本作も連載開始して四周年を迎えました。時が経つのは早いですね。これからも東方鉄道録をよろしくお願いします。
夏の日差しが照り付ける幻想郷。その日は気温が高く、日差しも相まって誰もが汗を掻く日であった。
幻想郷において重要な場所である博麗神社も、その例外ではない。
博麗神社へ続く階段の下にある駅。そこにはC12 208号機が客車三輌を連結させた状態で停車しており、煙突横の排気管から一定の間隔で蒸気を噴射している。
「アッツイわねぇ……」
蝉の鳴き声が響く中、家の縁側に座り、霊夢は自身の両足を氷を入れた水を張った桶に入れて、団扇を扇いでいる。さすがに暑いのか、上着と分離している袖は外してノースリーブ状態になっている。
「霊夢さん。脚を閉じてください。みっともないですよ」
早苗はジト目で脚を広げている霊夢に注意を掛ける。ちなみに早苗も上着と分離している袖を外してノースリーブ状態になっている。
「別にいいじゃない。減るもんじゃないし」
「良くないですよ! 北斗さんが居るんですよ!」
あっけからんことを言う霊夢に、早苗はムッとして声を上げる。そんな彼女の姿に隣に座る北斗は苦笑いを浮かべる。
北斗も衣替えしているようで、いつもの長袖のナッパ服から半袖のシャツになっている。
「別に良いんじゃないか? 霊夢に色気なんてもん無いだろうし、北斗の視線を奪うようなことは無いって」
「色気が無くたって困らないわよ」
「魔理沙さんまで、もう」
「にしし」と小さく笑う魔理沙に、霊夢はジト目で鼻を鳴らし、早苗は呆れてため息を付く。
しかしこんな薄着の美少女達に囲まれても、早苗以外に目移りしない辺り、北斗の早苗への想いの強さが見て取れる。
「冷たいお茶をどうぞ」
と、る~こと がお盆に冷たいお茶を淹れた湯呑を持って来て霊夢達に渡す。
こう言ってはなんだが、博麗神社が賑やかなのは、北斗と早苗は霊夢と世間話をする目的で訪れ、二人が博麗神社に到着した直後に魔理沙が遊びに来て、彼女を加えて話しをしている。
「ところで、最近はどうでしょうか?」
冷たいお茶を一口飲み、北斗が霊夢にここ最近の事を問い掛ける。
「そうね。北斗さん所の幻想機関区が始めた鉄道のお陰で、参拝客が以前と比べ物にならないくらい増えたわね」
「以前までは一ヶ月に一人か二人来れば良い方だったからな」
「そんなに来てなかったんですか?」
「守矢神社も似たようなものでしょ」
改めて以前までの博麗神社の参拝客の少なさに、早苗は半ば呆れた様子を見せるも、霊夢はムッとした様子で以前までの守矢神社のことを口にする。
博麗神社の参拝客が少なかったのは、人里からだいぶ離れている上に、道中妖怪や獣に襲われる可能性が高かったのが一番の要因だが、妖怪や妖精と言った人外が多く訪れていたのも遠因であったりする。
守矢神社の場合、博麗神社と似たような背景がある上に、立地の関係で参拝客が来れない実情があったので、分社を人里に作って信仰を集めていた。
「ですが、鉄道で参拝客が気軽に訪れられるようになったお陰で、収入が増えました。お陰でここ最近の食事は良くなっていますので、ご主人様の健康の面も改善されました」
「なるほど。道理でここ最近の霊夢に違和感を覚えていたんだよな」
と、魔理沙は霊夢を観察するように見ながら呟く。
以前までなら山で山菜を採ったりして、毎日必要最低限の食事しか摂ることが出来なかった霊夢だったが、収入が増えた上に、参拝客の中には霊夢に贈り物を届ける者が居たので、以前と比べて食事が比較的豪勢になっている。その陰か、以前よりも霊夢は健康的な様相を見せているという。
とは言っても、それでも贅沢が出来るほどの余裕は無いので、以前より少し贅沢が出来るレベルで生活しているそうである。
「それに、最近ご主人様はお守りを作って販売しているんですよ」
「ちょっと、る~こと」
