東方鉄道録‐幻想の地に汽笛は鳴り響く‐   作:日本武尊

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第14駅 博麗神社

 

 

 

 所変わって博麗神社。

 

 

「はぁ……」

 

 神社の境内を竹箒で掃いている博麗霊夢はため息を付く。

 

「さっきからため息ばかりですね、ご主人様」

 

 近くでデッキブラシを持って石畳の通路を磨くる~ことは顔を上げて霊夢に声を掛ける。

 

「最近忙しかったから、疲れているだけよ」

 

 霊夢は左手を右肩に置いて首を動かす。

 

「その割にはこの間の異変は解決していませんよね?」

 

「だからよ。まだ異変の解決中よ」

 

 る~ことに痛い所を突かれて霊夢は視線を逸らす。大抵ならその日に異変を解決しているのが殆どだったからだ。

 

「でも、霊夢がすぐに異変を解決出来なかったって、珍しい事もあるんだね」

 

 と、る~ことの頭の上に乗っている小さい存在が声を出す。

 

 お椀を笠の様にしてかぶっている薄紫色のショートヘアーをした少女の姿をしているが、その大きさは小さく、小人のようであった。と言うか小人そのものだ。

 

 彼女の名前は『少名(すくな)針妙丸(しんみょうまる)』。身体が小さい小人族であり、かの有名な一寸法師の末裔である。

 

 少し前に起きた輝針城異変の実行犯である(黒幕は彼女を言い包めた天邪鬼であったが)。

 

 現在は異変時に使って枯渇した打ち出の小槌の影響で身体が小さくなってしまい、打ち出の小槌の魔力が回復するまでの間霊夢が彼女を保護して、博麗神社に居候している。

 

 最初の頃はなるべく人目の付かないように家の中でジッとしていたのだが、現在ではこうして外に出ている(たまにカラスや犬に追いかけられることがしばしあるが)

 

「今回の場合は異変の首謀者が判明しなかったのよ。首謀者が分からないとどうしようもないわ」

 

「でも、関係している場所には行ったんでしょ?」

 

「えぇ行ったわよ。でも、そこにいたやつらは関連性を否定していたわ。嘘を言っているように見えなかったし」

 

「そうなんだ」

 

 針妙丸は納得したように頷く。

 

 

 

 すると遠くより汽笛の音がして、博麗神社に届く。

 

「またこの音……」

 

 霊夢は顔を上げてジトッと空を睨む。

 

「これは汽笛の音ですよ」

 

「汽笛?」

 

 る~ことがそう言うと針妙丸は首を傾げる。

 

「蒸気機関車と呼ばれる集中動力式の乗り物に取り付けられている警笛の一種です。構造は笛を少し複雑にしたもので、蒸気で音を鳴らすのでかなり音圧が高く、遠くまで音が届きます」

 

「へぇ」

 

「蒸気機関車。あぁ、そういやあの黒いのもそう言っていたわね」

 

 霊夢は機関区で見た蒸気機関車を思い出す。

 

(と言うか、何でその汽笛の音がどんどん大きくなっているのよ)

 

 霊夢は思わず首を傾げる。

 

 

「あれ? 森の方から煙が……」

 

 すると針妙丸が何かに気付いて顔を上げると、森の方から白煙が上がっている。

 

「は? 煙?」

 

 霊夢は少し驚いたように森の方を向くと、森の方から煙を見て目を見開く。

 

「な、何で火事が起きているのよ!?」

 

 彼女は慌てた様子で走り出そうとする。

 

「大丈夫ですよ、ご主人様」

 

「何が大丈夫なのよ!?」

 

 冷静に止めようとする る~ことに霊夢はクワッと迫真の表情で見る。

 

「あれは蒸気機関車の煙突から排出されている煙です。火の粉は舞っていないようなので火事になる心配は少ないですよ」

 

「だからって」

 

「と言うか、ここからでも分かるの?」

 

 博麗神社から煙が上がっている場所まで距離があるのにも関わらず、る~ことはすぐに判別していた。

 

「私は未来で作られたアンドロイドですからね。ただのメイドロボじゃありません」

 

 と、る~ことは胸を張る。

 

「ん? って事は、彼らが来たって言うの?」

 

 霊夢は煙の発生源が何かを察する。よく見ると煙は徐々にこちらに近付いていた。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 D62 20号機が牽く列車は人里付近の線路を通り、しばらく走ると博麗神社のある山の林まで来ていた。

