東方鉄道録‐幻想の地に汽笛は鳴り響く‐   作:日本武尊

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第147駅 想いと頼み

 

 

 

 霊夢たちと別れた北斗は境内を歩いて、早苗達が居る場所へと向かった。

 

 

 

「おっ! おーい! 北斗君! こっち! こっち!」

 

 それからして、北斗の視界に神奈子と諏訪子の二人を見つけ、同時に二柱も北斗の姿を見つけて、諏訪子が手を振るう。

 

「お待たせしました、神奈子さん、諏訪子さん」

 

「挨拶回りは済んだのかい?」

 

「えぇ。初めて会う方々との挨拶も済みました。先ほど霊夢さんと会って来て、神奈子さん達が居る場所を聞きました」

 

「そうか」

 

 北斗は座りながら神奈子に伝えると、彼女は頷く。

 

「イェーイ! 北斗君楽しんでいるかーい!」

 

 と、酔った様子の諏訪子が酒が注がれたコップ片手に北斗に声を掛ける。

 

「は、はい。楽しんでいますよ、諏訪子さん」

 

 テンションが高い諏訪子に北斗は戸惑いながらも答える。

 

「全く……」と神奈子が傍で頭を抱えて首を軽く左右に振るう。

 

「そういえば、早苗さんは?」

 

 と、真っ先に北斗を出迎えるであろう早苗の姿が無く、北斗は怪訝な表情を浮かべる。

 

「あぁ、早苗ならそこだ」

 

 と、神奈子が指差して、北斗がその方向を見ると。

 

 

「えへへ♪ 北斗さぁ~ん……」

 

 そこには幸せそうな顔で横になっている早苗の姿がある。どうやら寝ているようだ。

 

「……これは一体?」

 

「いやぁそれがね、早苗も北斗君みたいに挨拶回りしていたんだよね」

 

「早苗さんも? でも道中会わなかったんですが」

 

「たまたま会わなかったのだろうな。大分混み合っているしな」

 

 北斗は首を傾げるも、神奈子は周りを見ながら早苗と会わなかった原因を口にする。

 

「んで、挨拶回りした先で酒を飲んでいたからさ、戻って来た頃にはもうベロベロってわけ」

 

 諏訪子は苦笑いを浮かべて、早苗の頭を撫でる。

 

「早苗さ、今日本当に楽しみにしていたんだよね。だから、ちょっとはしゃぎ過ぎたかもね」

 

「そうですか」

 

 彼女の言葉に、北斗は微笑みを浮かべる。

 

「まぁ兎に角、今日は無礼講! 楽しんじゃおう!」

 

 諏訪子は空のコップを手にして北斗に渡すと、自身が持つコップに入っている酒を飲み干して一升瓶を手にして北斗が手にしているコップに酒を注ぐ。

 

「す、すみません」

 

「敬え敬え。神様から酒を注いで貰えるんだから、この幸せ者~」

 

「お前のような酒乱に注いで貰ったって、神様でも嬉しく思えんだろうな」

 

 北斗は苦笑いを浮かべつつ酒をコップに注いで貰い、諏訪子はニコニコと笑みを浮かべて気を良くしているが、神奈子は彼女の状態から呆れた様子でため息を付く。

 

 

「そういえばさ、北斗君」

 

「はい。なんでしょうか?」

 

 と、北斗が酒を一口飲んでいると、諏訪子が問い掛けてくる。

 

「この間の夜は楽しかったみたいだね」

 

「んぐっ!?」

 

 彼女はニヤニヤと笑みを浮かべて質問をし、その内容に北斗は酒を吹き出しそうになる。

 

「いや、えっと!?」

 

「ほら、この間の豪雨の時に早苗機関区に泊まったでしょ。その時に北斗君と一緒に寝たのも聞いたんだよねぇ」

 

「あ、あれは……その……」

 

「んで、どうだった?」

 

「……」

 

 北斗はどう答えるかで言葉を詰まらせて困っていると、諏訪子が突然吹き出す。

 

