もちろん買っている車輌は蒸気機関車と旧型客車です。
幻想郷で一番大きな山であり、天狗と呼ばれる妖怪が実質上支配している妖怪の山。森林の葉っぱの色が赤く染まり始めて秋の感じが出始めていた。
そこには大きな湖と共に立派な様相の神社が建っていた。
それは幻想郷に二つある神社の一つで、外の世界から湖ごとダイナミックに幻想郷に引っ越してきた『守矢神社』である。
「……」
その守矢神社の四方に聳え立っている柱の頂上に座り込む少女は空を見上げていた。
彼女の名前は『洩矢諏訪子』。守矢神社に住む二柱の神の内の一人である。幼い見た目をしているが、その雰囲気は同年代の少女とは比較にならない厳格なものだった。
「早苗の事が心配か?」
と、鳥居を挟んで彼女が座る柱の反対側にある柱の頂上に立つ女性が声を掛ける。
彼女の名前は『八坂神奈子』。守矢神社に住む二柱の神の内の一人で、表向きは彼女が祭られていることになっている。その雰囲気は神とあって、神聖さと厳格さを持ち合わせている。
「無いとは言い切れないね。まぁ早苗のことだから大丈夫とは思うけど」
洩矢諏訪子は後ろを振り返って女性を見る。
すると遠くから汽笛の音が妖怪の山に小さく木霊す。
「でも、まさかこの幻想郷で蒸気機関車を見ることになるなんてね」
「あぁ。その上、線路まで現れているのだからな」
八坂神奈子が向ける視線の先には、守矢神社と湖の近くに敷かれた線路があった。
「……霧島北斗」
「蒸気機関車と、その神霊と共に幻想入りしてきた少年、か」
二人は早苗から聞いた少年の事を口にする。
彼女曰く機関区と蒸気機関車、その神霊と共に幻想入りしてきた少年。
「早苗の話じゃ、この異変に直接関係していないようだが、関連性が無いとは言い切れんらしいな」
「みたいだね」
「まぁ、こちらに実害が無ければ、何も問題無いがな」
「だね」
「……」
「それにしても……」
と、洩矢諏訪子は再び視線を前の方に向けて空を見上げる。
「あんなに嬉しそうに話している早苗を見たのは、何時振りかな」
「そうだな……」
八坂神奈子は空を見上げ、目を細める。
昨日神社に帰って来た早苗はすぐに早朝出掛ける許可を二人に願い出ていた。
彼女の突拍子の無いのはいつもの事だが、すぐに理由を聞いた。
何でも幻想郷を周るのを兼ねて線路調査の為に機関車を走らせると霧島北斗から聞き、早朝に出発するのでその外出許可であった。
二人は早苗の勢いに圧されたが、信仰活動はどうするのだと聞くと、彼女は途中で抜けてやるべき事をやります、と言った。
早苗の必死な願いに、二人は仕方なく許可した。
「本当に、嬉そうだったね」
「……あぁ」
だが、仕方なくと言ったが、実際の気持ちは彼女の気持ちを尊重した所が大きい。
あんなに活気溢れた彼女の笑顔を見たのは、久しかったからだ。
かつて外の世界で暮らしていた頃は、本当の意味で笑顔を浮かべた姿を、滅多に見られなかったからだ。
誰も本当の彼女を受け入れようとせず、拒んできた。その為に、彼女は徐々に笑顔を失っていった。
ただ唯一、早苗が本当の意味で笑顔を見せたのは、彼女に初めての友達が出来た、その時だけだった。
そして幻想郷に来て、彼女は霧島北斗との出会いで、再び本当の意味での笑顔を見せたのだ。
「機会があったら、その霧島北斗と会ってみたいね」
「あぁ。そうだな」
蒸気機関車が大きく関わっているのだろうが、早苗に再び笑顔をくれた少年に二人は興味を持った。
「どんなやつか興味あるのもあるが、彼らと協力する事が出来れば、こちらとしてはありがたい」
八坂神奈子は湖の近くに敷かれた線路を見ながらそう口にする。
外の世界では彼女達の信仰が失われつつあり、消滅の危機にあった彼女達は信仰を得る為に、この幻想郷に神社と湖と共に幻想入りした。
当時は場所が場所とあって信仰は山の妖怪から得ていたのだが、妖怪の数もそうだが、何より一部の妖怪の思想からして得られる信仰は高が知れていた。
その後天狗の長である天魔と交渉の末、天狗側は渋々であったが、人里から守矢神社への索道を確保した。