「へぇ、霊夢がお守りをねぇ」
と、カミングアウトする る~こと に霊夢は若干焦る様子を見せるが、魔理沙が反応する。
当然参拝客からの賽銭だけでは収入が少ないので、北斗の案で霊夢と る~こと は、神社で物品の販売を始めていた。
主に幻想機関区関連の商品に加え、る~こと が作った弁当の販売をしており、それで得た利益は博麗神社側で受け取っている。
る~こと によれば、どうやら新たに霊夢自身が丹精込めて作ったお守りが販売のラインナップに加わっているようである。
「……別に、安全祈願のお守りよ。大したものじゃないわ」
「しかし、博麗の巫女が自らの手で作っているというのは大きな宣伝効果がありまして、良い売れ筋ですよ」
と、る~こと は、一旦家の奥へと向かい、戻って来ると、赤を基調に白く『博麗』と刺繍が施された神社のお守りを見せる。
どうやら博麗の巫女が祈りを込めて作ったという宣伝効果は強く、お守りの売れ筋は良いようである。
「やっぱり名前は大事だよなぁ」
る~こと よりお守りを受け取った魔理沙は、お守りを見ながらつぶやく。
まぁ博麗の巫女が祈りを込めて作ったお守りである。宣伝効果もそうだが、効果自体も期待されているのだろう。
(同じことしてる……)
と、北斗の後ろで早苗がボソッと呟く。どうやら同じ神社同士。考えていることは同じようである。
「なぁ、北斗。お前も安全祈願にお守り貰っておいた方が良いんじゃないのか?」
魔理沙は笑みを浮かべながらお守りを北斗に見せる。
「大丈夫ですよ、魔理沙さん。北斗さんには
「そ、そうなのか」
と、笑顔を浮かべながら早苗が魔理沙に対してそう伝える。しかしどこか威圧的な雰囲気を醸し出す彼女に、魔理沙は気圧される。
すると博麗神社に、空から一人ゆっくりと降りて来た。
「あら、アリスじゃない」
と、霊夢は顔を上げると、神社の境内に下りてきた人物ことアリスに声を掛ける。
「おっ、アリス。戻っていたんだな」
「えぇ。昨日の夜にね」
アリスは魔理沙にそう伝えると、家の縁側に座る北斗を見つける。
「こんにちわ、アリスさん」
「こんにちわ。北斗さんとこうして会うのは、無縁塚の再調査以来かしら」
「そうですね。この前の宴会の時にアリスさんはいなかったので」
「そうね。お母様から呼び出しを受けていたから、実家に戻っていたのよ」
「霊夢さんから軽く話を聞きましたが、どんなことで呼び出しがあったんですか?」
「それなんだけど……」
と、アリスは視線を左右に揺らしてどこか抵抗感がある様子を見せる。
「あ、あの、北斗さん」
「はい」
「急な話なんだけど、頼みたい事があるの」
「頼みですか?」
「えぇ。北斗さん……」
アリスは間を置き、何かを決意した様子で口を開く。
「私と……付き合って欲しいの!」
「えっ?」
「……」スゥ
「ん?」クビカシゲ
「え?」キョトン
「おぉ?」ニヤリ
アリスの放った衝撃的な発言に、誰もが各々の反応を示す。
「え、えぇと?」
「っ! いや、そうじゃなくて――――」
「アリスさん」
と、アリスはとっさに説明しようとするが、後ろから声を掛けられながら肩に手を置かれた彼女は、背筋が凍るような感覚に襲われて身体を震わせ、ゆっくりと後ろを見る。
「少し、オ ハ ナ シ しませんか?」
そこには、いつの間にか北斗の隣から移動していた、目からハイライトを無くし、微笑みを浮かべている早苗の姿があった。
しかし微笑みこそ浮かべているが、目を全く笑っておらず、彼女からは背筋が凍りそうな威圧感が溢れており、何なら背後に「ゴゴゴゴ……」と擬音が目に見えそうな雰囲気がある。
「ひっ……」
その光景にアリスは顔を青ざめて怯えるものも、何とか気持ちを整える。
「さ、早苗。勘違いしないで欲しいけど、そういう意味じゃないから、説明させて?」