「いやぁごめんごめん! 別にあの時の事をどうこう言うわけじゃないからさ! 一緒に寝た事だって、その事情は早苗から聞いているし!」

 

「は、はぁ」

 

 戸惑い気味の北斗に、諏訪子は咳払いをする。

 

「とまぁ、話は変わるけど、ちょっと聞きたい事があるんだ」

 

「?」

 

「北斗君は早苗の頼みもあって、一緒に寝てくれたんだよね」

 

「は、はい。そうです」

 

 その時のことを思い出してか、北斗は気恥ずかしそうに視線が揺らぐ。

 

「雰囲気的にさ、そのまま早苗とシようとは思わなかったの?」

 

「えっ?」

 

 真顔で意味深な事をいう諏訪子に、北斗は驚きを隠せなかった。そして同時にその意味を理解して動揺する。

 

「す、諏訪子さん?」

 

「ほら、静かな夜に若い男女が同じ床に着いたんだよ。ヤることは一つでしょ?」

 

「え、えぇと、それは……」

 

「早苗ってさ、見た目通りに凄いんだよ。北斗君はそういうのに興味無かったの?」

 

「……」

 

 諏訪子の言葉に北斗はどう答えるべきか悩んでいる。

 

「そ、そういうのは、然るべき手順を踏んでから……その、お互いの気持ちを確かめてからするべきだと思います……」

 

 彼は思い悩んだ末に、恥ずかし気に答える。

 

「意外と堅実だね」

 

「……」

 

「いやまぁ、ごめんね。そこまで思い悩むなんて思わなかったよ」

 

 さすがに悪いと思ってか、諏訪子は苦笑いを浮かべつつ謝罪する。

 

「でも、北斗君自身はどうなの? 早苗から根掘り葉掘り聞いた話からすれば、イケそうな気がするけどね」

 

「えぇ……」

 

 妙に推してる諏訪子に、北斗は戸惑いを見せる。

 

「んで、結局のところどうなの?」

 

「……」

 

 北斗は戸惑いを隠せなかったが、諏訪子の言葉に答える。

 

「……あの時の早苗さんは、とても気落ちしていましたし、目に見えて弱っていました」

 

「……」

 

「そんな状態の早苗さんに……手を出すなんて……まるで傷心に漬け込むような行為じゃないですか」

 

「北斗君……」

 

 諏訪子は目を瞑って頷きながら静かに唸ると、目を開く。

 

「やっぱり堅実だね」

 

「それって、褒めているんですか?」

 

「褒めているんだよ。これで北斗君が手を出していたなら大分評価は変わっているだろうしね」

 

 諏訪子はそう言っているものも、その声色はどことなく楽しんでいるような雰囲気である。どうやら彼女的には手を出そうとも出さまいとどっちでもプラスみたいだったようである。

 

「んで、話は変わるけどさぁ」

 

「え?」

 

 と、何やら雰囲気を変えた諏訪子が北斗の肩を掴んで自身に引き寄せる。

 

「然るべき手順を踏んでって事は、つまりいずれはってことかな?」

 

「っ!」

 

 北斗は酔いとは別の意味で、顔を赤くする。

 

「え、えぇと、それは……」

 

「ん~? どうしたのかなぁ? 早苗とは相思相愛な関係に思えるんだけどねぇ」

 

「~!」

 

「私としてはいつでも良いんだよ~? 孫の顔を見るのに時間を掛ける必要は無いんだからさぁ~」

 

「ま、孫!?」

 

 彼女の衝撃発言に北斗は驚きのあまり声を上げる。

 

「良いねぇその反応。早苗の時も慌てふためいちゃってさ。もうそれが可愛いったらね!」

 

「は、はぁ」

 

「早苗も満更でも無かったからさ、押せば行けるんじゃないかな?」

 

「……」

 

 さて何だか話が飛躍してどんどん進んでしまっているこの状況。北斗はどうしようかと悩んでいると……

 

「諏訪子」

 

「んぇ?」

 

 

げ   ん

 

 

こ   つ

 

 

「ゲコォッ!?」

 

