東方鉄道録‐幻想の地に汽笛は鳴り響く‐   作:日本武尊

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C56 135号機が無事に大鐡の新金谷に無事に搬入されましたね。
大鐡は動態復元に向けて整備を行うとのことですが、精密検査の結果次第でどうなるか分からないので、今後の動向に注目です。
しかし135号機が動態復元される場合、果たして44号機はどうなるのか。今の所何も発表はありませんが……
こちらも今後の動向に注目です。


第139駅 火入れ式 C50 58 そして……

 

 

 

 北斗が飛鳥より真実を聞かされてから、二日後……

 

 

 

 幻想機関区では、少し慌ただしい雰囲気が漂っている。

 

 

 整備工場では、C50 58号機の火入れ式を行う為、その準備に妖精達と神霊の少女たちが動き回っている。

 

 

 大体の整備を終えたC54 17号機は隅に寄せられ、全検を終えて組み上げられたC50 58号機が中央に置かれている。

 

 地底で見つかった蒸気機関車は、ピカピカに磨き上げられており、九州の罐に多く見られた門デフにある波と千鳥の飾りもピカピカに輝いている。

 

 

 そんな中、北斗と早苗の二人は機関車の傍に居た。

 

「早苗さん。今日も罐への安全祈願を引き受けてくれて、ありがとうございます」

 

「良いんですよ。私や北斗さん、それに皆様の為ですから」

 

 北斗が早苗にお礼を言い、彼女は笑みを浮かべて答える。

 

 相変わらず彼女は北斗からの頼みを二つ返事で答えたようである。

 

「それにしても、最初の頃と比べて、本当に多くなりましたね」

 

「そうですね」

 

 早苗はC50 58号機と、隅に寄せられているC54 17号機を見ながら、機関庫に居る機関車たちを思い出す。

 

 最初の七輌だった頃と比べ、今では二十輌以上の大所帯になっている。その上海外の蒸気機関車も含めれば、随分増えたものである。

 

「でも、機関車の数が多くなっても、これからも自分達のやるべきことは変わりません。今後更に蒸気機関車が増えるかもしれないので、火入れ式が必要な時はその度安全祈願を頼むと思います。その度お願いします」

 

「任せてください! 事故が起こらないように、心を込めて祈願しますので」

 

 北斗が早苗にお願いすると、彼女は両手を握り締めて頷く。

 

「ありがとうございます」と北斗はお礼を言い、C50 58号機を見る。

 

「……」

 

 ふと、早苗は北斗を見ていて、首を傾げる。

 

「北斗さん。最近良いことありましたか?」

 

「えっ?」

 

 彼女の問い掛けに、北斗は少し驚く。

 

 どことなく明るく、楽しそうな北斗に、早苗は疑問に思ったのだろう。蒸気機関車を前にしているから楽しげなのだろうが、今の彼にはどこか違う雰囲気があると、早苗は感じ取ったのだ。

 

「何て言うか、妙に明るいというか、どこか嬉しそうな感じでしたので」

 

「あぁ、それは―――」

 

 

「北斗。もうそろそろ時間になるぞ」

 

 と、C50 58号機の陰から飛鳥が出てくる。

 

「はい」と北斗は飛鳥の方を向いて、頷く。

 

「あなたは、確か……」

 

「飛鳥だ。久しいな、守矢の風祝」

 

「は、はい。お久しぶりです、飛鳥さん」

 

 早苗は戸惑いながらも、頭を下げる。

 

「飛鳥さん。これまで火入れ式に姿を見せてなかった気がするんですが」

 

「そりゃ、参加したのは今回が初めてだからな」

 

「なら、なぜ今回?」

 

「まぁ、ここ最近色々とあってな」

 

 と、彼女は微笑みを浮かべて、北斗を見る。

 

 その表情はとても優し気な雰囲気であり、我が子を見守るような笑みだ。

 

 早苗は飛鳥の雰囲気に、戸惑いつつ見惚れる。と同時に首を傾げる。

 

「早苗さん。実はですね―――」

 

 北斗は二日前の事を彼女に話す。

 

 

 

 少年説明中……

 

 

 少年説明中……

 

 

 

「え、えぇぇぇぇぇぇっ!?」

 

 話を聞いた早苗は、思わず周りの大きな音に負けないぐらいに声を上げる。

 

「あ、飛鳥さんが、北斗さんのお母様!?」

 

