東方鉄道録‐幻想の地に汽笛は鳴り響く‐   作:日本武尊

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新年、明けましておめでとうございます。今年も本作をよろしくお願いします。


第19駅 疑惑と悩みと想定外

 

 

 

「……魔理沙」

 

「ん?」

 

 トロッコの所へ戻る中、アリスは隣を歩く魔理沙に声を掛ける。

 

「実際の所はどうなの?」

 

「え? いきなりなんだよ?」

 

「惚けないで。運動の為なんて嘘。別の理由があるんでしょ」

 

「な、何のことだよ」

 

 アリスに問われて魔理沙は見るからに狼狽する。

 

「相変わらず分かりやすい反応ね」

 

「……」

 

「で、どうなの?」

 

「……」

 

 魔理沙は後ろを少し間を空けて歩いている北斗を気付かれないように一瞥してから、ため息を付く。

 

「……飛べなくなったんだよ」

 

「え?」

 

「急に、飛べなくなったんだよ」

 

「……」

 

「こんな事、今まで無かったのに、なんで……」

 

 魔理沙は見るからに落ち込んだ雰囲気を醸し出す。

 

「……本当に、魔法が使えなくなったの?」

 

 さすがのアリスも友人の見た事の無い姿に戸惑いを隠せなかった。

 

「いや、今は使えるんだ。何でか知らないけど、一時的に使えなくなったんだよ」

 

 魔理沙は右手を広げて掌を上に向けると、虹色に輝く光の弾が出てくる。

 

「……」

 

「あんまり人のせいにしたくないけど」

 

 彼女はチラッと北斗を見る。

 

「彼が関係しているの?」

 

「私もよく分からない。けど、あいつを箒の後ろに乗せて、肩を持たせてから飛ぼうとした直後、急にな」

 

「あなた、よくそんな事を軽々と……」

 

 アリスは遠慮の無さと言うか、自覚の無い彼女の行動に頭を抱える。

 

「でも、あなたの推察は、多分違うわよ」

 

「えっ?」

 

 しかしアリスは魔理沙の推察を否定する。

 

「もしあなたの言う通りなら、あの時彼に撫でられた上海と蓬莱は動かなくなって床に落ちているわよ」

 

「あっ……」

 

 アリスの指摘に、魔理沙は声を漏らす。

 

「ただ単に、調子が悪かっただけじゃないの?」

 

「……そう、なのか?」

 

 魔理沙は腕を組み、唸りながら首を傾げる。

 

(と言っても、そう言い切れるわけじゃないけど)

 

 アリスは内心呟く。

 

 もしかしたら何らかの理由でその時だけ何も起こらなかっただけかもしれない。

 

 まぁ、ただ単に魔理沙の調子が悪かった。それなら特に心配することは無いのだが。

 

(やっぱり、ただの外来人ってわけじゃなさそうね)

 

 彼女は北斗を一瞥する。

 

 

 

 そうこう言っている内に三人はトロッコの所へと戻ってくる。

 

「これでここまで来たの?」

 

「はい。まぁ元々は線路の点検に使うやつですから、長い距離を走るやつじゃありません。と言っても、諸事情で機関車が使えなかったので代わりに」

 

「それで魔理沙があんなに汗を掻いていた訳ね」

 

 彼女はため息を付く。

 

 その間にも北斗は車輪止めを外してトロッコにスコップと一緒に載せると、トロッコに乗り込む。それに続いて魔理沙も上る。

 

「少し揺れますが、我慢してもらえますか?」

 

「別に構わないわ」

 

 北斗はトロッコ中央の手漕ぎ装置の右側に空いている床をボロ布で汚れとごみを拭き取り、そこにアリスが腰掛ける。

 

 そして北斗と魔理沙はハンドルを漕いでトロッコを前進させる。

 

 

 

 この時、誰かが三人の様子を遠くから見ていた……

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 所変わって幻想機関区。

 

 

「……」

 

 操車場で客車や貨車の入れ替え作業を行っている七瀬はゆっくりと79602号機を前進させて客車三輌を転轍機で方向を変えた別の線路へと運ぶ。

 

 ゆっくりと前進させていると、客車の先頭左側にある足掛けに足を乗せて右手で手すりを掴んでいる妖精がもう片方の手に持つ緑旗を横に突き出して旗を靡かせていると、次第に向こうにある他の車輌との距離が縮まりつつあり、妖精は客車から降りて緑色の旗を振るう。そして赤い旗に持ち替えて旗を振るう。

 それを確認した七瀬が加減弁を閉じてブレーキを掛け、ゆっくりと停止させる。

 