最初は人里から索道を通って神社へと参拝する人は居たのだが、参拝者の数は芳しくなく、むしろ日に日に数が減っていた。
原因はやはり場所にあった。天狗が支配しているとは言えど、妖怪の山はその名の通り天狗以外の妖怪も棲んでいるのだ。当然妖怪による襲撃が時々起きていた。
そのせいで人里では守矢神社へ参拝したいが、行くのを躊躇う者が多いのだ。
一応妖怪の山にある索道には白狼天狗が密かに監視しており、妖怪が近づかないように対処しているのだが、向こうが時間の空いている時のみしか監視は出来ないので、あまり当てには出来ない。
その上人里から守矢神社への道のりが長く険しいので、それも参拝者の数が伸びない要因だろう。尤も、それは博麗神社にも言えることだが。
だから守矢神社勢は外の世界での知識を用いて、天狗と共に妖怪の山に棲んでいる河童達と協力し、人里から守矢神社を繋ぐロープウェーの建設計画を進めていた。
しかしこの計画に天狗側が難色を示しており、その上技術的な問題や妖怪の山周辺の風速問題も浮上して、計画は進めずにいた。
まぁ天狗側が建設に反対しているのは、守矢勢に力を付け過ぎて欲しくないのもあるが、最もな理由は建設時に出来る設備が天狗からすれば邪魔でしかないのだろう。
その上天狗側は既にしぶしぶと守矢勢に譲歩しているのだ。これ以上の譲歩はプライドの高い彼らが許すはずもない。
そんな時に、今回の異変が起きた。
当初は妖怪の山に線路が現れたことで真っ先に彼女達が疑われたが、無関係であるのが証明されて今は疑いが晴れている。
とは言えど、守矢勢としてはまさに棚から牡丹餅であり、これを利用して参拝客を増やして信仰を得たいと考えている。
二柱からすれば早苗が彼らと関係を持ったのは嬉しい誤算だった。後は霧島北斗と会って話し合いをしたいところであった。
まぁ、どの道天狗との話し合いが待っているのは、言うまでも無いだろうが。
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所変わって、幻想郷の魔法の森の外側に沿った線路。
『……』ジー
そこで線路を凝視する少女達の姿があった。
「これ、本当になんだろうね?」
緑色のショートヘアーに触覚のような物が生えているボーイッシュな少女は首を傾げて呟く。
「少し前から人里の周りや湖付近でも同じ物が出ているよね」
「そうなのかー?」
黄緑色の髪をサイドポニーにしている背中に羽が生えている少女が他の場所にも現れている線路を思い出しながら喋ると、隣に居るショートヘアーの金髪に赤いリボンをつけた少女が両腕を横に広げて声を漏らす。
「やっぱりこれは異変だな! 霊夢達が動く前に私達で異変を解決するぞ!」
と、元気いっぱいに胸を張りながらそう口にするのは、水色のショートヘアーに後頭部に青いリボンを付けて、背中に氷の結晶の様な翼を持つ少女であった。
少女の名前は『チルノ』。この幻想郷に暮らす氷の妖精だ。サイドポニーにして背中から羽を生やしているのは『大妖精』と呼ばれる妖精で、親しい者からは『大ちゃん』と呼ばれている。
金髪ショートヘアーの少女は『ルーミア』と言う宵闇の妖怪で、ボーイッシュな少女は『リグル・ナイトバグ』と言う蛍の妖怪だ。
妖怪と妖精と言う妙な組み合わせであったが、彼女達は仲が良いメンバーで、よく一緒に居る。彼女達と仲の良い者はもう一人居るのだが、今日は用事があってここには居ない。
「でもチルノちゃん。当てはあるの?」
「無い!」
なぜか自信満々で言う彼女に大妖精は苦笑いを浮かべるしかなかった。
「でも、この間霊夢がどこかに飛んでいくのを見たぞ」
「何! ホントか!」
ルーミアの言葉にチルノが反応する。
「でもどこに飛んで行ったか忘れた」
「もう! 何やっているの!」
「うがー!」と言わんばかりにチルノは大きな声で叫ぶ。
「うーん」
「どうしたの、リグルちゃん?」
「いや、簡単な話、これを辿っていけば何かあるんじゃないかなぁって」
