東方鉄道録‐幻想の地に汽笛は鳴り響く‐   作:日本武尊

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第141駅 宴会開始

 

 

 

 時間は過ぎて日が暮れ、幻想郷は辺りは暗くなり出している。

 

 

 宴会の準備を終えた博麗神社では、多くの宴会参加者がやって来ていて、それぞれの場所を取っている。

 

 博麗神社前の駅には、宴会参加者を運んだ列車が待機しており、48633号機が汽笛を鳴らしてバック運転で人里の駅へ向かって出発する。

 

 

「――――とまぁ去年や今年の初めは色々とあったけど、今日は迷惑を掛けないぐらいに楽しみなさい」

 

 霊夢が参加者の前でそう言うと「乾杯!」と手にしている御猪口を掲げて宴会開始を宣言する。

 

 

 提灯の灯りが境内を照らし、宴会の参加者がそれぞれ楽しんでいる。 

 

(それにしても、凄いな)

 

 北斗は内心呟きつつ、周囲を見渡す。

 

 博麗神社の境内は人に人、時折妖怪の姿が見られて、とても賑わっている。

 

 宴を楽しんでいる者も居れば、夜桜を楽しむ者、露店を営む者と様々だ。

 

 用事を終えた北斗は機関区より参加者と共に神社へとやって来ていた。その参加者達は各々と用事があってそれぞれの場所に赴いている。

 

 今回幻想機関区で参加していない

 

(早苗さんは……もう来ているかな)

 

 北斗は既に来ているであろう早苗の姿を探すが、今の所姿は見えない。恐らく神奈子や諏訪子の元に居ると思われるが。

 

 

「おっ、北斗じゃないか」

 

 と、声を掛けられた彼は声がした方を向くと、慧音と妹紅の二人の姿を見る。

 

「慧音さん、妹紅さん」

 

「北斗も来ていたのか」

 

「えぇ。先ほど到着しました」

 

 北斗は二人に一礼し、妹紅の問いに答える。

 

「そうか。そういえば、早苗と一緒じゃないのか?」

 

「えぇ。自分は用事がありましたので、少し遅れて来たんです。恐らく早苗さんは既に来ていると思います」

 

「そうか」

 

 慧音は周囲を見渡して早苗の姿が無いのを北斗から聞き、頷く。

 

「北斗は宴会は初めてなんだろ?」

 

「はい」

 

「だったら、あまり飲み過ぎるなよ。後が大変になるからな」

 

 と、妹紅が北斗に忠告しながら何やら意味深な視線を慧音に送ると、彼女はどこか居心地が悪そうに視線を逸らす。

 

「分かっています。軽く飲みながら、挨拶回りをしていこうと思っています」

 

「そうか。なら、頑張れよ」

 

 妹紅はそう言うと、慧音と共に境内の奥へと向かう。

 

「……」

 

 北斗はその後ろ姿を見送って、移動しようと踵を返す。

 

 

「あっ、お前は!」

 

 と、声を掛けられて北斗は再度後ろを振り向くと、そこには懐かしの面々が居た。

 

「君は確か……」

 

「あたいの事を忘れたのか! 幻想郷サイキョーの氷精、チルノ様だぞっ!」

 

 その一人である妖精ことチルノが胸を張って口上を述べる。

 

「あぁそうだった、チルノちゃん。それで、確か君が……大妖精? だったっけ?」

 

「はい。そうです。お久しぶりです、北斗さん」

 

 チルノの隣に居る大妖精が北斗の問いに答えて頭を下げる。

 

「君が……ルーミアだったね」

 

「そうなのだー」

 

 大妖精の反対側に居るルーミアが間延びした声で答える。

 

「君たちも来ていたんだね」

 

「そうだぞ! アタイ達は祭りに参加しに来たんだぞ」

 

「なるほどね」

 

 チルノの言葉に、北斗は露店を思い出して頷く。

 

「その出店している露店の中に、私たちの友達が営んでいる所があるんです」

 

「君たちの友達が?」

 

「そのなのだー」

 

 意外なことに、北斗は思わず声を漏らす。

 

「北斗さんもどうですか? 食べ物関連のお店なので、軽めの食事が取れますよ」

 

「そうだな……」

 

 北斗は顎に手を当てて、まだ何も食べてないのを思い出す。

 

「なら、案内してくれるかい?」

 