 目的の線路へと客車を運び終えると、妖精達が機関車前方の連結器と客車の連結器を外し、それを知らせる為に妖精が緑旗を振るい、それを運転室の窓から身体を出して確認した七瀬がギアの位置を確認してからブレーキを解き、汽笛弁の紐を一瞬引いて短く汽笛を鳴らし、加減弁のハンドルを引く。

 79602号機はゆっくりと後退して操車場から出ると、給炭設備がある所まで移動して停車する。

 

 七瀬が運転室から降りると、機関助士の妖精が焚口戸を開き、火室にある火格子を開けて火室に溜まった灰を火掻き棒を使って灰箱へと落とす。 

 

 外で七瀬が棒を使って灰箱を叩くと、まだ赤くなっている灰が一気に線路の間にある隙間に落とされ、水が掛けられて水蒸気が上がる。

 

 炭水車の上では給炭設備から石炭が落とされて積み上げられていく。その間に給水器から伸びるホースから水を炭水車のタンクに注ぐ。

 

 

「おつかれさまです!」

 

 と、隣の線路にB20 15号機が後進して入ってくると停車し、運転室から弥生が出てきて敬礼する。

 

「おつかれ。大分片付いたわね」

 

「はいです」

 

 二人は操車場を見渡しながら会話を交わす。

 

「しかし、やっぱり私達だけだと、キツイですね」

 

「そうね」

 

 七瀬は浅くため息を付く。

 

 以前まではタンク型機関車を中心とした入れ替え用の機関車は多く、車輌の入れ替え作業は捗っていた。その中には企業への救済処置的な感じで急遽設計されて製造された感が強い機関車や、THE迷で不幸な機関車、一風変わった入れ替え用のD51形とか、変わり種の機関車もあった。

 

 だが、今はそれらの機関車は無く、七瀬の79602号機と弥生のB20 15号機のみだ。作業効率が極端に低下したのは言うまでも無い。だから、彼女達への負担が大きかった。

 そのせいか、元々からハイライトの無い七瀬の目がより一層死んでいるように見える、ような気がする。

 

「せめて一輌、欲を言えば三輌欲しいですよね」

 

「まぁ、それが理想的なんでしょうけど、無い物を強請っても仕方ないわ」

 

「ですよね」

 

 弥生は深くため息を付く。

 

 

 

 すると汽笛の音が彼女達の耳に届く。

 

「あっ、水無月さんが戻って来たです」

 

「えぇ。もう一仕事ね」

 

「はいです!」

 

 二人はそれぞれの機関車の運転室に戻ると、いつでも動けるように準備する。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 所戻って魔法の森。

 

 

 北斗、魔理沙、アリスの三人を乗せたトロッコは魔法の森の中に敷かれたレールの上をゆっくりと進んでいた。

 

 

「確かこの辺りだったはず」

 

 ハンドルを漕ぎながら魔理沙は周囲を見渡す。

 

「それにしても、まさか少し見ない内にこんな物が森の中にあったなんて」

 

 アリスは左の方に視線を向けて線路を見る。

 

「魔法の森だけではなく、幻想郷中に線路があるようです」

 

「そんなに?」

 

「そうだぜ。早苗の話じゃ、妖怪の山にもあるんだってよ」

 

「……」

 

 魔理沙の言葉にアリスは考え込むように顎に手を当てる。

 

「確かこの辺だったよな」

 

 と、魔理沙は周囲を見渡す。

 

 

「っ! あれは!」

 

 そして北斗の視界に、線路の上で静かに佇んでいる蒸気機関車の姿が映った。

 

 魔理沙とアリスも前を見て蒸気機関車の姿を捉える。

 

 二人は漕ぐのをやめると、北斗はすぐにブレーキレバーを引いてトロッコを止めてから降りる。

 

 魔理沙は箒を持ってトロッコから降り、それに続いてアリスもトロッコから降りてお尻付近のスカートの表面を叩いてごみを落とす。

 

 北斗は走って蒸気機関車に近付き、目の前で立ち止まって見上げる。

 

「これが蒸気機関車なの?」

 

「そうだぜ」

 

 その後ろで魔理沙とアリスの二人も蒸気機関車を見る。

 

「……『C56形蒸気機関車』」

 

 彼はボソッとその名前を口にして、C56形蒸気機関車の連結器に触れる。

 

「その後ろにもう一つあるぜ」

 

「後ろに?」

 

 北斗はC56形蒸気機関車を迂回してその後ろを見ると、もう一輌の蒸気機関車があった。

 

「こっちは『C12形』じゃないか」

 

 すぐにそのタンク型蒸気機関車がC12形蒸気機関車であると彼は察した。

 

「大きいわね」

 

 アリスはC56形蒸気機関車を見上げながら呟く。

 

「これでも小さい方ですよ」

 

「こんなに大きいのに?」

 

