東方鉄道録‐幻想の地に汽笛は鳴り響く‐   作:日本武尊

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第20駅 幻想郷に訪れる者

 

 

 

 

「あ、あれは……」

 

 魔理沙に支えられながら、北斗はC10 17号機の前に現れた少女を見る。

 

 背丈はアリスと同じぐらいの高さで、髪の色は黒く背中まで伸びているのを一本結びにしており、瞳の色は黒。顔つきは整っているものも、どことなく芋っぽい。

 彼女が着ているナッパ服の左胸付近に『C10 17』と書かれたバッジを付けている。

 

「……」

 

 少女はゆっくりと目を開けると、周囲を見渡す。

 

「ここは、どこ?」

 

 声を漏らした彼女はハッとして自分の手を見る。

 

「えっ!? どうして私、人間の身体を!?」

 

 少女は驚いた様子で自分の顔や身体を触り、ハッとして後ろを見る。

 

「わ、私が居る!? 何で、どうして!?」

 

  

 

「なぁ、これって」

 

「えぇ。恐らくは」

 

 混乱した様子の少女を北斗と魔理沙は見ていた。

 

「あの子って、何なのかしら?」

 

 アリスは少女を見ながら首を傾げる。

 

「恐らくですが、あの子はあの蒸気機関車の神霊でしょうね」

 

「神霊?」

 

「ってことは、お前ん所の蒸気機関車のあれと同じか?」

 

「えぇ」

 

「やっぱりそうか」

 

 魔理沙は納得したように頷く。

 

「ねぇ、どういう事なの?」

 

 話に付いて行けないアリスは声を掛ける。

 

「あぁ、アリスは知らないんだっけな。北斗の所に蒸気機関車の他に、その蒸気機関車の神霊が居るんだよ」

 

「蒸気機関車の神霊? 九十九神みたいなものかしら?」

 

「まぁそうだな。あの唐傘おばけや九十九姉妹みたいなもんだな」

 

「ふーん」

 

 二人が話している間に北斗は少女の元へと向かう。

 

 

「君、ちょっといいか?」

 

「え?」

 

 北斗は混乱している『C10 17』のバッジを付けた少女に声を掛けると、彼女は後ろを振り向く。

 

「あ、あなたは?」

 

「俺は幻想機関区の区長を勤める霧島北斗と言う」

 

「機関区の、区長さんですか?」

 

「あぁ。君は、C10形の17号機だな?」

 

「は、はい。そうですが、どうしてそれを?」

 

 少女は戸惑いながら首を傾げる。

 

「機関区に君と同じ蒸気機関車の神霊が居るんだ」

 

「私と、同じですか?」

 

「そうだ」

 

「私と同じ……」

 

 少女は少し俯いて呟く。

 

「色々と悩むだろうが、君に頼みたいことがあるんだ」

 

「私にですか?」

 

「あぁ。その前に聞きたいんだが、今のもう一人の自分の状態は分かるか?」

 

「え? あっ、はい。分かります」

 

 少女はすぐに自分の半身を見る。

 

「火は落ちていますが、今から火を入れて圧を上げれば動かせます。しかし、足回りに油を注していないので、早くは走れませんが」

 

「十分だ。目を覚まして早速ですまないが、前にある機関車を運ぶ為に協力してくれるか?」

 

「は、はい! 分かりました!」

 

『C10 17』のバッジを付けた少女は敬礼をすると、運転室に向かう。

 

「話は付いたのか?」

 

「はい。彼女の機関車を使って前の二輌の機関車を運びます」

 

 魔理沙が北斗に声を掛けると、彼は振り返って答える。

 

「それでですね、二人にお願いがあるんですが」

 

『お願い?』

 

 北斗のお願いに、二人は揃って声を漏らして首を傾げる。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 所変わって幻想郷の某所

 

 

「ここが博麗の巫女の居る幻想郷か」

 

 幻想郷を見渡せる高所に、一人の少女が幻想郷を見渡しながら呟く。

 

(ふむ。人間や妖怪達が住む所を聞いていたが、中々悪くないな。これならしばらく居ても問題にはならないな)

 

 少女は高所から降りて地面に降りると、ゆっくりと歩き出す。

 

 

 

