今年も残り僅かになりました。今年は蒸気機関車界隈は色々とありましたね。
新たに蘇る機関車もあれば、運行が終了したり、引退してしまう機関車が出てきましたね。
これからどうなるかは分かりませんが、来年は蒸気機関車界隈が活気付くことを祈っています。
来年も本作をよろしくお願いします!
北斗とアリスは、夢子の先導に従ってゲートを通っていく。
気持ち悪くは無い、しかし何とも言えない感覚に戸惑いながらも、北斗はただ夢子の背中だけを見て歩いて行く。
「これは……」
ゲートを通り抜けた先に出ると、北斗はそこに広がる光景に声を漏らす。
ゲートを通り抜ける前は、陽が昇っているので明るかったのだが、通り抜け先は薄暗い空間が広がっている。そして自分達の目の前に聳え立つ大きな城が彼の視界の大半を占めている。
「ようこそ、魔界へ。そしてここが、神綺様のお城でございます」
「ここが、魔界」
夢子がそういうと、北斗は周りを見渡し、自分達の前にある大きな城に、息を呑む。
「では、神綺様の元へご案内します。お荷物は他の従者が運びますので、城の入り口にてお渡しください」
「分かりました」
北斗は頷き、夢子とアリスに付いて行く。
城の入り口にて、北斗は従者に荷物を預けて、三人は城の中を歩いて行く。
「……」
途中従者たちと行き交う中、彼女達は北斗達に頭を下げて挨拶する。北斗はどこか戸惑った様子で従者たちを見ている。
「彼女達が気になる?」
と、そんな様子を気に掛けてか、アリスが声を掛ける。
「え、えぇ。何て言うか……さっきから似たような顔つきですので」
「そりゃ彼女達はホムンクルスだから、似ていて当然よ」
「ホムンクルス……ってことは、彼女達は人為的に?」
「えぇ。お母様が生み出しているのよ」
「そうなんですか」
北斗は驚き気味につぶやき、息を呑む。
「では、夢子さんも?」
「夢子は別よ。確かにお母様によって生み出された存在ではあるけど、ホムンクルスとはちょっと違うわね。どちらかと言えば、夢子はホムンクルスのオリジナルでもあるのよ」
「なるほど。どおりで」
北斗は納得した様子で頷く。
よく見ると、ホムンクルスの従者たちの顔つきは、どことなく夢子に似ており、ホムンクルスたちのオリジナルであるなら、似ているのは当然である。
それから更に移動して、扉の前で止まる。
「神綺様。北斗様とアリス様をお連れしました」
夢子は扉をノックして声を掛けると、部屋の中から「入って良いわ」と声が帰って来て、夢子が扉を開けて二人を中に入れる。
部屋に入ると、そこには部屋の中央に置いているテーブルの傍に、神綺が椅子に座って二人を見て、小さく手を振っている。
「紹介します、北斗様。こちらがこの城の主であり、魔界を作りし創造神にして、アリス様の母上であります……神綺様です」
「初めまして、北斗君。アリスちゃんからあなたの事、聞いているわ」
「初めまして。幻想郷で機関区の区長をしています、霧島北斗です」
夢子は北斗に神綺を紹介して、北斗も続いて一礼して自己紹介する。
「夢子ちゃん。お茶をお願い」
「畏まりました」
神綺に言われて彼女は頭を下げて一礼し、部屋を後にする。
「アリスちゃん、北斗君。立ちっぱなしもなんだし、いらっしゃい」
彼女が二人を手招きして、アリスと北斗はテーブルの傍にある椅子にそれぞれ座る。
「お茶が来るまで、まだ時間は掛かるでしょうから、本題に入る前に少しお話しましょうか、北斗君」
「は、はい」
「それより!!」
と、アリスが身を乗り出す勢いで声を掛ける。
「お母様! 夢子から聞いたわよ! 北斗さんのことを小さい頃から知っているそうじゃない! どういうことなの!?」
「あら、夢子から聞いたの?」