 早苗は北斗と飛鳥を見比べる。

 

 以前から二人の顔はどことなく姉弟みたいに似ているような気がしていたが、まさか親子だったとは思わなかった。

 

 しかし言われてみれば、親子にも見え……いや、飛鳥の外観年齢的に北斗とは姉弟の方がしっくりくる。

 

「え、えぇと……飛鳥さん。本日は晴天でお日柄も良く……」

 

「早苗さん。なんかおかしな挨拶になっていますよ」

 

 早苗はどことなく焦った様子で挨拶をして、北斗がつっこむ。

 

「それに、北斗さんの出生に、そんな秘密が……」

 

「信じられないか?」

 

「え、えぇ。そうですね……」

 

 早苗はチラッと北斗を見る。

 

 北斗は飛鳥より聞かされた話を早苗に伝えた。父親が月の都に住む月の民であるというのを。

 

「北斗さんのお父様が、月の民。そういえば、私はあまり知らないんですが、確か霊夢さんが紫さんとその他の面々と一緒に月に行ったとか言っていたような気がします」

 

「霊夢さんが?」

 

 初めて聞いた衝撃的事実に、北斗は驚きを隠せない。

 

「なんでも、紫さんが何かしらの目的があって、霊夢さん達を月に連れて行ったそうです。まぁ私や神奈子様と諏訪子様が幻想郷に幻想入りする前の話ですから、殆ど知らないんですが」

 

「目的よりも、月に行けれる幻想郷の技術が驚きなんですが」

 

 北斗はなぜかごく一部の技術が突出している技術力に、頭を抱えたくなる。

 

「北斗さん。この幻想郷では常識に囚われてはいけないんですよ」

 

「早苗さん。その台詞結構気に入っています?」

 

 早苗はお決まりの台詞をドヤ顔で言うと、北斗は首を傾げる。

 

「それと、永遠亭の永琳さんや輝夜さん、それと鈴仙さんも月の都と関係があるって話を聞いたような気がします」

 

「永遠亭の皆様が……」

 

「……」

 

 北斗は早苗の口から永遠亭の一部の面々に月の都に関係していると聞かされ、北斗は息を呑み、飛鳥は目を細める。

 

「まぁ、本人の口から聞いたわけじゃないので、噂程度ですが」

 

「そうですか」

 

 北斗は頷くと、顔を上げる。

 

 

「でも、どうして飛鳥さんは、今までその事を黙っていたんですか?」

 

「……」

 

 早苗の問い掛けに、飛鳥は右手で左腕を掴む。

 

「自らの手で子供を手放しながら、母親面なんて出来なかったからだ。そこまで神経は図太くない」

 

「……」

 

「でも、最も恐れたのは、北斗から拒絶されることだった。私にとって、残されているのは、北斗だけだった」

 

「飛鳥さん」

 

「……」

 

「……でも」

 

 と、飛鳥は顔を上げて北斗を見る。

 

「北斗は……そんな私を許して、受け入れてくれた」

 

「……」

 

「失った時間は戻らない。でも、これからの時間はまだある。親子として、改めて過ごそうと思ってな」

 

「そうですか」

 

 微笑みを浮かべる飛鳥に、早苗も微笑みを浮かべる。と同時に、羨ましく思えた。

 

 早苗自身二度と両親に会う事は出来ない。仮に会えたとしても、幻想入りした影響でもう赤の他人である以上、親子の再会では無いのだ。

 

 しかし、北斗自身も、実の両親と会う事は無いと思われた。残念ながら父親との再会は叶わなかったが、こうして母親と再会し、和解することが出来た。

 

 そんな北斗に、早苗は羨ましく思ったのだ。

 

 

「それにしても……」

 

「へっ?」

 

「前会った時と比べて、二人の雰囲気が良くなったな、なんて」

 

『っ!』

 

 と、飛鳥の指摘に、二人して顔を赤くする。

 

「そ、そんな事ないですよ。北斗さんとは、前と大して変わらないと思います」

 

「た、確かに早苗さんとは仲良くしていますが、それ以上は……」

 

 二人は慌てた様子でそれぞれ弁解する。

 

(自分で否定するっていうのは、肯定しているのと変わりはないのよ)

 

 そんな二人の様子に、飛鳥は温かい目で見つめる。

 

(そう遠くない内に、孫の顔が見れそうだわ、輝月)

