東方鉄道録‐幻想の地に汽笛は鳴り響く‐   作:日本武尊

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第152駅 疑問は確信へ

 

 

 

 夏の日差しが照り付ける幻想郷。

 

 本格的な夏を迎え、幻想郷は暑い日々が続き、どこに居ても蝉の鳴き声が響いている。

 

 そんな中、博麗神社へと伸びる線路に、汽笛の音と共に一編成の列車が走り抜ける。

 

 

 C58形蒸気機関車のトップナンバー機であるC58 1号機を先頭にスハフ12一輌、オハ12三輌、オハフ13一輌の計五輌の12系客車を牽引する博麗神社行きの列車が田植えを終えて水が張られた田んぼの傍を走り抜ける。

 

 白いラインが入った青い車体が特徴的な12系客車を牽くその姿は、かつて山口線で走っていた初期の頃のSLやまぐち号の姿を彷彿とさせる。まぁ(ヘッドマーク)無しなのでどちらかと言えば試運転時の姿に近いが。

 

 幻想機関区にある軽油の量に限りがあるが、それでも12系客車や14系客車、これから入るであろう50系客車と20系客車といった発電用ディーゼルエンジンを持つ客車の運用ノウハウ取得の為、現在12系客車と14系客車は期間限定で列車運用に入っている。

 この前では、スハフ14一輌、オハ14一輌、オハフ15一輌の計三輌の14系客車に加え、ヨ8000形一輌を牽引するC11 260号機というどことなく既視感のある編成の列車が目撃されている。

 

 C58 1号機は特徴的な大きめの集煙装置より燃焼がうまくいっている証である薄い煙を吐き出し、沿線沿いにて手を振っている農家の人達に向けて汽笛を鳴らして走り抜ける。

 そして当然と言わんばかりに、その中には変装した天狗達が紛れており、カメラを手にその姿を写真に収めている。

 

 

 


 

 

 

 所変わって人里

 

 

 

「では、その日にて見学会を行いますので、日程の調整を頼みます」

 

「分かった。お互い決まったら連絡し合おう」

 

 寺子屋より北斗と早苗が出てくると、慧音が二人の見送りに出てきて、会話を挟む。

 

 さっきまで北斗は早苗と共に慧音と幻想機関区の見学会についての話し合いをしていて、機関区もある程度余裕が生まれているので、そろそろ見学会を開こうと考えていた。

 寺子屋もそろそろ夏季の長期休暇に入るので、機会としてはちょうど良いタイミングであった。

 

 なので、今回見学会を行う日を決めて、互いに予定を調整することで決まった。

 

 

「それにしても、あれだけ子供達から人気があったんだな」

 

「そうですね」

 

 人里で歩く北斗と早苗の二人は会話を交わしながら、寺子屋での話し合いを思い出す。

 

 ある程度話し合いに区切りをつけて休憩している時に、多くの生徒達から話を聞かれて、北斗はそれに答えていた。生徒達の蒸気機関車人気は北斗の予想よりも高く、生徒達から好きな蒸気機関車を聞かされたり、次の列車牽引の蒸気機関車の事を聞かれたりした。

 何より大きくなったら蒸気機関車の機関士になるという子が多かった。

 

 ちなみに生徒たちの間で人気が高かったのは、意外にも8620形蒸気機関車やC12形蒸気機関車であったという。逆に人気が無いのはD51形蒸気機関車や9600形蒸気機関車だとかなんとか。

 

 

「嬉しそうですね」

 

「そりゃ、蒸気機関車に興味を持ってくれる人が多くなってくれるのは嬉しいですからね。蒸気機関車が好きな者からすれば、同じ物を好きになってくれるのですから」

 

「ふふっ、そうですね」

 

 どこか嬉しそうな北斗の姿に、早苗は笑みを浮かべる。

 

「それで、見学会はやはり以前言っていたような内容で?」

 

「えぇ。構内や工場、機関庫の見学や蒸気機関車の体験運転。短距離の特別列車牽引とか。後はちょっとした出し物とかですね」

 

「そうですか。きっと子供達も喜びますね」

 

「はい」

 

 二人は話しながら人里の十字路へと出て、向き合う。

 

「では、私はこれで」

 

「活動頑張ってくださいね」

 

「はい」

 

 早苗は信仰活動の為、北斗と別れることとなっており、彼に頭を下げて踵を返し、歩いて行く。

 

