東方鉄道録‐幻想の地に汽笛は鳴り響く‐   作:日本武尊

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第1区 幻想入り編
第01駅 異変の始まり


 

 

 

 物語の始まりは今から数ヶ月前に遡る。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 空がオレンジ色に染まり、辺りが薄暗くなり始めている住宅街。

 

「……」

 

 その住宅街の中にある道を一人の少年が歩いていた。

 

 日本人にしては珍しい青い瞳を持っている事以外は至ってどこにでも居るような普通の少年もとい霧島北斗は欠伸をする。

 

「あ~、かったるいなぁ」

 

 彼はそう呟きながらも、通っている高校から現在住んでいる寮への帰路に着いていた。

 

「来週から中間か。嫌だなぁ」

 

 嫌そうな表情を浮かべながらズボンのポケットに入れていた右手を出して頭の後ろを掻き、ため息を付く。

 

 彼は一部を除き、至って普通な高校生だ。だからこそ中間テストと言う試練を受けなければならない。

 まぁ、彼自身赤点を取ったことがないので、決して頭が悪いわけではないが。

 

 

 

 少し歩いて彼が通う高校の寮に着き、自分の部屋に入る。

 

「はぁ……」

 

 ため息を付きながら背中に背負っているリュックサックを椅子に下ろし、ちゃぶ台にコンビニで買った夕食が入ったビニール袋を置き、床に敷いている座布団に座り込むとちゃぶ台の上に置いているノートパソコンを開いて電源を入れる。

 

 電源が入るまでコンビニで買ったおにぎりを一つとお茶の入ったペットボトルをビニール袋から出し、ペットボトルの蓋を開けて一口お茶を飲む。

 

 

 電源が入ると彼はブラウザを開き、ゲームを起動させる。

 

 彼が起動させたゲームは『SLコレクション』と呼ばれる、その名の通りSLこと蒸気機関車を集めて自分だけの機関区を運営するオンラインのブラウザゲームである。

 ちなみに機関車は国ごとに分かれており、初期の段階で日本を含む六ヶ国が実装されていた。

 

 このゲームは随時機関車が追加されているが、一番の特徴は機関車のCGがまるで実物かと見紛うほど緻密であることだ。その上そのCGモデルの走行シーンも拘りに拘っているので、いよいよ本物かと錯覚するぐらいだ。

 とても無料で出来るゲームのクオリティーではないと話題になった。

 

 その上、資料の少ない機関車や、計画のみだった機関車を実装しているとあって、SLファンに絶大な支持を得ていた。

 

 彼は幼い頃、一緒に暮らしていた元国鉄の蒸気機関車の機関士であった祖父から色々な話を聞いて育ってきた。その為、大のSL好きである。

 バイトで稼いだお金の大半を蒸気機関車関連の品々につぎ込み、中学の時の京都への修学旅行でお寺参りそっちのけで鉄道博物館に直行するぐらいだ。

 

 特に日本のSLが好きなので、ゲームでは日本を選択してSLを集めて、自分だけの『霧島機関区』を作って運営していた。

 

 ちなみに編成は実装されている機関車の種類は全て揃えている。

 

 

 しかし、かなり限られた層のみに絞られたゲームだった為、SLファンからは評されたが、それ以外の層ではそれほど人気が出なかった。それに加えてCGモデルの緻密さが仇となってアップデートの頻度は遅い。その為未だに実装されていない機関車が数多い。むしろなぜ先にそんな機関車を実装したとツッコミたくなるような機関車を先に実装して、有名どころの機関車は後回しにされていた。

 その上、数が多いD51形はモデルの流用が効き易いのか、毎回別のナンバーと一部仕様変更で毎回実装されるので、デゴイチコレクションと言われてしまう始末。

 

 そしてサービス開始から一年で、遂にゲームのサービス終了が告知された。

 

 サービス終了の告知を見た北斗は大きくショックを受けて、しばらく落ち込んでいたそうな。

 

 で、今日はそのサービス終了の前日であった。

 

 

「今日でこのゲームも終わりか」

 

 北斗は画面内で貨車を多く連結した長編成の列車を引く重連のD51形二輌の姿を観ながら、しみじみと呟いてツナマヨ入りのおにぎりを食べる。

 

(惜しいよな。こんなに作りが良いのに)

 

 まぁその作りが良過ぎて逆にアップデートが遅かった原因を作ってしまったのだが。

 

「せめて、全部実装してから終わって欲しかったよな」

 

 まぁそうなると何年先になるのやら。

 

「……」

 

 北斗はため息を付くと、壁に立て掛けられている金属板を見る。

 

 黒地に金の縁を持ち、その中央に金色で『D62 20』と描かれていた。

 

 これは『D62形蒸気機関車』と呼ばれる機関車のラストナンバー機のナンバープレートである。

 

 D62形蒸気機関車とは、日本最強の貨物用機関車のD52形蒸気機関車を改良した機関車である。

 

 D52形蒸気機関車はその大きさと重量故に地盤の緩い路線に入る事が出来ず、入れる路線は限られていた。そこで軸重軽減をするために車軸配置を2-8-2のミカド形から2-8-4のパークシャー形に変更して、軸重を軽減している。