 

 そして飛鳥は、そんな将来を期待するのだった。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 その後、準備を終えてC50 58号機の火入れ式が始まる。

 

 

 いつものように北斗がスピーチを述べ、次に早苗がC50 58号機へ安全を祈願し、機関車を清める。

 

 次に北斗が早苗より祈りを込めた火を灯した紅白のリボンを巻いた松明を受け取り、C50 58号機の運転室(キャブ)に乗り込んで火室に入れた木材と油が染み込んだ布切れに火を付ける。

 

 火室内の木材と布切れに火が付いて徐々に勢いが強くなり、北斗は片手スコップを手にして石炭を火室へと放り込む。投炭を数回繰り返して更に火の勢いを強める。

 火室内で石炭が燃え、煙突から薄っすらと煙が出てきて、排煙装置によって工場の煙突から煙が吐き出される。

 

 間隔を空けて投炭を行って火を保ち、ボイラーの水の温度を上げて、蒸気を発生させて圧力を上げる。

 

 

 しばらくしてボイラー内の圧力が高まり、煙突後ろにある排気管から一定の間隔で蒸気が噴射される。

 

 

「……」

 

 北斗は静かにC50 58号機を見守り続ける。

 

「……区長。一定の圧力のまま、規定時間が経過しました」

 

 と、懐中時計を持って時間を確認していた整備員の妖精が北斗に報告する。ボイラーは一定の圧力のまま、問題なく動いている。

 

「これで、不安要素は消えたな」

 

 妖精の報告を聞き、北斗は安堵の息を吐く。

 

 C50 58号機は復活を宣言するかのように、五音室の汽笛から猛々しい音を発しながら蒸気が噴射される。

 

 

 するとC50 58号機の前に光が集まり出す。

 

「来たか」

 

 北斗は声を漏らし、集まり出す光を見つめ、早苗も見守る。さすがにもう何度目ともなれば、慣れてきたようだ。

 

 集まった光は人の形を形成し、やがて光を四散させる。

 

「……」

 

 そこに、一人の少女が姿を現す。

 

 腰の位置まで伸びた黒い髪の先を赤いリボンで結んでおり、活発的な雰囲気の少女であり、身に纏っているナッパ服の左胸に『C50 58』のナンバープレートを模したバッジを着けている。

 

「ここは……」

 

 少女は瞼をゆっくりと開け、周囲を見渡して目を見開く。 

 

「え、えぇと……これは……」

 

 大勢の人に見られている状況に、彼女は戸惑いを隠せなかった。

 

「ちょっといいか?」

 

「は、はい!?」

 

 北斗が少女に声を掛けると、彼女は驚いて声を上げる。

 

「君は、C50 58号機だね?」

 

「そ、そうですけど……」

 

「あぁ、そうだった。俺はこの幻想機関区の区長をしていると霧島北斗だ」

 

 北斗は自己紹介しつつ、敬礼する。

 

「区長でしたか! 先ほども言いましたが、C50 58号機です」

 

 少女は北斗の事を知って、改めて自己紹介しつつ姿勢を正して敬礼する。

 

「あ、あの、区長。この状況は一体……」

 

「それについても話すことがあるから、来てくれるかい?」

 

「了解です!」

 

 北斗は彼女を連れて他の蒸気機関車の神霊の少女たちの元へと向かう。

 

 

 ともあれ、C50 58号機の火入れ式は、無事に終わりを迎えた。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 時系列は遡る事、一日前……

 

 

 

 

「シャンハーイ」

 

「ありがとう、上海」

 

 と、読書をしているアリスは、上海人形より紅茶が淹れられたティーカップを乗せたソーサーを受け取り、テーブルに置く。

 

 彼女は一旦本から視線を外し、ソーサーに乗せられているティーカップを持って紅茶を飲む。

 

「……」

 

 ふと、彼女は窓の方に顔を向け、外の景色を眺める。

 

(久々の宴会だけど……北斗さんも参加するのよね)

 

 ティーカップをソーサーに置きながら、彼女は内心呟きつつ近日中に博麗神社で行われる宴会のことを思い出す。

 

 北斗からすれば、初めての幻想郷での宴会だ。恐らく色々と戸惑いはあるだろう。

 

 それに、北斗が本格的に幻想郷の住人と接する機会でもある。恐らく宴会に参加するであろうまだ北斗と会っていない者達が彼と接触を図るはずだ。

 

