東方鉄道録‐幻想の地に汽笛は鳴り響く‐   作:日本武尊

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第142駅 命蓮寺の方々との会話

 

 

 

 北斗は小傘に連れられて境内を歩き、桜の木の下に広げた茣蓙に一団が座っている。

 

「聖さん! 区長を連れてきたよ!」

 

 小傘が声を掛けると、その一団が北斗を見る。

 

「は、初めまして」

 

 北斗は少し戸惑いながら、一礼する。

 

「お待ちしていました。立ち話も何ですし、どうぞ」

 

「では、失礼します」

 

 女性が茣蓙に進めると、北斗は一言言ってから茣蓙に座る。

 

「初めまして。私は命蓮寺で住職をしています『聖白蓮』と申します」

 

 女性は姿勢を正して、自己紹介をして、頭を下げる

 

 金髪に紫のグラデーションが掛かった長い髪に金色の瞳を持つ、優しげな雰囲気を漂わせる女性だ。彼女の名前は『聖白蓮』命蓮寺と呼ばれる寺の住職だ。

 

「自分は幻想機関区で区長をしています、霧島北斗と申します」

 

「お噂はかねがねお聞きしています」

 

「光栄です」

 

 北斗は頭を下げると、聖の隣に座るナズーリンを見る。

 

「やぁ、北斗。少しぶりだね」

 

「はい。お久しぶりです。無縁塚以来ですね」

 

「そうだね。あれ以来でも無縁塚に足を運ぶけど、あの蒸気機関車とやらは少しずつ片付いているみたいだね」

 

「はい。協力者のお陰で、片付けが進んでいます」

 

「そうか。それは何よりだね」

 

 と、ナズーリンは後ろに振り返り、自身の後ろに控えている女性に目配りする。

 

「ご主人。そろそろ」

 

「は、はい」

 

 女性は戸惑いながらも、ナズーリンが退いた場所に正座して座り込む。

 

 金のショートヘアーに黒色が混じった髪をして、頭上に蓮を模した飾りを乗せている。虎柄の腰巻を巻き、背中に白い布状の輪を背負っている。

 

 彼女の名前は『寅丸星』 毘沙門天と呼ばれる神の代理の虎の妖怪だ

 

「初めまして、北斗殿。私は寅丸星と申します。毘沙門天の代理を務めさせています」

 

「あぁ、どうも。ということは、ナズーリンさんの言っていた主人というのが」

 

「は、はい。私です」

 

 バツの悪そうな様子で寅丸は視線を逸らす。

 

「ほ、本当に、宝塔を見つけてくれて、ありがとうございます。おかげで助かりました」

 

「いいえ。むしろ謝るのはこちらです。うちの妖精達が宝塔を勝手に持って帰ってしまって、探すのに一手間掛けてしまい、申し訳ありません」

 

「君が謝る必要は無いよ。むしろそのまま持っていたらご主人に良いお灸添えになっていただろうし」

 

「な、ナズーリン。そんな殺生な」

 

 お目付け役のきつい一言に、寅丸は涙目になる。

 

(本当に代理で大丈夫なのだろうか)

 

 とても神様の代理とは思えない雰囲気に、北斗は疑念を抱く。

 

「ナズーリン。もう過ぎた事ですし、もういいじゃないですか」

 

「ご主人には本当に落し物の癖を直してもらいたいんだけどね」

 

 聖がナズーリンを宥めるも、彼女は腕を組んで鼻を鳴らす。

 

「ねぇ、聖。もう良い?」

 

 と、水兵のセーラー服を着ている少女が聖に声を掛ける。

 

「あぁ、そうでしたね。ナズーリン。もうよろしいですか?」

 

「うーむ。まだ言いたい事があるけど、それは帰った後でも良いかな」

 

 ナズーリンは渋々といった様子で聖の言葉を承諾する。

 

「北斗さん。こちらは命蓮寺に暮らしている方々です」

 

 と、聖は自身の後ろに控えている少女たちを見る。

 

 一見すれば様々な容姿端麗の少女に見えるが、そのどれもから人ならざる気配を北斗は感じ取っていた。

 

