東方鉄道録‐幻想の地に汽笛は鳴り響く‐   作:日本武尊

28 / 159
第4区 鉄道開業に向けて 守矢編
第27駅 山からの来客と無意識の少女


 

 

 

 

 その後話し合いを終えた北斗達は長屋を後にして、機関車の元へと戻って幻想機関区へと向かっていた。

 

 

 

「……」

 

 客席に座る北斗は窓際に肘を置いて外の景色を見ていた。

 

 早苗は人里で信仰活動があるといって別れているので、この場に居るのは彼の他は夢月と妖精達だけだ。

 

「話し合いはうまくいったのに、浮かない顔ね」

 

 向かい側の席に座る夢月は腕を組み、北斗に声を掛ける。

 

「いえ。話し合いがうまくいったのは良かったと思っていますよ。これで幻想機関区は存在意義を得られたものですから」

 

「それにしては、明るくないわね」

 

「……」

 

 夢月の鋭い指摘に北斗はしばらく黙り込むも、少しして口を開く。

 

「……ただ、人里は賑やかだった、と思ったので」

 

「そりゃ人間が住む集落なんだし。賑やかなのは当たり前じゃない」

 

「何言ってんのこいつ?」と言わんばかりに彼女は返す。

 

「分かっていますよ。ただ―――」

 

 と、北斗は再度窓の方に視線を向け、遠くを見つめるように目を細める。

 

 

「……やっぱり、人が多い所は苦手だ」

 

 

 ボソッと、若干苛立ちが募った声でそう呟いた。

 

「……」

 

 夢月は何かに気付いたのか、目を細める。

 

 

 

 

 しばらくして機関車は幻想機関区に到着し、ゆっくりと速度を落として停車する。

 

 妖精達がすぐさま機関車と客車の連結を外している間に北斗達が客車から降りると、D51 241号機が短く汽笛を鳴らしてゆっくりと後退して切り替えられた分岐点で別の線路へ移って機関庫を目指す。

 

 その後に転轍機が切り替えられてその先の線路で待機していたC10 17号機が前進して客車を連結し、短く汽笛を鳴らして客車を後ろに牽いていく。

 

「お帰り。話し合いはどうだった?」

 

 と、竹箒を持っているエリスが二人の元にやって来る。

 

「うまくいきました。あと何回か話し合いを重ねれば目的を果たせそうです」

 

「ふーん。あっそうだ」

 

 と、何か思い出したかのようにエリスが声を漏らす。

 

「区長さんが不在に時に、お客さんが来てたよ」

 

「お客?」

 

「えぇ。確か妖怪の山から来たとか何とか」

 

「妖怪の、山……」

 

 すると北斗の表情が険しくなる。

 

 

「おっ? 帰って来たのかい?」

 

 と、エリスの後ろから一人の少女は現れ、北斗の姿に気付く。

 

「あなたが?」

 

「そうだよ。私の名前は河城にとり。妖怪の山の麓に住む河童だよ」

 

「河童、ですか?」

 

 北斗は少女ことにとりの姿に首を傾げる。

 

 目の前に居る少女が彼のイメージにある河童とはかけ離れているからだ。

 

(と言うか、今まで会った妖怪が女の子だけな気がする)

 

 そんなもう何度も頭に浮かんだような疑問が過ぎるも、振り払って頭を切り替える。

 

「初めまして。幻想機関区の区長をしています、霧島北斗といいます。今日はどういったご用件で?」

 

「うん。少し盟友に聞きたい事があるんだ」

 

「盟友?」

 

 にとりの放った言葉に北斗は首を傾げる。

 

「そうさ。人間は河童と昔から助け合った盟友さ」

 

(初耳な気がする)

 

 彼女の言葉に彼は首をかしげる。

 

「それで、聞きたい事とは?」

 

「盟友が持っている……えぇと……蒸気機関車だっけ?」

 

「はい」

 

「その蒸気機関車について色々と話を聞きたいんだ。その上で、ちょっと私達にも関わらせて欲しいんだ」

 

