東方鉄道録‐幻想の地に汽笛は鳴り響く‐   作:日本武尊

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そういえば機関車トーマスの新シリーズが放送されるようですが


あれってマジ?原作崩壊ってレベルじゃないんですが……

模型期世代からすれば残念でしかないよあれは。


第149駅 相手の気持ちを理解する

 

 

 

「う、うーん……」

 

 朝日の光に照らされて、鈴仙は呻くように声を漏らし、瞼を開ける。

 

「あれ…‥ここは?」

 

 眠気によってぼやけた視界であったが、次第に視界が鮮明になっていく。

 

「……知らない天井だわ」

 

 そして視界に入った天井が見知らぬものだと分かり、彼女はボソッと呟く。

 

(うぅ……頭が痛い。それに何だか口に中が酸っぱい……)

 

 鈴仙は頭の中で銅鑼が鳴らされているような頭痛に頭を抱え、口の中に違和感を覚えながら上半身を起こす。

 

「んぇ?」

 

 と、彼女はあることに気付き、変な声を漏らす。

 

「なんで、着ている服が違うの?」

 

 彼女は着ている服が普段着ている女子高生の制服のような服ではなく、ジャージであるのに服を見ながら首を傾げる。

 

「そもそも、昨日あの後何があったんだっけ?」

 

 鈴仙は激しい頭痛がする中、必死に記憶の糸を手繰り寄せて思い出そうとする。しかし頭痛に加えてただでさえ切れかけている記憶の糸とあって中々思い出せないでいる。

 

 

 

「ん? もう起きていたか」

 

 と、部屋の扉が開けられて、水を入れたコップを載せたお盆を持っている長月(C59 127)が入って来る。

 

「あなたは……確か神霊の」

 

長月(C59 127)だ。永遠亭で会ったはずだがな」

 

「ごめんなさい。頭の中で銅鑼が鳴ってて思い出すどころじゃないの」

 

「そうか」

 

 鈴仙の頭にある兎の耳がシワシワになって頭を抱えているのを見て長月(C59 127)は苦笑いを浮かべつつ、彼女に近づいてコップを渡す。

 

「とりあえず、水を飲め。多少は楽になる」

 

「ありがとう」

 

 鈴仙はコップを受け取りながら礼を言い、水を飲む。

 

「……あの、長月(C59 127)?」

 

「なんだ?」

 

 鈴仙は少し落ち着いてから、長月(C59 127)に問い掛ける。

 

「私、昨日どうしていたの? よく覚えていないんだけど……」

 

「あぁ。酔い潰れたお前を区長と我々が博麗の巫女から預かって、ここに一晩泊まらせたんだ」

 

「そうなんだ。って、霊夢は私を北斗さんに押し付けたの」

 

 話を聞いて鈴仙は顔をしかめつつ、水を飲む。

 

「そう言ってやるな。向こうだって他に酔い潰れた者達の介護で手一杯だったんだ」

 

「それは……そうなんだろうけど」

 

「うーん」と彼女はどこか納得いかない様子で唸る。

 

「んで、その後は……」

 

「えっ? その後はって?」

 

「覚えていないのか?」

 

「いや、何にも。というか思い出せない」

 

「そうか。まぁ、覚えていない方がいいかもな」

 

「えっ」

 

 不穏な事を言われて、鈴仙は不安になる。

 

「あぁそれと、お前が来ていた服は今洗濯して干しているところだ。罐のボイラーの熱で乾燥しているから一時間以内には乾くはずだ」

 

「そ、そうなの」

 

 不安な気持ちを抱きながら、鈴仙は長月(C59 127)に問い掛ける。

 

「ね、ねぇ、昨日の夜、何があったの?」

 

「……」

 

「それに、私の服って、なんで洗うことになったの?」

 

「いや、それは……」

 

「それに、何か身体に妙に違和感があるというか、なんというか」

 

 妙に歯切れの悪い彼女に、鈴仙は疑惑の目を向ける。

 

 色々と疑問が浮かび、尚且つ自分の身体の違和感もあり、益々疑惑の念が強くなる。

 

「やっぱり……」

 

 と、何か言おうとした瞬間、彼女の脳裏にひらめきのような感覚が過る。

 

「……」

 

「どうした?」

 

 急に黙り込んだ彼女に、長月(C59 127)は声を掛けながら首を傾げる。

 

 すると鈴仙は細かく震え出して顔が徐々に赤く染まっていく。

 

長月(C59 127)! 北斗さんはどこに居るの!?」

 

 鈴仙は慌てた様子で長月(C59 127)に問い掛ける。どうやら先ほどのやり取りがきっかけで何かを思い出したようである。

 

「く、区長か? 区長ならこの階にある執務室に」

 

「何処にあるの!?」

 

「部屋を出て右に進んでいけば、奥の部屋がそこだが」

 

 と、鈴仙は彼女から場所を聞くとすぐにベッドから降りて長月(C59 127)の制止の声を聴かずに走り出して部屋を出る。

 

 そして執務室の前までくると、勢いよく扉を開ける。  

 

「北斗さん!」

 

「うぉっ!? びっくりした!?」

 

