しかも移設先は圧縮空気による動態保存も検討しているとかなんとか。大分ボロボロだし、部品も欠損しているから、結構難しいのではないかと思うが果たして……
時系列は遡り、宴会前日辺り。場所は幻想郷とは反対側にある魔界。
「お久しぶりです、アリス様。お元気そうで何よりです」
「夢子も久しぶり」
魔界にある神綺の城の広間で、アリスは夢子と従者たちから出迎えを受ける。
「お母様は元気?」
「はい。神綺様は変わらず研究に没頭し、アリス様に会いたがっていました」
「そう」
アリスより荷物が入った鞄を受け取りつつ夢子はそう答えると、母親の様子を聞いて彼女は安堵の息を吐く。
「そういえば、お母様は?」
アリスは神綺の姿が無いことを夢子に問い掛ける。
彼女の性格を考えれば、真っ先にすっ飛んで来てアリスを出迎えるであろうからだ。しかしそんな神綺の姿は出迎えの中にいない。
「神綺様でしたら、集会の方へ赴かれています」
「集会?」
「はい。幻想郷への観光についての集会です。何でも観光へのマンネリ化が起きているそうで」
「そう……」
夢子より神綺がどこに居るかを知り、アリスは声を漏らす。
(そういえば、霊夢や魔理沙達と出会うきっかけだったわね)
彼女は懐かしそうに、その時のことを思い出す。
だいぶ前の話だが、魔界では幻想郷への観光事業を展開しようと、観光客を幻想郷に送っていた。
しかし幻想郷側からすれば何の事前協議も無く、突然観光客が来たことでいざこざが起き、異変として霊夢と魔理沙、当時彼女達と行動を共にしていた魅魔がたまたま見かけた幽香を連れて魔界へと向かった。
その際に神綺と夢子、まだ幼かったアリスと弾幕勝負を行った。
弾幕勝負の結果、霊夢達の勝利となり、協議の結果幻想郷への観光は間隔を空けて尚且つ少数でと条件を決めて和解した。
しかし最近ではその観光は低迷気味であり、幻想郷へ向かう観光客は少なくなっているという。
(まぁ、その際あの悪霊にこき使われたけど)
アリスは思い出したくもないと言わんばかりに口をへの字に曲げる。
どうやら幼き頃の彼女には、トラウマを受け付けるような出来事があったようである。
(でも、今の幻想郷なら飽きることは無いでしょうけど)
と、アリスは幻想郷を走る蒸気機関車達を思い浮かべる。
今の幻想郷ならば、観光客たちを飽きさせることは無いだろう。
「ん?」
と、夢子が顔を上げると、フクロウのような鳥が城の入り口から入って来る。
彼女は右手を上に上げると、鳥はその手に止まる。その鳥の嘴には、一通の手紙が挟まれている。
「神綺様からですね」
「……」
夢子は手紙を手にすると、鳥は手紙を離して再び飛び立つ。彼女は手紙を広げて、アリスは静かに待つ。
「……集会が終わって、今城へと向かっているようです」
「そう。丁度良いタイミングだったのね」
手紙の内容を聞き、アリスは安堵の息を吐く。
「それと、神綺様から伝言ですが、地下の研究室で待っていて欲しいとのことです」
「地下の研究室で?」
「なんでも、大事なお話があるとのことです」
「大事な話……呼び出した理由はそれなのね」
アリスは納得した様子で、スカートのポケットより神綺の手紙を取り出す。
「では、荷物はアリス様のお部屋に運んでおきます」
「お願いね」
アリスは自身の荷物を夢子に任せて、彼女は地下にある研究室へと向かう。
アリスは地下にある研究室に通じている階段を降りていく。
壁には魔法の光で照らす照明があるが、それでも階段は薄暗く、どこか不気味である。
(わざわざ実家に呼び出すほどの大事な話。一体どんな内容なのかしら)
彼女は階段を降りながら神綺が呼び出すほどの話がどんなものかと、思案する。
