東方鉄道録‐幻想の地に汽笛は鳴り響く‐   作:日本武尊

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第25駅 来客と不安と期待

 

 

 

 

 応接室に移動した北斗は前にいる来客と面会していた。その後ろでは夢月がお盆を脇に挟んで立っている。

 

 二人の前にはボブカットの銀髪をもみ上げ辺りから三つ編みにしており、青を基調としたメイド服を身に纏っている女性がソファーに座っていた。

 

(この幻想郷に来てからメイドを見るのが多くなったな……)

 

 そんな今はどうでもいい疑問が過ぎるも、すぐに頭を切り替える、

 

「お忙しい所、お時間をいただきありがとうございます」

 

 女性は深々と頭を下げる。

 

「私は紅魔館でメイド長をしています、十六夜咲夜と申します」

 

「幻想機関区の区長をしています、霧島北斗です」

 

 お互い挨拶を交わすと、北斗は咲夜を見ながら内心呟く。

 

(紅魔館。確か吸血鬼が暮らすって言う……)

 

 彼は早苗から聞いた話を思い出す。

 

 

 紅魔館とは幻想郷の霧の湖と呼ばれる湖の近くに建つその名の通り赤い外壁を持つ大きな館である。紅魔館には吸血鬼の姉妹と魔法使い、その従者達が暮らしていると言われる。そして紅魔館はこの幻想郷で代表される有力な勢力の一つである。

 そして自分達と同じ外の世界から館ごと幻想入りしてきた、らしい。

 

 

 そんな所からメイド長がこの幻想機関区にやってきた。

 

「話はお聞きしています。何でも渡したい物と伝えたいことがあるそうで」

 

「はい。私がお仕えしていますお嬢様から貴方宛のお手紙をお預かりしております」

 

 咲夜はさっきから大事そうに持っていた手紙が入っていると思われる赤い封筒をテーブルに置く。

 

 北斗は封筒を手にして表と裏を見ると、裏には紋章の入った赤い蝋で押し付けられて封がされている。

 

「では、拝見します」

 

 彼は封をしている蝋を取って中に入っている手紙を取り出して拝見する。

 

 

 

『初めまして、外来人さん。

 私は紅魔館の当主にして誇り高き吸血鬼、レミリア・スカーレットよ。

 貴方の事は文屋の新聞で知っているわ。とても興味深い物を持っているそうね。

 今度交流会を兼ねてあなたを夕食会に招待したいから、そこで色々と話を聞きたいわ。

 そちらのスケジュールに合わせてあげるから、咲夜に答えを言ってちょうだい。

 良い答えを期待しているわ。

 あと、来る時は蒸気機関車とやらを一つ持ってきて欲しいわ。

                            レミリア・スカーレット』

 

 

 手紙にはそう書かれていた。

 

 

「夕食会、ですか」

 

「お嬢様はあなた方が所有している蒸気機関車とやらに大変興味を持たれまして、霧島様と話がしたいと仰っていました」

 

「なるほど」

 

 手紙を畳んでテーブルに置きながら北斗は一考する。

 

(しかし、吸血鬼か。正直嫌な予感しかない)

 

 正直なところ、吸血鬼と聞いて彼は不安を覚えた。まぁ某吸血鬼のダンナが想像するからだろうか。

 

「仮にですが、もし断ったら、どうなりますか?」

 

「そうですね。恐らく、お嬢様はご機嫌を損ねる(駄々をこねる)かと」

 

「そ、そうですか(一瞬違う意味に聞こえた気が)」

 

 一瞬疑問が過ぎて首を傾げながらも、どうするか考える。

 

(まぁ、話すだけなら、別に構わないか)

 

 色々と考えて、北斗は話を受ける事にした。

 

「……明日と明後日は予定がありますので、明々後日はどうでしょうか。今の所予定はありませんので」

 

「明々後日ですか。畏まりました。では、少々お待ちください」

 

「ん?」

 

 咲夜の言葉に首を傾げていると、突然彼女の姿が消える。

 

「っ!?」

 

 突然彼女の姿が消えて北斗は目を見開いて驚く。

 

「へぇ、時間停止の能力か。人間にしては大した能力を持っているわね」

 

 と、さっきまで黙っていた夢月が口を開く。

 

「じ、時間停止ですか?」

 

「あぁ。今頃向こうのご主人様の所に行って報告しているんじゃない」

 

 夢月の話を聞いて、北斗は改めて常識が通じない世界だと認識する。

 

 

 

 しばらく待っていると、突然咲夜の姿が現れる。

 

「お待たせしました」

 

 咲夜は頭を下げつつ、北斗に対して報告する。

 

「お嬢様も了承しましたので、三日後、お願いします」

 

「わ、分かりました」

 

「それでは、三日後お待ちしています」

 

 と、彼女は立ち上がって頭を下げると、再び姿を消す。

 

「幻想郷には、それなりに能力が優れた者が多いのかしら?」

 

「さ、さぁ。自分も来たばかりですので、よく分かりません。ただ、常識が通じないところと言うのは分かりましたが」

 

「ふむ」

 

 夢月の質問に北斗は苦笑いをして答えるしかなかった。

 

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 所変わって紅魔館。

 

 

 

「以上が報告となります」

 

「ご苦労様」

 

 咲夜からの報告を聞き、パラソルの下でティータイムを愉しむ幼女は紅茶の香りを嗅ぐ。

 

 青味がかった銀髪をして真紅の瞳を持つ、一見すれば幼い少女の様に見える彼女だが、背中には悪魔のような羽が生えており、時折口を開けば、犬歯が見え隠れしている。

 

 彼女がこの紅魔館の主であり、吸血鬼の『レミリア・スカーレット』である。

 

