東方鉄道録‐幻想の地に汽笛は鳴り響く‐   作:日本武尊

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第21駅 新戦力と来客

 

 

 

 

 

 C56形とC12形を押してゆっくりと走るC10 17号機が押す回送列車は魔法の森の中を走り、幻想機関区に向かって走っていた。

 

 北斗は焚口戸を鎖を持って上に上げて戸を開けると、もう片方の手に持つ片手スコップに乗せた石炭を火室へと放り込む。それを数回繰り返してスコップを置き場に戻す。

 

「へぇ。蒸気機関車に乗るとこんな感じなんだな」

 

 運転室の機関助士席に座り、魔理沙は窓から身体を乗り出して前を見ていた。

 

「今回は速度を出していませんが、速い時は速いですよ」

 

「そうなのか」

 

 魔理沙は聞きながら景色を見ていた。

 

「しっかし、暑いなぁ。北斗たちは常にこんな暑さの中でやっているのか?」

 

「えぇ。平時でも40度ぐらいは越します」

 

 そう言いながら北斗は上着の袖で額から出る汗を拭う。

 

「マジか。よく我慢できるな」

 

 魔理沙は半ば呆れた様子で声を漏らす。

 

 

 

 しばらくして魔法の森を抜けた回送列車は平原へと差し掛かる。

 

「ここで止めてくれるか?」

 

「分かりました」

 

 北斗は少女に止まるように指示を出し、C10 17号機はゆっくりと停止する。

 

「今回は案内してくれてありがとうございました」

 

「礼はいいぜ。偶々だったし」

 

 魔理沙はニッと笑みを浮かべると、箒を持って運転室から降りる。

 

「じゃぁな!」と魔理沙は箒に跨って後ろを振り向いて北斗に手を振り、それから空へと飛んでいく。

 

 北斗は彼女を見送った後、少女に出発するように指示を出し、汽笛が鳴るとまるで三重連しているような回送列車が再び幻想機関区へと向かって出発する。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 所変わり博麗神社。

 

 

「……」

 

 険しい表情を浮かべた霊夢は社の前で空を見上げている。

 

(あの時の気配。何だったのかしら)

 

 少し前に言い知れない気配を感じた彼女は周囲を捜索したものも、すぐに気配は消えてしまい、神社に戻ってきた。

 

(でもあの邪悪な気配。まさかと思うけど)

 

 霊夢はその気配を知っていた。そしてその気配の持ち主が、どれだけの実力を持っているのかを。この幻想郷にどれだけ脅威な存在かを

 尤も、脅威なのは条件付きでだが。

 

(だとしても、今更何をしに)

 

 とは言えど、幻想郷を管理する役職柄、決して放っておけない存在だ。

 

(まぁ、あいつが何をするにしても、退治すれば良い話。決して侮れない相手だけど、あの時とは違うわ)

 

 霊夢は内心呟く。

 

 

 

「おーい、霊夢!!」

 

 と、空から知り合いの声がして彼女は声がした方に視線を向けると、箒に跨った魔理沙が飛んできた。

 

「あら、魔理沙じゃない」

 

 霊夢はいつものように彼女を出迎える。

 

「どうしたんだ? いつもよりピリピリしてんじゃないか」

 

 しかしそこは長い付き合いの親友とあって、魔理沙は霊夢がいつもよりピリ付いているのに気付く。

 

「別に。ちょっと調べ事をしていただけよ」

 

「ふーん」

 

 魔理沙は疑わしい視線を向けるも、気にしなかった。彼女が正直じゃないのはいつもの事だ。

 

「で、何の用なの?」

 

「あぁそうだったぜ。ちょっと霊夢に聞きたい事があるんだぜ」

 

「聞きたい事?」

 

 首を傾げる霊夢に魔理沙はさっき自分が体験した事を伝える。

 

 

 

「能力を封じられた?」

 

「あぁ。確証は無いけどな」

 

 霊夢は険しい表情を浮かべる。

 

「でも、アリスの人形に触れても何にも無かったからな」

 

 魔理沙は「うーん」と腕を組んで唸る。

 

「北斗が魔理沙に触れた直後に飛べなくなったのよね」

 