「それって、つまり?」

 

「見た所、蒸気機関車は外の世界の機械なんだろ? だからさ。機械弄りは河童が得意とするところなんだ」

 

「幻想郷にも、機械があるんですか?」

 

 北斗は少し驚く。幻想郷の様相から機械系は無いと思っていたからだ。

 

「まぁ外の世界の物と比べると、あんまりね。この幻想郷にもたまに忘れ去られた外の世界の機械が流れ着くんだけど、どれも鉄屑。得られるものなんて殆ど無いんだ。だからあんまり発展して無いんだ」

 

「そうなんですか」

 

「まぁだから、それなりに機械の弄り方は心得ているよ」

 

「うーん。機械が弄れるからっていっても。いや、あるだけマシか」

 

 北斗は腕を組み、小さく呟く。

 

 今は別にそこまで人手不足、もとい妖精不足は無いものも、メカニックは居ても困ることは無い。

 

 それに機械を弄れる環境があるのなら、非常にありがたい。

 

「それに、一つ良い事を教えるよ」

 

「ん?」

 

「実は私達の住んでいる所の近くに、君達の蒸気機関車と思う代物があるんだ」

 

「えっ!?」

 

 にとりから告げられた事実に北斗は驚く。

 

「妖怪の山にも、蒸気機関車があるんですか!?」

 

「うん。まぁ今の所確認できているのはそれだけだね」

 

「……」

 

「形は、そうだね……あれとそっくりだったね」

 

 と、にとりは客車を運び終えて次の作業に入るC10 17号機を指差す。

 

「C10形とそっくりですか(となるとその機関車はタンク型か)」

 

「うん。それでね、色々と調べたいから、河童の里に来て欲しいんだよ」

 

「里に来て欲しい、ですか」

 

 北斗は腕を組むと、静かに唸る。

 

「あれ? 何か都合でも悪いのかい?」

 

「いえ。明後日まで予定が入っているので。そちらに向かうのは明々後日になりそうです」

 

「ありゃぁ。それは時期が悪かったね」

 

 にとりは困ったように頭の後ろに手を置く。

 

「ちなみに聞くけど、明日は何の用事があるの?」

 

「守矢神社で早苗さんが仕えている神々と会談する予定です」

 

「守矢神社に。なるほどねぇ」

 

 と、何かを思いついたかのようににとりはにやりと口角を上げる。

 

「それなら、守矢神社に行くついでに私達の住んでいる所に蒸気機関車で来てくれないかい? そこまで案内するからさ」

 

「えっ? でも」

 

「山に入るのを躊躇っているのなら大丈夫だよ。天狗の方は既に話をつけてあるから」

 

「それは……」

 

「距離の事を心配しているなら問題ないよ。私達河童が住んでいる里から守矢神社までは近いからさ。ついでに来てくれないか?」

 

「うーん。しかし、早苗さん達に話さず勝手に動くのは」

 

「ちなみにその会談を行う時間は何時から?」

 

「……午後からです」

 

「なら、午前中に来てくれると助かるよ。早苗にはこっちから言っておくからさ」

 

(……幻想郷に住む人達って、人の話を聞かないのか?)

 

 どんどん話を進めようとするにとりに戸惑いと苛立ちを覚えながらも、内心唸る。

 

(とは言っても、安易に断るわけにはいかないよなぁ……)

 

 しかし今の彼にはにとりの提案を簡単に断ることが出来ない理由があった。

 

 ただでさえ妖怪の山にある線路の調査は全く進んでいない。そこに妖怪の山の関係者が一部分だけだが、入るのを許可しているのだ。一概に断れる案件ではない。

 それに蒸気機関車が山にある以上、放っておけるものではない。

 

(まぁ、にとりさんは伝えてくれるそうだし、それに朝早苗さんが来る予定だし、まぁ予定が立て込むよりかは良いかな)

 

 勝手に決めるのは少し気が引けるが、仕方が無かった。

 