修行の身であるアリスは、春や夏、冬の一定の期間以外で実家に帰る事は無い。こうして一定の期間以外で実家に戻る時は何かしらの事情があって呼び出されるぐらいだ。
まぁ娘が大好きな神綺は何かしらの理由をでっち上げて彼女を呼び出そうとしそうだが、そこはちゃんと分別出来ているので、ちゃんとした理由で呼び出される。
なので、今回の呼び出しも、手紙のやり取りでは出来ない程に大事な話なのだろう。
(お母様が変なこと考えていなければいいんだけど……)
一抹の不安を抱きながらも、彼女は階段の一番下まで降り終え、扉の前で止まる。
一見すればただの扉の様に見えるが、ドアノブの上には限られた者しか入れないように施錠魔法の術式が施されている。
アリスは施錠魔法の術式に手を置くと、扉の鍵が開いて彼女は扉を開けて中に入る。
部屋に入ると、壁一列に液体で満たされた大きなカプセルが並べられており、その中には赤ん坊が浮かんだ状態で眠っている。
(相変わらずお母様はホムンクルスの研究をしているのね)
並べられているカプセルを横目に彼女は部屋を進む。
ホムンクルスとは、簡単に言えば魔術によって人為的に作られた人間であり、神綺はそのホムンクルスに関する研究をしているとのこと。
ホムンクルスは成長が早く、数を揃えやすいとあって、様々な用途に使うために生み出されている。神綺の城の従者達も、夢子以外はホムンクルスで構成されている。
しかし成長が早いということは、当然細胞の劣化が早く、ホムンクルスは寿命が短いのが欠点である。
現在神綺はその短いホムンクルスの寿命を伸ばすための研究をしているとのこと。
(でも、なんでわざわざ研究室で話なんだろう。話すだけならお母様の部屋でも良い気がするけど)
アリスは怪訝な表情を浮かべて、内心呟く。
よほど他に聞かれるわけにもいかない話なのか。それともただ単に話す場所が偶々ここだったのか。
どちらにせよ、今回の話はそれだけ重要なものだろう。
「……」
彼女は色々と考えが頭の中に浮かぶ中、研究室の奥へと向かう。
「っ!」
そして研究室の奥へと向かうと、アリスは目を見開いて驚き、すぐに駈け寄る。
「これって……蒸気機関車?」
アリスは地下室に鎮座している蒸気機関車……C62 48号機と、C62 2号機、C62 3号機の三輌の蒸気機関車を驚愕に満ちた目で見ている。
「どうしてお母様の地下の研究室に蒸気機関車があるの……」
幻想郷で見た蒸気機関車よりも大きなC62形蒸気機関車を見ながら、なぜ母親の研究室に蒸気機関車があるのかという状況に戸惑いを隠せなかった。
これまで幻想郷の各地で蒸気機関車が出現しているので、魔界にも蒸気機関車が現れても不思議ではない。
しかしアリスには、ここに蒸気機関車があるのに違和感を覚えていた。
うまく言葉に表せないが、何かが違うと、彼女は感じていた。
(もしかして、話ってこの蒸気機関車のことかしら……)
神綺の話がこの蒸気機関車に関するものかと思っていると、ふとアリスはあるものを見つける。
「あれって……」
アリスはC62 48号機の近くにあるものを見つけて、歩み寄る。
「ホムンクルスの培養カプセル? でもなんでこんな所に?」
それはホムンクルスの生成から保管まで行う培養カプセルであり、一纏めにしてあったはずのカプセルがなぜここに一つだけ置かれているのか。
(こんな所に一つだけ置いてあるのも妙ね。何か特別なものなのかしら)
彼女はそんな事を思いながらカプセルの正面へと移動する。
「っ!?」
しかしカプセルの正面へと移動したアリスは、目を見開いて驚愕する。
「な、な、な……なんで」
彼女は驚きのあまり数歩後ろに下がり、カプセルの中にあるものを見つめる。
カプセルの中には、彼女からすればあり得ないものが入っていたのだ。
