東方鉄道録‐幻想の地に汽笛は鳴り響く‐   作:日本武尊

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第17駅 懸念と異変

 

 

 

 

 線路調査から二日後。

 

 

 

「線路の調査は大分進んでいるか」

 

 幻想機関区の宿舎にある区長室で北斗が報告書を見ている。

 

「でも、妖怪の山の線路は全く手付かずだけどな」

 

 皐月が近くの机で書類の確認をしながら呟く。

 

「まぁあそこについては仕方無い。妖怪の山を支配している天狗と話し合いがつかないと入れそうに無い」

 

「その話し合いが付けれる当てってあるの?」

 

「早苗さん達が天狗の長と話をして交渉機会を設けてくれるそうだ」

 

「信用出来るの?」

 

「まぁ、そこは向こうの話し合い次第だな」

 

「それ、いつになるのやら」

 

 皐月はため息を付く。

 

「それで、石炭の貯蔵量は少なくとも今は問題無いか」

 

「確かに今はだけど、使い続ければ無くなるんだぞ。私達はどれだけ石炭を使うか分かるだろ」

 

「分かっている。分かっているんだが」

 

 彼はため息を付きながら頭を掻く。

 

 現時点で石炭の貯蔵量は十分あり、幻想機関区の機関車が全て全力運転しても一年以上は持つと予想されている。しかし一番の問題はその石炭の調達だった。

 

「この幻想郷に、石炭があるかどうか」

 

 外の世界と比べると明らかに技術進歩が遅れている幻想郷とあって、石炭があるかどうか分からない。そもそも石炭の鉱脈があるかどうかも分からない。

 

 最悪の場合木材で代用すると言う方法もある。まぁ、あくまでもその場合になった時の方法だが。

 

「まぁ、今は石炭の件は棚上げにするしかないな」

 

「本当に大丈夫なのか、区長?」

 

「今は何とも言えんな」

 

 彼は小さくため息を付くと、報告書を置いて次に水に関する報告書を見る。

 

「水は近くに霧の湖って言う大きな湖があるみたいだな」

 

「線路も近くに敷かれていたよ」

 

「あとは、水の水質次第か」

 

 彼は椅子の背もたれにもたれかかり、天井を見上げる。

 

 

 蒸気機関車にとって最も重要な物は石炭ではなく、水である。水がなければ、いくら石炭があっても蒸気機関車は動かないのだ。

 

 しかし水なら何でも良いという訳ではなく、蒸気機関車に適した水を使わなければ多くの水垢が発生して、故障の原因に繋がる。

 

 水の確保は幻想機関区にとって石炭調達以上に最重要課題であった。と言っても、こちらは調達する当てがあるのでマシな方だが。

 

 

「それと、線路の整備と設備設営もか。本当にやるべきことが多いな」

 

 北斗は全ての報告書を纏めて隅に寄せると、机に顔を伏せる。

 

 現在線路の整備及び周辺の設備の設営を行っている最中だ。

 

 設備は主に線路に人や動物が容易に侵入出来ないように柵を立てたり、速度や警告を表す標識を立てたりしている。そして踏み切りの設置だ。

 

 まぁ一番の問題は連絡手段の確保だろう。無線機の様な便利な代物が無いが、有線電話がある。まぁ当然電話線が必要になるので、結局時間が掛かることに変わりないが。

 

(先は長いな……) 

 

 北斗は深いため息を付く。

 

 

 コンコン……

 

 

「ん?」

 

 と、後ろから窓を叩く音がして北斗が顔を上げると、皐月がギョッとした表情を浮かべていた。

 

 北斗は首を傾げながら後ろを振り返ると。

 

『おーい!』

 

 そこには窓の向こうに箒に跨って浮いている魔理沙の姿があった。北斗は思わずギョッとなる。

 

『悪いけど、開けてくれないか?』 

 

 彼女は少し困ったような表情を浮かべてそう言うと、北斗は半ば呆れた様子で窓を開けると、魔理沙が区長室に入る。

 

 

「いやぁ悪いな。急に押し掛けてしまって」

 

「全くだ。しかも無断で機関区の敷地内に入るなんてな」

 

 魔理沙は箒を壁に立ててソファーに座り北斗に一言謝るも、皐月はジトッと睨みながら愚痴を零す。

 

「それで、こんな早朝にどのようなご用件で?」

 

「あぁ。北斗に伝えたいことがあって、急いで来たんだぜ」

 

「伝えたいことですか?」

 

「あぁ。昨日の事なんだがな」

 

 魔理沙は昨日魔法の森で見た蒸気機関車のことを北斗に伝えた。

 

 

 

「蒸気機関車が二輌も?」

 

「あぁ。ここにあるやつと比べると形は大分違ったけど、確かに蒸気機関車だったぜ」

 

「ふむ」

 

 北斗は腕を組む。

 

(蒸気機関車が二輌も。それも森の中でか)

 

「何でここじゃなくて、そんな所に」

 

「分からんな」

 

「だが」と、彼は小さく呟く。

 

「どうやら、調査する内容が、増えたようだ」

 

 今は何とも言えないが、少なくともまだ機関車がこの幻想郷にある可能性がある。放って置く訳には行かない。

 

「それで、魔理沙さんが見た蒸気機関車は魔法の森にあるんですよね」

 

