「うわぁ……」
はたての足を掴んで無理やり連れて行く萃香に付いて行くと、そこに広がる惨状に北斗は思わず声を漏らす。
というのも、明らかに萃香によって無理やり酒を飲まされたのか、酔い潰れて倒れている文や椛、にとりの姿がある。その周囲には一升瓶が大量に転がっており、どれだけの酒を飲まされていたのか見て取れる。
「あの、大丈夫ですか?」
「あ~、その声は北斗かい? いやぁみっともない所見せてしまったねぇ」
北斗がにとりに声を掛けると、彼女は青ざめた顔を上げる。
「んまぁ、見ての通りだね」
「そのようですね」
北斗はにとりが身体を起こそうとしているのを手伝い、彼女を座らせる。目は死んでおり、顔色は青白いと、明らかに酔って具合を悪くしている。
「大変ですね」
「まぁ、ね。でも相手が相手だから、逆らえないんだよ」
彼女はそう言うと、小さくため息を付く。
「ところで、姉さんは参加していないのかい?」
にとりは辺りを見渡して、みとりの姿を探す。
「えぇ。みとりさん今回は参加しないそうです。まだ駄目みたいで」
「そっか……残念だなぁ」
にとりは乾いた笑い声を漏らして、ため息を付く。彼女としては、例え腹違いであっても、大切な家族なのだ。そんな家族とようやく再会出来たのだから、酒を飲み交わして色々と話をしたかったのだろう。
「まぁ、仕方ない、か……」
「……」
「あぁ、北斗。水持って来てくれないかい? ちょっと気持ち悪い……」
「わ、分かりました」
彼女は口に手を当てながら北斗にお願いをする。
にとりに頼まれて北斗はすぐにコップを探し、水の代わりにお茶を淹れてにとりの元に戻る。
「どうぞ。近くに水が無かったので、代わりにお茶ですが」
「あぁ、いいよ。飲み物なら酒以外で良かったから」
彼女はそう言うと北斗からコップを受け取り、お茶を飲む。
お茶を飲んで少し落ち着いたのか、ゆっくり深く息を吐き、「ちょっと横になるよ」と言ってにとりは再び横になる。
「なぁなぁ、北斗」
と、酔っぱらった萃香が北斗の元にやって来る。ちなみに彼女の後ろでは周囲に一升瓶を転がし、魘されて倒れているはたての姿がある。この間にはたては元上司に酒を大量に飲まされたようである。
「色々と話聞きたいからよぉ、酒交わしながら話そうぜ」
「は、はい」
北斗は戸惑いながらも、萃香の方に身体を向き直す。
「というより、初対面ですよね、お互い?」
「そうだなぁ。お互い初対面だけど、あんたの事は勇儀と霊夢から聞いているんだ」
「霊夢さんから? それと勇儀さん?」
「ほら、額に赤い一本角が生えた鬼さ。見たことはあるだろ?」
「あー、あの人か」
聞き覚えの無い名前に北斗は首を傾げるも、萃香が言った特徴で思い出す。
「あぁ、紹介が遅れたな。私は伊吹萃香って言うんだ。ただの一端の鬼さ」
「あっはい。霧島北斗です。幻想機関区の区長をしています」
(何が一端の鬼ですか……)
萃香は遅れながらも自己紹介をして、北斗も続いて自己紹介をする。彼女の紹介に不満があったのか、倒れたまま耳を立てている文が内心呟く。
「んでだ、あんたのことは霊夢から聞いているよ」
「霊夢さんから、ですか?」
「あぁ。あいつってさ、ぶっきらぼうで素っ気ないだろ? その上気に入らないとすぐに制裁するしさ」
「は、はぁ」
「でもな、何だかんだ言って、よく気に掛けてくれる、良いやつなんだよ。人間にしてはな」
「……」
意味深な言い方の彼女に、北斗はどこか引っかかるも、何も言わず耳を傾ける。
「北斗の事を話していた時も、所々気に掛けているような感じだったしな。知っているか? 霊夢のやつ北斗の事を話すと少しだけ喜色が出ているんだよ」
「そうでしょうか?」
萃香の話を聞いて、北斗は首を傾げながらこれまでの霊夢を思い出す。
「ほら、霊夢って素直じゃないからさ。そんなこと言ったって、本人は否定するだけだろうけど」