 北斗は彼女を見送った後、早苗とは別方向へと歩いて行く。

 

 

 

(さてと、準備が終わるまでどこで暇を潰すか)

 

 北斗は人里を歩きながら内心呟く。

 

 現在人里の操車場で機関区から乗って来たD62 20号機の石炭、水の補給と整備が行われており、終わるまでにはまだ時間が掛かる。それに加え博麗神社行きの列車が来るまで待っていなければならないので、それまで時間を潰す必要がある。

 

 しかし相変わらず蒸気機関車をマイカーの様に使っている北斗である。

 

(小鈴さん所の貸本屋で時間を潰すか)

 

 北斗は貸本屋を思い出して、そこで時間を潰そうと考え、貸本屋がある方角に身体を向ける。

 

 

「北斗さん?」

 

 と、声を掛けられて声がした方を見ると、そこには編み笠を被り、背中に葛籠を背負う薬師姿の鈴仙が居た。

 

「鈴仙さん。今日も薬の配達ですか?」

 

「はい。先ほど最後の薬の配達を終えたので、今から帰る所なんです」

 

「そうですか」

 

「北斗さんはどうして人里に?」

 

「先ほど慧音さんに会っていまして。近日中に幻想機関区の見学会を行う為の話し合いをしていまして」

 

「幻想機関区の見学会ですか」

 

「寺子屋の子供達が蒸気機関車に興味があるとのことなので」

 

「なるほど」

 

 北斗より話を聞いて、鈴仙は考えるような仕草を見せて口を開く。

 

「それって、私や他の人達も参加出来るのでしょうか?」

 

「いえ、今回はあくまでも寺子屋の子供達と寺子屋関係者を招待するので。しばらくすれば一般公開も予定していますので、参加できるならその際になりますね」

 

「そうですか」

 

「鈴仙さんも参加したかったのですか?」

 

「い、いえ。そういうわけじゃなくて、ただ参加できるのかなぁって」

 

 どこか残念そうな鈴仙に、北斗は問い掛けるも、彼女は慌てて言葉を紡ぐ。

 

「すみません。今回ばかりは諦めてください。とはいっても、一般公開時も混乱を避ける為に一定の人数を抽選で選ばせてもらうことになりますので、必ず参加できるわけではありませんが」

 

「……」

 

 北斗の言葉を聞いて、鈴仙は少し俯いて編み笠で顔が隠れる。

 

(別に、興味ないはずなのに……どうしてこんなに残念な気分なの)

 

 彼女は自分の中で、どこか残念な気持ちに戸惑い気味になっている。

 

 以前までなら別にどうともなく、むしろ興味なんて無かったはず。しかし今は参加できなかったことが残念で仕方が無い。

 

 

 それは果たしてどんな理由で残念なのか?

 

 

 貴重な機会に参加できなかったことに残念なのか。

 

 

 それとも、北斗の近くに居られないことが残念なのか。

 

 

 

「―――さん。鈴仙さん」

 

「っ!」

 

 北斗の呼ぶ声によって、鈴仙はハッと意識を戻す。その時割と近い距離に北斗の顔があったので、彼女は驚いて少し顔を赤くして後ずさる。

 

「ど、どうしましたか?」

 

「あっ、いえ。急に黙り込んだので、どうしたんだろうって」

 

「そ、そうですか。ちょっと深く考えごとをしていたので」

 

「そうですか」

 

 鈴仙は動揺を隠せないまま、北斗の質問に答える。

 

「そ、それで、何か?」

 

「はい。今から甘味処に行こうと思っていますので、付いて来てもらえますか?」

 

「甘味処に? 一体なぜ?」

 

 鈴仙は怪訝な表情を浮かべて問い掛ける。

 

「まだ治療のお礼をしていなかったので、甘味処の団子を永遠亭の皆さんに送りたくて」

 

「そんな。別にお礼なんていいのに」

 

「そうはいきません。永遠亭の皆さんが居たおかげで、自分はこうして生きているんですから。何もお礼をしないわけにもいきません」

 

「それは……」

 

 北斗の言葉に、鈴仙はそれ以上は言えなかった。命を救われた、そのお礼だと言われると、何も言い返せない。

 

「……分かりました。その好意を受け入れます。ここまで言われて好意を無碍にするのは逆に失礼ですから」

 

「ありがとうございます」

 

 北斗は頭を下げてお礼を言うと、鈴仙を連れて甘味処へ向かう。

 

 

「あの、鈴仙さん」

 