「初めまして。私は『村紗水蜜』だよ。所謂舟幽霊ってやつだよ」

 

 と、黒いショートヘアーに緑の瞳を持つセーラー服を身に纏う少女こと村紗が自己紹介する。

 

「初めまして、村紗さん」

 

 北斗は一礼しつつ、村紗の容姿にある思いが浮かぶ。

 

(村紗さん。眼帯を着けたら似合いそうだな)

 

 と、どうでもいいようなことを考えていたとかなんとか。

 

「私は雲居一輪っていうの。入道使いよ。こっちは入道の雲山よ」

 

 と、村紗の隣にいる。水色のセミロングヘア―をして、尼さんのような恰好をした少女が自己紹介をし、彼女は隣にいる一昔前の頑固ジジイを髣髴とさせる老人を模った雲が浮かんでいる。

 

 彼女の名前は『雲居一輪』入道使いと呼ばれる妖怪の少女だ。その隣にいる『雲山』が入道と呼ばれる雲の妖怪である。

 

「よろしくお願いします」と北斗は一輪に一礼する。

 

「他にも紹介したい方が居ますが、今日は命蓮寺で留守番をしています」

 

「そうですか」

 

 北斗は聖よりそう聞いて頷く。

 

(というか、ホント幻想郷の女性率って高いよな)

 

 彼は聖達を見て、内心呟く。これまで会ってきた面々は女性ばかりであり、男性に会ったのはごく少数だ。

 

 何か関係でもあるのか思ったものも、北斗は今は関係ないと頭を切り替える。

 

「北斗さん。今回貴方をお呼びしたのは、宝塔の件もそうですが、小傘さんの事もありまして」

 

「小傘さんですか?」

 

「えぇ。小傘さんから幻想機関区での事をお聞きしていますが、北斗さんの口からも聞きたくて」

 

「そうですね……」

 

 北斗は腕を組み、聖の隣に座っている小傘を一瞥して、これまでの小傘の事を思い出す。

 

「小傘さんはとても優秀ですよ。最初は入る動機に不安はありましたが、今となっては蒸気機関車の整備に無くてはならない方です」

 

 小傘の鉄を扱う技術はとても高く、今となっては妖精達に混じって蒸気機関車の整備に大きく携わっている。実際C54 17号機の全検に彼女が参加している。

 

「そうですか。では、私生活の方ではどうでしょうか?」

 

「私生活ですか。時折寮で皆さんに驚かしをしてたりしていますけど、それ以外では礼儀正しいですね」

 

 北斗は寮にて、蒸気機関車の神霊の少女たちや居候の面々に驚かしをしている小傘の姿を思い出す。前者はよく驚いてくれたり、逆に驚かせられたり、反撃を受けたりしているが、後者の場合よくぶっ飛ばされたりしている。

 それでも彼女は諦めず、居候の面々を驚かそうと日々挑んでいるという。

 

「小傘さんらしいですね」

 

 聖は安心したのか、微笑みを浮かべる。その姿は正に母親のような優しい姿と言える。

 

「……北斗さん」

 

 すると、聖は先ほどの優し気な雰囲気を消し、真剣な雰囲気を纏わせる。

 

「正直な事を言いますと、小傘さんが貴方の幻想機関区で働くのに、私は少し反対気味でした」

 

「……」

 

 聖の否定的な意見に、北斗は何も言わず、黙って聞く。

 

「何も知らず、勝手な妄想で物事を語るのは大変失礼ですが、それでも得体のしれない貴方方の所に行かせるのに、抵抗感がありました」

 

「……」

 

 北斗は彼女の言葉に、何も言えなかった。

 

 考えてもみれば、この幻想郷において、幻想機関区や蒸気機関車は、一際目立つ存在だ。今でこそ馴染み出しているが、それでも浮いた存在なのに変わりはない。

 

 そんな幻想機関区や、そこに居る蒸気機関車と神霊の少女達、普通と違う妖精達、そしてそれを従える北斗に警戒するのも無理はない。

 

「でも、小傘さんはそれでも北斗さんの幻想機関区で働きたいと懇願しました。動機はともかく、その必死な思いに、私は折れました」

 

