東方鉄道録‐幻想の地に汽笛は鳴り響く‐   作:日本武尊

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第138駅 真相と決断、そして……

 

 

 

 飛鳥の口から出た、あまりにも悲しい事実……

 

 

 知る機会は無いだろうと思っていた母親を知り、父親も知ることが出来た。

 

 

 だが、その父親は……もうこの世にいなかった……

 

 

 

「……」

 

 北斗はしばらく何も言えず、ただ俯いたままだったが、顔を上げて飛鳥に尋ねる。

 

「……どうして、父は亡くなったんですか?」

 

「……」

 

 飛鳥も本当なら愛する者が亡くなった当時のことを思い出したくないはずだ。しかし北斗には全てを話さなければならない。故に彼女は意を決して、語り出す。

 

「当時、里では過去に外の世界で流行した病が流行ってな。多くの人間が死に絶える事態になった」

 

「……」

 

「その病は感染力はそこまで高くないが、発症したら薬を打たなければ命が無いレベルの、非常に重い病だった。当然薬なんてものは無かったから、発症したら確実に命を落としていた」

 

「……」

 

「だが、病自体は消毒を徹底させることで、感染することは無かった。それに八雲紫が外の世界から消毒用の薬品や治療薬を大量に仕入れて里を消毒させ、薬を投入したことで、病の元になった病原菌を死滅させ、最悪な事態を回避することが出来た」

 

「……」

 

「でも……輝月は……その病を発症させてしまった」

 

「……」

 

 予想はしていたが、北斗は息を呑む。

 

「恐らく、月の都では病気とは無縁な環境下にあったから、病気に対する耐性が低くなっていたんだと思う。そのせいか、病を発症させてすぐに症状を悪化させていた」

 

「……」

 

「私は、必死に看病した。どうにか病を治そうと、あらゆる手段を試した。だが、肝心の薬を手に入れることが、出来なかった」

 

 やがて限界が来たのか、彼女の目から涙が零れ落ちる。

 

「……病は悪化の一途を辿り……北斗が生まれて二週間後に……輝月は死んだ」

 

「……」

 

「あいつは……最後まで私に心配を掛けないように、笑顔を絶やさなかった。苦しかったはずなのに……それでも、無理をしていない、とても自然な笑みだった。最期の時だって、とても……穏やかな顔だった」

 

 飛鳥は袖で涙を拭い、その時の事を思い出して北斗に伝える。

 

「輝月の遺体は、丁寧に弔いたかったが、この幻想郷に正式な形で入ってきたわけじゃなかったから、身元なんてものは無かった。そこから様々なことが発覚するのを恐れて、私は無縁塚に彼の遺体を埋葬した」

 

「無縁塚……」

 

 ふと、北斗は無縁塚で見た簡易的な墓の数々を思い出す。

 

「ちゃんとした立派な物は立てられなかったが、木材で作った簡易的な墓標に、輝月と一緒に里で買った懐中時計を下げておいた。あいつ、その懐中時計をとても大切にしていたからな」

 

「……それじゃ、あの墓は」

 

 彼女の説明した墓の特徴から、北斗はこの間無縁塚で見たあの錆び付いた物が下げられていた墓を思い出す。

 

「輝月の墓を知っているのか?」

 

「はい。この間無縁塚の調査の際に、同じ特徴の墓を見ましたので」

 

「そうか……北斗が見たっていう墓は、恐らく輝月の墓で間違いない」

 

 飛鳥はそう言うと、俯く。

 

「輝月の死後、私は北斗と共に、しばらくは静かに暮らしていた。色々と、気持ちの整理がしたくてな」

 

「……」

 

「輝月の為にも、必ず北斗を守ると、そう決意を固めようとした。でも……」

 

 と、彼女の表情が暗くなる。

 

「日に日に、北斗の霊力は増すばかりだった。それこそ、他の妖怪に気取られて、狙ってくるまでにな」

 

「……」

 

「北斗。さっきも言ったが、お前は普通の人間じゃない。神霊と月の民との間に出来た子供だ。その上非常に強い霊力持ち。これほどの条件を揃えた子供を、あの八雲紫が目を付けないと思うか」

 

「……」

 

 飛鳥の言葉に、北斗は何も言えなかった。詳しい事情は分からないが、少なくとも八雲紫が目を付けないとは言い切れなかった。

 

「その時は、北斗の存在を八雲紫に察知されることはなかったが、恐らくばれるのも時間の問題だった。それだけ、北斗の霊力は強くなっていたんだ」

 

「そんなに……」

 

 北斗は思わず息を呑む。自分自身に起きていたことだが、全く自覚が無かった。

 