 彼女は驚いたような様子を見せる。

 

「そうだぜ。北斗の居る幻想機関区にはもっと大きな蒸気機関車があるんだぜ」

 

「へぇ」

 

 二人が会話をしている中、北斗はC56形とC12形の足回りを検査を行い、運転室内の状態を見ていた。

 

(見た所、状態は良さそうだな。専門家じゃないからどうこう言えないが)

 

 内心呟きながらC12の運転室から降りる。

 

 外見は室内で保存されて極めて保存状況が優れ、常に整備されている保存機関車並みに綺麗だったが、見た目は綺麗でも中まで状態が良いとは限らない。

 

「でも、ナンバープレートが無いから、何号機までかは分からないな」

 

 しかし二輌の機関車は共になぜか形式と何番目に作られたかを示すナンバープレートが無かった。その上足回りの部品に刻まれているはずの刻印も無かった。

 

 その為、どの個体かを判別するのは出来なかった。

 

(でも、小型の機関車が増えるのは助かるな)

 

 北斗は内心機関車が増える事に喜びがあった。

 

 ただでさえ幻想機関区にある機関車はその殆どが大型だ。その上入れ替えに使う機関車が不足しているので、七瀬と弥生に大きな負担となっていた。

 その上二輌共B20と違って長距離と走られる性能があるので、使い勝手がいい。

 

 何より、蒸気機関車が好きな彼からすれば、蒸気機関車が増えるのは正に喜ばしいことだった。

 

(後で明日香達の誰かに来てもらって運んでもらうか)

 

 すぐに運んでもらい、整備工場で整備すれば動かせるだろう。しかし当然目に見えない範囲で痛みがあるだろうから、すぐに戦力化とまでは行かないだろう。

 まぁ、外で野ざらしに放置されている保存機関車を修復するわけじゃないから、大分マシな方だが。

 

 

「ん?」

 

 ふと、C12形蒸気機関車を見ていた北斗はその後ろに続く線路に視線を向けると、首を傾げる。

 

「どうしたんだ?」

 

 北斗の行動に魔理沙が声を掛ける。

 

「あの、魔理沙さん」

 

「なんだぜ?」

 

「魔理沙さんが見た蒸気機関車は、この二輌だけなんですよね」

 

「そうだぜ」

 

「では、あれは一体……」

 

「え?」

 

 北斗が指差す方向に魔理沙が見ると、「え……」と声を漏らす。

 

「どうしたの?」

 

 アリスも二人の視線の先を見ると目を見開く。

 

 

 なぜなら、大分離れた場所に、もう一輌の蒸気機関車があったからだ。

 

「な、何でだ!? 昨日あそこには無かったはずだぞ!?」

 

 魔理沙は驚きながらもその蒸気機関車の前まで歩く。

 

「これは……」

 

 北斗はその蒸気機関車の前まで来て立ち止まって見上げ、それから周りを見る。

 

「これ、前にある蒸気機関車と似ているわね」

 

 アリスはその蒸気機関車を見ながら呟く。

 

 C12形と違って除煙板(デフレクター)が取り付けられたタンク型蒸気機関車だが、大きさはC12形より少し大きいし、車体にはリベットが打ち付けられている。しかし前の二輌と違い、ナンバープレートが取り付けられていたので形式も何号機かも分かった。

 

 

 

「『C10形蒸気機関車』……その17号機か」

 

 北斗はその蒸気機関車、国産のタンク型蒸気機関車であるC10形の17号機を呟く。

 

 第一次世界大戦後の日本は不況に陥り、輸入されたタンク型機関車はどれも能力不足な上老朽化して代替する必要があった。しかし不況の影響もあって、経済性や効率性を求められ、その結果開発されたのがこのC10形蒸気機関車だ。

 しかし軸重ややや重かったとあって、その後は軽量化したC11形蒸気機関車が増備される事となった。

 

 尚現在はC10形の8号機だけが動態保存されている。

 

 しかし本来C10形は除煙板(デフレクター)を標準装備していないが、この17号機は除煙板(デフレクター)を取り付けている貴重な個体である。

 

「でも、何で前の二輌と違って、これだけナンバープレートが」

 

 北斗は首を傾げながらC10 17号機を見て、連結器に触れる。

 

 

「っ!?」

 

 すると脳裏に電撃が走るような感覚がして、北斗は顔を顰めて後ろに数歩よろめくように下がる。

 

「北斗!?」

 

 魔理沙はとっさに倒れそうになる北斗を支える。

 

 するとC10 17号機の目の前に光が集まり出す。

 

「っ!」

 

 アリスはとっさに身構えて臨戦体勢を取る。

 

 

 そして集まった光は人の形を形成していき、やがて光が晴れてそこに一人の少女の姿が現れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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