「……」

 

「心配でしたが、いざ蓋を開けてみれば、とても楽しそうな小傘さんの姿と、幻想機関区での日々の話でした」

 

「……」

 

「北斗さん。これからも、小傘さんの事を、よろしくお願いします」

 

 と、聖は両手を茣蓙に付けて、ゆっくりと頭を下げる。

 

「ひ、聖様」

 

「……」

 

「聖」

 

 そんな彼女の姿に、寅丸や村紗、一輪は驚きを隠せず、ナズーリンは表情を変えずその姿を見つめる。

 

「えぇ。もちろんです。小傘さんは幻想機関区にとって、とても大切な存在です」

 

「区長……」

 

 北斗がそう言うと、小傘は目をウルウルとさせる。

 

「はい。わちき、これからも頑張ります!」

 

 そして彼女は両手を握り締めて、強く頷く。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

(とっても良い人たちだったな)

 

 内心呟き、彼は境内を歩く。

 

 あの後聖達と世間話をして、北斗は彼女たちの元を後にした。

 

(それに、命蓮寺への列車運行に関する話し合いの約束も付けれた)

 

 その世間話の中で、北斗は聖より列車運行に関することを聞かされた。何でも命蓮寺へ列車を運行して欲しいというのだ。

 

 詳しい話は後日命蓮寺で行うことになり、近日中にナズーリンが詳しい日時を決める為に機関区を訪れるのを約束した。

 

(こうやって鉄道を利用してくれる方々が増えていけば、俺達はもっと活躍できる)

 

 更に蒸気機関車の活躍の場が増えるとあって、彼は高揚していた。

 

 妖怪の山にある守矢神社や、人里から遠く離れた場所にある博麗神社へ里の人間を送り届ける役目があるが、役目は多くある方が良い。

 

 

「あっ、北斗さん」

 

 と、人込みが割れてその間より、一人の少女が姿を現し、彼女は北斗を見つけて声を掛ける。

 

「っ! 鈴仙さん」

 

 北斗は声を掛けつつ彼女の元に向かう。

 

「鈴仙さんも来ていたんですね」

 

「はい。そういう北斗さんも?」 

 

「えぇ」と北斗は答える。

 

「鈴仙さんはお一人で?」

 

「はい。師匠は用事がありまして、姫様は『今日は気分じゃないからいい』とのことで、私一人で来たんです」

 

「そうですか。でもてゐさんは?」

 

「……」

 

 すると鈴仙はどこか気まずそうに視線を逸らす。

 

「てゐは……悪戯がばれて今頃師匠に」

 

「……あぁ、そうですか」

 

 北斗は彼女の言葉で、全てを察した。

 

「ま、まぁとりあえず、せっかく来たんですから、楽しみましょう」

 

「そ、そうですね」

 

 北斗は咳払いをして気持ちを切り替えて、彼女も苦笑いを浮かべつつ、気持ちを切り替える。

 

「そういえば、北斗さんは今何を?」

 

「挨拶回りです。この機に知り合っておこうと思って。先ほど命蓮寺の方々と話をされましたので」

 

「そうですか。まだ他にも癖の強いやつが居ますので、気を付けてくださいね」

 

「は、はい」

 

 鈴仙の言葉に、北斗は苦笑いを浮かべる。実際癖の強い面々と知り合っているからだ。

 

「じゃぁ、私はこれで」

 

「どこか行くんですか?」

 

「妖夢の所にね。どうせ主人の大食いに困っているだろうし、少し手伝いに」

 

「そうですか。というか、幽々子さんって大食いなんですか?」

 

「そうなんですよ。宴会じゃある意味恒例行事みたいなもので」

 

「は、はぁ」

 

 北斗は永遠亭で会った幽々子の姿を思い出す。

 

 彼女の特徴に加え、大食いとあって、彼の脳裏には有名なピンク玉のゲームキャラが思い浮かぶ。

 

 

 その後鈴仙と別れた北斗は、再度境内を歩く。

 

「ん?」

 

 ふと、北斗は立ち止まる。

 

 彼の視線の先には、一人の少女が無意識みたいに、静かに歩いている。

 