彼女は早苗の雰囲気に飲まれそうになるも、何とか誤解を解こうと必死になる。
少女説明中……
少女説明中……
少女説明中……
「――――という事なのよ」
アリスは霊夢たちに説明を終えて、深く息を吐き出す。
「一体何をどうしたらアリスさんが北斗さんと婚約する話になったんですか!?」
説明を受けた早苗は驚愕からなのか、それとも怒りからなのか分からないが、複雑な感情を抱いて声を上げていた。
というのも、アリスの話によれば、何やらアリスの母親である神綺が北斗の事を話すと、どういうわけかアリスと北斗が付き合っていると勘違いして、説明する暇も無く勝手に話が進んでしまって、仕舞には婚約話に発展してしまったそうである。
「はぁ。有難迷惑な話ね」
「私にそんなこと言ったって」
霊夢が呆れた様子でそう言うと、アリスは困った様子を見せる。霊夢からすれば幻想郷に影響を及ぼしかねない、下手すれば異変になる可能性が高い案件であるからだ。
「アリスに異性の友達が出来たって言うんだ。神綺のやつが勘違いするのも仕方ないんじゃないか?」
「魔理沙!」
面白そうに他人事のように話す魔理沙に、少し怒気を含んだ様子でアリスが口を開く。まぁ魔理沙の言う通り、お世辞にも友達が多かったとは言えなかったので、そこに異性の友達が出来たとなれば、神綺が勘違いするのも仕方ないといえる。
「とにかく、お母様の勘違いを解くためにも、北斗さんと一緒にお母様の勘違いを解かないといけないのよ」
「アリスさんが説明すればいいじゃないですか」
「説明して話を聞いてくれたのなら、こうして北斗さんに頼み込まないわよ」
「そりゃそうね」
未だに気に入らないのか、どこか刺々しい方でそう言う早苗にアリスがげんなりした様子で答えると、霊夢が同意する。
「神綺の奴、ホント話を聞かないよなぁ」
(それは幻想郷に住んでいる人に言えるのでは?)
魔理沙の言葉に、北斗はこれまで会ってきた幻想郷の住人たちの事を思い出しながら内心呟く。
「北斗さん。大変な迷惑が掛かっているのは分かっているけど、お母様の誤解を解く為にも、私と一緒に魔界に来て欲しいの。そこでお母様に私と一緒に説明して欲しいの」
「は、はぁ……」
予想だにしない事態に北斗は戸惑いを隠せなかったものも、気持ちを切り替えてアリスを見る。
「分かりました。それでアリスさんのお母さんの誤解が解けるなら、微力ながら協力します」
「いいの?」
「はい。この件は誤解を解かないと、面倒なことになると自分も思っていますので」
「そう……ありがとう」
アリスは間を空けてから、北斗に感謝する。
「北斗さん」
「早苗。こればかりは解決してもらわないと、幻想郷全体として困るのよ」
「霊夢さん」
何か言おうとした早苗に、霊夢が割り込んで止める。
「相手は仮にも魔界を管理している者よ。下手なことをして難癖付けられれば、幻想郷にとって面倒なことになるわ」
「……」
「下手すれば異変位のことを起こしかねないから、北斗さんには何としても神綺の誤解を解いてもらいたいわね」
「ただ単に異変が起こったら面倒なだけだろう」
「うっさいわね。魔界絡みの異変は面倒なのは魔理沙も知っているでしょ」
魔理沙のツッコみに霊夢は、面倒くさそうに理由を述べる。
「まぁ博麗の巫女としても、誤解は解いてもらいたいわね。私からも頼めるかしら?」
「はい」
咳払いして気を取り直し、霊夢がそう言うと、北斗は頷いて了承する。
「そういや、アリス。神綺の所に行くにしても、説得から戻って来るのにどのくらい掛かるんだ?」
「そうね。最大でも一週間はかかるかしら」
「そ、そんなに掛かるんですか!?」
アリスの口から語られた期間に、早苗が驚きの声を上げる。
「幻想郷と魔界に繋がるゲートは常に安定していないの。安定した日じゃないと通る事は出来ないし、そもそもお母様の説得が一日で終わるわけが無いわ。それでいて魔界側のゲートが安定するまで待つ必要があるから、多く見積もってそのくらいは掛かるわ」
