東方鉄道録‐幻想の地に汽笛は鳴り響く‐   作:日本武尊

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第143話 世間話

 

 

 

 フランに案内されて、北斗とこいしはレミリア達が居る場所へと向かう。

 

 

「お姉様! お兄様を連れて来たよ!」

 

 フランが声を掛けると、レミリア達が北斗を見る。

 

「久しぶりだな、北斗」

 

「お久しぶりです、レミリアさん」

 

 レミリアが声を掛けると、北斗も声を掛けて一礼する。

 

「見た所、何事も無く過ごせているようだな」

 

「えぇ。後遺症も無く、元気に過ごせています」

 

「そうか」と彼女は声を漏らし、とりあえず安堵する。

 

「? そいつは?」

 

 ふと、レミリアは北斗の傍に居るこいしを見る。

 

「こいしだよ! さっきお友達になったの!」

 

 フランが嬉しそうに言うと、こいしは笑みを浮かべて小さく手を振る。

 

 するとレミリアは、意外な物を見ているかのように目を見開く。

 

「ふ、フランに……友人だと?」

 

「むっ! 何さ!! 私に友達が出来たら悪いの!?」

 

「いや、そういうわけじゃないが……」

 

 レミリアの反応が気に食わなかったのか、フランは不機嫌になって彼女に怒鳴るように文句を掛ける。さすがにレミリアも悪いと思ってか、少し押され気味になる。

 

「別にレミリアさんは悪く言っているわけじゃないんだ。少し驚いているだけだよ。そうですよね、レミリアさん?」

 

「ん? あ、あぁ、そうだ。ただ驚いただけだ。別に悪い意味じゃない。むしろ嬉しい意味でだ」

 

 そんな二人の様子を見かねて、北斗が助け舟を出す。彼の助け舟に彼女は乗っかるように、少し慌てた様子で弁明する。

 

「ホント?」

 

「ホントだ、ホント」

 

 疑惑の目を向けるフランに、レミリアは必死に弁明する。

 

「ちょっと反応が紛らわしかっただけで、レミリアさんはフランに友達が出来て嬉しいんだよ。だから、信じてあげて」

 

「……うん」

 

 北斗がそう言うと、フランはまだ疑わし気であったが、小さく頷く。

 

「ぐぬぬ……」

 

 一方レミリアは、自分には反抗的なくせに、北斗には正直な妹に悔し気な様子で顔を顰める。その上彼に助け舟を出されたとあって、借りが出来てしまった。というか次々と借りが出来ているような気がしないでもない。

 

「ま、まぁ、立ち話もなんだ。座ってくれ」

 

 レミリアは色々と複雑な思いを抱きつつ、咳ばらいをして気持ちを切り替え、北斗に座るように勧める。

 

「では、お言葉に甘えて」と、北斗は一言声を掛けてから、茣蓙に座る。続いてフランとこいしも彼の近くに座る。

 

「どうぞ、北斗様」

 

「ありがとうございます」

 

 すると、待ち構えていたように、咲夜が日本酒を入れたコップを北斗に渡し、彼はお礼を言って受け取る。

 

「それで、どうだ? お前にとって幻想郷における初めての宴会だろ?」

 

「えぇ。楽しめていますよ。それと共に挨拶回りもある程度出来ていますし」

 

「それは良かったな」

 

 レミリアはそう言うと、ワイングラスに入ったワインを飲む。

 

「それで、あのこいしというなの妖怪だが……お前と知り合いのようだな」

 

「えぇ。というより、こいしが妖怪であるのに気付かれましたか?」

 

「胸にある紐に繋がった球体状の物体もそうだが、纏っている雰囲気は人間のそれとは違うからな」

 

「そうですか」

 

 レミリアの洞察力に北斗は小さく声を漏らして驚きを見せる。

 

「で、あの妖怪は何者だ?」

 

「こいしは覚妖怪という妖怪でして、地底にある地霊殿の主である古明地さとりさんの妹です」

 

「地霊殿? あぁ、あそこの主の妹か。そういえば間欠泉異変でもパチェが魔理沙を支援していたな」

 

 レミリアは思い出すかのように顎に手を当てて首を傾げる。

 

「そういえば、こあさんが来ているはずですが……」

 

「あぁ。こあならそこに――――」

 

 北斗は今回幻想機関区より参加した小悪魔のこあの姿を探していると、レミリアが指を差してその方向を見ると……

 

 

「パチュリー様ぁ。どうじて教えてくれなかったんですかぁ!」

 

 そこには、明らかに大分酔っている様子のこあがパチュリーに絡んでいる光景があった。

 

「素直に教えたらあなた行く気もやる気も出ないでしょ」

 

「だからって、上位種の悪魔が三体も居るのを黙っているなんて酷いじゃないですか! 毎日喰われないか不安でいっぱいですよ!」

 

「いいじゃない。緊張感を保てて」

 

「酷い!! パチュリー様の鬼! 悪魔!!」

 

 素っ気ない主の態度に、こあは軽くポカポカとパチュリーを叩く。

 