「こいし?」

 

 北斗が声を掛けると、少女ことこいしは立ち止まり、顔を上げる。すると周りではギョッとした表情を浮かべてこいしを見ている。恐らく突然こいしが姿を現して驚いているのだろう。

 

「あれ? お兄さん?」

 

 こいしは首を傾げて声を漏らすと、顔が明るくなる。

 

「お兄さん、久しぶり!」

 

「あぁ、久しぶりだな、こいし。元気だったか?」

 

「うん」 

 

 こいしは笑みを浮かべて北斗に近づく。

 

「お兄さんこそ、少し前に妖怪に襲われたんでしょ?」

 

「……あぁ。そうだね」

 

「大丈夫だった?」

 

 こいしはどこか不安げな様子で北斗に問い掛ける。

 

 北斗は一瞬こいしが知っているのに疑問を抱くが、すぐに頭から払い、彼女の問いに答える。

 

「傷跡は残ったけど、後遺症もなく、大丈夫だよ」

 

「……そっか。なら、良かった」

 

 こいしは安堵したように小さく息を吐き、笑みを浮かべる。

 

「ところで、お兄さんは今一人?」

 

「うん? まぁさっきまで鈴仙さんが居たけど、用があって離れたよ」 

 

「ふーん」

 

 こいしは何かを考えるような仕草を見せて、北斗の右手を取る。

 

「なら、私と一緒に見て回ろうよ! もしかしたらお姉ちゃん達も来ていると思うし」

 

「そうか。もしかしたらさとりさん達も宴会に来ているのか。なら、一緒に見て回ろうか」

 

「うん♪」

 

 

 

「お兄様!!」

 

 すると明るい声がしたと共に、北斗は後ろから衝撃を受けて前のめりに倒れそうになる。それをこいしが驚きながらも北斗を支える。

 

「い、てて……」

 

 北斗は後ろを見ると、色とりどりな宝石が見える。

 

「フランか?」

 

「うん!」

 

 彼が声を掛けると、声の持ち主は北斗の背中から離れて、彼の横へと移動する。

 

「フランも来ていたんだね」

 

「私だけじゃないよ。お姉さまと咲夜、パチュリーも来ているよ!」

 

「レミリアさん達も来ているのか」

 

 北斗は呟くと、腰に手を当てて擦る。少しばかり強い衝撃だったようだ。

 

 

「あなた、誰?」

 

 と、北斗の陰に居たこいしがフランに声を掛ける。

 

「……あなたこそ、誰?」

 

 フランもこいしの存在に気付き、どこか威圧的な声を掛ける。

 

「私は古明地こいし。あなたは?」

 

「私はフランドール・スカーレット。みんなからはフランって呼ばれているよ」

 

「ふーん……」

 

 こいしはどこか考えるような仕草を見せて、何かを思いつく。

 

「ねぇ、フラン。フランは、お兄さんの事、好き?」

 

「うん。お兄様の事は好きだよ」

 

 フランは迷うことなく、即答である。

 

「そういうこいしも?」

 

「私も、お兄さんの事好きだよ」

 

 と、こいしもまた迷うことなく即答である。

 

「……」

 

「……」

 

 二人は短い言葉を交わすと、お互い笑みを浮かべる。

 

「よろしくね、こいし」

 

「うん。こっちもよろしくね、フラン」

 

 二人は笑顔を浮かべながら、固い握手を交わす。どうやらこの短いやり取りで、共通するものを感じたようだ。

 

(お互い、友達が出来たみたいだな)

 

 北斗はそんな二人の様子を微笑ましく見守っている。

 

「あっ、そうだ。お兄様。お姉さまがお兄様を見たら連れて来てって言っていたよ」

 

「レミリアさんが?」

 

「何でも話があるって」

 

「そうか。なら、今から行くよ。案内してくれる?」

 

「うん! こいしも一緒に行く?」

 

「行く行く!」

 

 フランは背中の宝石を揺らしながら頷き、こいしも嬉しそうに頷いて、フランは北斗とこいしの二人をレミリアの元へと案内する。

 

 

 

 




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