「それは」
納得できないが、反論もできないとあって、早苗は顔を顰める。
「まぁ仕方ないわよ。素直に受け入れなさい」
「……」
「それに、たった一週間で異変を未然に阻止できると思えば、安いものよ」
「それは、そうでしょうけど……」
早苗はそれでも納得し難い様子を見せている。ここまで彼女が納得しないのは、北斗の身を案じているのが大きいだろう。
何せ一週間もの間、彼女の知らない場所へと行ってしまうのだから、彼女が不安に思うのは当然である。
「北斗さんの身を案じているなら、心配しないで。常に実力がある者に警護させるし、そもそもお母様のお客様となれば、安易に手を出すことは無いわ」
「……」
「早苗。アリスがこう言っているんだ。心配ないぜ」
「魔理沙さん」
「それについては同意ね。実力のある者も検討はついているから、私の予想通りの人なら問題無いわ」
「……」
魔理沙と霊夢の二人の言葉を受けて、早苗は少し悩んで間を空け、アリスを見る。
「大丈夫、なんですね」
「えぇ。彼の身の安全は保障するわ。必ず無傷で幻想郷に戻らせるから」
「……それなら、お願いします」
早苗は渋々と言った様子で、了承する。可能なら自分も付いて行きたい所だが、明らかに部外者の自分が入れるような話ではない。
「早苗さん。俺がいない間、幻想機関区を見ていて欲しいんですが、良いでしょうか?」
「機関区を?」
「えぇ。列車の運行とか書類整理とかがありますが、それはみんなが手伝ってくれますし、機関区の警護も夢月さんや幻月さん達がしてくれるので、大丈夫ですから」
「そうですか……。分かりました。北斗さんが不在の間、幻想機関区は任せてください!」
北斗に頼まれて、早苗の表情に喜色が浮かび上がり、頷いて了承する。その様子に霊夢は呆れた様子で見つめ、魔理沙とアリスは温かい目で見つめている。
しかし、一瞬だけアリスは歯噛みしたような、悲し気な表情を浮かべる。
少し時は下り、所変わって幻想機関区。
「と、いうわけだ。俺は最大でも一週間、機関区を不在になる。その間の留守は頼むぞ」
宿舎の食堂にて、北斗が集まった蒸気機関車の神霊の少女達と居候組、作業員代表として小傘に一週間留守にするのを伝える。
「一週間も留守にするんですか?」
「向こうの都合上、それぐらい掛かるらしい」
「そうですか」
「区長はいない間、列車の運行はどうするの?」
「石炭輸送もそうだけど、旅客列車も区長不在でも行うの?」
「石炭輸送と旅客運行は予定通り行って欲しい。一応管理には早苗さんが来てくれるから、その時は早苗さんの補助を頼む」
「分かったわ」
「了解っと」
「あの、私の練習はどうするのです?」
というのも、
「
「は、はいです!」
「
「はい!」
「分かったわ」
二人が頷くのを確認し、夢月たちを見る。
「幻月さん達も自分が居ない間、機関区の留守をよろしくお願いします」
「分かったわ。区長さんの留守の間、身の程知らず共を蹴散らしておくわ」
「心配しなくても良いわ」
『我が主の御帰還まで、必ずここはお守りいたします』
「任せてくれ」
「衣食住を提供して貰えているんだ。その分の仕事はするさね」
幻月、夢月、幽玄魔眼、みとり、魅魔は順に口にして頷く。
「作業員もいつも通り作業を行ってもらいます。小傘さんもC59 127号機とC54 14号機の整備を引き続きお願いします」
「はい! わちき、頑張ります!」
小傘が頷いたのを確認し、北斗は改めて全員を見渡す。
「改めて言うが、すぐにでは無いが、一週間俺は不在になる。その間の機関区は頼んだぞ」
『はい!』
北斗が全員を見渡しながらそう告げると、居候組以外が返事をする。
感想、質問、評価、要望等をお待ちしています。