 まぁ小悪魔からすれば、上位種の悪魔三体に囲まれて生活しているわけだから、常に緊張しているわけだ。その上北斗の監視を周囲にばれずに行わなければならないので、尚更苦労が絶えない。

 一応夢幻姉妹とエリスの三人は、北斗からこあと仲良くして欲しいと頼まれているので、彼女達なりには仲良くしているそうだが。

 

 

「……まぁ、あんな感じだ」

 

「そ、そうですか」

 

 レミリアは視線を逸らしてそう言うと、北斗は戸惑いながらも頷く。

 

「それで、こあの教育はどこまで進んでいる?」

 

「えぇ。突貫ではありますが、機関助士としての教練は修了し、機関士としての教練に励んでいます」

 

「そうか。それならば、心配は要らぬな」

 

 そう言うと、彼女は気を良くして背中の蝙蝠の羽が上下に動く。

 

「それと、我が屋敷の地下で見つけた、あの機関車はどうなった? パチェの話じゃ大分進んでいるそうじゃないか」

 

「えぇ。罐の修繕自体は終了し、あとは試運転を繰り返して最終調整を進めています」

 

 話はこあの教育状況から、紅魔館側で所有権がある比羅夫号こと7100形蒸気機関車の話題に変わる。

 

 あれから何度も試運転を繰り返し、足回りはもちろん、ボイラーや各種機器類の調整を行って、近い内に本線試運転を行う予定である。

 それまではこあが本車輛を用いて運転練習を行っている。

 

「無事に終わりそうで何よりだ。それで、他の準備も出来ているな?」

 

「客車については整備を進めています。レミリアさんの要望も罐の調整が終わり次第、実施します」

 

「そうか。それを聞ければいい」

 

「……」

 

 レミリアは気を良くした様子でワインを飲む。しかし北斗はどこか納得いかない様子である。彼が納得いかないような雰囲気を出している原因は、そのレミリアが言う要望だ。

 

 客車の件については、貴重な展望車を使う事になったものも、それについては別に問題ではない。問題なのは、彼女が出した要望で、蒸気機関車が好きな彼からすれば納得し難い内容なのだ。特にオリジナルを大事にしたいという思いのある彼だからこそ、尚更レミリアの要望は納得し難いのだ。

 

 しかしスポンサーの要望を聞かないわけにもいかないので、渋々と受け入れるしかなかった。

 

「にしても……」

 

 と、レミリアは空になったワイングラスを揺らすと、いつの間にかワインが注がれた状態になり、彼女は気にすることなく、その視線の先にある光景を見つめている。

 

 北斗も横を向いてその光景を目の当たりにする。

 

 

「お兄さんの膝の上って、とても大きな安心感があるのよね」

 

「分かる分かる。私もよくお兄様に膝の上に座らせてもらっているんだけど、他には無い安心感があるの」

 

「それに、お兄さんからお姫様抱っこされた時なんかは、これ以上に無い心地よさもあったんだ」

 

「えぇ! こいしお兄様に抱っこしてもらったの!?」

 

「フランには無いの?」

 

「うん。してもらったこと無いよ。良いなぁ」

 

「頼めば、きっとしてくれるよ。お兄さんは優しいから」

 

「うん。今度お兄様に頼んでみる」

 

 こいしとフランの二人は、北斗についての談話を交わしていた。どこが良いか、こうしてもらったとか、してもらって良いなか、とか、色々である。

 

「そういえば、フランって吸血鬼なんだよね」

 

「そうだよ」

 

「ってことは、お兄さんの血を飲んだ事ってあるの?」

 

「ううん。まだ無いよ」

 

「へぇ、意外だね。なんで?」

 

「うーん。あんまり気にした事なかったけど……なんでだろう?」

 

 フランはこいしの疑問に、自身も疑問を抱く。

 

「でも、別に絶対血を飲まないといけないってわけじゃないから、別に良いや。機会があったらその時にね」

 

「ふーん」

 

 

「フラン。人前で恥ずかしげもなく……」

 

 レミリアはそう呟くと、深くため息をつく。

 

「そういえば、レミリアさん達は血を飲むんですよね? 吸血鬼なので」

 

「……飲むには飲むが、それはあくまでも人前ではしないし、そもそも吸血は人間で例えるなら嗜好品みたいなもので、常に飲んでいるわけではない。そうだったら霊夢が黙っていないだろ」

 

「それもそうですね」

 

 彼女から吸血行為の目的を聞き、北斗は納得する。

 

「でも、どうやって人間の血を調達しているんですか?」

 

「そりゃ、以前までは咲夜が血を私たちに分けていたけど、さすがに限界があったからな。今じゃ永遠亭で輸血パックを取引で手に入れているわ」

 

「なるほど」

 

 意外な話を聞いて、北斗は頷く。と同時に永遠亭とどんな取引をしているのか気になるものも、余計な詮索はしない方が良いと思い、彼は聞かなかった。

 