 と、さっきまで沈黙していた神奈子はさすがに収拾がつかないと思ってか、彼女の拳骨が諏訪子の頭に落とされて変な声を上げる。

 

「こんな場で何言ってんだ、この酒乱ガエル!」

 

「何すんのさ、神奈子!!」

 

 額に青筋を浮かべて神奈子は怒鳴り、被っている帽子が大きく凹んで帽子に付いている目が×印を浮かべてタンコブが生えた諏訪子は涙目で神奈子に抗議の声を上げる。

 

「全く」と声を漏らすと、神奈子は片手で食い掛ろうとする諏訪子を片手で制しながら北斗を見る。

 

「まぁ、なんだ。ただの酔っ払いの言葉だから、気にするな」

 

「あっはい」

 

「ただまぁ……私も少しは期待しているところもあるから、な?」

 

「……」

 

 神奈子の言葉に、実はもう逃げ道が無いというのを彼は理解してしまうのだった。

 

 

(あーうー。神奈子のやつめぇ)

 

 頭に出来たタンコブを押さえながら諏訪子は、神奈子を恨めしそうに睨みながら内心で声を漏らす。

 

「……」

 

 神奈子を睨みつつ、チラッと北斗を見る。

 

(北斗君。君の真意はどうなのかは私には分からないけど……私は決めたことは最後まで成し遂げるよ)

 

 その時一瞬であったが、彼女は微笑みを浮かべて、次に横になって眠っている早苗を見る。

 

(君しかいないんだよ。早苗を幸せに出来るのは。もちろん無理やり押し付けず、お互いの気持ちを尊重するけど)

 

 母が我が子を見守るかのような笑みを浮かべて、表情を変えて再度北斗を見る。

 

(だから、私は待っているよ。その時が来るのを……)

 

 彼女は改めて決意を抱き、北斗と早苗の二人を見つめる。

 

 

 


 

 

 

 やがて時間は過ぎて行き、楽しかった時間もお開きとなった。

 

 

 店を出していた者は片付けに入り、宴会に参加した者は自分で帰れる者は帰り、それ以外の者は幻想機関区よりD51 603号機が牽引する列車が来て、その列車に乗って人里へと帰った。

 

 北斗は蒸気機関車の神霊の少女たちと共に列車の案内を行い、列車を見送った後境内に戻る。

 

 

「お疲れ様です、霊夢さん」

 

「えぇ、お疲れ様」

 

 神社の境内にある彼女の家にて、北斗は霊夢に声を掛けた。

 

「今夜は本当に楽しめました。誘ってくれてありがとうございます」

 

「いいのよ。北斗さんは外来人と言っても、今は立派な幻想郷の一員よ。みんなと楽しむ権利はあるわ」

 

 彼がお礼を言って一礼し、霊夢は優し気に語る。

 

(みんなと楽しむ、か)

 

 彼女の言葉に、北斗は内心その言葉を呟く。

 

 

 幻想郷に来るまで、疎まれて来た北斗。故に彼はみんなで楽しむというのを知らなかった。

 

 だが、彼はこの幻想郷に来て、多くの者達と交流を重ねて関わって来た。その交流は彼の中にある闇を少しずつ払っていった。

 

 彼の心の傷は決して癒えることは無いかもしれない。だが、その傷を可能な限り治していくことは出来る。実際幻想郷に来てからの彼は、少しずつ変化を見せている。

 

 そして何より彼に大きな変化を齎したのは、間違いなく早苗と、母親である飛鳥、そして蒸気機関車とその神霊達の存在だろう。

 

 

「……北斗さん?」

 

 急に黙り込んだ北斗に霊夢は怪訝な表情を浮かべて声を掛ける。

 

「っ!」

 

 北斗は声を掛けられてハッとして気が付く。

 

「どうしましたか?」

 

「急に黙り込んだから、声を掛けただけよ。どうしたの?」

 

「そうですか。何でもありません」

 

「そう。あぁ、それと」

 

「?」

 

 と、思い出したように霊夢が声を上げ、北斗は首を傾げる。

 