「動いてなかったらな」

 

「独りでに動くことは無いでしょうから、あるでしょうね」

 

「……」

 

「魔理沙さん。案内してくれますか?」

 

「いいぜ。その為に来たんだからな」

 

「よろしくお願いします」

 

 北斗は頭を下げる。

 

「皐月。この後の予定は?」

 

「特に無いな。まぁ今は水無月が線路の調査に向かっているぐらいか」

 

「そうか」

 

 北斗は顎に手を当てて考える。

 

「何だ? 蒸気機関車で向かわないのか?」

 

「今水無月のSLが走っていますから、他の機関車を走らせるわけには行かないんですよ」

 

「何でだ?」

 

 魔理沙は首を傾げる。

 

「事故が起きる可能性があるからですよ。とても大きな事故がね」

 

 まだ設備が整っていない中、複数の機関車を走らせるわけには行かない。最悪正面衝突を起こす可能性だってあるのだ。

 

 とは言っても、現在水無月が走っている線路はここから遠いので合流する可能性は低いが、それでも警戒に越したことは無い。

 

「じゃぁ、どうやって行く気なんだ?」

 

「他の乗り物を使います。魔法の森まではそれで行きます」

 

「本当にそれで大丈夫なのか?」

 

「と、言いますと?」

 

「魔法の森は妖怪が多いんだぜ? 一人で行くのか?」

 

「……」

 

「だから私が案内するって言っているんだ」

 

「……?」

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「いや、案内してくれるのはありがたいのですが」

 

「何だ? 何か問題あるのか?」

 

 外に出た北斗達は魔法の森に向けて出発しようとしていた。

 

 しかしそこでちょっとした問題が。

 

「後ろに、乗らないといけないんですか?」

 

「だって北斗は飛べないんだろ? 私だってやる事あるんだから、ちゃっちゃと済ませたいんだ」

 

 気恥ずかしそうにしている北斗のことなど気にせず、魔理沙は後ろを振り向いて跨っている箒を叩く。

 

 魔理沙としてはすぐに終わらせたいので、時間を掛けたくない。しかし北斗は空を飛べないので必然的に移動に時間が掛かる。

 

 だから、彼女は自分の箒に北斗を乗せて魔法の森に向かおうとしているのだ。

 

「ほらほら、早くしてくれよ」

 

「……」

 

「別に気にするもんじゃないだろ?」

 

 戸惑いを見せる北斗に皐月が首を傾げている。

 

「お前なぁ」

 

 北斗は皐月を睨むように一瞥してため息を付く。

 

「大丈夫だぜ。ゆっくり慎重に飛ぶからな」

 

「でも、魔理沙さんを含めて二人乗せて飛んだことは無いんじゃ」

 

「いや、何度もあるから大丈夫だぜ。さすがに男を乗せたことは無いけど」

 

(それなのに、良いのか?)

 

 彼は首を傾げて静かに唸る。

 

 そして彼は観念して魔理沙の箒の後ろに跨る。

 

「言っておくけど、変な事したら容赦なく叩き落すぞ」

 

「さらっと恐ろしい事言わないでくださいよ」

 

 北斗は彼女の両肩に手を置こうとして寸前で手を引っ込む。

 

「大丈夫だって。何もしなければいいんだし」

 

「……」

 

 不安を覚えながらも彼は魔理沙の両肩に手を置き、しっかりと掴む。

 

「じゃぁ、しっかり掴まってろよ」

 

 彼女はいつもの要領で空を飛ばそうと魔力を込める。

 

 箒はゆっくり上昇して二人の両足が地面から離れて宙に浮かび上がろうする。

 

 

 

 

 だが直後、突然宙に浮かび上がろうとしていた箒は力を失って二人は地面へと戻る。

 

「……あ、あれ?」

 

 魔理沙は思わず首を傾げる。

 

 その後何度も飛ぼうとしたが、箒はうんともすんとも言わなかった。

 

「どうしたんですか?」

 

「お、おかしいな? さっきまで普通に飛べたのに」

 

 北斗が聞くと、彼女は慌てた様子で何とか飛ぼうとしていた。

 

 しかし箒はうんともすんとも言わなかった。

 

(な、何でだ!? 今までこんな事無かったのに!?)

 

 今までに無い状態に魔理沙は慌てていた。その上身体から言い知れない喪失感があり、より彼女の不安を煽る。

 

「……」

 

 

「わ、悪い、北斗。降りてくれないか?」

 

「は、はい」

 

 暗い声で魔理沙が言って、北斗は箒から降りると彼女も降りる。

 

「悪いな、北斗。どうも調子が良くないみたいだ」

 

「ハハハ……」と乾いた笑いを零す。その表情は明らかに落ち込んでいる。

 

「いえ、構いません」

 

 北斗は皐月の方を見る。

 

「皐月。短距離を移動するための手漕ぎ式のトロッコがあったよな」

 

「あぁそういえば。操車場にあったな」

 

「弥生に頼んでここに運んでくるように伝えてくれるか?」

 

「了解」

 

 皐月は敬礼してからすぐに操車場へと向かう。

 

「……」

 

 魔理沙はその後ろ姿を見ながら、複雑な気持ちを抱いていた。

 

 

 

 




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