今回はキリが良い所と切る為、短めです。
妖怪の山に三音室の甲高い汽笛の音が響き渡る。
18633号機が煙突から力強いブラスト音を発しながら石炭車15輌を引っ張り、その後ろからE10 5号機が押して妖怪の山のきつい勾配を登っていく。
絶対に空転しないと言われるほど、8620形は空転しづらい構造とあって、勾配に強い8620形蒸気機関車は妖怪の山を空の石炭車を引っ張って登っていく。しかし前日に雨が降っていたので、線路自体が濡れて、濡れた落ち葉や土が付着しているので、線路は滑りやすい状態だ。万が一を考えて補機としてE10 5号機が付いた。
18633号機の
相変わらず蒸気機関車が牽く列車は、一部の天狗から人気があるようである。
二輌の機関車は15輌の貨車を運んで、守矢神社横の石炭集積所を目指す。
所変わり、場所は幻想機関区。
「えーと、次の列車の運用はこの時間からこの時間までの運用で、博麗神社行きの列車の担当機関車は……C56 44号機はこの前担当しているからそれ以外で、C11 312号機で良いでしょうか? あっ、312号機は近い内に検査に入るからダメですね。それならD61 4号機でいいでしょうか」
北斗がいつも仕事をしている執務室で、早苗が執務机に着いて書類相手に格闘している。
「次に検査入りするのは……C11 260号機とC12 06号機ですね……えぇとここにチェックを入れればいいんですね。あっ、軽油の残りが少なくなっている……でも今は補充のアテがないから保留にするしかない、か」
「石炭と水の残量は……昨日補充を行ったから問題無し。あっ、一部の客車は検査入りしないといけないんですね。でも他の客車が既に検査入りしているから、少しずつしか検査が出来ないか」
「あっ、守矢神社と博麗神社に置いている幻想機関区のお土産が少なくなってたから、補充もしないと。後で発注しておかないと」
少女格闘中……
少女格闘中……
少女格闘中……
「うぅ……疲れたぁ……」
ようやく書類作業が終わり、早苗は机に突っ伏せる。
(北斗さんはいつもこれだけの書類作業をしているんですね……)
頬を机に付けた状態で内心で呟く。その表情はいかにも疲れたという雰囲気を醸し出している。
北斗より幻想機関区の留守を任された早苗は、守矢神社の風祝としての信仰活動と、幻想機関区の区長代理として二足の草鞋でやっている。
当初は書類の整理作業が捗らなく、蒸気機関車の神霊達の手伝いがあってやっと終わらせたレベルであった。しかし今では作業に慣れて何とか一人でこなせるようになった。
「はぁ……」
彼女はため息を付いて起き上がって立ち上がり、ふらりふらりと北斗が寝るときに使うベッドに向かうと、そこにうつ伏せで倒れ込む。
「すぅぅぅぅ……」
そして早苗はベッドの布団に残っている北斗の残り香を吸い込んで彼の匂いを堪能している。
「北斗さん……」
早苗は小さく呟く。
北斗が魔界に向かって三日目が経ち、早苗は寂しい感情に押されて、
(期日が決まっている分、待つのがつらいやつですね)
早苗はベッドの上でうつ伏せから仰向けになって、深くゆっくりと息を吐く。
この前の時は、いつ永遠の別れになるか分からないような状態とあって、気が気でなかったが、今回は帰って来るのが分かっているので多少気持ちの余裕はある。
しかし帰って来るのが分かっている分、その待つ時間が苦痛に感じ始めている。
「北斗さん……今頃何しているんだろう」
早苗は天井を見つめながら小さく呟く。
自分の知らない所に大切な人が行って、彼女の中に不安が膨らむ。
コンコン
「っ! はい!」
すると扉がノックされ、早苗は慌ててベッドから起き上がってすぐに駈け寄り、扉を開ける。
「早苗さん。お茶を持って来ました」
「あっ、ありがとうございます」
扉を開けると、
二人は執務室に戻り、早苗は机に着き、
「どうですか? 仕事の方は?」
「はい。だいぶ慣れてきました」
短く会話を交わして、早苗は湯呑を手にしてお茶を飲む。
「それにしても、北斗さんはいつもこんな感じで仕事をしているんですね」
「はい。機関区の運営は一筋縄ではいきません」
「ですよね……」
早苗はため息を付く。
(この幻想機関区の為に、目立たなくても頑張っているんですよね。
内心呟きつつ、北斗の苦労を改めて認識する。
「区長の事が心配ですか?」
「……はい」
「区長なら、大丈夫ですよ。守ってくれる人もいますし、何より、約束を破る方ではありません」
「……」
「そうですよね。北斗さんが……約束を破るはずがありません、よね」
早苗はそう呟くと、湯呑に入っているお茶を飲み干す。
「さてと、残りも頑張りますか!」
彼女は立ち上がりながらそう言うと、頬を軽く叩いて気合を入れる。
「
「無理はしないでくださいね。区長が帰って来た時に早苗さんが体調を崩していたら、区長が気負ってしまいます」
「はい。無理はせず、ちゃんと休んでいますから」
早苗は頷くと、
「……」
北斗は重たい瞼をゆっくりと開ける。
「ここは……」
彼はゆっくりと周りを見渡すが、そこは何も無い暗い空間が広がっている。
「俺は……一体」
何があったか思い出そうと、記憶の糸を手繰り寄せようとするも、何も思い出せない。
「……」
「目が覚めたか」
と、必死に思い出していると、後ろから声がして北斗は振り返ると、そこには眩しくない光に包まれた人がいた。
「君は……」
北斗は戸惑っているが、ある違和感を覚えて首を傾げる。
「私は……お前だ。そして、お前は……私だ」
「?」
まるで哲学みたいな返答に、北斗は戸惑う。
「まぁ気にするようなことじゃない。すぐに分かる事だから」
「何を……」
北斗は何か言おうとするが、その瞬間激しい頭痛が彼を襲う。
「うっ……ぐ!?」
彼は痛みのあまり頭を抱えて、膝を着く。
「真実を知る時が来た。それだけだ」
「……しん、じつ?」
「そうだ」
「何を……いっt――――」
北斗は問い掛けようとするも、そのまま意識を失う。
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