 しばらく歩いて少女は平原に出るも、その進む速度は変わらない。

 

 道中野良妖怪が少女に襲い掛かろうとするも、どれも少女の姿を見た瞬間突然金縛りにあったかのように動きを止め、やがて顔色が真っ青にして身体を震わせ、逃げていった。

 

(さて、幻想郷に来たは良いが、どこで時間を潰そうか)

 

 彼女は何も無い平原を見渡しながら内心呟く。

 

(博麗の巫女の世話だけにはなりたくないが、当てがある訳じゃないからな)

 

 少女は顎に手を当てて静かに唸る。

 

 

 少女は幻想郷とは異なる世界に住む存在で、双子の姉が居る。だが、その姉のスキンシップが最近度が過ぎ始めていた。決して姉の事が嫌いではないのだが、さすがに彼女も鬱陶しく思い始めて、しばらく姉と距離を置く為にこの幻想郷にやって来た。

 

 しかし来たは良いが、この幻想郷に住む為の当てがあるわけではないので、それに困っていた。

 

 知り合いと言うか、顔見知りなのは当時異変解決の為に少女が住む世界にやって来た博麗の巫女と人間の魔法使いぐらいだ。

 で、その二人とは姉と共に一戦を交えた。

 

 その時に彼女は博麗の巫女に苦手意識に近い感情を抱くようになっており、出来るなら関わりたく無いのだ。だからこの幻想郷に来る時も博麗の巫女の住む神社近くに出たので、彼女の生きてきた中で一番見つからないようにこっそりと神経を使って入ってきたのだ。

 当然その時の魔法使いとも関わりたく無い。

 

 

(さて、どうしたものか)

 

 少女はため息を付き、平原に盛り上がった丘を登り切る。

 

「ん?」

 

 丘を登り終えた彼女は、目の前に広がる光景に声を漏らす。

 

 彼女の金色の瞳の視界に広がるのは、平原に広がる幻想機関区の姿だった。

 

「なんだ、これは」

 

 幻想郷の景色から浮いている光景に、少女は首を傾げる。

 

 ふと、その幻想機関区から地面に敷いて伸びている物が見える。

 

「なるほど。あれはここから伸びているのか」

 

 納得したように彼女は頷く。

 

「……」

 

 興味を持った少女は幻想機関区に向かって歩き出す。 

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 所は戻り、時は少し下った魔法の森。

 

 

 

 先ほど北斗達が見つけたC10 17号機は、煙突から煙が出てきてその後ろにあるコンプレッサーからは蒸気が一定の間隔で噴射されている。

 

 

「……」

 

 北斗は燃え盛る火室へ片手スコップで救った石炭を放り込むと、焚口戸を閉じて蒸気圧を確認する。

 

「区長。ここまで圧が上がれば、いつでもいけます」

 

「そうか」

 

『C10 17』のバッジを付けた少女が圧力計を確認して頷くと、北斗は片手スコップを後ろにある置き場に差し込む。

 

「魔理沙さん。準備が完了しました!」

 

 運転室から上半身を出して外で待っていた二人は顔を上げる。

 

「やっとか。待ちくたびれたぜ」

 

 魔理沙は後頭部に両手を組んで不満げに声を漏らす。

 

「すみません。でも、二人のお陰で予想より早く立ち上がりました」

 

「ありがたく思うんだぜ」

 

「でも、まさか火起こしに私達の魔法を使うなんて」

 

「それ以外に火がありませんからね」

 

 北斗は苦笑いを浮かべる。

 

 こんな森の中でどうやって火を見つけたかと言うと、彼はアリスと魔理沙の二人に頼んで魔法で火を起こしてもらったのだ。

 

 幸い石炭はC10 17号機に積まれていたのがあったので、火力を上げるのに困らなかった。まぁさすがに火を起こす時は燃え易い木材を使ったが。その木材はアリスに頼んで家にある薪を分けてもらった。

 その際北斗が走ってアリスの家に向かった。

 

「それにしても、予想よりも早く立ち上がれました。普通蒸気機関車の立ち上げには3時間から4時間掛かりますからね。まぁ罐の大きさや火の調子次第で時間は変わってきますが」

 

「意外と大変なのね」

 

「はい」

 