「もちろん! ミスチーも喜ぶぞ!」

 

 チルノは気を良くして歩き出し、北斗たちはその後に付いて行く。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 少し歩いて、チルノ達と北斗は一つの露店の前に到着する。

 

「ミスチー! 来たぞ!」

 

 チルノは大きな声を掛けると、露店の店主と思われる少女が顔を上げる。

 

「チルノ。それにみんなも。来てくれたのね」

 

 その少女はチルノ達の姿を見て、笑みを浮かべる。

 

 赤みを帯びたピンク色のショートヘアーに耳にあたる部分に羽が生えている少女で、背中にも鳥のような小さめの翼が生えており、紺色のバンダナに茶色の和服を身に纏い、紺色のエプロンを着けている、どことなく居酒屋の女将を髣髴とさせる格好をしている。

 実際彼女が営んでいる露店では、炭火で串に刺した物を焼いている。

 

 彼女の名前は『ミスティア・ローレライ』夜雀と呼ばれる妖怪の少女である。

 

「? その人は……」

 

 少女ことミスティアはチルノ達に交じっている北斗に気付く。

 

「この前言っていた人間だぞ」

 

「ってことは、あなたが霧島北斗さんなんですね」

 

「えぇ。ご存知でしたか?」

 

「そりゃ有名過ぎて、逆に知らない方がおかしいですよ」

 

「そりゃそうか」と北斗は彼女の言葉を肯定する。

 

「私はミスティア・ローレライと申します。夜雀の妖怪です」

 

「君も妖怪なのか」

 

 北斗はミスティアの自己紹介を聞いて、彼女の特徴的な羽の部分を見る。

 

(というか、やっぱり幻想郷の女の子の率って高いよな。偶然何だろうか?)

 

 と、これまで会ってきた妖怪の姿を思い出しながら、内心呟く。

 

「このお店は、君の?」

 

「はい。今回の宴会に合わせて、出店しているんです」

 

「なるほど」

 

 北斗は頷くと、炭火で焼かれている物を見る。

 

「これは何を焼いているの?」

 

「これは八目鰻っていう魚ですよ。目にとっても良いんですよ」

 

「あぁ、ヤツメウナギか」

 

 北斗は彼女から焼いている物の正体を聞き、そのヤツメウナギを思い出す。

 

「ミスチーのヤツメウナギは美味しいんだぞ!」

 

「そうなのかい? なら、とりあえず二本くれるかい?」

 

「はい。ありがとうございます」

 

 チルノから彼女の焼くヤツメウナギの評判を聞き、北斗はミスティアに本数分の代金を支払い、串に刺して焼かれたヤツメウナギを受け取る。

 

 タレに漬けられ炭火で焼かれた肉は香ばしい香りを漂わせ、食欲をそそらせる。少し見た後、北斗はヤツメウナギの肉を一口食べる。

 

「っ! これは美味しいな」

 

「だろだろ!」

 

 ヤツメウナギの美味しさに北斗は声を漏らし、その様子にチルノが嬉しそうに背中の氷の結晶を揺らす。

 

「この美味しさ結構人気なのかい?」

 

「そうですね。色んな方が来ますね。霊夢さんに魔理沙さん、それに慧音さんと妹紅さん。最近だと文さんやはたてさん、それと椛さんが飲みに来ましたね」

 

「結構来ているんだね」

 

 彼女から客層を聞いて、北斗は知人を思い出す。

 

「出している物はこのヤツメウナギだけなのかい?」

 

「ヤツメウナギが仕入れなかった時は、たまに泥鰌や鰻でもしていますね」

 

「ふむ。これだけ美味しいなら、他にもあったらまだ人気が出そうけどな」

 

 北斗は二本目を完食して、呟く。

 

「特に肉系とかが合い―――」

 

「鶏肉は断固反対です!」

 

 と、北斗が最後まで言い終える前に、ミスティアが声を上げる。

 

「……あっ、えぇと、私が屋台を始めたのは、焼き鳥撲滅を掲げてなんです」

 

 ミスティアはハッとして、叫んだ理由を説明する。

 

「焼き鳥の撲滅、ねぇ(鳥系の妖怪だからなのか?)」

 

 北斗は彼女の容姿を見て、頷く。

 

「別に焼き鳥は鶏肉だけじゃないけどね」

 

「えっ? でも名前の通り鶏肉を使っているんじゃ」

 

「もちろんそれがメインだけど、別に豚肉とかの他に肉だったり、シシャモとかの魚系だったり、野菜も焼き鳥屋にはあるんだよ」

 

「そうなんですか!?」

 

 北斗の説明に、ミスティアは驚く。

 

 しかし彼の説明にある焼き鳥屋……それは一部の地域限定の話ではないのか? 