「はい?」

 

 甘味処へ向かう道中、北斗は鈴仙に声を掛ける。

 

「一つ、お聞きしていいでしょうか?」

 

「何でしょうか?」

 

「はい。本当はあまり聞くべきでは無いんですが、鈴仙さんが月の都に居たと聞きましたので」

 

「……」

 

 北斗の言葉に、鈴仙は顔を赤くしながら苦虫を噛んだような表情を浮かべる。どうやら鈴仙的には、あの時の事は半ば恥ずかしいトラウマ物になっているようである。

 

 それと同時に良い思い出の無い月の都の事となると、複雑な気持ちになるのも仕方ない。

 

「……大丈夫ですので、どうぞ」

 

 鈴仙は気持ちを落ち着けて、北斗に質問を許した。

 

「分かりました。月の都で、輝月という名前の月の民をご存知でしょうか?」

 

「輝月?」

 

 北斗から輝月という月の民が居るかと聞かれ、鈴仙は首を傾げる。

 

 そもそもなぜ彼が月の民にその名前の人が居るのかという質問をしているのか自体、不思議でならなかったが、今はその疑問を端に追いやる。

 

 とはいったものも、聞き覚えの無い名前だったので、彼の期待には答えられなかった。

 

「すみません。輝月っていう名前の方は私は知らないですね」

 

「そうですか」

 

 残念そうな様子の北斗に、鈴仙は何とかしてやりたくて、案を出す。

 

「でも、師匠ならもしかしたら何か知っているかもしれません」

 

「永琳さんが?」

 

「はい。あんまり大きな声で言えないんですが、師匠は月の都で高い地位にありましたので、顔が広かったんです」

 

「そうなんですか」

 

 北斗は永琳の顔を思い出す。どことなく浮世離れというか、何か普通ではないような雰囲気であったので、鈴仙の言葉に納得出来た。

 

「なので、私が師匠に聞いてみましょうか?」

 

「ぜひ、お聞きできるなら」

 

「分かりました。帰ったら師匠に聞いてみます。でも、期待している答えが返って来るかどうかは保証できませんが」

 

「構いません。元よりすぐに答えを得られるような事じゃないので」

 

「……」

 

 鈴仙はそこまでして知りたい輝月という名前の月の民が彼にとって何なのか。色々と疑問は浮かぶものも、彼女はその疑問を押し殺して北斗といっしょに甘味処への歩みを進める。

 

 


 

 

「ありがとうございます!」

 

 と、店員に見送られながら両手に風呂敷を持って北斗が店から出て来た。

 

「どうぞ」

 

「ありがとうございます。師匠と姫様が喜びます」

 

 風呂敷に包まれた団子を片方北斗が鈴仙に差し出し、彼女はそう言って受け取る。その際風呂敷から甘い香りがしてか、鈴仙の顔が一瞬綻ぶ。

 

「もう片方は?」

 

「機関区のみんなのお土産にですね。その分結構な量になりましたが」

 

「そうですか。でも、これだけの量だったら、結構お金が掛かったんじゃ?」

 

「あまりお金は使っていないので、結構あるんですよ」

 

「な、なるほど」

 

 鈴仙は理解したものも、それで良いのだろうか、と同時に思うのだった。

 

「なるべく色んな種類を多めに買っておきましたが、大丈夫でしょうか?」

 

「大丈夫ですよ。姫様ここの団子が好きなので、多めでも困りませんし、私も好きなんですよ」

 

「そうですか」

 

「それに、多めならてゐに取られてもある程度確保しておけば問題ありませんし」

 

「あっ、そうですか」

 

 彼女の言葉で何かを察したのか、北斗は苦笑いを浮かべる。

 

「それじゃ、私はこれで。師匠にはちゃんと聞いておきますから」

 

「お願いします。永琳さんと輝夜さん。それとてゐさんにお礼を伝えてください」

 

「はい!」

 

 鈴仙は頭を下げて踵を返すと、北斗の元を離れて行く。

 

「さてと、そろそろ準備も終わっているし、列車も戻ってくる頃か」

 

 北斗は上着のポケットから懐中時計を取り出し、時刻を確認する。

 

 永遠亭のお礼の分を含めて、かなりの量の団子になったので、当然全ての団子が出来るまで、時間はそれなりに掛かっている。なので、機関車の出発準備も整っている頃であるし、博麗神社に向かった列車も帰ってくる頃だ。

 