 蒸気機関車はその性質上立ち上がりが遅い。火室に火を起こしてボイラー内の水が沸騰して蒸気を発生させるまでに時間が掛かり、その上ボイラー内に蒸気が溜まるのにも時間が掛かる。

 その為、現役時代では検査以外では火の番が見張って火を落とさないのだ。それに火を起こしたり、落としたりするとボイラーに悪い。

 

 今回の場合は魔法の火力が高かったこともあって、予想以上の早さで立ち上げることが出来た。

 

「それにしても、結構熱があるんだな」

 

 魔理沙はC10 17号機から発せられる熱に顔を顰める。

 

「そりゃそうですよ。運転室はもっと暑いですよ」

 

「マジかよ」

 

 彼女はゲッと露骨に嫌そうな表情を浮かべる。

 

「我慢してください。帰りはトロッコを漕ぐ必要がありませんから」

 

「そりゃそうだろうけど」

 

 そう呟きながら彼女は静かに唸る。

 

 北斗は一旦運転室から降りて前方にあるC12形とC56形のブレーキが掛かっていないのを確認して、連結器も開いているのを確認し、トロッコにもブレーキが掛かっていないのを確認してから戻り、C10 17号機の運転室付近の手すりを掴んで上る。

 運転室では機関士席に『C10 17』のバッジを付けた少女が座り、機関助士席に魔理沙が座っていた。

 

「出発だ。誘導するから頼むぞ」

 

「分かりました」

 

『C10 17』のバッジを付けた少女が頷くのを確認してから彼は再び降りてC10 17号機の前まで歩く。

 

 その様子をアリスが離れたところで見守る。

 

 北斗が両手を使って手招きし、それを確認した少女はブレーキを解いて汽笛弁のロッドを短く引くと、5室汽笛から3室汽笛っぽい高めの音色が汽笛から発せられる。

 彼女は前を見ながら加減弁を引いてゆっくりと機関車を前進させる。

 

 北斗はC12形とC10形の距離を確認しながら後ろに下がり、手招きをして誘導する。

 

 そして連結器と連結器が目と鼻の先まで接近した所で両手を広げて前に出し、一旦機関車を止める。

 

 停車を確認後再度前進の合図を送ると、少女は汽笛を短く二回鳴らして機関車を前進させ、C12形と連結する。

 

 ちゃんと連結した事を確認した後、C12形とC56形の車間距離と連結器が開いているのを確認すると、少女に前進を合図して直後に汽笛が短く二回鳴り、ゆっくりと前進する。

 そしてC12形とC56形の連結器の距離が縮まって、連結する。

 

 しっかり連結したのを確認後、北斗はトロッコの元へと向かうと、トロッコをC56形の前まで移動させてアリスの元へと向かう。

 

「アリスさん。協力してくれてありがとうございます」

 

「構わないわ。興味深いものも見れたし」

 

 アリスは微笑みを浮かべる。

 

「それでは、またどこかで」

 

「えぇ。機会があれば、また」

 

 北斗は敬礼すると、C10 17号機の運転室に戻る。

 

「それじゃ、出発だ。速度はなるべく出さずにな」

 

「分かりました」

 

 彼の指示を聞き、少女は頷く。

 

「ん? 思い切って走らないのか?」

 

 魔理沙は後ろを振り向いて首を傾げる。

 

「しばらく放置されている以上、足回りの油が切れている可能性がありますからね。下手に速度を出して走らせると足回りの軸焼けを起こす可能性があります。それにこの機関車も足回りに油を注していないので、早く走れません」

 

「ふーん? よく分からないけど、大変なんだな」

 

 彼女は首を傾げる。

 

 その間にも北斗は片手スコップを手にして石炭を掬うと、焚口戸に繋がっている鎖を手にして戸を開け、火室に石炭を放り込む。

 

 それを数回繰り返した後、注水器を回してボイラーに水を送り込む。

 

 準備が整ったのを少女に伝えると、彼女は「出発進行!」と号令を出してブレーキを解き、汽笛弁のロッドを引いて汽笛を鳴らし、加減弁を引いてC10 17号機が煙突から煙を吐き出しながらC12形とC56形、トロッコを押して前進する。

 

 

 

 

 

 




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