「触り程度には聞いたわ。詳しくはお母様から聞いてって言われたから」
「そうねぇ」
と、神綺は頬杖を着くと、チラッと北斗を見る。
「夢子の言う通りよ。北斗君の事は、彼がまだこのくらいの大きさだった頃から知っているわ」
神綺はテーブルより少し低い位置で手を止める。
「どうして北斗さんの事を知って。それに、外の世界に行ったことがあるの?」
アリスは戸惑った様子で神綺に問い掛ける。
「えぇ。あの時は飛鳥の誘いがあって、短い間だけ外の世界に行ったことがあるの。その際に、小さかった頃の北斗君と会ったのよ」
「母さんの事を知っているんですか?」
「えぇ。飛鳥とは長い付き合いの友人よ」
北斗の質問に、神綺は微笑みを浮かべて答える。意外な繋がりに、北斗は驚きを隠せなかった。
「アリスちゃんは何度も飛鳥と会ったことはあるわね」
「え、えぇ。お母様と話している時は……」
するとアリスはハッと何かに気付く。
「もしかして、あの時飛鳥さんが抱えていた赤ん坊って!」
「あら、覚えていたのね。その通りよ」
アリスは驚いた様子を見せていたが、すぐに怪訝な表情を浮かべる。
「それじゃ、どうして北斗さんは外の世界に……」
「それは―――」
「自分が説明します」
と、疑いの目を向けるアリスに神綺が説明しようとすると、北斗が声を遮って割り込む。
「北斗さん?」
「アリスさん。実は―――」
少年説明中……
少年説明中……
少年説明中……
「――――と、言う事なんです」
「……」
北斗より事の顛末を聞き、アリスは驚愕の表情を浮かべている。
「アリスちゃん。信じられない内容だと思うけど、紛れもない真実よ」
「お母様」
「そりゃ、私も最初は信じられなかったわ。けど、こうして北斗君がいるのが、何よりの証拠になったしね」
神綺はアリスにそう言うと、北斗を見て苦笑いを浮かべる。
(北斗さんが、神霊とあの月の民の間に生まれた子供?)
アリスは内心若干混乱していたが、すぐに納得する。
ただでさえ神霊から生まれたということ自体信じ難いことなのだが、父親があの月の民となれば、尚更驚くだろう。
(でも、そんな子供だったら、あのスキマ妖怪が放っておくはずがないわね。子供の事を考えれば、やらざるを得なかった……のかしら)
北斗の出生の事を考えれば、飛鳥の行動は止む得ないのだろう。
(……北斗さんの事を、八雲紫以外の幻想郷の住人が知ったら……どう反応するのかしら。特に、霊夢は……)
アリスは北斗の出生を知って、同時に不安を抱く。様々な存在が暮らす幻想郷だが、北斗のような存在はそうそういない。
特に、幻想郷の管理する博麗の巫女の霊夢は、果たしてどう反応するのか。もちろん霊夢が北斗の出生を知ってこれまでの態度を変えるということは無いだろう。
だが、何かしらの変化があるのは間違いない。月の民の血が流れているとなると、さすがに霊夢も何か思う所はあるだろう。
そして八雲紫が関われば、その変化は大きくなるだろう。
「お待たせしました」
と、部屋の扉が開けられてティーカップにポッド、紅茶の葉を入れた瓶を乗せたカートを押して夢子が入って来る。
「お茶が来たわね。じゃぁ、そろそろ本題に移りましょうか」
「はい」
と、神綺は真剣な表情を浮かべてそう言い、北斗は息を呑む。
「―――ということなので、あくまでもアリスさんとは、友人関係ですので」
「あら。そうだったの? てっきり私アリスちゃんと結構親しい仲だと思ったわ」
「だ・か・ら! 私は散々そう説明したじゃない!」
飄々した様子の神綺にアリスが声を荒げる。
「でもアリスちゃん。北斗君の事を話している時、声がどこか嬉しそうだったわよ? そういう気はあったんじゃないの?」
「そんなわけ無いじゃない!」
