東方鉄道録‐幻想の地に汽笛は鳴り響く‐   作:日本武尊

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第137駅 北斗の出生の秘密

 

 

 

 

「……」

 

「……」

 

 気まずい雰囲気の中、北斗と飛鳥はテーブルを挟んで向かい合って座っている。

 

 幽香は「じゃぁ、後は二人っきりで」と言って家を出て外で待っている。まぁ邪魔者が入らないように外を見張っているのだろう。もちろん、飛鳥の脱走を阻止する為というのもあるだろうが。

 

 紅茶の入ったカップから湯気が立ち上り、二人はその湯気を見つめるように、静かにしている。

 

「……」

 

「……」

 

 時計の針の音が時を刻む音がして、時間だけがただただ過ぎていく中、北斗が口を開く。

 

「……あ、飛鳥さん」

 

「な、なんだ?」

 

 飛鳥はビクッと身体を震わせて返事をする。

 

「その……幽香さんの話は……本当なんですか? 飛鳥さんが……俺の母親だっていうのは」

 

「……」

 

 北斗の問いに、彼女は一瞬俯くも、意を決して顔を上げる。

 

「あぁ、そうだ。幽香の、言う通りだ」

 

「……」

 

「私が、北斗の母親で、間違いない」

 

 彼女は絞り出すように、そう告げる。

 

「飛鳥さんが……僕の……母親……」

 

 北斗は確認するように、小さく声を漏らす。

 

「……」

 

「言いたいことは……分かるぞ。なぜお前を捨てたのか……そう聞きたいんだろ?」

 

「……」

 

 北斗は何も言わず、静かに頷く。

 

「言い訳はしない。許しを請おうとは思わない。私がお前を自らの意思で手放した事実に変わりはない」

 

「……」

 

「だが、北斗を捨てたくて、外の世界に捨てたわけじゃない。これだけは、確かだ」

 

 飛鳥は俯きながらも、絞り出すように北斗にそう告げる。

 

「俺を外の世界に置いてきたのには、理由があるんですか?」

 

「……あぁ」

 

 北斗の質問に、飛鳥は頷く。

 

「お前を守る為だ」

 

「俺を……」

 

 彼女から告げられた事実に、北斗は声を漏らす。

 

「北斗。お前は……少なくともあのスキマ妖怪が無視出来ないような、秘密があるんだ」

 

「スキマ妖怪……八雲紫さんのことですか?」

 

 北斗の質問に飛鳥は「あぁ」と答える。

 

「北斗。私が人間じゃないのは、前に話したよな」

 

「はい。でも詳細までは」

 

「そうだな。まだ、詳しく話してなかったな」

 

 飛鳥は一旦会話を区切り、カップを手にして紅茶を飲む。

 

「……私は、所謂神霊と呼ばれる部類の存在だ」

 

「神霊……。幻想機関区の蒸気機関車の神霊と同じですか?」

 

「似てはいるが、私の場合はだいぶ違う」

 

 飛鳥はそう言うと、窓から空を一瞥する。

 

「……大昔から、私という存在が誕生した。とても、とても古い時代にな」

 

「……」

 

「北斗。お前には……少なくとも神の血が流れているんだ。純粋な神のものではないが、少なからず神力を有している。だからこそ、非常に強い霊力を持っているんだ」

 

「神の血が……俺の中に」

 

 衝撃の事実を聞き、北斗は自分の手を見る。

 

 

「だが、本来ならそれはありえないんだ」

 

「ありえない? それってどういうことですか?」

 

 北斗は思わず首を傾げる。

 

「本来神霊というのは……子を孕むことは無いんだ」

 

「……」

 

「私の身体は……れっきとした女性の身体だ。子供を産もうと思えば、産むことが出来るように、必要な物だって揃っている」

 

 飛鳥は自身のお腹を見て手を当てながら、説明をする。

 

「だが……それでも神霊は子を宿すことが出来ない。厳密には宿せなくなる、というのが正しいか」

 

「……」

 

 彼女の説明に、北斗は息を呑み、同時に疑問が浮かぶ。

 

 ならなぜ、自分は生まれたのか?それとも――――

 

 

「言っておくが、お前は正真正銘、血の繋がった私の子だ。決して血の繋がらない他人じゃない」

 

 と、北斗が不穏な事を考えているのを察してか、飛鳥は強めな口調でそう告げる。北斗は一瞬でも疑ったことに申し訳ない様子で俯く。

 

「で、でも、神霊は子供を宿すことが無いって……」

 

「本来ならな。だが、いつの世だって例外はあるんだ」

 

「例外……」

 

