東方鉄道録‐幻想の地に汽笛は鳴り響く‐   作:日本武尊

24 / 159
第23駅 心境の変化

 

 

 

 

 翌日。

 

 

 

 平原に大きく広がる敷地を持つ幻想機関区には大きな施設が二つある。

 

 

 一つは機関車を格納する扇形機関庫。もう一つは機関車の整備を行う為の整備工場である。

 

 整備工場は一度に二輌の大型の機関車を分解整備できるスペースがあり、機関区にある施設としては一番大きい。

 

 そしてその整備工場では、この幻想郷で初めてフル稼働していた。

 

 

 

 工場内ではC12形蒸気機関車の車体が動輪と切り離される車抜きと呼ばれる作業が行われ、クレーンによって車体が持ち上げられていた。

 

 その後持ち上げられた車体は別の場所へと運ばれて設置した作業台の上に置かれ、各パーツを丁寧に分解して整備作業が行われている。車体と切り離された動輪も重要な部分とあって、様々な検査機を用いて精密検査が行われている。

 

 C56形蒸気機関車は車体と炭水車を切り離し、同じように車体と動輪を切り離す車抜きを行い、車体を別の場所に置いて各パーツを切り離し、分解している。

 

 ちなみにC10 17号機は火が落ちた後に検査が行われ、今の所問題が無いと判断されて、現在は79602号機とB20 15号機と共に車輌の入れ替え作業を行っている。

 

 

(しかし、凄いもんだな)

 

 そんな二輌の蒸気機関車が分解されて整備されている作業風景を観ている北斗は内心呟く。

 

 記録映像等で蒸気機関車が分解整備されている光景は見た事あるが、生で見ると迫力がまるで違った。

 

(こういう光景が見られるのも、現場ならばでだよな)

 

 北斗は表情に出さないで居たが、内心歓喜に包まれている。

 

(まぁ、これであの二輌の詳細も分かるはずだ)

 

 未だ何号機かが不明な二輌だが、細かい調査で何か分かるはず。

 

 

 

「いやぁ、こういう光景も凄いですね」

 

 と、彼の隣で興奮した様子で作業風景を見ているのは、守矢神社の風祝こと東風谷早苗であった。

 

 いつもの様だが、なぜ彼女がここに居るのは、新しく機関車が増えたのでやってきたとの事だ。

 

 なぜその事を知っているのか疑問に思ったが、彼女は『幻想郷では常識に囚われてはいけないのです!』と理解し難い事を言った。

 

 まぁ実際は聞いたことの無い汽笛が聞こえたので、飛んできたそうである。

 

「それにしても、新しい蒸気機関車がこの幻想郷に現れるなんて」

 

「えぇ。全く想像していませんでした」

 

「そうなると、今後また新しいSLが現れるかもしれませんね」

 

「そうですね。今後無いとは言い切れませんしね」

 

「では、今後時間がある時には探さないといけませんね」

 

「その時は是非とも協力をお願いします」

 

「任せてください! 私こう見えても顔が広いので!」

 

 と話す二人だったが、その表情はどこか楽しそうだった。

 

「ところで北斗さん。この二輌はいつ動かせそうですか?」

 

「どうでしょうね。整備長の話ではどちらともボイラーとその周辺の痛みが激しくて、整備には時間が掛かるそうです」

 

「そうなんですか?」

 

「えぇ。特にC56形はボイラーの老朽化が激しいそうで。部品交換から調整までをすると、復帰までには一ヶ月前後は掛かると予想しています」

 

「そんなに掛かるんですか?」

 

「はい。蒸気機関車にとってボイラーは心臓そのものですので、時間が掛かります。それに、蒸気機関車は正確に調整してもよくありませんから」

 

 北斗は腕を組み、分解されて整備されている機関車を見る。

 

 意外なことかもしれないが、蒸気機関車と言うのは精密に調整しているとうまく動かないし、当然雑に調整しているとまともに動かないと、捻くれた部分がある。

 その為、雑ではなく、精密でもないぐらいの調整をしなければならないのだ。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 その後二人は工場を出て宿舎へと向かっていた。

 

 

「あっ、そうでした」

 

 と、何かを思い出したかのように早苗は手を叩く。

 

「北斗さん。明後日ご予定は無いでしょうか?」

 

「明後日の予定ですか? 明日以外なら特にありませんが、なぜです?」

 

 ちなみに明日の予定だが、人里へ向かい、そこで早苗を経由して約束を取り付けている里長と自警団の代表二名を交えて話し合いを行う予定だ。

 これはこれから幻想機関区が幻想郷でその能力を生かす為の、重要な話し合いだ。

 

「実はですね、神奈子様と諏訪子様が北斗さんと話しがしたいと言っていまして」

 

「俺に話をですか? 確かその二人は早苗さんが仕えている神様でしたよね?」

 

「はい。そうですよ」

 

(そんな神様が俺と話を?)