「分かりました。勝手に決めるのは少し気が引けますが、明日午前中に向かいます。それと早苗さん達に明日の事を伝えてください」

 

「分かったよ、盟友♪」

 

 北斗が了承してにとりは見るからにご機嫌な様子になる。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「では、時間通りに来るように、お願いします」

 

「分かっているさ。じゃぁ、明日ね」

 

 にとりは満面の笑みを浮かべながら幻想機関区を後にした。

 

「はぁ……」

 

 にとりの姿が見えなくなると、彼はため息を付く。

 

(この後明日香達を集めて会議だな)

 

 頭の中で会議で話す内容を考えながら踵を返して宿舎の方に向かう。

 

(機関車は『葉月』のC10 17号機で向かうとして、距離を考えると石炭は多めに持って行った方がいいな。あと水も)

 

 ここから妖怪の山までの距離はそれほど遠くないが、往復となるとタンク型機関車では少々厳しい。

 

 それならテンダー型でいいのではないかと思うが、調査の済んでいない線路を走るのだ。線路や線路の敷いている地面の状態か分からないのに、大型の機関車で走るわけには行かない。最悪事故を起こす可能性がある。

 だから機関車はタンク型に限られる。

 

 ちなみに葉月とは、C10 17号機の少女の名前だ。由来は彼女が落成した月が八月だからで、旧暦の八月は葉月と言う。

 

(でも明日香達の誰かに途中まで運んでもらうって言う手もあるな)

 

 色々と考えながらも前を見ながら歩く……

 

 

 

「っ?」

 

 するとゆっくりと歩いていた彼は何かにぶつかった衝撃を受けて立ち止まる。

 

(何にぶつかった?)

 

 さっきまで何も無かったはずなのに、なぜぶつかったのか?

 

 彼は首をかしげて前を見る。

 

 

「……?」

 

 彼の目の前には、首を傾げて立っている一人の少女の姿があった。

 

 北斗の胸辺りまでの背丈に、セミロングの薄く緑がかった癖のある銀髪をして、薄い黄色のリボンを付けている帽子をかぶっている。

 しかし彼女の左胸に紺色の球体状の物体があり、そこから伸びる管が体の巻きつくように伸びている。

 

 その異様な特徴を持つ少女に、北斗は本能的に人間じゃないのを感じ取る。

 

 しかし何より――――

 

(いつから居たんだ!?)

 

 さっきまで居なかったはずなのに、突如彼女は北斗の目の前に現れていたことに彼は驚いていた。

 

 北斗は乱れた気持ちを深呼吸をして整えると、少女に声を掛ける。

 

「君、こんな所で何をしているんだい?」

 

「あれぇ? お兄さん私の事が見えるの?」

 

「え? あ、あぁ。見えているけど」

 

 少女に問いに戸惑いながらも彼は答える。元々色んな物が見える体質であったので、別に珍しいとは思わなかった。

 

「ふーん」

 

 少女は首を傾げるながら、北斗のことを見る。

 

「それで、君は何をしているんだい?」

 

「んー。分かんない。無意識の内に来てたから、気付いたらお兄さんが居た」

 

「無意識って」

 

 少女の答えに北斗は苦笑いを浮かべる。

 

「私、古明地こいしって言うの。お兄さんは?」

 

「霧島北斗だ」

 

「霧島……北斗……」

 

 こいしと言う少女はゆっくりと身体を左右に揺らしながら北斗を見る。

 

「なんだか、前にお兄さんにそっくりな人を見た気がする」

 

「え?」

 

「ううん。何でもないよ」

 

 こいしはニッと笑みを浮かべると、ゆっくりと歩き出して北斗の横を通り過ぎる。

 

「じゃぁね、お兄さん!」

 

 彼女は振り返ると北斗に向かって手を振って歩いていく。

 

「……不思議な子だったな」

 

 北斗は彼女の姿が見えなくなるまで、ずっと見続ける。

 

 それからこいしの姿が見えなくなると、彼は宿舎へと戻っていく。

 

 




感想、質問、要望等がありましたら、お待ちしています。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。