 

 先頭の客車では新しく乗り込んだ大妖精達が窓から外の景色を見ていた。走り出して少しして目覚めたチルノは最初こそギャーギャー騒いでいたが、今では大妖精達と一緒に窓から外の景色を見て大人しくしている。

 

「……」

 

 北斗は加減弁をゆっくり閉じて速度を調整しながら、前を見る。

 

 先ほどの様に線路上に人が居るのを警戒して速度を落としているので、列車にしてはかなりゆっくりとした速度で林の中に敷かれた線路の上を走っている。

 

 

「区長。階段らしい物が見えてきました」

 

「うん」

 

 機関助士の報告を聞き北斗は加減弁を閉じると、ブレーキハンドルを持ってゆっくりとブレーキを掛けて速度を落としていく。

 

 列車はゆっくりと速度を落としつつ前へと進み、博麗神社の階段近くで停車する。

 

 ブレーキを全て掛けてから北斗は両手を組んで上へと伸ばす。

 

「それじゃ、ここを頼むぞ」

 

「了解しました」

 

 機関助士の妖精の敬礼を見てから彼は席を立って運転室の右側から降りる。

 

「着きましたね」

 

 北斗が降りた時に既に客車から降りた早苗が声を掛ける。その後ろでは明日香達がチルノ達と話している。

 

「ここがそうですか?」

 

「はい。この階段を登った先に博麗神社があります」

 

「ふむ」

 

 北斗は長い階段を見上げる。

 

 見上げても神社の姿は見えず、何とか鳥居が見えるぐらいに、長い階段があった。

 

(やっぱり神社に長い階段は付き物なのか)

 

 内心そう呟きながら、長い階段にげんなりする。

 

 

 

「全く。何かと思えば、まさかあんた達とはね」

 

 と、上から声がして見上げると、霊夢が呆れた様子で空から下りて来る。

 

「おはようございます、霊夢さん」

 

「えぇおはよう……じゃないわよ」

 

 あっけからん様に当たり前に挨拶する早苗に霊夢は思わずツッコむ。

 

「あんた達はねぇ。何でこの……えぇと」

 

「蒸気機関車ですよ、ご主人様」

 

 と、D62 20号機を見ながら名前を思い出そうとしている彼女の後ろに階段から飛び降りてきたる~ことが着地してD62 20号機を見ながら声を掛ける。彼女の頭の上では涙目になってプルプルとしがみ付いて震えている針妙丸の姿があった。

 階段の頂上から飛び降りたる~ことと頭の上にしがみ付いている針妙丸の姿を見た北斗はギョッと目を見開く。

 

「で、何の用なの?」

 

 咳払いして霊夢は北斗に顔を向ける。

 

「あっはい。幻想郷に現れた線路の調査ついでに幻想郷を見て周っているんです。それで、最初に霊夢さんに改めて挨拶に」

 

「ふーん。殊勝なことね」

 

 特にこれと言って感心しているわけではなく、ただ彼女はそう言った。

 

「まぁ良いわ。折角来たんだし、上がって来るといいわ」

 

 霊夢は彼らを手招きして階段を上っていく。

 

 北斗達もその後に付いていく。

 

 

 

 

 少し階段を登って神社に着くと、神社横にある家の縁側に座る。

 

「どうぞ」

 

「ありがとうございます」

 

 る~ことがお盆に載せた麦茶が淹れられたコップを渡されて北斗はお礼を言って受け取り、彼女は次々と麦茶を入れたコップを明日香達に渡していく。

 

「そういえば、何でチルノ達が一緒に居るの」

 

 霊夢は麦茶を一口飲むと、境内を飛び回っているチルノ達を見ながら早苗に声を掛ける。

 

「ここに来る途中ちょっとありまして。まぁ旅は道連れってやつです」

 

「ふーん」

 

 彼女は興味なさげに声を漏らす。

 

「ところで、霊夢さん」

 

「何かしら?」

 

 北斗が霊夢に声を掛けると、彼女は振り向きもせず返事を返す。

 

「あのメイドさんは一体?」

 

 彼はチルノ達にも麦茶を入れたコップを渡しているる~ことを見ながら霊夢に問い掛ける。

 

「あの子はる~ことよ。神社の掃除や家事をやっているわ」

 

「なるほど。では」

 