アリスは顔を赤くして否定する。
「ま、まぁ、アリスさん。少なくとも誤解は解けたんですから」
「まだ別の所が解けていないわよ!」
北斗がアリスを落ち着かせようとするも、彼女は声を荒げる。
「でも、アリスちゃん。以前と比べて今のアリスちゃんは、とても楽しそうだわ」
「……」
神綺にそう言われ、アリスは何とも言えない複雑そうな表情を浮かべる。
「アリスちゃん小さい頃から友達が少なくてね。今でこそ幻想郷で多くの友人が出来ているけど……友人は多いことに越したことは無いわね」
「……」
「北斗君。これからも、アリスちゃんの事を気に掛けてあげてね?」
「はい。忙しい身ではありますが、友人として接していきます」
北斗は神綺の言葉に頷いて了承する。
「まぁ、結局私が先走り過ぎちゃったのね」
神綺は苦笑いを浮かべて頭の後ろを掻く。
「私はそう言ったわよね」
アリスはジトと睨みながらティーカップに注がれた紅茶を飲む。
「ごめんなさいね、北斗君。わざわざ来てもらって」
「いえ、大丈夫です。これで誤解が解けるなら来た甲斐はあったと思いますので」
「北斗さん。別に文句の一つや二つ言っても良いわ。私が許可するから」
「もう、アリスちゃんったら!」
冷たいアリスに神綺は戸惑った様子を見せる。
(仲が良いんだな)
そんなやり取りを北斗は微笑ましく見つめる。
「あっ、そうだ。北斗君」
「はい?」
「ここからは真面目な話。仕事関係の話になるんだけど」
と、神綺は真剣な表情を浮かべる。雰囲気が変わったことで北斗も自然と気が引き締まる。
「北斗君は幻想郷で鉄道と呼ばれる事業を行っているそうね」
「はい。蒸気機関車と呼ばれる外の世界の乗り物を使って人や物を運ぶ仕事ですね」
「飛鳥とアリスちゃんから話は聞いているわ。とても便利そうね」
「えぇ。外の世界では多くの場所で使われています。蒸気機関車はさすがにほとんど使われていませんが」
「だから幻想郷に流れ着いた、のかしらね」
「どうでしょうか」
神綺の言葉に、北斗は首を傾げる。
幻想郷は外の世界で忘れ去られた存在が流れ着く場所である。確かに蒸気機関車は忘れ去られようとしているが、まだ完全に忘れられている存在ではない。
その上、幻想郷にある蒸気機関車は外の世界で現存しているものがあるのだ。
それがなぜ幻想郷にあるのか? 色々と疑問は尽きない。
「まぁその辺の話は今は良いわ。それでね、私も少し鉄道に興味があってね」
「興味ですか?」
「えぇ。話は変わるけど、魔界では休みの期間に多くの者が幻想郷に観光しに行くのよ」
「観光ですか? 幻想郷に?」
「意外と人気なのよ。幻想郷には魔界に無い物が多いから」
「なるほど」
「まぁ、それが原因で幻想郷では異変になっちゃったんだけどね」
と、アリスは遠い目をして呟く。
その様子から北斗は何かあったんだろうなと言うのを察したが、彼の性分から余計な詮索をしないことにする。
「んで、異変後に魔界と幻想郷との間で取り決めを行って、観光は一定の期間限定で行うことになったのよ」
「なるほど」
「でも、その観光業なんだけど、少しマンネリ化してしまってね」
「マンネリ化ですか」
「そうなのよ」
と、神綺は夢子に目配りをすると、彼女が動く。
「北斗様。紅茶のお代わりはいかがでしょうか?」
「あっ、はい。お願いします」
北斗は夢子にソーサーごとティーカップを渡す。アリスもついでにお茶を淹れて貰うことにして、ティーカップを渡す。
「幻想郷も少しずつ変わっているけど、やっぱり同じ物ばかり見ていると飽きちゃう輩が居ちゃうのよ」
「なるほど」
「でも、この間の観光の時に、観光客の多くが幻想郷の鉄道に興味を持ってね。観光客から多くの要望があったのよ」
