

「まぁな」と彼女は苦笑いを浮かべて頭の後ろを掻く。

 

「あっ、そうだ。この間北斗が紹介した明羅という剣士だが、自警団として里の治安維持はもちろん、道場で剣道の指導もしてくれるから、本当に助かってるよ」

 

「そうですか。何とかうまくやれているようで良かったです」

 

 北斗はホッと安堵の息を吐く。

 

 前にみとりに助けられ、機関区で療養を受けていた明羅だったが、その後北斗が慧音や小兎姫に彼女を紹介し、自警団の一員として働いているという。

 

「ただ、なぜか霊夢から隠れるように暮らしているのが気になるな」

 

「そうなのですか?」

 

「理由を聞いたら、『未熟故の無知から来る後悔から彼女が恐ろしい』だそうだ」

 

「????」

 

 理由を聞いて北斗は?を多く浮かべて首を傾げる。

 

「ま、まぁ、それ以外は特に問題は無いな」

 

「そうですか」

 

 北斗は慧音より話を聞いて、苦笑いを浮かべる。

 

「……」

 

 ただ、その二人の様子をあからさまに不機嫌な様子で夢月は見つめている。

 

「あっ、そうだ、北斗。少しばかり話したい事があるんだ」

 

「話、ですか?」

 

「あぁ。多少長くなるだろうから、前に紹介した甘味処で甘い物を食べながら話そうと思うんだが、良いか?」

 

「それは構いませんが……夢月さん、よろしいでしょうか?」

 

「……別に良いわよ」

 

 と、不機嫌そうな様子で、夢月は了承する。 

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「それで、話とは?」

 

 三人は甘味処にやって来て、席に着いた北斗が慧音に問い掛ける。

 

「あぁ。これは里全体より、私からの頼みみたいなものだな」

 

「頼み?」

 

「私がやっている寺子屋の生徒たちの幻想機関区への見学だが、出来るだろうか?」

 

「機関区の見学、ですか」

 

 北斗は声を漏らし、慧音を見る。

 

「実はな、前から寺子屋の生徒から幻想機関区の見学がしたいと要望があってな」

 

「……」

 

「生徒達の間では、蒸気機関車が人気でな。よく会話の話題にもなっているし、寺子屋が無い日は列車の運転日に必ず駅にいるぐらいだからな。それに、将来の夢は蒸気機関車の機関士になるって言う子が多いんだ」

 

「そうですか」

 

 慧音より話を聞き、北斗は笑みを浮かべる。

 

 蒸気機関車に興味を持ってもらえている。それは蒸気機関車が好きな者からすれば、好ましいものだ。それが子供であるのなら尚更だ。

 

「それ故に、生徒達から機関区の見学をしたいっていう要望が多いんだ」

 

「なるほど」

 

「それで、どうだ? 生徒達の為にも、私は見学をさせたい思っているんだが……」

 

「……」

 

 北斗は腕を組んで悩んでいると、頼んだ各種団子が運ばれて来る。夢月はその中からみたらし団子を手にして食べ始める。

 

「こちらとしては、拒否する理由はありませんね」

 

「そうか!」

 

「ただ、こちらにも都合がありますので、予定の調整の必要がありますね」

 

「いや、それが聞ければ十分だ。これなら生徒達も喜ぶな」

 

「こちらも準備をして待っています」

 

 そういうと二人はみたらし団子や三色団子を手にして食べる。

 

「それはそうと――――」

 

 と、慧音は北斗と世間話や最近の事、今後のことについてなどを話し出す。

 

 

「……」

 

 その傍らで、夢月は団子を食べながら北斗を横から見ている。

 

 慧音と楽しそうに話している北斗。以前までそんな姿を見ても何とも思わなかったが、今の彼女の中でモヤモヤとした感情が渦巻く。その何とも言えない感情に、彼女は苛立ちを覚え始める。

 

「……」

 

 夢月は竹串を竹の入れ物に入れると、苛立ちを紛らわそうと三色団子を手にして食べ始める。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 その後話を終えた北斗と慧音は勘定を済ませ、甘味処を後にする。

 

「では、予定が整い次第連絡をしてくれ」

 

「分かりました」

 

 北斗と慧音はそう言葉を交わして別れ、北斗と夢月は駅の方へと向かっている。

 

 

「……」

 

「……」

 