 まぁ改造して従輪を増加した分、重量が増えたので日本国産蒸気機関車の中で最重量の機関車になったが、うまく車軸配置を変えた事で重量を変えずに最大軸重を軽減した。

 

 従台車の二軸化によって原型機より振動が少なく、加速が良かったと乗務員から好評だったそうである。

 

 彼の祖父がかつてこのナンバープレートの持ち主の機関車の機関士をしており、解体時に業者から譲ってもらったそうである。祖父が亡くなった後は遺品として彼が所持している。

 

 そのナンバープレートの下にある台の上にはD51形蒸気機関車の模型が飾られていた。

 

 

「この機関車の走っているところ、見たかったな」

 

 彼はそう呟きながら、お茶を飲む。

 

 まぁ一応D62形が走っている映像は残っているし、鉄道模型もあるので、見ようと思えば見れるが、ゲーム内の映像でこそ見てみたい気持ちがある。

 

「……」

 

 深くため息を付き、財布と一緒に置いている神社でよく売っている様な形をした、古びたお守りを見る。

 

(そういえばあの人、何をしているんだろうな)

 

 ふと彼の脳裏に思い出される、まだ祖父と暮らしていた幼い頃に遊んでいた公園に設置されていた蒸気機関車の傍にいつも居た女性の姿が思い浮かぶ。

 

 その女性は蒸気機関車を含む鉄道のことなら何でも知っており、公園にあった機関車についても詳しく教えていた。

 

 その後一緒に暮らしていた祖父が亡くなって親戚の家に預けられる事になって引っ越す際に、女性は別れ際にそのお守りをくれた。

 

 何でも特別な金属片を入れた手作りのお守りで、持っていればいつか彼の役に立つと言っていた。

 

 彼はその女性の言う事を聞いて、ずっとそのお守りを持っていた。

 

 といっても、あれから何かがあったかと言うと、何も無かった。むしろ災難ばかりが降りかかったが。

 

(まぁ、もう会う事も無いだろうし、気にしても無駄か)

 

 あれからずっと女性とは会っていない。もう会うことも無いだろう。

 

 彼はため息を付き、ゲーム画面からインターネットの画面を開いて蒸気機関車に関する情報を見る。

 

 

 

「あっ!!」

 

 するととある項目を見て思わず声を上げてすぐさま項目をクリックしてページを開く。

 

「そうだった! 週末にこの近くで機関車が走るんじゃないか!!」

 

 それはイベントで動体保存されている機関車が出張で近くの路線を走ると言う情報であった。

 

(なんたる不覚!! こんな大事なイベントを忘れるなんて!!)

 

 頭を抱えて彼は悔しそうに額をちゃぶ台に付ける。

 

 大げさな気がするが、彼からすれば一大事な事である。

 

 他にも問題があるはずだが、彼はそんなのそっちのけで自分の趣味を優先するのだった。

 

 彼はすぐに座布団から立ち上がると着替えを持って風呂場へと向かう。

 

 

 その後彼は風呂に入り、しばらくゲームをしてからテストに向けて勉強をして、寝る前にゲームをしてその最期を見届け、彼は週末に向けて準備をして就寝した。

 

 

 

 

 お守りから僅かに光が漏れだしたとも知らずに。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 場所は変わって幻想郷。

 

 

 時間は真夜中であり、この時間では夜に活動する妖怪以外は寝静まっており、博麗神社も例外ではない。

 

 

 

 そんな真っ暗な中、鈴虫やコオロギといった虫の鳴き声が心地よく博麗神社の境内に響いていた。

 

「……」

 

 そんな中、境内にある自宅の自室で寝ていた博麗霊夢は目を覚ます。別に虫の鳴き声が気になって眠れないわけではない。

 

 ゆっくりと起き上がった彼女は自室を出て居間へ移動する。

 

 居間には壁にもたれかかってスリープモードになって眠っているる~ことと、鳥篭の中に最近住み始めた居候の小人の姿があった。

 

 霊夢はその傍を通り過ぎると、窓を開けて外を見る。

 

 人工的な光がほとんど無い幻想郷では夜空に浮かぶ星がより一層綺麗に輝いていた。

 

 そんないつもと変わり無い光景だったが、今回ばかりは違っていた。

 

(この音……何かしら)

 

 殆どの者が寝静まった幻想郷に、虫の鳴き声とは違う、奇妙な音が響いていた。

 

 

 笛の様な音だが、どことなく悲しく、儚い……そして不安を煽るような、そんな音色だ。

 

 

「……」

 

 今までこんな音を聞いた事が無い霊夢は目を細める。

 

 そして博麗の巫女としての勘が、警鐘を鳴らしているのだ。

 

『何かが起こる』……と。

 

 歴代の博麗の巫女の勘は鋭く、よく当たっていた。彼女も例外ではなく、むしろ歴代で最も勘が鋭かった。

 

 だからこそ、確実にこの幻想郷に何かが起こると言えた。

 

「……」

 

 霊夢はため息の様に息を吐き、窓を閉めて自室へと戻った。

 

 

 

 

 

 直後、まるで蒸気機関車の汽笛のような猛々しくも低い音が誰にも聞かれること無く、幻想郷に響き渡った。

 

 

 

 一体それが何を意味しているのか……

 

 

 

 

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