 懐中時計をポケットに戻し、北斗は操車場へと向かう。

 

 

 

 人里の外れにある駅舎。その脇に転車台や石炭、水の補給設備のある操車場がある。

 

 そこでD62 20号機が転車台で幻想機関区方向に向けられ、水と石炭の補給を終えて出発準備が整えられている。

 

「列車はまだ来ていないのか?」

 

「30分前には連絡がありましたので、もうすぐだと思います」

 

「そうか」

 

 作業員の妖精より話を聞き、北斗はD62 20号機の運転室(キャブ)に乗り込む。

 

 運転室(キャブ)に入って風呂敷をなるべくボイラーの熱から遠ざけるように置いて、機関士席に座る。

 

 ブレーキハンドルを回してブレーキ弁の調子を確認し、肘掛けに肘を置いて窓から頭を出し、前を見つめる。

 

 

 

 それから少し待つと、遠くから汽笛の音が響いて来る。

 

 北斗は機関士席を立って運転室(キャブ)の反対側へ向かって外を見ると、博麗神社がある方向の空に薄っすらと煙が上がっている。

 

 やがてC58 1号機が牽引する列車が駅へと入って来て、ゆっくりと停車位置まで進んで停車する。

 

 12系客車の扉が開かれ、博麗神社の参拝客が次々と駅のホームへと降りていく。乗客が降りている間に作業員の妖精が機関車と客車の連結を解除している。

 

 意外と思われるかもしれないが、博麗神社へ参拝する人は結構多いのである。毎週一便しか列車は無いものも、その一便で多くの参拝客が乗り込んで、博麗神社に参拝している。

 

 これまで博麗神社へ行きたくても行けなかった状態にあった。鉄道が開業して安全で早く行けるようになった現在では、これまで行けなかった分を行くかのように、毎週一便しかない列車に多くの参拝客が乗り込んでいる。

 それだけでも霊夢への人気の高さが伺える。

 

 だが、それは守矢神社にも言える事で、こちらも分社のみならず、毎週一便の列車で本社へ参拝客が訪れている。

 

 

 閑話休題(それはともかく)

 

 

 乗客が駅のホームとホームの間にある渡り通路を通って行き、最後の乗客が渡り終えたところで、C58 1号機はブレーキを解いて汽笛を短く鳴らし、連結を解除した12系客車から離れて進んでいき、操車場へと入る分岐点まで進んで停車する。

 

 転轍機の操作を行う作業員の妖精がポイントを切り替え、線路を本線から操車場へと繋げて作業員の妖精がホイッスルを吹きながら緑旗を揚げる。

 

 旗を確認した津和野(C58 1)はブレーキを解いて汽笛を短く鳴らし、機関車を後進させて操車場へと入れる。

 

 C58 1号機はゆっくりと操車場へと入り、D62 20号機が居る線路の隣の線路へと入り、給水塔の傍まで進んで停車する。

 

 その後作業員の妖精がポイントを切り替え、ホイッスルを吹きながら緑旗を揚げる。

 

 旗を確認した北斗はブレーキを解いて汽笛を鳴らし、加減弁ハンドルを引いてD62 20号機を前進させる。

 

 灰色の煙を吐き出して力強いブラスト音を奏でながら機関車は前進し、操車場から本線へと入り、幻想機関区へと向かう。

 

 しばらくして水と石炭の補給を終えたC58 1号機は操車場を出て上り線に置いている12系客車五輌を連結させ、幻想機関区を目指して駅から出発する。

 

 

 


 

 

 

 所変わって永遠亭。

 

 

「師匠。ただいま戻りました」

 

「おかえり、優曇華」

 

 鈴仙が診断室へと入ると、そこに永琳が診断書を片手にその内容を見ていた。

 

 薬の配達時に着る服装から最近衣替えしたのか、いつもの女子高生の制服みたいな服装から白い半袖のワイシャツにピンクのスカートという服装になっている。

 

「あら、その風呂敷は?」

 

 永琳は身体を鈴仙の方に向けると、彼女の手に大きめの何かを包まれた風呂敷があるのに気付く。

 

「配達が終わって帰ろうとした時に北斗さんと会いまして、北斗さんが治療のお礼にと人里の甘味処の団子を購入してくれたんです」

 

「あぁ、あのお店の。姫様が喜ぶわね。なら、近い内に彼にお礼を言わないと」

 

「はい」

 

 鈴仙は返事をすると、どこかソワソワした様子を見せる。

 