「あぁそうだぜ」

 

「でもアリスの人形に触れても、動かなくなったわけじゃない」

 

「うん」

 

「……」

 

「どう思う?」

 

 魔理沙が声を掛けるも、霊夢の表情は険しいままだ。

 

「ただの偶然じゃないのかしら?」

 

「お前もかよ! アリスも同じことを言ったんだぜ!?」

 

 しばらくして霊夢が言葉はアリスと同じものであって、魔理沙は不満げだった。

 

「いくらなんでも、それだけで決め付けるのは彼が不憫すぎるわよ」

 

「うぐっ……」

 

 痛い所を突かれて魔理沙は返す言葉が無かった。

 

「それに、私が触っても、なんとも無かったわよ」

 

「そ、それはそうだけど」

 

 霊夢に言われて魔理沙は何も言い返せなかった。

 

 確かにあの時霊夢は高額な賽銭を入れてくれた北斗の手を取っていた。

 

「ってか、あの時は霊夢あの後何もしなかったじゃないか」

 

「だからよ。もし私に何かあったら、結界になんらかの異常がある―――」

 

 すると霊夢は途中で口を閉じる。

 

「霊夢?」

 

 突然黙り込む彼女に魔理沙は首を傾げる。

 

「……もしかして、あの時に」

 

 霊夢は小さく呟く。

 

「……そういえば、確かめて無かったわね」

 

「何をだ?」

 

「北斗の、能力よ」

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 所変わって幻想機関区。

 

 

 

 転車台に乗せられたD51 603号機の運転室で水無月は逆転機を回してギアをバックに入れて、妖精が安全を確認して緑の旗を振っているのを確認して汽笛弁を引くロッドを引いて汽笛を短く鳴らし、加減弁を引いて機関車を後進させる。

 

 ゆっくりと機関庫へと機関車を入れると、加減弁を戻してブレーキを掛けてD51 603号機を機関庫内で停止させる。

 

「ふぅ……」

 

 水無月は一息吐くと、運転室を降りて機関庫の外に出る。

 

「お疲れ」

 

 機関庫の外に出ると、皐月が待っていた。

 

「お疲れさまです」

 

 水無月は皐月に頭を下げる。

 

「どうだった?」

 

「特に問題は無かったです。後調べるのは妖怪の山にある線路だけですね」

 

「妖怪の山か」

 

「ふむ」と皐月は腕を組む。

 

「ところで、区長はどちらに?」

 

 水無月は周囲を見回しながら皐月に問い掛ける。

 

「区長なら、白黒に連れられて魔法の森に向かった」

 

「白黒?」

 

「あの時私達を異変の犯人扱いした連中の一人だよ」

 

「あぁ、あの時の」

 

 水無月は納得したように頷く。

 

「でも、どうしてそんな所に?」

 

「何でもあの白黒が機関車を見つけたって言ったんだ」

 

「機関車を?」

 

「それも二輌もな」

 

「二輌も……」

 

 彼女は驚きの表情を浮かべる。

 

「それを確認する為に区長は白黒に案内してもらって向かったんだよ」

 

「でも、区長の罐はありますけど」

 

 水無月な機関区に収まって妖精達によって整備を受けているD62 20号機を見る。

 

「水無月がまだ走っていたから、トロッコに乗っていったよ」

 

「と、トロッコで」

 

 彼女は苦笑いを浮かべる。

 

 

 

「ん?」

 

 すると二人の耳に汽笛の音が届く。

 

「あれ? この汽笛は」

 

 水無月はある違和感に気付く。

 

「聞いた事無い汽笛だな」

 

「えぇ。それも、この独特な汽笛は」

 

 二人は頷き合うと、すぐに幻想郷へと続く線路へと向かう。

 

 

 

 二人が幻想機関区の出入り口に付くと、既にそこには明日香と神流が居た。

 

「明日香に、神流」

 

「来たわね」

 

 幻想郷方面を見ていた神流は皐月と水無月を見る。

 

「さっきの汽笛って」

 

「はい。少なくとも、ここの罐以外の物と思います」

 

 明日香は皐月の言葉を肯定する。

 

「ってことは、区長が見つけたのか?」

 