 ただ、二人の間には何とも言えない気まずい雰囲気が流れている。というのも、夢月は慧音に会ってから終始不機嫌な様子だったからだ。

 

「あ、あの」

 

「なに?」

 

 と、北斗が声を掛けると、夢月はギロリと睨むように見る。

 

「どうしたんですか?」

 

「何が?」

 

「いえ、なんていうか、夢月さん妙に苛立っているような気がして」

 

「苛立つ? 何に苛立っているっていうのよ」

 

 夢月は棘のある言い方で逆に北斗に問い掛ける。

 

「……い、いえ、そうじゃないのなら、良いんです」

 

 北斗はこれ以上聞くのは得策じゃないと思ったのか、それ以上の詮索をやめる。

 

 しかし夢月からすれば、中途半端にやめる北斗にむしろ苛立ちを覚える。

 

(……って、何に苛立っているのよ、私は)

 

 まぁ、その夢月自体も、ここまで苛立っている理由が分からず、そんな自分にも苛立っている。

 

(別に区長が別の女と話したっていいじゃない。機関区じゃ色んな女と話しているわけだし、なんだったら他の女とも話しているわけだし)

 

 と、彼女は内心で自分を納得させるように呟くも、それで彼女の苛立ちが取り除かれるわけではなく、むしろ苛立ちが増すばかり。

 

(……ホント、何なのよ)

 

 苛立つ自分に、夢月は顔を伏せる。

 

 

 

「あら、随分変わった組み合わせね」

 

 と、二人の声を掛けられて、夢月がハッと顔を上げる。

 

 二人の前には、日傘を差して立っている風見幽香の姿があった。

 

「幽香!」

 

 夢月は食材が詰まった紙袋を抱えたまま身構える。

 

「久しぶりね、北斗」

 

「は、はい。そうですね、幽香さん」

 

 幽香は北斗を見て声を掛け、彼は若干戸惑いながらも一礼する。

 

 周りでは少しだけざわつきが起きる。

 

「私が送った花はどうだったかしら?」

 

「あっ、はい。とても綺麗で良かったです。花も鈴仙さんが毎日水を変えて活けていましたし」

 

「そう。そう言ってもらえれば、あの子たちも喜ぶでしょうね」

 

 北斗から話を聞くと、彼女は微笑みを浮かべる。

 

「で、何の用なのよ」

 

「あなたに用は無いわ。用あるのは……」

 

 と、幽香は夢月を睨みつけ、北斗を見る。

 

「あなたよ」

 

「じ、自分にですか?」

 

「えぇ。少しあなたに話があるの。私の家でね」

 

「幽香さんの家、ですか」

 

 幽香の言葉に、北斗は戸惑いを見せる。

 

「あの、それって里じゃダメなんですか?」

 

「大切な話があるの。他人に聞かれるわけにもいかないし、用事もあるの」

 

「……」

 

「言っておくけど、拒否権は無いし、今すぐでなければいけないわ」

 

「……」

 

「人の意思を無視するなんて、横暴ね」

 

「回りくどい事は好きじゃないわ」

 

 呆れた様子で言う夢月に、幽香はそう告げる。 

 

「……どうしても、今じゃないとダメですか?」

 

「えぇ。それも、あなた一人でよ。同行者は許さないわ」

 

「……」

 

 幽香の答えに、北斗は息を呑む。

 

「聞くだけ無駄だと思うけど、拒否権は?」

 

「あると思う?」

 

「そりゃそうよね」

 

 夢月は肩を竦める。

 

「そんなに時間を掛けるつもりは無いわ。すぐに終わるし、ちゃんとここに連れて行ってあげるわ」

 

「……」

 

「……全く」

 

 と、迷いを見せている北斗に、幽香は若干苛立った様子で日傘を畳んで手に持つと、彼に近づいて目にも止まらぬ速さで抱え上げ、地面を蹴って飛ぶ。

 

「ちょっ!?」

 

 予想外の速さに夢月が驚いていると、あっという間に幽香は北斗を抱えたまま飛んで行った。

 

「……幽香め」

 

 大胆な行動を起こした幽香に、夢月は歯噛みする。

 

 そして周りでは騒ぎが起きており、絶対ことが大きくなりそうな状況だ。

 

「……」

 

 夢月は舌打ちをして、一先ず混乱が起きないように慧音を探しに走り出す。

 

 

 




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