「悪いけど、鈴仙を北斗さんの所で面倒見て貰えないかしら?」

 

「鈴仙さんを?」

 

「えぇ。そこで酔い潰れているわ」

 

 と、霊夢は縁側の奥を見ると、鈴仙が今で横になって寝ている。そのそばでは、る~こと が鈴仙以外にも、酔い潰れた魔理沙や針妙丸、萃香を介護している。

 

「魔理沙さん酔い潰れるほど飲んだんですか?」

 

「みたいね。久々に魅魔と再会出来たんだから、あそこから更に飲んだんでしょうね」

 

「そうですか。でも魅魔さんは?」

 

「魅魔なら先に帰ったわ。聞いてないの?」

 

「えぇ。そもそも魅魔さんが今日くると言うのも聞いていませんでしたし」

 

「そこんところは変わってないのね、あの悪霊」

 

 霊夢は呆れた様子でため息を付く。

 

「ちなみに針妙丸と萃香についてはただの飲み過ぎよ。特にあの鬼はね」

 

 霊夢は鼻を鳴らして萃香を見る。

 

「おかげで天狗と河童を見る羽目になったのよ」

 

「あぁ、そうですか」

 

 彼女は鼻を鳴らすが、ぶっちゃけ言うとそうなったのは霊夢のせいだと思われるが……

 

 北斗もそう考えていたのだが、口にしなかった。口は災いの元というように、彼は余計な事は言わない性分である。

 

「にとりさん達もですか。でも姿は見えませんが?」

 

「奥で寝ているわ。こっちで面倒見るにも、あんなに居るから無理なのよ。だから鈴仙だけでも北斗さんの所で面倒を見て欲しいのよ」

 

「そう言われましても、他は無理なんですか? なんなら妹紅さんは?」

 

「妹紅なら酔い潰れた慧音を連れて帰ったわよ」

 

「先に帰ったのか。というより、慧音さんなんで酔い潰れるほど飲んだんですか?」

 

「なんでも、霖之助さんを誘ったのに来なかったから、自棄酒したみたいよ」

 

「あぁ、そうなんですか」

 

 理由を聞いて北斗は納得する。

 

「確かに妹紅に鈴仙を任せるのも考えたけど、その時には既に帰っていたのよね」

 

「……」

 

「妹紅は慧音の面倒を見るのに精いっぱいだろうし、連れて行くのは良くないわ。鈴仙大分酔っているみたいだし、さすがに二人の面倒を見るのは難しいわね。そうでなくても酔った人間はまだいるだろうし」

 

 と、霊夢は る~こと に濡れタオルで顔を拭かれている鈴仙を見る。顔を赤くしている彼女は、気分が悪いのか静かに魘されている。

 

「そもそも、鈴仙さんなぜここまで飲んだんでしょうか?」

 

「妖夢の所で幽々子と飲んでいたそうよ。妖夢と仲良いみたいだし、話しながら飲んでいたから、気づかない内に大分飲んだんでしょ」

 

「そうですか」

 

 北斗は腕を組み、静かに唸る。

 

「さすがにこの状態じゃ永遠亭に戻れないし、こっちは魔理沙と萃香、針妙丸、それに天狗達と河童の面倒見ないといけないから無理よ」

 

「しかし……」

 

「もちろん永遠亭の面々には私から説明しておくし、朝早くに妹紅に伝えておくから、鈴仙の体調が悪かったら妹紅に任せなさい」

 

「……」

 

 北斗は渋るものも、霊夢の提案を聞いてしばらく悩み、彼は組んでいた腕を解く。

 

「分かりました。鈴仙さんはこちらで預かります。情報の伝達はお願いします」

 

「当然よ。さすがに無責任な事はしないわ」

 

 北斗は悩んだ末に鈴仙を預かることになり、明日香(D51 241)達を呼んで鈴仙を運び出させた。

 

 しばらくして48633号機が牽引している列車がやって来て、北斗達は酔い潰れた鈴仙を連れて幻想機関区に向かった。

 

 

 




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