「でも、よく火が入った状態で見つけましたよね」

 

「入っていなくても、こんな短い時間で立ち上げられたな」

 

 

 四人が会話を交わしていると、遠くから煙が見え始める。

 

「あれは……」

 

 姿を現したそれに明日香は声を漏らす。

 

「確か白黒が見つけたのって、二輌だけだったはずだよな」

 

「え、えぇ」

 

「……」

 

 そして幻想機関区にゆっくりと入ってきたのは、北斗と魔理沙が乗っていったトロッコにC56形、C12形、そして煙を吐き出しながら二輌の機関車を押しているデフ付きのC10形であった。

 

「ただいま」

 

 と、当たり前の様に運転室から出てきた北斗と、見知らぬ少女。しかしその少女が自分達と同類なのは直感で分かった。

 

「お、おかえりなさい、区長」

 

 この状況に明日香は苦笑いを浮かべるしかなかった。

 

「あ、あの、これはどういうことなんでしょうか?」

 

「あぁ。二輌と思っていたら、まさかの三輌でした、的な感じだ。しかも三輌目は稼動状態のやつだったよ」

 

「は、はぁ」

 

 明日香は運転室から降りて戸惑いの表情を浮かべる『C10 17』のバッジを付けた少女を見て息を漏らすしかなかった。 

 

「皐月。弥生を呼んで来てくれ。持ってきた機関車を整備工場に運びたい」

 

「了解」

 

 皐月はすぐに操車場で客車の入れ替えを行っている弥生を呼びに行く。

 

「それにしても、一気に三輌も小型の罐が増えましたね」

 

「あぁ。これで運用の幅が広がるだろう。それに七瀬達もこれで楽になるだろう」

 

 C56形とC12形、C10形を見て水無月が北斗に声を掛ける。

 

「あ、あの」

 

「ん?」

 

 と、北斗に『C10 17』のバッジを付けた少女がおどおどとした様子で声を掛ける。

 

「私は、これからどうなるんでしょうか?」

 

「あぁ。君には一旦整備工場に入ってもらう。そこで問題なければしばらく車輌の入れ替え作業をしてもらう。場合によっては列車の牽引もしてもらう」

 

「……」

 

「もう少ししたら弥生って言うB20型が来てC56形を運ぶから、君にはあのC12形を一緒に運んでくれ」

 

「わ、分かりました!」

 

『C10 17』のバッジを付けた少女は姿勢を正して敬礼をする。

 

 

 その後弥生のB20 15号機が来てC56形と連結し、いくつもの線路を通って整備工場へとC56形を後ろから入れる。続いてC10 17号機がC12形を整備工場へと入れて、その後工場の脇で停止して火が落ちるまで待機する。

 

 

「……」

 

 二輌の蒸気機関車が整備工場に入り、その脇の線路で火が落ちるのを待っているC10 17号機を見た北斗は腕を組み、浅く息を吐く。

 

(恐らく、今後こんな形で機関車が増えるかもしれないな。そうなると、情報提供も呼びかけようか)

 

 今回は魔法の森だったが、もし仮にも次新たに機関車が現れた時、そこがどこかは予想が付かない。最悪妖怪の山に現れる可能性がある。

 

(でも……)

 

 と、北斗は機関区をゆっくりと見渡す。

 

(やっぱり、ここに来て良かったな)

 

 北斗の口角が思わず緩む。

 

 外の世界の暮らしとは比べ物にならないぐらい、彼にとってとても快適な場所であった。

 

 

 

 

「っ!?」

 

 すると北斗は身震いして鳥肌が立つ。

 

 しかしそれは肌寒いから来る鳥肌ではなく、背後から来るプレッシャーに身体が震えていた。

 

(な、何か、異様な気配が)

 

 彼は息を呑み、恐る恐る後ろを振り返る。

 

「少し話をしたいんだが、いいか」

 

 そこに居たのは、青いメイド服の上に前掛けが二枚重なった特徴的なエプロンをして、黒タイツに茶色のブーツを履いた金髪ショートヘアーに金色の瞳を持つ少女が立っていた。

 しかし少女から発せられる気配は、ただならぬものだった。

 

 

 

 




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