「それにしても、あの幻想機関区、だったかしら。本当に興味を持たせてくれるわね」

 

 右手に持つカップをもう片方の手にしているソーサーに乗せると、レミリアは口角を上げる。

 

(まさか悪魔を二人も居させるなんて。中々やるわね)

 

 と、どこか勘違いな事を考えていた。

 

 まぁ事情を知らない者から見れば悪魔を二人も住ませているという事実だけでも相当な事なのだ。

 

「でも、そこまで気になるものなのかしら、レミィ?」

 

 と、テーブルの向かい側の椅子に座って本を読んでいるのは、紫の長髪の先を赤と青のリボンでまとめ、ゆったりとした服装をしている気だるそうな表情を浮かべる少女だ。

 レミリアの親友の魔法使いである『パチュリー・ノーレッジ』。この紅魔館の地下にある図書館の主である。

 

「そういうパチェだって、興味津々じゃないの」

 

「外の世界の技術で作られた物だからよ。レミィほどじゃないわ」

 

「そうかしら?」

 

 レミリアはそう言いながらカップを持って紅茶を飲む。

 

「話は変わるけど、フランの様子は?」

 

「今の所問題無いわ。至って普通よ。昨日も普通に本を読んでいたし」

 

「そう」

 

 それを聞き、レミリアの表情はホッとする。

 

「でも、いつ気が触れるか分からないわ」

 

「分かっているわ。だから三日後はフランには部屋で大人しくさせておかないと」

 

 レミリアは真剣な表情でそう言う。

 

「もし外来人に何かあったら、霊夢に何を言われるか」

 

「それ以上に早苗が何かするんじゃないかしら。噂じゃ彼女、相当あそこを気に入っているようだし」

 

「その方がもっと厄介よ。オマケ付きで神が二人も付いて来るじゃない」

 

 げんなりとした様子で声を漏らす。

 

「まぁ、フランの事なら心配ないわ。その時には睡眠魔法を掛けて大人しくさせておくから」

 

「だといいんだけど」

 

 パチュリーがそう言っても、レミリアの表情に不安の色は残ったままだ。

 

 彼女の恐ろしさを知っているからこそ、完全に不安を払拭できないでいた。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 所変わり某所。

 

 

「それ、本当かい!?」

 

 大量の水が流れる落ちている滝の裏で少女は驚いていた。

 

 青い髪をツーサイドアップにして緑色のキャスケットをかぶり、ポケットが沢山付いている水色の服を着ている。

 

 彼女の名前は『河城にとり』。妖怪の山に住む河童の少女である。

 

「えぇ。一応上の許可が下りましたので。まぁ、取るまでが大変でしたが」

 

 その少女ことにとりの目の前にいる少女はため息を付きながら将棋盤の駒を打つ。

 

 白い髪にピンと立つ狼の耳、白い毛で覆われた尻尾を持ち、脇を出した白い上着に赤い模様の入った黒い袴を穿いている。

 

 彼女の名前は『犬走椛』。妖怪の山を支配する天狗の中の白狼天狗である。山の警備が彼女の仕事だが、今日は非番なので友人のにとりと将棋をしていた。

 

「よっしゃー! これであの外来人達を呼べるぞ!」

 

 にとりは声を上げて喜びを示す。

 

「そこまで嬉しいんですか?」

 

 呆れた様子で椛は彼女を見る。

 

「そりゃそうさ。何たって外の世界の技術を拝めるんだ。この機会を逃す手は無いよ」

 

「仮にも人間を、それもこの間の異変に関わった者達を山に入れるのですよ。なのにあなたは」

 

 妖怪の山を支配している天狗からすれば、知らぬ間に自分達の領域に勝手に線路を敷かれたので、彼らに良い印象を持っていない。それ故今回許可を取るのはかなり大変だったものも、何があっても河童側が責任を全て持つことで何とか許可が下りたのだ。

 

 まぁ彼らが異変に関わったかはまだ分かっていないのだが、天狗側はは確実に関わっていると踏んでいる。

 

「いいじゃないか。別に人間の一人や二人入れたって。何も変わらないって」

 

 そう言いながら将棋の桂馬の駒を進める。

 

「全く。あなた達河童は」

 

 お気楽な様子のにとりに椛は呆れた様子でため息を付く。

 

 昔からそうだが、天狗と河童は協力関係こそあるが、河童は協調性が無く、独断で物事を進めようとする。以前にも守矢神社の二柱の立てた計画に天狗に相談せず独断で協力していた。

 まぁその後彼女達は痛い目に遭ったのだが。

 

「それに、彼らなら数週間前に現れたあれの事を知っているだろうしね」

 

「あれですか。まぁ、似たような物、と言うより同じ物を持っているようですし、分かるでしょう」

 

 椛は以前河童達に見せられたある物のことを思い出す。

 

 河童達のアジトである玄武の沢付近に現れた線路に、それが数週間前に現れたのだ。

 

 何の前触れも無く唐突に現れたこともあって、河童達は驚いたものも、時間が経つにつれて驚きは好奇心へと変わり、それの調査を行った。

 

 とは言えど、全く見たことの無い代物で、その上とても大きな物とあって、分解ができず分かったことは少ない。

 

 分かった事があるとすれば、それは大きく真っ黒で、金属で出来ていてそれが各パーツ複雑に組み合わさっていることぐらいだ。

 

 現在それは雨風を防ぐ為に河童達によって即席の小屋が建てられて保護されている。

 

「いやぁ、彼らと会う日が楽しみだねぇ」

 

「私は知りませんよ」

 

 椛はもう何回目か分からないため息を付く。

 

 

 

 

 




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