リグルは線路の先を指差しながらそう言う。
「それだぁ!」
チルノはリグルに指差しながら叫んで他のみんなはビクッと驚く。
「そうと分かれば、これを辿って行くぞぉ!」
「ち、チルノちゃん。やっぱり危ないよぉ! そうやって危ない目に何度も遭ってきたじゃない!」
大妖精はチルノを止めようと必死に言う。
実際何度も危ない目に遭っている。
「大丈夫大丈夫! あたいはサイキョーだからね!! 今回こそやれる!」
と、一体何処からそんな自信が出てくるのか、胸を右拳で軽く叩いて胸を張る。
確かの彼女の実力は性質も伴って妖精の中では能力的な意味もあって強い方だ。まぁ、当然それは妖精の中での話であって、大抵はコテンパンに打ちのめされるのがオチだった。
「……?」
するとルーミアは首を傾げて足元にある線路を見る。
よく見ると、線路が小刻みに振動していた。
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一方その頃……
D62 20号機の牽く列車は速度を維持したまま線路の上を走っていた。
「……」
運転室の窓から左肘を肘受けに置いて頭を出して前を見ている北斗は加減弁ハンドルを引いて加減弁を開き、蒸気圧を高めて速度を上げる。
その隣では機関助士の妖精が炭水車に載せている石炭の山にスコップを挿し込んで掬い上げて載せ、床にあるペダルを踏んで焚口戸を開けると、燃え盛る火室へと石炭を放り込んで床のペダルから足を離すと焚口戸を閉じる。
再度スコップを石炭の山に挿し込んで載せ、床のペダルを踏んで焚口戸を開けて火室へと石炭を放り込む。
それを数回繰り返した後、水位計のメーターを確認して注水器のバルブを回して水をボイラーに送り込み、ある程度水位計が上がった所でバルブを戻し、いくつもあるバルブを回して各所へと蒸気を送り込む。
(地図通りなら、そろそろ人里が見えてもおかしくないか)
彼は運転室に身体を戻して壁に貼り付けている幻想郷の地図を確認する。
(ここまで問題なく進んでいるが……)
前を見ながら、彼は内心一抹の不安が過ぎっていた。むしろ無い方が逆に不安を煽られる。
まぁ何も起こらないのに越した事は無いが。
(何だろうな。何か、嫌な予感がする)
そして同時に彼はその嫌な予感をする度に、こう思うのだ。
こういう時だけ、妙に当たるんだよな、と。
「区長!! 線路上に人影が!」
そしてその予感は見事なまでに的中する。
窓から顔を出していた機関助士の妖精が線路上に人影があるのを目にして大きな声を上げる。
「くっ!!」
北斗はとっさにブレーキを掛けて加減弁を閉じると、機関助士の妖精は機関助士席側にある汽笛を鳴らすロッドを何度も引いて非常警笛を鳴らす。
急ブレーキを掛けられて列車は急減速して客車に乗っている早苗達は前のめりに飛ばされそうになり、最後尾のD51 1086号機の神流も非常警笛に気付きとっさにブレーキを掛ける。
徐々に速度を落として行く列車は長い距離を進んで行き、やがてゆっくりと停車する。
「と、止まった」
前のめりに倒れそうになるも北斗は何とか窓枠やブレーキハンドルをしっかり掴んで堪えた。
先頭客車では急ブレーキを掛けられた事による余韻があった。
「う、うぅ、何があったんですか?」
急ブレーキを掛けられた勢いで前に飛ばされた早苗は明日香に押しかかる様な形になっていた。
「非常警笛がなっていましたので、恐らく何かあったんだと思います」
飛んできた早苗とぶつかって身体から鈍い痛みを感じながらも、明日香はずれた略帽の位置を正す。
早苗は「すみません」と明日香に一言謝ってから立ち上がり、窓から身体を乗り出して前を見る。
すると北斗が炭水車から降りてきて客車に入る。
「区長!」
と、北斗の姿を見つけた皐月が声を掛ける。
「一体何があったんですか?」
「線路上に人が居たので、急停止しました」
「そうですか。それで、大丈夫だったんですか?」
「恐らく線路上に居た人は避けたと思いますが……」
