東方鉄道録‐幻想の地に汽笛は鳴り響く‐   作:日本武尊

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第24駅 違和感

 

 

 

 

「……」

 

 あの後守矢神社へと帰った早苗は神社の境内にある自宅の縁側に座り、お茶の入った湯呑を両手に持って空を眺めていた。

 

 しかしその状態がずっと続いているのか、湯呑に注がれている緑茶はすっかり冷め切っていた。

 

「……」

 

 空を見つめる彼女の脳裏には、霧島北斗の姿があった。

 

(一体、何なんでしょうか……この、違和感は)

 

 未だに消えない違和感に、早苗は目を細める。

 

 

 

 

「ねぇ、神奈子」

 

「何だ、諏訪子?」

 

 その様子を自宅横にある神社の陰から見ているのは、この神社に祭られている二柱、八坂神奈子と洩矢諏訪子である。

 

「早苗、帰ってからずっとあんな状態だよね」

 

「あぁ」

 

「あんな早苗、見た事無いよね」

 

「そうだな」

 

「……」

 

「……」

 

 すると二人は神社の陰に隠れる。

 

「今日も早苗あの幻想機関区に向かったんだよね」

 

「あぁ。何でも新しい蒸気機関車が見つかったとか嬉しそうに言っていたな」

 

「で、帰って来たのに、あの様子」

 

「……」

 

「……」

 

 

『何があったし!?』

 

 

 二人は声を揃えて驚きの声を上げる。

 

「まさか、うちの早苗が、早苗が!」

 

「いや、それは早計というものだ。早苗に限ってそんなことは」

 

「というより、霧島北斗が何をしたかだよ! うちの早苗に何かをしたんだよ!」

 

「彼が何をしたかはまだ決まったわけではないだろ」

 

「だってそうじゃないか! それ以外に何かあるなんて考えられないよ!」

 

 と、聞くだけなら娘の事が心配な親バカの会話だが、神様同士な為シャレにならない部分がある。そして北斗に濡れ衣が着せられそうになっている。

 

「だがな、あの早苗があぁなるとは思わないだろ」

 

「でも……」

 

「それに、お前だって早苗の事をよく知っているなら、尚更ありえないだろ」

 

「……」

 

 何か心当たりがあるのか、諏訪子は返す言葉が無かった。

 

「何か別の理由があるはずだ」

 

「別の理由……」

 

 諏訪子は静かに唸り、再度二人は神社の陰から早苗の姿を見る。さっきと変わらず自宅の縁側に座って空を見ていた。

 

「いや、どう見ても別の理由があるように見えないんだけど」

 

「……」

 

「こうなったら、明後日の会談で霧島北斗に問い詰めてやる! うちの早苗に何をしたかを――」

 

「やめとけ」

 

 と、神奈子はシャレにならない気を放ち始めている諏訪子の頭を帽子越しに拳骨を落とし、再び神社の陰に隠れる。

 

「いったっ!? なんでさ! 当の本人から聞くのが一番手っ取り早いじゃないか!」

 

「あのな、霧島北斗との話は取引だろうが。目的が脱線して話し合う前に破断したら元も子もないだろ」

 

「うっ……」

 

「それに、だ」

 

 と、神奈子は右手の人差し指を諏訪子の額に押し当てると、デコピンの様にして諏訪子を押す。

 

「早苗から直接聞けば早い話だろうが」

 

「そ、そんな事聞けるわけないじゃないか!」

 

「いや、霧島北斗から聞こうとしているのに何で早苗は駄目なんだ」

 

 なぜか慌てる諏訪子に神奈子は呆れてため息を付き、額に手を当てる。

 

「なら、お前はそこで見て聞いていろ。私が聞いてやる」

 

「あっ、神奈子!」

 

 遂に痺れを切らした神奈子は諏訪子の制止を振り切って神社の陰から出て早苗の元へと向かう。

 

 

 

「……」

 

 早苗はボーと空を見つめていた。

 

 

「どうしたんだい、早苗」

 

「あっ、神奈子様」

 

 神奈子が声を掛けるまで気付けなかった早苗は少し驚いたように返事を返して顔を上げる。

 

「珍しいな。お前が上の空なんて」

 

「そ、そんな事はありませんよただ今日はいい天気だなぁって思って空を眺めていただけです何かあったわけじゃないですよ」

 

(昔からそうだが、分かりやすいなぁ)

 

 しかし区切りもせず一度に言い切ってしまっている時点で彼女が緊張しているのは明白だった。そんな昔から変わらない彼女の癖に神奈子は内心呟く。

 

「無理をするな」

 

「む、無理なんて」

 

「そうやって一度に言い切ってしまう癖、いつも何かあった時はそんな喋り方になっているぞ」

 

「はぅ……」

 

 自覚があったのか、彼女は言葉を詰まらせてしまう。

 

「正直に言ってみろ。いつも悩んだ時は相談に乗っているじゃないか」

 

「……」

 

 早苗はしばらく悩んだものも、手にしていた湯呑を縁側に置き、神奈子に悩みを打ち明ける。

 