「……」
「まぁなんだ。霊夢のやつは北斗の事をそれなりに気に入っているんだよ」
「そう、ですか」
どうにも実感が沸かず、北斗は声を漏らす。
「まっ、それはさておき」
と、萃香はどこから持ってきたのか、コップを北斗に渡す。
「知り合った記念に、飲んでくれよ~」
彼女はそう言うと、手にしている瓢箪より北斗に渡したコップに酒を注ぐ。北斗はとっさにコップを両手で持ち、酒が零れないように支える。
「こ、これは?」
「こいつは伊吹瓢って言ってな、酒が無限に出てくるやつなのさ」
「無限にですか?」
北斗は信じられない様子でコップに注がれた酒を見る。
「味は保証するよ。何せ鬼が飲む酒だからな!」
「それ、大丈夫なんですか?」
彼女のの言い方に北斗は不安を覚える。鬼が飲む酒ということは、人間が飲む酒じゃないのでは? と考えてしまう。
「大丈夫だって。飲んでも死にやしないんだからさ!」
「そ、そうですか」
北斗は戸惑いながらも、萃香の勧めにコップに注がれた酒を飲む。
「っ! 結構強い……!」
コップに注がれた酒の半分を飲むと、かなり強い酒とあって北斗の表情が歪む。
「でも、味は良いですね……」
「だろ? これに勇儀の盃があれば最高なんだけどな」
しかしかなり強い酒ではあるが、味はこれまで飲んできた酒と比べると良かったので、北斗は残りを飲み干す。その様子に萃香は気を良くしている。
「ほらほら、次行ってみよう」
と、萃香は伊吹瓢を傾けて北斗の持つコップに酒を注ぐ。
「あ、ありがとうございます……」
続けざまに酒を注がれて北斗は戸惑うも断り切れず、お礼を言ってから酒を飲む。
「っ……」
一回目で慣れたのか、北斗はコップに入った酒を一気に飲み干す。
「おぉ、良い飲みっぷりだねぇ。人間でここまで飲めるのは霊夢ぐらいしか知らないよ」
北斗の飲みっぷりを気に入ったのか、萃香は嬉しそうに笑みを浮かべて酒を更に勧めようと伊吹瓢を差し出す。
「あ、あの……」
「遠慮するなって。まだまだいけるだろ」
無理やり酒を勧める彼女に、北斗は戸惑う。
さすがにこれ以上飲むにはきつい酒なので、北斗としては断りたいところだが、萃香の強引な姿勢に断れないでいた。それに相手が相手なので、なるべく穏便に済ませたいところであった。
(どうしよう……)
北斗は角を立てずにどう断れるか考えていると……
「ちょっと萃香」
「えっ?」
「あんたねぇ、無理やり飲ませてんじゃないわよ! よりにもよってその酒で!」
霊夢は拳を作りながら声を上げ、拳骨を受けた萃香は頭にタンコブを作ってうつ伏せに倒れる。鬼にタンコブ作らせて倒しているところをみると、博麗の巫女の規格外さが表れている。
「なんだよ、霊夢! 私はただ親睦を深めようとしているだけだぞ!」
萃香は顔を上げて涙目になりながら霊夢に抗議する。
「だったら少しは飲ませる酒は選びなさい 北斗さんが酒に強かったから良かったけど、他の奴ならとんでもないことになっているわよ!」
どうやら北斗の予想通り、人間が飲むのに適さない酒だったようだ。それを一気飲み出来る辺り、北斗も中々化け物である。
霊夢は萃香に説教をしているものも、彼女としては面倒ごとを出して欲しくないのだろう。
「全く……」
霊夢は深くため息を付くと、ズカズカと歩いて北斗の元へ向かう。
「北斗さん、行くわよ」
「えっ?」
と、彼女は北斗の手を取って半ば無理やり立たせて連れていく。
「れ、霊夢! 北斗をどうするんだよ!」
「あんたの所に北斗さんを置いていたらロクなことが無いわ。悪いけど連れて行くわ」
「そんな! こんな時に一人で飲めっていうのかよ!」
「酒の相手ならそこにいるじゃない。叩き起こせばまだ飲めるでしょ」
霊夢のさりげない言葉に、密かに耳を立てていた天狗達とにとりは絶望に満ちた顔を上げる。
「ちょ、霊夢さ―――」
「じゃ、頼むわよ。北斗さん」