「と、言いますと?」
「『観光に鉄道を取り組めないか』ってね。この間の観光の時は一定の区間のみでしか鉄道の運用が無かったから」
「なるほど」
観光客の要望がどんなものか、北斗は察する。
現在幻想郷で運行されている鉄道は、守矢神社行きと、博麗神社行きの旅客列車と、定期的にある石炭輸送列車と、不定期の貨物列車ぐらいしか無い。
もちろん、今後列車の運行数は増えていく予定だし、幻想郷の観光列車も計画している。だからこそ外の世界で運行されていた寝台列車の客車の整備を行っている。
「で、本題なんだけど」
と、神綺はティーカップを持って紅茶を飲む。
「幻想郷であなたが行っている鉄道事業。私にも一枚噛ませて欲しいの」
「神綺さんが? それは先ほどあった観光に関係が?」
「その通りよ。まだ構想段階だけど、幻想郷と魔界を繋いだ一大路線を計画しているの」
「幻想郷と……」
「魔界を繋ぐ?」
神綺の口から告げられた壮大な計画に、北斗とアリスが順に呟く。
「お母様。それって……」
「まだ実現までの時間は掛かるわ。技術的な面もそうだけど、何より八雲紫との話し合いも関わって来るわね」
「……」
母親の言葉を聞き、アリスは納得した様子で表情を引き締める。
魔界と幻想郷を繋ぐ。以前の異変の事を考えれば、八雲紫が簡単に頷くとは思えない。
「まぁ、将来的にはこの魔界にも鉄道を広めたいのよ。その試みとして、幻想郷と魔界を繋ぐ観光線を作りたいのよ」
「なるほど」
神綺の言葉から最終的な目的を察して、北斗は頷く。
すると夢子が紅茶を淹れたティーカップを北斗に渡して、彼はそれを受け取る。次にアリスも紅茶を淹れたティーカップを受け取る。
「北斗君の所に、長距離運行を行う車輛は無いのかしら?」
「あるにはあります。しかし牽引する車両と使用する客車どちらとも整備中ですが」
「その車輛で観光列車を運行したいと思っているのだけど、どうかしら?」
「そうですね……」
北斗はそう呟きながら紅茶を飲む。
「自分の所でも幻想郷内での観光列車を計画していまして」
「あら、そうだったの?」
「えぇ。もしその観光列車と連携する形で運行するのなら……」
「それは良いわね。今までにない旅をしながら観光する。きっと観光業が活気づくわ」
「そうですね。個人的にはその案に賛成しますが……」
「あぁ、そうね。まだ根本的な部分の解決があるからね」
神綺は苦笑いを浮かべて、北斗は紅茶を飲んでティーカップをソーサーに置く。
「とりあえず、事細かく煮詰める必要はありますが、観光列車についてはこちらでも……」
と、北斗は話を進めようとするが、ゆっくりと話す勢いが落ちて行く。
「進めて……行きま、す……」
と、北斗は眠たげな雰囲気がある中、そのまま静かな寝息と共に眠りにつく。
「……眠ったわね」
「はい」
と、北斗が眠りについたのを夢子が確認し、神綺は頷く。
北斗がなぜ急に眠ったのか。それは北斗が飲んだ紅茶に睡眠薬が混ぜ込まれていたのだ。夢子は神綺より合図を受けて北斗のティーカップを受け取り、紅茶を注ぐ時に無味無臭の睡眠薬を混ぜ込んでいた。
そこそこ強い睡眠薬とあって、すぐに効果が現れたのだ。
「アリスちゃん」
「……」
「ごめんなさいね。あなたの友人を騙す形で連れてこさせて」
「……いいのよ、お母様。これが―――」
と、アリスは眠った北斗を見る。
「彼を救う為なら……このくらいは」
「……」
神綺は申し訳なく頷くと、夢子に目配りして、彼女は眠った北斗を抱え上げる。
「行きましょう」
「……はい」
そして三人は部屋を後にして、地下室へと向かう。
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