「まぁ、その例外も……八雲紫が無視できない理由でもあるんだがな」

 

「……?」

 

 飛鳥の引っかかるような言い方に、北斗は首を傾げる。

 

 すると彼女は懐に手を入れて内ポケットより、折り畳まれたものを取り出すと、それを広げてテーブルに置く。

 

「これは赤ん坊だった北斗と撮った写真だ」

 

「……」

 

 飛鳥の言葉に北斗はテーブルに置かれた写真を見る。

 

 長い年月が経過して写真自体劣化しているが、そこには白黒で二人の男女と、女性に抱えられた赤ん坊の姿が写されている。

 

「……この男の人が、俺の」

 

「あぁ。お前の父親だ」

 

 もちろん写真に写っている男性の正体は容易に想像できて、北斗の質問に飛鳥が答える。

 

「この人が……俺の」 

 

 北斗は写真に写っている父親である男性を見る。と同時に、ある違和感を覚える。

 

(……でも、何だろう。何だか、どこかで見たことがあるような)

 

 北斗は男性を見ていると、妙に初めて見たという感覚があまりなく、むしろどこかで見たような、そんな容姿をしている。

 

 和服を身に纏い、腰まで伸びた髪を三つ編みにしており、顔つきはどことなく中性的だ。

 

「名前は輝く月と書いて輝月(てるづき)だ」

 

「輝月……」

 

 父親の名前を聞き、北斗はオウム返しのように父親の名前を口にする。

 

「そして、輝月も……八雲紫が無視できないような、理由がある」

 

「どういうことですか?」

 

 北斗が問い掛けると、飛鳥は再度窓から空を見上げ、薄っすらと姿を見せている月を見る。

 

「輝月は……幻想郷の人間じゃない。ましても、外の世界の人間でもない」

 

「えっ……」

 

 飛鳥の口から聞き捨てならない言葉が出て、北斗は唖然となる。

 

「……彼は、遠く離れた空の向こうにある……月」

 

 そして彼女は、北斗の目を見て、口を開く。

 

 

「輝月は、月の裏側にある月の都。そこに住まう、月の民なんだ」

 

「……」

 

 飛鳥の口から告げられた衝撃的な事実に、北斗は驚きを隠せず、唖然となる。

 

「つまり、お前の中には、神霊と月の民の血が流れているんだ」

 

「月の民……それって、宇宙人みたいな?」

 

「いや、住んでいる場所が違うだけで、人間とそこまで大きく変わらない」

 

「……」

 

 それを聞き、北斗はどこかホッとした様子で安堵する。

 

「それで、なぜ八雲紫が月の民であったら見過ごせないのか。それはかつて八雲紫が月の都へ攻め入ったことがあるからだ」

 

「紫さんが……月の都に?」

 

「やつが月の都に攻め入った目的が何だったのかは知らないが、その時に八雲紫は月の民相手に敗北を喫した。恐らく月の民との間に深い悔恨が出来ているはずだ」

 

「……」

 

「だから、輝月ももしかしたら、月の民だから何かしらの疑いを掛けられていたかもしれなかった」

 

 彼女から告げられた事実に、北斗はもう何度目かの驚きを覚える。

 

 ここまで来ると、話のスケールがデカ過ぎて頭がパンクしそうだった。

 

 そもそも母親の正体が神霊であり、父親が月に住まう月の民という事実だけでも、正直一生分の驚きがあったと思う。しかもついでという形で八雲紫の過去の一部を聞くことになってしまった。

 

 

 

「輝月との出会いは……今から20年前のことだ」

 

 飛鳥は紅茶を飲み、深く息を吸って、ゆっくりと吐いて気持ちを整え、静かに語り出す。

 

「私が無縁塚で散歩をしていた時に、妖怪に襲われている人間を見つけた。私はその人間を妖怪から助けて、怪我をしていたから、とりあえず治療の為に家まで連れて行った」

 

「……それが、輝月さんだったんですか?」

 

「あぁ。当時は月の民だっていうのは知らなかった。普通に妖怪に襲われた人間だと思っていたよ」

 

 懐かしそうに飛鳥はその時の事を思い出しながら、話を続ける。

 

「それから輝月の治療をしながら、彼と一緒に時間を過ごすことになった。それから少しして、彼が月の民だっていうのを本人の口から聞いた」

 

「……」

 

「輝月は好奇心旺盛なやつでな。あれはなんだ、これはなんだ、それはなんだと、色んな事を聞いてきた。まるで子供の様だった」

 

 その時の事が脳裏に過ったのか、彼女は笑みを浮かべる。

 