 

「実は、北斗さんの事で、気になる事が」

 

「霧島北斗の事か?」

 

「はい」

 

 すると後ろで威圧的な気配が出たものも、神奈子は一瞬振り向いて「ステイステイ!」と制止のジェスチャーをして再び前を向く。

 

「そ、それで、彼がどうしたんだ?」

 

「はい。実は、昨日から機関区では二人の居候が住み始めたんです」

 

「居候か」

 

「はい。その二人……と言うより、人とは呼べないんですけど」

 

「ん?」

 

「一人はレミリアさんみたいな雰囲気の人でして、もう一人は、正直言って近寄り難い邪な気配を持っているんです」

 

「……」

 

「そんな二人が北斗さんの傍に居る、そう考えただけで、不安でいっぱいなんです」

 

「……」

 

(早苗……)

 

 神社の陰で早苗の話を聞いて諏訪子は目を細める。

 

「それは、当然友人として心配なんです。その、はずなんです」

 

 すると早苗の表情が暗くなる。

 

「でも、なぜか分からないんです。同じ志を持った友人として北斗さんを心配しているはずなのに、なぜか違和感を覚えるんです」

 

「……」

 

「こんな事、初めてで、分からないんです」

 

 彼女は苦しそうに両手を胸に置き、俯く。

 

(早苗……)

 

「……」

 

 二人はすぐに早苗の抱く違和感と言うのを察した。

 

 しかし同時に早苗が違和感の正体に気付けないのも無理ないと二人は感じていた。

 

 外の世界で彼女が辿った人生を見て来たから、彼女がその違和感に気付けないのも無理ない。

 

「神奈子様。こういった感情に何か心当たりは無いでしょうか?」

 

「……」

 

 早苗の問い掛けに、神奈子は腕を組み、目を瞑る。

 

(教えるだけなら簡単だが……)

 

(でも、理解出来るかまでは、本人次第)

 

 神奈子と諏訪子の二人は内心呟き、目を開けて早苗を見る。

 

「早苗」

 

「はい」

 

「お前の言っている事は、分からんでもない。教えるのは簡単だ」

 

「神奈子様……」

 

「だが」

 

 と、神奈子は組んでいた腕を解き、一瞬鋭い視線を向ける。

 

「それは、お前自身が気付かないと意味が無い」

 

「私自身が、ですか?」

 

「そうだ」

 

「……」

 

「今のままなら、まだ気付けないだろう。だが、お前ならいつか気付けるはずだ」

 

「……」

 

「まぁ、時間はある。それまで、自分の気持ちを整理するのだな」

 

「は、はぁ」

 

「それはともかく、明後日は頼んだぞ。我々の今後が掛かっているからな」

 

「は、はい! 任せてください!」

 

 早苗は両手を握り締めて、返事を返す。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 所変わって幻想機関区。

 

 

 

「……」

 

 執務室で北斗は椅子に座って背もたれにもたれかかり、窓から空を眺めていた。

 

 彼は空を眺めながら、先ほどの事を思い出していた。

 

(あんなに人から心配されたのは、いつ振りかな)

 

 スゥ……と目を細めて、内心呟く。

 

 記憶を辿っても、あんなに心配してくれた人はあの親戚(クソ野郎)から引き取った親戚ぐらいだ。まぁ、その時の彼は別の意味で荒れていたので、記憶は曖昧だが。

 

 だからこそ、北斗は本気で心配してくれた早苗の言葉を嬉しく思ったのだ。

 

(気を許すな、か)

 

 彼は居候の二人を思い出す。

 

(まぁ、警戒するに越したことは無いが……し過ぎは逆効果だからな)

 

 早苗の警告を受け入れつつ、あの二人とどう付き合っていくかを考える。

 

 とは言えど、二人共よく働いているので、文句の言いようが無いのだが。

 

 

 

「失礼します」

 

「入れ」

 

 と、執務室の扉からノックがして、北斗は扉の方に向き直って入室を許可すると、扉が開かれて明日香が入ってくる。

 

「区長。先ほど区長と面会を求めたお客様が来ました」

 

「面会? 誰だ?」

 

「それが、メイドさんでして」

 

「メイド? る~ことさんか?」

 

「る~ことさんじゃないんです。初めて見る方でして」

 

「初めて、か」

 

 北斗は机に両肘を置き、「うーん」と静かに唸る。

 

「用件は区長にお渡ししたいものと、お伝えしたい事があるそうです」

 

「直接じゃないと駄目なのか?」

 

「はい」

 

「……」

 

 北斗は腕を組み、しばらく考える。

 

「まぁ、このまま帰すのも悪いし、話だけ聞こう。通してくれ」

 

「分かりました」

 

 明日香は頭を下げて、執務室を出る。

 

(来客か。何だか最近多いような気が)

 

 内心呟きながら、北斗は深いため息を付くと、椅子から立ち上がって窓から外を見る。

 

 

 

 

 そして幻想機関区の前では、一人のメイドが大事そうに便箋を手にして、静かに待っていた。

 

 

 

 

 




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