 

「まぁ、料理経験があまりない俺が言うのもなんだけど、色々と試してみる良いんじゃないかな? せっかく美味しい物が作れているんだから、ヤツメウナギだけっていうは勿体ないよ」

 

「そうですね……」

 

 ミスティアは考えるように腕を組む。

 

「北斗の言う通りだよ! ミスチー!」

 

 と、悩む彼女にチルノが声を掛ける。

 

「せっかくだから、色々と作ってみなよ! 今よりミスチーの店、人気出るぞ!」

 

「チルノ」

 

「大ちゃんもそう思うよな!」

 

「う、うん。チルノちゃんの言う通り、人気が出ると思うよ」

 

「そうかな?」

 

「出る出る! 絶対人気出るって!」

 

 悩んでいるミスティアに、チルノがなぜか自信ありげにグイグイと迫る。

 

「北斗さんは、どう思いますか?」

 

「そうだね。必ずとは言えないけど、たぶん今より人気が出ると思うよ」

 

 彼女がそう問い掛けると、北斗は微笑みを浮かべて答える。

 

「……」

 

 ミスティアは首を傾げて悩むも、考えを纏めたのか顔を上げる。

 

「そうですね。色々と考えて、試してみます」

 

「そうか」 

 

 北斗は頷き、チルノが「おぉ!」と声を漏らす。

 

「ところで、今回は出店したと言っていたけど、普段はどこでしているの?」

 

「普段は屋台で人里だったり、妖怪の山、その他色々な場所でしています」

 

「そうか。それなら、幻想機関区に来れるかい? あの味なら機関区の面々も気に入ると思うから」

 

「北斗さんの所にですか? 少し遠いですけど、行けますよ」

 

「そうですか。では、お願いできますか?」

 

「はい」

 

 北斗は頭を下げてお願いをし、ミスティアは頷いて了承する。

 

 

 グー

 

 

 すると腹の虫が鳴り、北斗たちは音がした方を見る。

 

「……」

 

 そこには、涎を垂らして待っているルーミアの姿があった。さっきまで黙っていたのは、お腹が空いていたからなのだろう。

 

「……買ってあげるよ」

 

 さすがに可哀そうと思ったのか、北斗はルーミアに八目鰻を十本ほど買ってあげるのだった。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 その後チルノ達と別れて、北斗は早苗達を探すために境内を歩く。

 

(早苗さん達。結構奥なのかな)

 

 境内を歩きながら、周囲を見渡すも、早苗たちの姿は見えない。

 

「……」

 

 周囲を見渡している中、多くの参加者達の姿を目撃する。

 

 参加者は北斗が知っている人物が多いが、やはり中には彼の知らない面々もいる。

 

(しかし、どう声を掛ければいいか……)

 

 北斗はこれから挨拶回りをするに至り、初めて声を掛ける方々には、どう声を掛ければいいかと考えていた。

 

 当たり障り無い言葉を掛けて挨拶をするか、それとも向こうから来るのを待っているか。しかし今後幻想郷でうまくやっていくには、待っているのはあまり良くないだろう。

 

 

「あっ、区長!」

 

 と、声を掛けられて北斗が声がした方を見ると、小傘が彼の元に駆け寄る。

 

「小傘さん。どうしましたか?」

 

「はい。命蓮寺のみんなが区長に会いたいそうで、わちきが探していたんです」

 

「命蓮寺の皆さんが?」

 

「なんでも、お礼が言いたいみたいです」

 

「お礼か」

 

 小傘から聞いた理由に、北斗は首を傾げる。恐らくお礼の内容はこの間の宝塔の一件だろう。

 

 しかし挨拶回りをしていた彼からすれば、命蓮寺の方々にどう声を掛けようか考えていただけに、正に渡りに船である。

 

「なら、案内してくれ」

 

「分かりました!」

 

 小傘は頷き、北斗は彼女の後に付いて行く。

 

 

 

 

 

 




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