「もしも八雲紫がお前の存在に気付けば、私から北斗を取り上げようとしていたかもしれない。ある意味、あのスキマ妖怪にとって色々と都合が良かっただろうしな」

 

「都合?」

 

 北斗は思わず首を傾げる、一体自分の何が八雲紫にとって都合が良いのか……

 

「博麗の巫女は霊力の強い少女が選ばれて、先代の博麗の巫女が修行と共に子育てを行って育成する。あくまでも霊力の高い少女が選ばれるから、博麗の巫女に血の繋がりは無い」

 

「なるほど」

 

「だが、霊力の高い逸材はそう多くない。だいぶ前からその現状が続いているようでな。仮に居ても女性ではなく男性である場合もある。当然男に博麗の巫女を任せられないから、もどかしい状況が続いていたんだろうな」

 

「それは、まぁそうですよね」

 

「その場合霊力の高い男性を博麗の巫女の婿として迎え入れ、博麗の巫女に後継者を作らせる。まぁ悪い言い方をすると種馬として迎えられることになるな」

 

「は、はぁ」

 

 北斗は博麗の巫女の実情に、何とも言えない気持ちになる。

 

「というか、結構詳しいんですね」

 

「まぁ、幻想郷が出来る前から私は居るからな。ある程度幻想郷の事情は知っている」

 

「それはさておいて」と、飛鳥は咳払いをして気持ちを整える。

 

「まだ赤ん坊とはいえど、将来的には博麗の巫女の後継者を作る為の種馬として、八雲紫に育てられる為に私から北斗を取り上げる可能性が高かったんだ」

 

「そんな横暴な」

 

「だが、スキマ妖怪からすれば、ある意味深刻な問題だ。この幻想郷の維持の為に、博麗の巫女の存在は必要不可欠だ。それも霊力の高い巫女をな。まぁだからと言ってやられた方はたまったものではない」

 

「……」

 

「私はどうすればいいか、悩みに悩んだ。その末に考えたのが……」

 

「外の世界に、置いてきた、ですか……」

 

「……そうだ」

 

 飛鳥は間を開けて、重々しく頷く。

 

「いくら八雲紫とはいえど、余程の事が無い限り、外の世界まで来て霊力の高い人間を探すことは無いだろう。その上、外の世界なら霊力が抑えられるとあって、北斗を隠すのに最適だったんだ」

 

「……」

 

「北斗を手放すのは、最後の最後まで悩んだ。だが、お前の事を思えば思うほど、こうするしかないと思った」

 

「……」

 

「結果的に、私は、お前を孤児院の前に置いていったんだ……」

 

「……」

 

 

 

「……これが、私が話せる全てだ」

 

 飛鳥はそう言うと、深く息を吐く。

 

「……」

 

 北斗は何も言わず、ただ静かにジッとしている。

 

「……ここまで、色んな理由を話してきたが、私が北斗を自らの意思で手放したことに変わりはない」

 

「……」

 

「許されるとは思っていない。私が母親として振る舞う資格も無い。外の世界で、北斗がどんな目に遭ったか……それなのに、私は……何も……」

 

 飛鳥は俯き、北斗にそう告げる。

 

「……」

 

「……」

 

 二人して黙り込んでしまい、時計が時を刻む音だけが淡々として時間だけが過ぎていく。

 

 

 

「……」

 

 やがて北斗は顔を上げて、どこか遠慮しがちな雰囲気ながら、口を開く。

 

 

 

「……か、母……さん」

 

「っ!」

 

 北斗の口から発した言葉に、飛鳥はハッとする。

 

「俺は……」

 

「やめてくれ。私は……母親と呼ばれる資格は無いんだ!」

 

 飛鳥は顔を背けて、声を荒げる。

 

「私は……お前を……」

 

「でも、それでもあなたは、外の世界まで僕のことを見に来てくれましたよね」

 

「……」

 

 北斗の言葉に、飛鳥は何も言えなかった。

 

「あなたは、俺のことが嫌いですか?」

 

「っ! そんな事は無い! 片時も、お前の事を忘れたことは無い。お前のことを、ずっと愛している!」

 

「それですよ」

 

「……」

 

「もし、本当に俺のことを愛していないのなら、外の世界に置いてきた俺の様子を見に来たりはしないはず」

 

「それは……」

 

「少なくとも、その時のあなたは……とても嬉しそうに見えました」

 

「北斗……だが、私は……」

 

 受け入れようとする北斗だったが、それでも飛鳥は躊躇う様子を見せる。例え本人が許すと言っても、自身が犯した罪は決して許されざるもの。その好意を素直に受け取るわけにはいかない。

 

「確かに、自分の子供を手放したという事実は消えません。これからも、その事実は消えることなく、一生残り続けると思います」

 

「……」

 