「それから一緒に暮らし始めて、色々と話したり、一緒に人里に出かけたりして、時を過ごした」

 

「……」

 

「だからなのかな。男女の仲が進展するのに、そんなに時間は掛からなかった」

 

「……」

 

「やがて私と輝月は愛し合うまでの中になってな……そりゃ、まぁ男女のゴニョゴニョもするぐらいの仲までは……」

 

 と、飛鳥は途中の部分が恥ずかしくて言いづらかったのか、頬を赤く染めて小さな声で呟く。

 

 その様子に北斗は「あー」と声を漏らして、理解する。

 

「…‥まぁ、どれだけ私達が愛し合っても、私は輝月との間に子供を作る事は出来ない。そういう存在なのだから」

 

 と、飛鳥はさっきまでの恥ずかしそうな様子を一変させて、目を伏せる。

 

「少なくとも、その時まではな」

 

「……」

 

「ある日、私は体調を崩した。妙に気分が悪いし、嗅ぎ慣れているご飯の匂いがきつく感じるようになったり、やけに酸っぱい物を食べたくなったりと、変化が現れた」

 

「……」

 

「体調は良くならなかったから、私は輝月と一緒に里の診療所に訪れて、身体を診てもらった」

 

「……」

 

「そこで判明したんだ。私のお腹の中に……命が宿っていたのを」

 

 と、お腹に手を当てながら、飛鳥は微笑みを浮かべる。

 

「その時は、とても信じられなかった。どれだけ求めても、どれだけ望んでも、決して宿らないと思っていた命が、宿ったんだからな」

 

「……飛鳥さん」

 

「嬉しくないはずがない。愛する者との間に、子供が出来たんだ。その時は、輝月と一緒に喜んだよ」

 

 彼女は少し涙声になりながらも、話を続ける。

 

「それから日に日にお腹の中の赤ん坊が大きくなっていくのを感じながら過ごして……そして無事に生まれた」

 

「……」

 

「元気な男の子だった。不安が多かっただけに、元気な子供が生まれて、本当に……本当に、嬉しかった」

 

「……」

 

「そして私は輝月と色々と話し合って、生まれた子供に……『北斗』と名付けたんだ」

 

「……そうだったんですね」

 

 北斗は自身の出生の経緯を聞き、笑みを浮かべる。

 

「なぜ神霊の私に子供が出来たかは、輝月が月の民だったからなのか、彼が特別だったのか、色々と考えたけど、結局分からなかった。まぁ、その時はそんな事はどうでも良かった。無事に大切な子が生まれて来てくれたことが、何より嬉しかったからな」

 

「……」

 

「だが、同時に不安だった。神霊と月の民との間に生まれた子供だ。普通なわけがない。これから先どうなるか、想像がつかなかった。そしてスキマ妖怪がお前の存在を知れば、見過ごすはずがないからな」

 

「……」

 

「だが、それでも、その時はまだ大きく悩むようなことじゃないと、深く考えなかったんだ」

 

「……」

 

 

「あぁそうだ。北斗の名前の由来なんだが……お前を産んだ時、空には北斗七星が浮かんでいたな。北斗七星を見ていたら、外の世界で走っていた寝台特急『北斗星』が連想して、お前の名前にしたんだ」

 

「えっ。寝台特急が僕の名前のルーツなんですか?」

 

 意外な名前のルーツに、北斗は驚きを隠せなかった。まさか寝台特急が自分の名前になるなんて思ってもみなかったからだ。

 

「まぁ、今思えば結構安直だったかもな」

 

 飛鳥は苦笑いを浮かべて頬を軽く掻く。

 

「と、まぁ、これが北斗の生まれた経緯だ」

 

「……」

 

 彼女は説明を終えてカップに入っている紅茶を飲み干し、北斗は気になっている事を尋ねる。

 

「飛鳥さん」

 

「なんだ?」

 

「気になっているんですが……僕の父親、輝月さんは……今どこに?」

 

 

「……」

 

 すると、飛鳥は無表情になり、目を伏せる。

 

「……?」

 

 突然変わった飛鳥の様子に、北斗は首を傾げる。

 

「……」

 

 やがて意を決したように、飛鳥は重々しく口を開く。

 

「輝月は……お前の父親は―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――もう、この世にいない」

 

 

「……えっ?」

 

 飛鳥からの口から出た事実に、北斗はすぐに理解出来ず、思わず声を漏らす。

 

「輝月は……北斗が生まれてすぐに……死んでいるんだ」

 

「……」

 

 今にも泣きそうな飛鳥の姿に、北斗は衝撃的な事実と共に、何も言えなかった……

 

 

 

 

 

 




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