「こぉらぁ!! 危ないじゃないかぁっ!!」
と、外で大きな声がして二人はすぐに声がした魔法の森がある方向の窓に近付く。
するとそこにはご立腹な様子で抗議するチルノと、そのチルノを宥めようとしている大妖精、その様子を見ながらどうするかチラチラと見ているリグルとルーミアの姿があった。
「あれ? チルノさん達じゃないですか」
と、早苗は窓を開けてチルノ達を見る。
「あっ、早苗さん」
客車の窓から顔を出した早苗を見て大妖精が声を漏らす。
「彼女達を知っているのですか?」
「はい。この幻想郷では有名ですよ」
「そうなんですか」
北斗は早苗から彼女達の事を聞いて、四人を見る。
「ところで、チルノさん達はなぜこんな所に?」
「それは―――」
大妖精は今に至るまでを簡単に早苗に説明する。
「なるほど。この線路を見ていたら列車が来てとっさに飛び退いたんですね」
「はい」
大妖精から話を聞いて早苗は納得したように頷く。
「……」ヤムチャシヤガッテ……
ちなみにチルノだが、なぜか大妖精の後ろでうつ伏せに倒れていた。
まぁ問題を起こそうとしていたチルノを大妖精が目にも止まらぬ速さでチルノを沈黙させた、と言うのがつい先ほどあった。
「気になるのは仕方ないですが、危ないですよ。不用意に近付いたら」
「ごめんなさい」
早苗に言われて大妖精は頭を下げる。
「それにしても、大きいのだー」
「こんな物、見た事が無いよ」
ルーミアは両腕を広げて、リグルは首を動かして列車を見渡す。
「これは鉄道と言いましてね、外の世界ではこれが多く走っていて、多くの物や人を運んだりする乗り物ですよ」
「そーなのかー」
「凄いんだね、外の世界は」
早苗の説明に二人は声を漏らす。
「それで、早苗さんの隣に居るのは?」
大妖精は早苗の隣で様子を窺っている北斗を見る。
「彼は霧島北斗さんと言って、先日幻想郷に幻想入りした外来人ですよ」
「外来人なんですか?」
「はい。この蒸気機関車と一緒に」
早苗は北斗とD62 20号機を見る。
「そうなんですか」
大妖精は北斗の方に向き直る。
「霧島北斗だ。よろしくな」
「私は大妖精と言います」
「さっきはすまないな。気づくのが遅れてしまって」
「い、いえ。私達こそ、不用意に近づいてしまって、ごめんなさい」
北斗が頭を下げると、大妖精も慌てて頭を下げる。
「まぁ、これからは気を付けてくれ。列車はすぐには止まれないからな」
「は、はい!」
「……」
すると北斗は大妖精達を見て、顎に手を当てて一考する。
「……君達が良ければだが、良かったら乗ってみるか?」
「えっ? いいんですか?」
大妖精は驚いた様子で北斗に聞き返す。
「あぁ。危ない目に遭わせてしまったお詫びだ」
「……」
「でも、お兄さん。どこに行こうとしているのだ?」
と、ルーミアが北斗に問い掛ける。
「この線路の調査のついでに幻想郷を周っているんだ。この後博麗神社に向かうつもりだ」
「霊夢さんの所ですか?」
「あぁ。幻想郷に住み始めたんだ。改めて挨拶しておかないといけないからな」
「そうですか」
「それで、どうする?」
「……」
大妖精は他の二人と話し合うと、再び北斗の方を向く。
「あの、宜しければ、良いですか?」
「あぁ。構わないよ。この客車に乗ってくれ」
「分かりました」
大妖精はリグルとルーミアと協力して気を失っているチルノを抱えて宙に浮かぶと、入り口から客車へと乗り込む。
「それじゃ、今から出発しますので」
「分かりました」
早苗は頭を下げてから客車に乗り込むと、北斗はそれを確認してからD62 20号機の運転室に乗り込む。
機関士席に座り込むと、逆転ハンドルを回してメーターを調整し、ハンドルにロックを掛ける。
「出発進行」
号令を掛けてからブレーキハンドルを回してブレーキを解くと、汽笛を鳴らすロッドを引いて汽笛を鳴らし、加減弁ハンドルを引いて加減弁を開き、D62 20号機はゆっくりと動き出し、ドレンを出しながら客車を牽いて前進する。
感想、質問、要望等がありましたら、お待ちしています。