 大きな音と共に開かれて北斗は驚いて扉を見る。

 

 そこには走ったことで余計に頭痛に悩ませて息を荒げている鈴仙の姿があった。

 

「れ、鈴仙さん。お、おはようございます」

 

「……」

 

 北斗が戸惑った様子で挨拶するも、鈴仙はゆっくりと北斗に近づく。

 

「北斗さん」

 

「は、はい」

 

「昨日の事なんですが……」

 

「あっはい」

 

「その、ごめんなさい。何だが、迷惑かけたみたいで」

 

「あぁ、良いんですよ。放っておけなかったので」

 

「そうですか……ありがとうございます」

 

 鈴仙はお礼を言うと、赤くした顔で北斗を見る。

 

「それで」

 

「それで?」

 

「……見ましたか?」

 

「えっ?」

 

 鈴仙の質問に、北斗は思わず声を漏らす。

 

「で、ですから……見ましたよね? 私の……」

 

「……」

 

 顔を赤くしながらも鈴仙はそう問いかけると、質問の意図を察して、北斗は間を置いてから頷く。

 

「い、言っておきますけど! あれは酔っぱらっていただけで、そういう趣味はありませんからね! ホント、酔っていただけですから!」

 

「は、はい」

 

 顔を赤くして念を押す彼女に、北斗は押され気味である。

 

「そ、それに……あれは……」

 

「……」

 

 と、彼女は言葉を詰まらせて俯く。恐らく自身の身体にある傷跡の事のだろう。

 

「自分は何も問いませんよ。鈴仙さんにも、色々と事情があるでしょうから」

 

「……」

 

「それより、体調面は大丈夫でしょうか?」

 

「えっ? あぁ……頭痛が酷いかも」

 

 と、北斗に指摘された瞬間、鈴仙は頭痛を認識して頭に手を当てて、耳がシワシワに萎れる。

 

 まぁ頭痛がしている中で慌てて来たのだから、痛みが一層酷くなるのも仕方ない。

 

「水……持って来ましょうか?」

 

「は、はい。お願いしま―――」

 

 と、鈴仙は言っている途中で黙り込んでしまう。

 

「……鈴仙さん?」

 

 急に黙り込む彼女に、北斗は首を傾げる。

 

 すると鈴仙の赤くなっていた顔がどんどん青くなっていく。

 

 

 彼女は妖怪なので、嗅覚は人間よりも優れている。

 

 そんな彼女の嗅覚が、部屋に僅かに残る酸っぱくアルコール臭のある臭いを捉える。

 

 そしてその臭いが、彼女の途切れていた記憶を呼び覚ます。

 

 

 黒 歴 史 確 定 の 記 憶 を ……

 

 

「すみませんすみませんすみませんすみませんすみませんすみませんすみませんすみませんすみませんすみませんすみません」

 

 鈴仙は土下座の様に、正座して頭を下げて謝罪の言葉を述べている。

 

「あの、鈴仙さん。俺は気にしていませんので」

 

「私が気にするんです。よりにもよってあんな……あんな事を」

 

 北斗は戸惑いながらも声を掛けるが、彼女は頭を下げたまま震えた声を漏らす。

 

 

 さて、昨晩の状況を思い出してみよう。

 

 鈴仙は北斗を壁ドンのように壁に両手を付いて彼を逃がさないようにしていた。

 

 そこへ彼女にゲボの予兆が来てしまったわけである。その上、顔を下ではなく、北斗と面向かっての状態でだ。

 

 まぁ何が言いたいかというと……北斗はもろゲボ被害を被ってしまったわけである。

 

 

 鈴仙からすれば人前で服を脱ぐ痴女染みた行為な上に、北斗にゲボしてしまったのだ。もはや恥ずかしさと申し訳なさで死にたいレベルだろう。

 

 

「ま、まぁ、生きていたら色々とありますし……」

 

「そういう問題じゃないんですぅ……」

 

 北斗がどれだけ慰めようとしても鈴仙は頭を上げようとせず、ただただ謝罪の言葉を述べるだけだった。

 

 

 


 

 

 

「落ち着きましたか?」

 

「あ、はい……」

 

 水の入ったコップを手に、ソファーに座っている鈴仙は北斗に問われると、静かに頷く。

 

 あの後しばらく土下座した状態で謝罪の言葉を述べていたが、ようやく気持ちが落ち着いてか、ソファーに座って北斗が持ってきた水を飲んでいた。

 

「その、すみませんでした。大きく取り乱して……」

 

「まぁ、先ほども言いましたが、生きていたら色々とあります」

 

「それは……そうでしょうけど……北斗さんは怒らないんですか?」

 

「思う所が無いとは言えませんが、鈴仙さんは悪気があってやったわけじゃないので、もう気にしていません」

 

「そう、ですか……」

 

 あんなことがあったのに、怒らない北斗の気持ちに、鈴仙は申し訳なさげに俯く。

 

「服が乾けば、迷いの竹林前まで送り届けます。それまでもうしばらく待って居てください」

 

「分かりました」

 

 鈴仙は返事をすると、水を飲んでコップをテーブルに置く。

 