(今回の宴会、何事も無ければいいんだけど……)

 

 公の場で何かが起こるとは思えないが、幻想郷の面々の性格を考えれば、何も起こらないとも言い切れない。主に酔っ払い関係とか……

 

 

 

「ホーライ」

 

 すると玄関から蓬莱人形がやって来る。

 

「あら、蓬莱。どうしたの?」

 

 アリスが蓬莱人形に声を掛けると、蓬莱人形は手にしている物を彼女に差し出す。

 

「ホーライ」

 

「手紙?」

 

 それは封筒に入った手紙であり、アリスは蓬莱人形から受け取る。

 

「でも、一体誰から……」

 

 彼女は封筒の裏を確認すると、ハッとする。

 

 封筒は赤い蝋で封をされており、その蝋に紋章が押されている。

 

 その紋章は、アリスの母親である神綺のものであり、彼女から送られた手紙であることは間違いない。

 

 そして何より封筒から魔法使いであれば誰が送ったかが分かる特殊な魔法が施されている。その魔法を掛けた者もまた、神綺である。

 

「お母さまからの手紙……」

 

 アリスは息を呑み、本に詩織を挟んで閉じ、封をしている蝋を取って中に入っている手紙を広げる。

 

「……」

 

 手紙の内容を確認しながら、ティーカップを手にして紅茶を飲む。

 

「お母さまからの呼び出しなんて。何かあったのかしら?」

 

 手紙の内容は神綺がアリスを城へと呼び出すものであった。

 

 アリスは修行の身で、幻想郷に暮らしているが、母親とは手紙でやり取りしたり、時折顔を見せに城に帰る事はある。

 

 だが、神綺から手紙で呼び出されることは、今まで無かった。

 

「それに、この日は宴会がある日じゃない」

 

 しかも、母親の神綺がアリスを呼び出している日は、ちょうど博麗神社の宴会がある日と重なっており、アリスは困ったように眉を顰める。

 

 宴会に参加出来なくなるのは残念だが、母親からの呼び出しを無視するわけにはいかない。

 

「仕方が無い、か」

 

 アリスはため息を付き、手紙を折り畳む。

 

「上海、蓬莱。身支度の準備をお願い」

 

「シャンハーイ」

 

「ホーライ」

 

 彼女が上海人形と蓬莱人形にお願いすると、二体の人形は他の人形にも声を掛けて準備に取り掛かる。

 

「霊夢にも伝えておかないと」

 

 アリスは呟きながら席を立ち、霊夢に宴会に参加出来なくなったのを伝える為、家を出て博麗神社を目指して飛ぶ。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 所変わり、魔界にある神綺の城。その地下にある研究室。

 

 

「……」

 

 神綺が静かに見守る中、それは産声を上げる。

 

 

 彼女によって創造され、火が入れられた蒸気機関車……『C62 48号機』

 

 車体を組み上げ、各所の調整を終えたC62 48号機は、この日火入れが行われ、温もりを得て産声を上げたのだ。

 

 

「……」

 

「……」

 

 その様子を、『C62 2』のナンバープレートを模したバッジを着け、飛翔する燕を模したステンレスの髪飾りを付けた少女こと飛燕(C62 2)と、『C62 3』のナンバープレートを模したバッジを着ける少女こと疾風(C62 3)も静かに見守る。

 

(これで、完成したわね)

 

 神綺は内心呟き、火が入れられたC62 48号機を見つめる。

 

 他の蒸気機関車と違い、このC62 48号機は特殊な蒸気機関車であり、彼女の力を以ってしても、完成に時間が掛かっている。

 

 だが、ある条件を満たさなければ、このC62 48号機は他の蒸気機関車と何ら変わりはない。何ならC62 48号機の後ろにある現役時代の姿をした『C62 2号機』と『C62 3号機』と同じ蒸気機関車なのだ。

 

 しかし、その条件を満たせば、このC62 48号機は……他の蒸気機関車とは違う、無限大の可能性を発揮する。

 

(あとは……)

 

 神綺はC62 48号機の傍にあるカプセルに視線を向ける。

 

「……」 

 

 彼女は浅く息を吐き、再びC62 48号機を見つめる。

 

 誕生を祝うかのように、C62 48号機は汽笛を鳴らす。

 

 

 




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