 それからフランが話の輪に混ざるまで、二人は世間話に興じるのだった。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 所変わって幻想機関区。

 

 

 辺りは暗くなり、電灯が点いて灯りを照らしている幻想機関区では、宴会で賑わっている博麗神社と違い、ここでは賑わいこそ無いが、人の動きはあった。

 

 

 博麗神社から帰って来て、客車と連結を外した48633号機が給炭設備がある線路へと移動し、そこで作業員の妖精達によって、灰箱から石炭が燃え尽きて出来た灰を線路の間に排出しており、暗い中でまだ赤い灰が輝いている。

 その間に作業員の妖精が炭水車(テンダー)に石炭を補給している。

 

 

 扇形機関庫では、迎えの列車を牽引する為に、D51 603号機が蒸気を上げて、出庫準備を整えつつあった。

 

 

 

「……」

 

 そんな中、扇形機関庫の前で、(C57 135)津和野(C58 1)の二人が夜空を見上げて、月を眺めている。

 

「幻想郷に来てから、大分経つわね」

 

「そうね」

 

「今頃、区長達は楽しんでいるかしら」

 

「さぁ。区長は挨拶回りをするって言っていたし、忙しいんじゃない?」

 

「そりゃそうか」

 

 二人は何度か言葉を交わし、少しの間を置いて再び口を開く。

 

「今思えば……あの話に乗って良かったと思っているわ」

 

「あの時は眉唾物な話だと思っていたけど、現に私達は再び走ることが出来ている」

 

「存在し続けていれば、何が起きるか分からないものね」

 

「あぁ」

 

 (C57 135)津和野(C58 1)は話しながら月を眺めていると、(C57 135)が口を開く。

 

津和野(C58 1)

 

「何?」

 

「今は楽しい?」

 

「……そうね。少なくとも外の世界に居た頃よりかは、楽しいわね。そういうあなたは?」

 

「私も外の世界に居た頃よりかは、楽しいわね」

 

「そう」

 

 二人は聞きたい事が聞けて満足したのか、再び月を眺め出す。 

 

 

 

「……」

 

 所変わり、宿舎の入り口横でみとりが壁にもたれかかり、月を眺めている。

 

 彼女は諸事情あって、今回宴会に参加していない。

 

「……」

 

 

「少し良いかな」

 

「……?」

 

 すると声を掛けられて、みとりは声がした方を見ると、そこには飛鳥が立っていた。

 

「北斗の……母か」

 

「あぁ。君は確か……みとり、だったね」

 

「あぁ。そうだが、何の用だ?」

 

「いやなに、少し君と話しがしたいと思ってね」

 

「……」

 

「隣、良いかな?」

 

 飛鳥が問い掛けると、みとりは少し横にずれる。彼女の意図を読み、飛鳥は頭を下げてからみとりの隣にもたれかかる。

 

「北斗から話を聞いたが、今回宴会の参加を見送ったみたいだな」

 

「……あぁ」

 

「妹さんが参加するのに、なぜ?」

 

「……」

 

「……まだ、無理ってところか」

 

 飛鳥はみとりの様子から察して、そう答える。みとりは何も言わなかったが、沈黙は肯定と見れる。

 

「私だって、にとりと色々と話しながら酒を交わしたいが……まだ人間たちの事は……」

 

「……」

 

「少なくとも……許す事は出来ない」

 

「そうか。まぁ、こればかりは時間を掛けていくしかないね」

 

「……」

 

 みとりは月を一瞥して、飛鳥を見る。

 

「良かったのか? 北斗が宴会に参加するというのに」

 

「うーん。まぁ北斗と一緒に宴会を楽しみたいっていうのはあるよ。酒を飲み交わしながら色々と聞きたいことだってあるし」

 

「なら……」

 

「でも、私が居ると、北斗私の事を気に掛け過ぎて楽しめないと思うの。あの子には気にせずに、楽しんでもらいたいからさ」

 

「……」

 

(それに、邪魔するのも何だしね)

 

 飛鳥は北斗が早苗と仲良くしている姿を想像して、内心気を良くする。しかし残念ながら、当の北斗は境内で早苗と出会えていないのだが……

 

「子供思いなのだな」

 

「子供思い、か……」

 

 みとりの言葉に、飛鳥は目を細めて、自分の手を見る。

 

「私は…‥いや、よそう」

 

 彼女は何かを言いたげだったが、すぐに首を振るい、考えを改める。

 

「もう終わったことだ。北斗だって、許してくれたんだ。いつまでも私が引き摺っているわけにはいかないよな」

 

「……?」

 

「あぁ、気にしないでくれ。ただの独り言だ」

 

 首を傾げるみとりに、飛鳥は咳払いをする。

 

「北斗達が帰って来るまで時間はまだある。酒を飲みながら、ゆっくり話がしたいんだが、付き合ってくれる?」

 

「そうだな。このままジッとしていても暇なだけだ。付き合おう」

 

 飛鳥の提案にみとりは乗り、二人は宿舎の中へと入っていく。

 

 

 




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