「……」

 

「……」

 

 それからしばらく沈黙が続く。

 

「……あ、あの、北斗さん」

 

「何でしょうか?」

 

「その……北斗さんは気にしないんですか?」

 

「……」

 

 北斗は鈴仙が何が言いたいのか察してか、間を置いて口を開く。

 

「……鈴仙さんの事情も分からずにズカズカと聞く性分ではないので」

 

「それは……」

 

「それに、以前鈴仙さんが発作を起こして、永琳さんから精神的から来る発作だと聞いていますので、その傷跡から関連しているのは想像つきます」

 

「……」

 

「精神的から来るようなら、無理に聞くわけにいきません」

 

「……」

 

 北斗の言葉に、鈴仙は何も言えなかった。

 

「……仮にも」

 

「ん?」

 

「仮にも、北斗さんは……私が虐待を受けていたとしたら……同情しますか」

 

「鈴仙さん?」

 

 彼女の質問の意図が掴めず、北斗は怪訝な表情を浮かべる。

 

「北斗さんだって……身体にある傷跡から何があったかは、想像できます」

 

「……」

 

「なら、私がどんな目に遭ったかは想像容易いはずですよね」

 

「……」

 

「だから、私に対して同情の念が浮かぶのではないですか?」

 

 鈴仙はどこか諦めたような様子で、北斗を見る。同情を誘っているというより、「あなたもそう思っているんでしょ?」という呆れが含まれているようである。

 

「……」

 

 そんな異様な様子の彼女の姿に北斗は何も言わず、間を置いて口を開く。

 

「確かに……あなたの身に何があったかは、あれを見れば想像つきます」

 

「なら……」

 

「でも、あくまでも想像(・・)が付くだけで、理解(・・)出来ているわけではありません」

 

「……」

 

 予想外の返答に、鈴仙は何も言えず、怪訝な表情を浮かべる。

 

「俺は鈴仙さんではありません。表面上の事は分かっても、その心の奥底にある気持ちや思い、考えまでは分かりません。仮にそれらを言葉で説明したとしても、真に理解できるわけではありません」

 

「……」

 

「個人的な意見ですが、相手の気持ちをちゃんと理解しないで慰めの言葉を掛けるのは、むしろ相手を傷つけると思っています」

 

「ちゃんと理解していないで、ですか」

 

 鈴仙は北斗の言葉の一部を口にして、脳裏に昔の事が過る。

 

「人は一人一人感じ方や考えが違うので、自分の感覚で接すれば、逆に相手を追い込みかねません」

 

「……だから、余計な言葉は掛けない、と?」

 

「もちろん必要なら言葉を掛けますが、必要で無いなら掛けません。それで相手を傷つけることが無いのなら、尚更です」

 

「……」

 

「鈴仙さんの反応から、以前にもそんな経験があったんじゃないですか?」

 

「……」

 

 北斗の指摘に、鈴仙は何も言えなかった。彼の言う通り、似たような経験があったからだ。

 

「でも……」

 

「?」

 

「もしも困ったことがあったら、自分を頼ってください。困った時はお互い様です」

 

「北斗さん……」

 

「と言っても、自分に出来る事はあまり無いんですが」

 

 と、北斗は「ハハハ」と乾いた笑い声を漏らす。

 

「……」

 

 頼りある事を言って、直後に頼りない様子に、鈴仙は微笑みを浮かべる。

 

 

 


 

 

 

 その後鈴仙の服が乾き、彼女を送る列車の準備中に北斗は電話で人里の慧音に連絡を入れ、妹紅に永遠亭へと鈴仙を迷いの竹林前まで送ると伝言をお願いして欲しいと伝える。

 

 ちなみに電話に応対していた慧音だったが、どこか苦しげな声だったとかなんとか。

 

 そして着替え終えた鈴仙は準備した列車に乗って、迷いの竹林前まで送ってもらうのだった。

 

 

 

「……」

 

 C50 58号機が牽く回送列車の客車に乗る鈴仙は、窓から外の景色を見つめている。

 

「……北斗さん」

 

 と、外を見つめながら鈴仙は北斗の名前を呟く。

 

「……」

 

 ふと、彼との会話が脳裏に過り、彼女は目を細める。

 

(ちゃんと理解しないで、か)

 

 内心呟き、今日に至るまでのことを思い出す。

 

(師匠も、北斗さんと同じ考えだったのかな。あまり私の事を聞かなかったのは……)

 

 彼女は内心呟いて、深くゆっくりと息を吐く。どうやら何か納得したような様子である。

 

「……」

 

 鈴仙は顔を上げて空を見つめる。

 

「北斗さん……」

 

 再び彼女は北斗の名前を小さく口にする。

 

「……」

 

 そして彼女の中で、何とも言えない、どう表現すればいいか分からない感情が湧き上がっていく。それが何なのかは、今の彼女には分からない。いや、何となく察しがついているのかもしれない。

 

 結局どうなのかは、彼女のみ知る事である。

 

 

 C50 58号機の五音室の汽笛が鳴らされて、汽笛の音色が幻想郷に響く中、列車は走って行く。

 

 

 

 

 

 

 




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