 と、彼はる~ことのメイド服の背中に描かれた最も物騒なマークを見て、戸惑いながらも霊夢に問い掛ける。

 

「……彼女は、一体?」

 

「あーそうね。あなたの想像通り、る~ことは人間じゃないわ。アンドロイドとか言うカラクリだったかしら」

 

「……マジですか」

 

 あまりの衝撃的な事実に北斗は驚きを隠せなかった。

 

 そりゃ目の前の少女がアンドロイドなんて、とても信じ難い。外の世界ではあそこまで精巧に作れる技術なんて無いのに。

 

「それと、彼女の頭の上に居るのは」

 

 次に北斗の視線が向けられたのは、る~ことの頭に乗っている針妙丸であった。

 

「あの子は少名針妙丸よ。まぁ今はわけあってうちに居候している小人よ」

 

「小人……」

 

 北斗は遠い目をして空を見上げる。

 

「……常識って、なんだっけ?」

 

「北斗さん。この幻想郷では常識に囚われてはいけないのですよ」

 

 と、なぜか得意げに早苗が北斗に語り掛ける。まぁ妖怪や妖精、神々が居る時点で外の世界の常識は通用しないだろう。

 

 

「ところで、北斗さん」

 

「何でしょうか?」

 

「確かうちには挨拶に来たって言ったわよね」

 

「そうですが……」

 

「なら、神社に来たのなら、やることは一つよね」

 

 と、霊夢は神社の社に視線を向ける。

 

「霊夢さん! こんな時まで何言っているんですか!」

 

 その意味を理解した早苗は抗議の声を上げる。

 

「何って、お賽銭よ、お賽銭。今なら博麗の巫女の加護が下りるわよ」

 

 彼女はあっけからん様に言う。その表情はどこか妙にゲスく見えた。

 

「お、お賽銭ですか」

 

 北斗は特に気にした様子は無く、社にある賽銭箱を見る。

 

「あの、霊夢さん」

 

「何よ?」

 

「一つお聞きしたいのですが、この幻想郷のお金って、何が使われているんですか?」

 

「何って……あぁ、そういうこと」

 

 一瞬睨んだように見えたが、霊夢は北斗が聞きたい事を察して軽く頷く。

 

「お金は外の世界の物にしてあるわ。つまり『円』ね」

 

「外の世界と同じなんですか?」

 

「そうですよ。最近外の世界から幻想入りする物が多くなったので、確か紫さんが変えたんですよね?」

 

「そうよ。相変わらず唐突だったから大変だったわよ」

 

 呆れたように霊夢はため息を付く。

 

 まぁ、八雲紫が幻想郷の貨幣を変えた理由は別にあるのだが、近くに居る者以外に知る良しは無いだろう。

 

「そうなんですか」

 

 納得したように声を漏らすと、北斗は立ち上がって社前まで歩いてポケットに仕舞っている財布を取り出す。

 

 当たり前の様に財布を持っている彼だが、これは必要な物はどこに行っても持ち歩くと言う彼の習慣から来ている。じゃないといつの間にか物が無くなっているという事が何度もあった。

 

(まぁ、これからお世話になる事だし)

 

 と、財布から五千円札を一枚取り出し、賽銭箱に入れる。

 

 すると瞬間移動かと思われるぐらいの速度で霊夢が賽銭箱の傍に来る。北斗は彼女のあまりの速さに驚いて思わず横に跳び退く。

 

「ご、五千円……!」

 

 賽銭箱に入った五千円札を見て彼女は声を震わせる。

 

「あ、あの……?」

 

 北斗は戸惑いながらも声を掛けると、霊夢は彼の両手を持つ。

 

「へ?」

 

「あんた、困った事があったらいつでもうちに来なさい! 可能な範囲なら協力してあげるわよ!」

 

 と、眼を輝かせながら彼女はそう言う。

 

「は、はぁ……」

 

 さっきまでの雰囲気はどこへやら。様変わりした霊夢に北斗は戸惑うしかなかった。

 

(いくらなんでも、チョロすぎないか?)

 

 内心呟くと、霊夢はハッとして彼の両手を離して咳払いする。

 

「ま、まぁ、とりあえず、困ったことがあったら、協力してあげるわ」 

 

 顔を赤くして改めて彼女はそっぽを向いてそう言った。

 

「わ、分かりました」

 

 彼は頷くしか出来なかった。

 

 

 




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