文の声を無視して霊夢は北斗を連れて萃香達の元を離れる。
―――――――――――――――――――――――――――――
北斗は霊夢に連れられて、彼女達が居た茣蓙へと向かう。
「よぉ、北斗! 飲んでるかぁ!」
そこでは、出来上がっている魔理沙がコップ片手に騒いでいた。
「魔理沙さん。出来上がっていますね」
「そうね。今回は早く出来上がっているわね」
北斗の指摘に、霊夢はため息を付く。
「まぁ、少しの間はここでゆっくりしていきなさい。ここなら厄介な輩に絡まれることも無いだろうし」
「なんだか、すみません」
「いいのよ」と言って、彼女は茣蓙に座る。その霊夢に る~こと が酒を注いだコップを手渡す。
「それで、挨拶回りは終わったのかしら?」
「えぇ。紅魔館や命蓮寺等を行き終えました。後は早苗さん達の元に行く予定でしたが、早苗さん達はどこに?」
「早苗達ならあっちに居るわよ」
と、霊夢は早苗達が居る方向を指差す。
「あっちだったんですか。ありがとうございます」
早苗達が居る場所を知れて北斗は霊夢に礼を言う。
「そういえば、今日アリスさんの姿を見ていませんが、来ていないんですか?」
「えぇ。アリスは今日来ていないわ。何でも実家からの呼び出しがあったみたいね」
「実家からの呼び出しですか」
アリスの姿が無いのに疑問に思った北斗が霊夢に問い掛けると、彼女がいない理由を伝える。
「アリスさんの実家って、どこにあるんですか?」
「魔界よ。大雑把に言えば、この幻想郷の反対側にあるような場所ね」
「魔界、ですか」
穏やかではない名前に、北斗は息を呑む。
「その魔界から時々観光客が来て、色々と大変なのよね」
霊夢はそういうとため息を付き、コップに注がれた酒を飲む。
「観光客が来るんですか?」
「えぇ。最初はそれが原因で異変が起きたのよ。勝手気ままにやられたら、迷惑よ」
「そりゃ、まぁ」
愚痴るように呟く霊夢に、北斗は苦笑いを浮かべる。
「今はちゃんと決め事を決めたから、何とも無いんだけどね」
「そうですか」
霊夢の話を聞き、北斗はふと考えた。
(観光か。となるとあの編成客車達が使えそうか?)
北斗は操車場にある、整備中の長距離移動に活躍する客車とその編成を思い出す。
これが後に外の世界で活躍した、有名な列車達の復活のきっかけになる。
「北斗!」
と、酔っぱらった魔理沙が北斗と肩を組む。
「ま、魔理沙さん」
「なんだ、北斗。全然飲んでないじゃないか?」
と、戸惑う北斗を他所に、魔理沙は彼の手にコップが無いのを問い掛ける。
「い、いえ。結構飲んでいますので」
「そうには見えないけどなぁ」
北斗はこれまで飲んで来たのを伝えるが、彼女は酔っていない北斗の様子に怪訝な表情を浮かべる。
「魔理沙。ちょっと飲み過ぎよ。北斗さんが迷惑しているわ」
「良いじゃないか。今日は無礼講だぜぇ!」
さすがに北斗が気の毒に思ってか、霊夢が助け舟を出すも、魔理沙はイケイケドンドンな状態だ。
「全く」
霊夢は魔理沙を北斗から引き剥がそうと、腰を上げようとする。
「中々楽しんでいるじゃないか、魔理沙」
と、三人じゃない誰かの声がして、三人は固まる。そして霊夢は北斗と魔理沙の二人の後ろにいる人物に気付く。
特に魔理沙は驚きのあまりか、酔っていた顔が青くなる。
「そ、その声は……」
彼女は油が切れたブリキ人形のようなぎこちない動きで振り向く。
「久しいねぇ、魔理沙」
そこには腕を組んで、微笑みを浮かべている魅魔の姿があった。
「みみ、魅魔様!?」
魔理沙は驚きのあまり声を上げて、目にも止まらない速さで振り返る。
「お、お久しぶりです、魅魔様!」
「あぁ久しぶり。元気そうで何よりさね」
「魅魔様も、お元気そうで何よりです!」
さっきまで酔った様子が一変し、魔理沙はかしこまった様子で魅魔に声を掛けている。
(そういえば、魅魔さんって魔理沙さんの師匠なんだっけ?)