「もし本当に俺の存在が邪魔で捨てたのなら、俺はあなたを一生恨んでいたと思います」

 

「……」

 

「でも、そうしなければならない、それしか方法が無かった。避けられなかった理由があるのなら、俺は納得しますし、受け入れます」

 

「……北斗」

 

 

「母さん」

 

 と、北斗は席から立つと、飛鳥の横へと歩み寄り、その場にしゃがんで視線を下げる。

 

「失った時間は、戻る事はありません。決して短いとは言えない時間が過ぎてしまいましたが、今からでも遅くはありません」

 

 北斗はそう言うと、微笑みを浮かべ、飛鳥の手に自身の手を置く。

 

「だから、これからは家族として……一緒に過ごして欲しいんです」

 

「……」

 

 北斗の言葉に、飛鳥は目に涙を浮かべる。

 

「い、良いのか? こんな、無責任な私を……母として、認めて……くれるのか?」

 

 彼女は声を震わせながら、北斗に問い掛ける。

 

「もちろんです。むしろ、お願いしたいと思うぐらいです」

 

「北斗……」

 

「……会いたかったです、母さん」

 

「っ!……北斗っ!」

 

 そして感極まり、飛鳥は椅子から降りて北斗を抱きしめる。

 

「ごめんよ、ごめんよ……北斗。本当に、本当にぃ……!」

 

「……」

 

 涙を流し、愛する息子を強く抱きしめ、泣きながらも飛鳥は何度も謝る。北斗は静かに受け入れながら、母を抱きしめる。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「……」

 

 飛鳥の泣く声が家の外に響く中、その声を幽香は壁にもたれかかって腕を組み、静かに聞いている。

 

「これが目的だったのね」

 

 と、幽香の隣で同じく壁にもたれかかっている夢月が深くため息をついて、彼女に問い掛ける。

 

「いつまでもウジウジとしてて、鬱陶しかったのよ。だから親子の再会の場を設けて、理解し合う機会を作ってあげたのよ」

 

「だからって、事情を考えないで何の説明も無しに連れて行くのはどうなのよ。誘拐みたいなことして」

 

 夢月はジトっと幽香を睨むも、彼女はどこ吹く風な様子だ。

 

「全く。私にらしくないことをさせてさ。私がどれだけ火消しに奔走したと思っているのよ」

 

「それは意外ね。あなたが彼の事を考えてくれるなんて」

 

「別に。色々と面倒ごとになるからよ」

 

 彼女はそう言うと、そっぽを向く。

 

 夢月は北斗が幽香に連れて行かれた後、すぐ慧音を探して事情を話し、事を大きくさせないようにしていた。彼女からすればこれ以上面倒ごとは起きて欲しくなかったからだ。

 というより、北斗に迷惑を掛けられなかったという方が正しいか。

 

「人間なんて虫のように扱っていたあなたが他人を思いやるようになるなんて……あなたを変えたのは、彼かしら」

 

「……」

 

 質問をする幽香に、夢月は答えない。そっぽ向いた彼女の顔は、どことなく赤いようにも見える。

 

「本当……不思議な子ね」

 

 意味深な事を呟き、幽香は空を見上げる。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「落ち着きましたか?」

 

「うん……」

 

 溜まっていたものを吐き出すように泣いた飛鳥は、北斗から声を掛けられて鼻をすすりながら頷く。

 

「そういえば一つ気になっていたんですが」

 

「な、なんだ?」

 

 と、飛鳥は少し戸惑った様子で身構える。

 

「どうして、幻想郷で再会した時に、話してくれなかったんですか?」

 

「あ、あぁ……それはだな」

 

 北斗の問いに、飛鳥は恥ずかしそうに視線を逸らす。

 

 

「……北斗から、拒絶されるのが……怖かったんだ」

 

「……」

 

「私には、もうお前しかいない。愛する子から拒絶されたら、正直生きる気力が湧きそうにない。そりゃ、そうなっても普通に自業自得なんだけど」

 

 飛鳥は視線を逸らし、両手を組んで指先を動かしながら語る。

 

「何だかんだと言って、それを言い訳にして……いつまでも話せなかったんだ」

 

「……」

 

「まぁ、そのせいで幽香に無理やりこの機会を作らされたんだけど……」

 

「そ、そうですよね」

 

 二人して苦笑いを浮かべる。

 

「でも、幽香さんには、感謝しかないです。強引ではありましたが、それでも、得られた結果は大きかったんですから」

 

「……そうだな。確かに、そうだよな」

 

 飛鳥はそういうと、微笑みを浮かべる。

 

「北斗」

 

「はい、母さん」

 

 北斗も微笑みを浮かべ、飛鳥はゆっくりと口を開く。

 

 

「ありがとう……」

 

 

 

 




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