「何か聞きたそうね」

 

「は、はい」

 

 そんな様子の彼女の真意を永琳は見抜き、診断書を机に置く。

 

「それで、何を聞きたいのかしら」

 

「は、はい」

 

 鈴仙は風呂敷を近くの第二一旦置き、永琳に問い掛ける。

 

 

 

「師匠は、輝月という名前の月の民をご存知でしょうか?」

 

 

 

「……」

 

 すると永琳は驚いてなのか、僅かに目を見開く。

 

「師匠?」

 

 あまり見ない師匠の反応に、鈴仙は怪訝な表情を浮かべる。

 

「優曇華」

 

「は、はい」

 

「その名前。どうしてあなたが知っているの?」

 

「えっ? どうし―――」

 

「答えなさい」

 

「ひっ……」

 

 有無を言わさない、と言わんばかりに威圧感のある声で問い掛け、その威圧感に彼女は背筋が凍る。

 

「ほ、北斗さんから聞かれたんです。輝月という名前の月の民を知っているかって……」

 

「……彼が?」

 

 鈴仙の口から予想外の人物の名前が出て、永琳は面食らう。

 

「本当に、彼がそう聞いたのね?」

 

「はい。でもどうしてそんな事を聞いた理由は聞いていませんが」

 

「そう……」

 

「あ、あの?」

 

 鈴仙より話を聞いて一考する素振りを見せる永琳に、彼女は声を掛ける。

 

「優曇華」

 

「は、はい」

 

「その話、私以外にもしたかしら?」

 

「い、いえ。師匠以外には、まだ」

 

「なら、この事は他言無用よ。姫様にもね」

 

「ひ、姫様にもですか?」

 

「えぇ。少なくとも、今はまだ、ね」

 

「……」

 

 意味深な事を呟く彼女に、鈴仙は息を呑む。主である輝夜にも話さないようにと釘を打たれたのだ。ただ事では無いのは彼女も感じ始めていた。

 

「それと、北斗さんをなるべく早く屋敷に連れて来れないかしら?」

 

「えっ? 北斗さんをですか?」

 

「そう。出来るだけ早くよ。さすがに明日明後日は無理だけど、一週間以内に彼を屋敷に連れて来て欲しいのよ」

 

「そんな急に」

 

 師匠のあまりにも難題な要請に鈴仙は戸惑いを隠せなかった。いつも彼女から難題を押し付けられているが、今回の場合はいつもと違う。

 

「それに、北斗さん機関区で行事を行うようなので、その準備に追われていましたよ。今日だって、寺子屋で慧音さんと話をしていたようなので」

 

「そう……」

 

 永琳は眉間に皺を寄せて一考し、口を開く。

 

「なら、彼に今後の予定を聞いて空いている日を確認して頂戴。もちろん、早い方が良いわ」

 

「は、はい。でも、どうしてそこまで?」

 

「言ったはずよ。今はまだ、よ」

 

「……」

 

 鈴仙はこれ以上話を聞けそうにないと判断し、一礼してから団子を包んだ風呂敷を手にして診察室を後にする。

 

 

「……」

 

 鈴仙が出た後、永琳は肘を机に付けて両手を組み、額を組んだ手に置いて小さくため息を付く。

 

(これで、確信は動かぬものになったわね)

 

 内心呟く彼女の表情は、どこか強張っている。

 

 

 人間にはとても想像出来ない、長い長い時を生きてきた彼女。その天才的な頭脳はどんな問題も解決できる。どれだけ断片的であっても、パズルのピースのように一つ一つ繋いでいき、やがて答えに行きつく。

 

 その頭脳はある事実を突き止める。無論彼女はその事実が自身が導いた答えであることに疑いは無い。

 

 しかし内容が内容なだけに、確信は得ても、僅かに揺らいでいた。

 

 だが、今回の北斗が鈴仙にした質問は、永琳が得た確信を不動なものにした。

 

 そうなれば……北斗は――――

 

 

「……」

 

 永琳は組んでいた手を解いて机に置いている一冊の本を手にすると、本を開いて中にしおりのように挟んでいる写真を取り出す。

 

 少しだけくたびれている写真には、永琳の他に、彼女の教え子達と輝夜の姿。

 

 そして輝夜の隣に立つ一人の男性の姿がある。

 

「輝月様……」

 

 彼女は小さくその名前を呟き、しばらく写真を眺める。

 

 

 




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