北斗は魔理沙と魅魔の二人を見て、二人の関係を思い出す。
「それより、いつ幻想郷にお帰りになっていたんですか!?」
「あぁ。だいぶ前にね」
「そうなんですか!?」
「本当よ」
驚く魔理沙に、霊夢が魅魔の言葉を裏付ける。
「なんで私に教えてくれなかったんですか!?」
「そりゃ、魔理沙を驚かそうと思ってね。秘密にしていたのさ」
「えぇ……」
お茶目にウインクする魅魔に、魔理沙は思わず声を漏らす。
「今は北斗の所に短い間だけ住み込ませているよ」
「えぇ!? 本当か北斗!?」
驚愕した魔理沙が北斗に詰め寄る。
「なんで教えてくれなかったんだよ!? 魅魔様から私との関係は聞いていただろ!?」
「い、いや、そうなんですが、魅魔さんから口止めされていたので」
「うっ……そういやそうだった」
北斗が魔理沙の迫力に押されながらもそう言うと、彼女は思い出して言葉を詰まらせる。
「というか、こいつを住まわせているの、北斗さん?」
と、さっきまで黙っていた霊夢が、半ば呆れた様子で北斗に問い掛ける。
「こいつ呼ばわりとは、酷いなぁ、霊夢」
「別にそれで良いじゃない」
肩を竦める魅魔に、霊夢は素っ気ない様子で声を漏らす。
「というより北斗さん。頼まれたら断れない性格は直すべきよ。悪魔に悪霊の巣窟になっているわよ」
「は、はぁ」
霊夢の例えに、北斗は苦笑いを浮かべる。
まぁ世界広しとは言えど、悪魔が三人、悪霊一人が住んでいる機関区なんて、幻想機関区以外にそうそう無いだろう。
「とまぁ、北斗を責めてやらんでおくれ。彼は彼なりの善意でしてくれているんだから」
魅魔は霊夢と魔理沙を宥める。
「でだ、魔理沙。久々に会えたんだ。酒を交わしながら語りたいと思うんだが、良いか?」
「もちろんですよ! とことん付き合いますよ!」
魅魔に頼まれた魔理沙は、喜んで了承する。
「……」
「やれやれ」
そんな魔理沙の様子に、北斗は何も言わず、霊夢はため息を付く。
「では、霊夢さん。自分は早苗さんの所に行きますね」
「えっ? あっ、うん。分かったわ」
北斗は霊夢にそう伝えると、立ち上がる。彼女は一瞬戸惑ったものも、頷いて了承する。
「先ほどは、本当にありがとうございます」
「……まぁ、別に良いわよ」
「では、自分はこれで」
北斗は頭を下げて、早苗達が居る場所へ向かう。
「……」
その後ろ姿を、霊夢は寂し気な表情を一瞬浮かべる。
「あらあら」
と、声がして霊夢は表情を引き締める。
すると霊夢の傍の宙が裂けて、中から紫が出てくる。
「そんなに彼の事が気になるのかしら?」
「さぁ、何の事かしら」
扇子を広げて口元を隠す紫はどこか面白そうな雰囲気で霊夢に声を掛け、彼女は素っ気ない態度で返す。
「別に良いのよ。この辺りは個人の勝手だから」
「……」
「でも、もしかしたら……ね」
紫は扇子を閉じると、意味深な事を告げてスキマの中に入ってその出入口を閉じる。
「……何なのよ」
彼女の言葉に苛立ちを覚えたのか、誰に向けたわけでもなく霊夢は声を漏らす。
感想、質問、評価、要望等をお待ちしています。