「アリスちゃん……」
と、後ろから声を掛けられてアリスが振り返ると、そこには夢子を連れた神綺の姿がある。
「お母様……」
彼女は戸惑った様子で声を漏らし、すぐに気持ちを整えて僅かに怒りを滲みだした表情を浮かべる。
「お母様。どういうことか説明してもらえないかしら」
「……」
「どうして――――
――――どうして
「……」
アリスはカプセルの中で眠っているものに対する説明を、神綺に求めた。
なぜ彼女がここまで取り乱しているのか……
それはカプセルの中に眠って居る者……
それが幻想郷に居るはずの霧島北斗であるからなのだ。
ホムンクルスの培養カプセルの中で眠っている北斗?の存在。どう見てもただ事ではない。
「アリスちゃん。その事について話があるの。今回あなたを呼び出したのはそれよ」
「話?」
「えぇ。アリスちゃんに、協力して欲しいことがあるの」
「……」
果たして神綺の言うアリスに協力して欲しいこととは……
そして培養カプセルの中に眠るもう一人の霧島北斗の正体とは……
そんな中、C62 48号機の
時系列は戻り、場所は妖怪の山にある河童の里。
相変わらず昔ながらの景色が広がる幻想郷とは思えない、現代的な機械が多い河童の里にある河童達の工場。
「ここまで来れば、完成は間近ね」
「あぁ。そうだね」
工場内で、にとりと眼鏡を掛けた河童の少女がある物を前にして言葉を交わしている。
二人の前には、河童たちが作り上げた第一次形のC57形蒸気機関車が鎮座しており、他の河童達が細かい部品を機関車の各部に取り付けている。
長野式集煙装置が取り付けられたその姿は、つばの広い帽子を被った貴婦人のようである。
「というか、にとり大丈夫なの?」
「うん、まぁ大丈夫じゃないかな。完全な二日酔いだ」
と、同僚の質問ににとりは若干悪い顔色で答える。
先日の宴会で萃香から大量の酒を飲まされたことで、完全に二日酔いになっていた。
しかしそれほど酷いものではなかったので、にとりは工場に出ていたのだが、少しずつ症状が重くなっていたのだ。
「まぁ、近い内に火入れを行って試験を行うよ。それで良好な成績が出れば、完成だよ」
「なら、いよいよ?」
「あぁ。北斗の依頼を始めるよ。外の世界では作られなかった幻の蒸気機関車、C63形蒸気機関車の製造をね」
にとりはC57形蒸気機関車を見ながら、少し興奮気味で答える。
河童たちは大型の機関車の製造ノウハウを取得する目的でC57形蒸気機関車の製造を行い、その一環で北斗からの依頼でC63形蒸気機関車の製造を行うのだ。
外の世界でも作られなかった蒸気機関車を幻想郷で作るというのは、物作りが好きな河童達の心を揺さぶっていたようである。
「まぁ、その前にこのC57形を完成させるよ。完成後は幻想機関区で使ってもらうんだから。不良品なんかを渡したら河童の信用に関わるからね」
と、にとりは深呼吸をして気持ちを整えると、眼鏡を掛けた河童の少女と共にC57形に近づいて行く。
このC57形蒸気機関車は完成後、最初に製造したC11 382号機とC12 294号機のように幻想機関区で使ってもらう予定である。
だからこそ、にとり達は最後まで手を抜くことは無い。
そんな中、物陰から一つの視線がC57形蒸気機関車を見ている。
(いよいよ、ってところかね)
その者は完成間近のC57形蒸気機関車を見ると、掌より禍々しい光を放つ光球を出す。
(楽しみさね。どんなことになるのかが)
どこか楽し気に内心呟くと、その者は姿を消す。
次章『無限の可能性と始原にして最後の貴婦人編』
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