 

 正直嫌な予感しかしない、と彼は感じていた。

 

「そう警戒しなくても大丈夫ですよ。神奈子様と諏訪子様もただ北斗さんと話をしたいだけみたいですので」

 

(それが逆に不安なんだが)

 

 早苗は不安そうな雰囲気を出す北斗にフォローを入れるも、逆に不安を煽る結果となった。

 

 そりゃ会った事も無いのに急に話がしたいと言ってくれば、不安になるのも仕方無い。それが神様なら尚更の事だ。

 

「分かりました。では明後日よろしくお願いしますとお伝えください」

 

「はい。では、そのように神奈子様と諏訪子様にお伝えしますね」

 

 そう言うと、早苗の表情が少し不安なものに変わる。

 

「あの、北斗さん」

 

「なんでしょうか?」

 

「その、今ここに寝泊りしているお二人なんですが」

 

 と、早苗はここに来た時に会った二人の居候人を思い出す。

 

「エリスさんと夢月さんの二人が、どうかしましたか?」

 

「……その、大丈夫なんでしょうか?」 

 

「大丈夫とは?」

 

「だって、あの二人は」

 

 早苗は機関区に居候している二人に、とてつもない危機感を抱いていた。

 

 初めて二人を見た時、早苗が初めに抱いたのは『コイツはやべぇ』と言う感想だった。

 

 真面目に言うと、早苗は夢月とエリスから一瞬金縛りに遭うぐらいの邪悪な気配を感じ取ったのだ。

 

 風祝という役職柄、そういう気配には敏感なのだ。エリスの方は見た目から理解出来るが、特に夢月から発せられる邪悪な気配は尋常ではない。

 

 そんな邪悪な気配を持つ二人が北斗の傍に居るという事態に、早苗は不安しかなかった。

 

 彼女が北斗に不安を抱くのは、彼に戦う為の手段を持たないという事にある。

 

 

 まぁこれは彼に限らず外来人に言える事だが、まだ幻想郷に来て日が浅い外来人にはスペルカードルールによる弾幕ごっこが出来ないのだ。何より例外を除けば外来人には戦う為の力すらないのだ。

 故に、今の北斗はこの幻想郷に住む妖怪からすれば赤子も同然。だから幻想郷に迷い込んだ外来人が妖怪に襲われて命を落とすのは、割りと多いのだ。

 まぁ外来人の中には、幻想郷に来て能力に目覚めるケースもあることにはあるのだが……

 

 

 しかし、逆にそんな邪悪な気配を持っている二人が大人しくしているのも、逆に彼女の不安を煽るものだった。

 

(もし北斗さんの身に何かあったら……)

 

 彼の身を案じると、不安しかない。

 

 

(……不安?)

 

 しかし逆に、早苗は違和感を覚える。

 

(い、いえ。確かに北斗さんの身に何かあるかと思うと不安で、心配……心配……)

 

 内心呪文の様に繰り返し、ハッとする。

 

(い、いえ、確かに北斗さんの事が心配なのは確かなんです。でも、それはあくまでも友人として。同じ志を抱いた友人として)

 

 彼の事が不安で心配なのは確かなはずなのに、彼女が抱く北斗への心配は、なぜか違和感しかなかった。

 

 

 それは果たして、友人だからこそ、その身を案じているのか?

 

 

 本当に、同じ志を抱いている友人だからこそ、その身を案じているのか?

 

 

 そう思っているはずなのに、なぜか違和感を覚えている。

 

 

(なん、ですか、これは……)

 

 不安や疑心が彼女の胸中に渦巻き、言いようの無い感情が溜まって行く。

 

 

「―――さん。早苗さん」

 

「っ!」

 

 と、耳に届いた北斗の声に早苗はハッとする。

 

「だ、大丈夫ですか?」

 

「えっ? は、はい! 大丈夫ですよ!?」

 

 早苗は慌てて返事を返し、落ち着こうとする。しかし明らかに様子がおかしいのは誰もが見て分かる状態だ。

 

「そ、それより、どうかしましたか?」

 

「どうも何も、喋っている途中で急に黙り込んだものだから」

 

「そ、そうでしたね」

 

 早苗は慌てた様子だったが、深呼吸して気持ちを整え、話の続きをする。

 

「……非常に言いづらいのですが、あの二人に決して隙を見せてはいけません」

 

 彼女は立ち止まって、しっかりとした口調で告げる。

 

「それはどういう?」

 

「二人はとても大きい邪悪な気を持っています。それはつまりかなりの実力を持っているのと同じ意味を持っています」

 

「……」

 

 今までに無い、真剣な早苗の姿に北斗は返す言葉が無かった。

 

「なので、決して隙を見せてはいけません」

 

「……」

 

「もし、もし北斗さんの身に何かあったら……」

 

 しかしそんな中に、不安に揺れる彼女の姿があった。

 

「早苗さん……」

 

 

「あっ! で、でも、露骨に警戒して向こうの気に触れることはしないようにしてくださいね! 自身の身の安全が大切ですから!」

 

 早苗は慌てた様子でそう言い加える。

 

「は、はい。頭に留めておきます」

 

「約束ですよ!? 約束ですからね!?」

 

 すると彼女は北斗に身体が接触する勢いで言い寄り、二回繰り返した。

 

「や、約束します」

 

 その勢いに北斗は引きながらも、彼女と約束する。

 

 

「っ!」

 

 そして今の自分の状態を理解して、早苗はバッと離れる。

 

「……」

 

「……」

 

 しばらくの間、二人の間に気まずい雰囲気が漂い、沈黙が続く。

 

 

 

 

 

 ちなみに宿舎の玄関先で竹箒でコンクリの地面を掃いていた夢月は遠くからその光景を見て

 

「何をしているんだか……」

 

 と、理解しているのか、していないのか分からない呟きをしていた。

 

 

 

 

 

 




感想、質問、要望等がありましたら、お待ちしています。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。